TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「スリ」*黒木和雄監督作品

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監督:黒木和雄
脚本:真辺克彦、堤泰之、黒木和雄
撮影:川上晧市
出演:原田芳雄、風吹ジュン、石橋蓮司、真野きりな、柏原収史、伊佐山ひろ子、平田満、香川照之

☆☆☆★ 2000年/日本・アートポート/112分

    ◇

 故黒木和男監督が『浪人街』('90)から10年ぶりにメガホンを取った作品で、挫折から這い上がろうとする男と彼をとりまく人々を描き出した人間ドラマである。

 かつては凄腕の“ハコ師”として名を馳せていた老スリ師の海藤(原田芳雄)だが、いまは酒に溺れ落ちぶれ、養女レイ(真野きりな)の世話になっている。幼い頃兄と一緒に海藤に引き取られたレイは、勤めている動物愛護施設で里親が決まらない捨犬の殺処分に心を傷めながら、海藤から伝授されたスリの技術で“ハコ師”として生きている。
 長い間海藤を追うベテラン刑事矢尾(石橋蓮司)は、海藤の仕事の現場を見つけても、若い刑事を制して捕まえようとはしない。
 「酒を辞めて、元に戻ったら引っ張ってやる。」
 ある日、海藤の愛人芳江(伊佐山ひろ子)のひとり息子一樹(柏原収史)が弟子入りを志願してきた。若い一樹を弟子にして育てることで、自分自身のカムバックを図る海藤は、自身のプライドのために断酒会に参加し、鋭い勘とテクニックを取り戻そうとする。
 海藤に再び、本物のスリに戻れる日がやって来るのか………。

    ◇

 特殊な世界の男の意地と、自己愛という美学に彩られている。
 海藤が一樹にスリの技を伝授するところとか、海藤自身が見せるスリのトレーニングなど、中々興味深いシーンがある。
 刃物を使った中国人スリグループを捕まえた矢尾が、取調室で中国人のリーダーに告げる。
 「日本の本物のスリってのはなぁ、コレ(指2本を中国人の鼻先につけて)だけで仕事するのさ。国に帰って出直してこいっ」。

 原田芳雄、風吹ジュン、石橋蓮司、伊佐山ひろ子と、何とも見事なキャスティングである。 
 原田芳雄の存在感は云うまでもないが、この作品においても石橋蓮司とのコンビネーションは最高。
 海藤をスリの職人として尊敬さえし、追う者と追われる者の間に生まれた同志関係に結ばれている石橋蓮司。震える指先で仕事ができない海藤の姿を見るときの、何とも寂しげな表情。海藤のことを、自分自身のことのように口惜しい思いで、ずっと見続けているその男気が格好いい。

 そして、愛人役の伊佐山ひろ子。出演シーンは少ないのだが強く印象を残している。特にマンションの一室で、キャミソール姿で煙草を吹かす伊佐山と酔って煙草を銜える原田芳雄がグダグダと会話するシーン。原田芳雄のダメ男的な仕草と、彼女独特のアンニュイな台詞廻しとの絡みは絶品である。このワンカットに、ふたりの人生がしっかりと見え、とても好きなシーンだ。

 海藤に密かな恋心を感じている断酒会を主宰する風吹ジュンは、彼女もまた表情豊かな芝居を見せてくれる。

 台詞による状況説明があまりなく、映画の筋立てとしては少し分かり難いところもあるのだが、登場人物たちの浮遊感とか所在なさ、焦りや戸惑いなど、監督が見つめる目はしっかりしている。海藤が管理する廃ビルの中、川に浮かぶ大きなガラス玉、壁いっぱいに飾られたデッサン画などをなめるカメラワークと、単調なパーカッションやピアノの単音が、登場人物の心象風景を浮き彫りにする。
 見えてくるものは、生きざまだ。

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