TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「われに撃つ用意あり」*若松孝二監督作品

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READY TO SHOOT
監督:若松孝二
原作:佐々木譲「新宿のありふれた夜」(「真夜中の遠い彼方」を改題)
脚本:丸内敏治
音楽:梅津和時
主題歌:「新宿心中」原田芳雄
挿入歌:「魂の1/2」原田芳雄
    「女一代」佐賀紀三江
    「風に吹かれて」
出演:原田芳雄、桃井かおり、ルー・シュウリン、蟹江敬三、石橋蓮司、室田日出男、山口美也子、西岡徳馬、小倉一郎、斉藤洋介、松田ケイジ、佐野史郎、麿赤児、山谷初男、下元史朗、又野誠治

☆☆☆☆ 1990年/松竹・若松プロ/106分

    ◇

 不夜城として多国籍な人種を飲み込んでいる新宿・歌舞伎町を舞台に、やくざに追われるひとりの少女を助けたことで、暴力団の抗争に巻き込まれた元全共闘闘士の一夜を描いたハードボイルド作品の傑作。
 原作は、新宿に巣食うアウトローたち、ボートピープル、不法滞在労働者などの社会問題を盛り込んだ佐々木譲のサスペンス小説で、若松孝二監督は大きなストーリーの流れはそのままにしながら、登場する人間たちに団塊の世代への深い思い入れを込めている。

 1968年当時、医学部の学生で全共闘に身を投じていた郷田(原田芳雄)は、ドロップアウトして新宿で20年間JAZZバーを営んできた。そんな彼が、今夜で店を閉めることにしていた。
 夜には少し早い時間、ヤクザに追われる台湾人少女メイラン(ルー・シュウリン)が郷田の店に逃げ込んできた。街は、血眼で女を探す暴力団と、女を重要参考人とする警察の捜査で包囲されていた。

 夜の始まり。閉店パーティーに多くの常連客が名残り惜しく出入りするなか、かつての活動家仲間が集った。
 フリーライターの李津子(桃井かおり)、不動産屋の有本(西岡徳馬)、広告代理店のプランナー馬場(斉藤洋介)、区議会議員の江里子(山口美也子)、予備校講師の三宅(小倉一郎)。そして、アル中で定職のない秋川(石橋蓮司)がいつもの席で酔いつぶれている。
 教え子たちに機動隊と闘った話を吹聴する小倉一郎、東南アジアでの女遊びを自慢する斉藤洋介、外国人難民の救済運動に力を入れている山口美也子、バブル景気の地上げで成功した西岡徳馬など、それぞれの取り巻く社会的立場や環境が変わってしまったかつての活動家たちは、酔っぱらうにつれて相互批判をはじめるのだが、この室内劇での団塊の世代の自己矛盾的応酬が面白い。

 斉藤洋介の口元を見ながら石橋蓮司がクダを巻く。
 「機動隊に折られた歯が勲章だったんじゃないか?真っ白な歯にしやがって、バ~カッ」
 そう云われた斉藤洋介の侘しい表情が何とも云えない。

 中でも、台詞は少なく酔っぱらってばかりの石橋蓮司の存在が光る。
 石橋扮する秋川は、女房とこども3人がいる困窮する立場でありながら生活の糧は新聞配達しかしない。一日中ひとの情けだけで生きているダラしない落伍者なのだが、郷田がいつも面倒を見ている様がわかる。共に本当の闘士として、ドロップアウトしたふたりだけにしか分からない友情関係が渋く描かれており、心にジワっと沁みてくる。
 「石橋蓮司は最高の役者だ」と、昔から賛辞を送る原田芳雄と桃井かおりに挟まれてスクリーンに映れば、この組み合わせだけで云うことなしではないか。
 この作品を含めこの年、石橋蓮司はいくつかの最優秀助演男優賞を獲ったと記憶する。

 若松監督は、映画のエンドロールに1968年10月21日に起きた新宿騒乱事件のフィルムを流し、主人公たちを全共闘に重ね合わせ共感しているが、ポスト団塊の世代となるぼくには、70年代に反体制あるいはアウトローとして、スクリーンを駆け抜けた俳優たちの役柄に重なって見えた。
 『赤い鳥逃げた?』で行き場を失い自滅して行った原田芳雄と桃井かおり。『あらかじめ失われた恋人たちよ』で自分の言葉を捨てた石橋蓮司。『新宿乱れ街』で新宿に別れを告げる夜に、「女は長い糸に繋がった凧」と呟きバーのカウンターでストリップをする山口美也子。
 そして『天使のはらわた/赤い教室』の裏通りでたったひとりの女さえ救えず絶望に打ちのめされていた蟹江敬三は、原田芳雄と因縁の関係となる新宿署のマル暴デカを演じている。

 新宿を牛耳るボスとやくざ仲間には状況劇場出身の麿赤児と佐野史郎。やくざの患者を相手にしている朝鮮人の病院長山谷初男も、情報屋でポン引きの下元史朗も、魑魅魍魎とした70年代の新宿に縁のある役者ばかりではないか。リアルな空気感を醸しだす配役だ。
 
    ◇

 さて終盤。実はメイランはベトナム難民で、偽造パスポートで入国し新宿で働いていたところを暴力団に目をつけられ、拉致され売春を迫られていたのだが、その組長を弾みで撃ち殺してしまい、ある重大なビデオテープを持って逃げていたことが分かってきた。
 郷田はメイランを高飛びさせようと奔走するが、やがて香港マフィアのリュウ(室田日出男)たちが郷田の店に姿を現わす。メイランを連れ去ろうとしたとき、いままで酔いつぶれていた秋川がひょいと起きあがり、彼らに立ち向かうのだが、あっけなく銃弾に倒れてしまう。この現実を目の当たりにした仲間たちは、ただうろたえるしかない。
 郷田は、秋川の弔い戦とメイランの救出を決意する。それこそが、20年経った郷田の総括であり、アイデンティティそのものなのだろう。

 20年住み続けているボロアパートで、李津子とともに襲撃の準備をする。何も変わっていない部屋。20年の時間が止まったままの部屋。裏返しにされたゲバラの写真立て。「今さらゲバラでもないけど」と李津子。マグカップにジンを注ぎ飲み干す李津子もまた、新たな決意を胸に秘めたのだ。ただ生きているだけではダメなんだ。どう生きていくかだ。再生の時が来た。

 原田芳雄と桃井かおりの、最強にして最高のコンビネーションを見せる殴り込みシーンは注目。リボルバー片手に、室田日出男や蟹江敬三らとの銃撃の末、無事にメイランを逃がすことに成功する。
 夜が明けた新宿の街を、負傷した身体を互いに支え合いながら彷徨う原田芳雄と桃井かおり。コマ劇場前、ストップモーションの画面に、ふたりの呟きがかすかに聞こえ…………。

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Comment

光ゲンジ&村石太仮面 says... "映画同好会(名前検討中~"
又野誠治さん ブルース(太陽にほえろ) ご冥福を お祈り申し上げます
新宿 不夜城 この映画 見てみたいなぁ
2011.02.22 19:48 | URL | #LV/gi5Xc [edit]
mickmac says... "Re: 映画同好会(名前検討中~"

光ゲンジ&村石太仮面さん はじめまして

この映画の又野誠治さんは、室田日出男さんの用心棒役で狂犬ぶりを見せていました。
自らの命を絶ってしまった彼の悲劇は、松田優作さんに似てしまったことでしょうか…………
2011.02.23 17:53 | URL | #- [edit]

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