TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「魚影の群れ」*相米慎二監督作品



監督:相米慎二
原作:吉村昭
脚本:田中陽造
音楽:三枝成章
エンディングソング:「Bright Light,in the Sea」原田芳雄&アンリ菅野
挿入歌:「遣らずの雨」川中美幸
出演:緒形拳、夏目雅子、佐藤浩市、十朱幸代、三遊亭円楽、下川辰平、矢崎滋、寺田農、木之元亮、レオナルド熊、石倉三郎、工藤栄一

☆☆☆☆☆ 1983年/松竹富士/135分

    ◇

 6月中旬頃になると、津軽海峡には太平洋側から黒潮暖流、日本海側から対馬暖流が流れ込んでくる。9月末までの三ヶ月間、この二つの暖流に乗って姿を現わすマグロの大群を求め、沿岸の漁港は殺気をはらんだ賑わいを見せる。

 津軽海峡のマグロの一本釣り漁は、若い強靱な肉体と鉄の意志が要求される。
 下北半島最北端の大間漁港。マグロ漁師の小浜房次郎(緒形拳)は、夜明けまで餌のイカを獲って帰り、仮眠後、再び沖に出る。いったんマグロが鉤に掛かると、肉体との格闘が極限までつづく……。
 ある日、娘のトキ子(夏目雅子)が結婚したいから男に会ってくれ言ってきた。町で喫茶店を営む依田俊一(佐藤浩市)というその青年は、養子になってでも漁師になりたいと房次郎に伝える。マグロ漁に命を掛けてきた房次郎には、その言葉は蔑まれたように感じるのだった。
 店をたたみ大間に引越してきた俊一は、毎朝房次郎の持ち舟〈第三登喜丸〉の前で待ち受け、漁を教えてほしいと頭を下げるのだった。10日以上も無視し続けた房次郎だったが、ある朝、ついに船に乗ることを許した。それはトキ子が、家出した妻のアヤ(十朱幸代)のように、自分を捨てて家を出て行くのではないかと怯えていたのだ。
 数日後、二人の船はついにマグロの群れにぶつかった……。

    ◇

 自然との死闘を繰り広げる過酷なマグロ漁に携わる男のダイナミズムと、ただひたすら寡黙に待つ女の深い情念を濃密に描き、命を賭けて生きている男と女たちの風情を活写していく生々しい人間ドラマである。

 当時気鋭の相米慎二監督にとって、原作の壮大なスケールに負けないためには、お得意のワンシーンワンカットの長廻しによる緊張感と興奮の持続が命綱であったろう。とにかく、半端ではない長いカットの連続だ。

 俳優にとっても、長廻しは小手先の演技ができない。
 緒形拳は矢崎滋と本気で殴り合い、マグロとの格闘シーンでは200~300kg近い本マグロを、実際にテグス一本で釣りあげる。息を呑む迫力は、ある意味ドキュメンタリーだ。

 夏目雅子は、父に従い育ち、男を愛したことで父と対立し、男と生きたことで父を理解する女そのものの生きざまを体現する。緒形とのシーンは、どれをとっても見応えがある。
 一番の見せ場はラストシーン。現実の時間通りに一昼夜で撮影され、彼女の鬼気迫る姿には圧倒される。女優として絶頂期であったことは間違いない。

 もうひとり、おんなの人生を見せてくれるのが十朱幸代。
 20年前、口より先に手が出る夫に我慢できず家を飛び出し、酒場を転々と流れるやさぐれ女を演じており、中盤、北海道の伊布港で娘に捨てられた緒形と再会する場面は、何度見ても印象深い名シーンとなっている。
 風情ある旅館の2階の一室の窓辺にいる緒形を、外からのクレーンカメラが捉える。雨が降り出す。上空のカメラがパーンして下の道を歩く女の足下を捉える。立ち止まる女。宿を見上げる十朱の顔。雨の音が消える。緒形に気づき走り出す十朱。一転、強く降り注ぐ雨とともに、緒形が旅館を飛び出してくる。カメラが下降し、そのままふたりを追う。この見事なカメラ移動には、息を凝らして見つめるしかない。
 強い雨に打たれながら、裸足で延々と逃げる十朱。追う緒形。十朱が精魂尽き果ててアスファルトの道に大の字になるまで、一切のセリフはない。撮影2日間、黙々とただ走るだけを繰り返した十朱幸代は、現場で過酷な指導を課す監督に見事に応えている。
 その後の緒形とのハードな濡れ場も凄いが、ひとりぼっちになった十朱が、夜の埠頭でくわえ煙草で「チャンチキおけさ」を口ずさむシーンは絶品。
 相米作品としては、『ラブホテル』('85)において志水季里子が口ずさむ「赤い靴」とともに、哀切あるシーンのひとつとして好きだ。
 
 おでん屋のオヤジ役で映画監督工藤栄一が出ている。前年に、緒形拳で『野獣刑事(デカ)』を撮影した縁での特別出演だろう。




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Comment

twilightkuma says... "こんばんは。"
懐かしい作品です。もう26年にもなるのですね。
マグロの食ったテグスが凄い凶器と化すのが
今でも強烈な印象で記憶に残っています。

夏目雅子さんはとても綺麗だったし、
十朱幸代さんが雨の中を裸足ではしるシーンと
ラブシーンも忘れられません。
2009.03.07 22:50 | URL | #yl2HcnkM [edit]
mickmac says... "Re: こんばんは。"
twilightkuma さん はじまして。

邦画が見直されてきた最近ですが、こういった骨太映画は少なくなりましたね。
崔 洋一監督くらいでしょうかね。

この作品、日本アカデミー賞では男優賞・女優賞・助演女優賞・脚本賞を獲りました(最優秀賞は緒形さんだけですが)が、相米監督がノミネートされなかったのが残念でした。
でもその後、「ラブホテル」と「台風クラブ」でヨコハマ映画祭を総ナメ(女優賞を除き)したときは嬉しかったなぁ。
2009.03.08 00:49 | URL | #- [edit]
shimizukiriko says... "ありがとうございます"
私のコメント、ありがとうございます。
「ラブホテル」撮影時、監督が
「雅子は生き急いでいた」と言ってました…。
その監督も生き急いだのでしょうか…。
撮影終わって、3日間も知らずに寝続けていたと聞きました。それほど、体力・精神力を使い果たすんでしょうね…。
2009.03.08 10:47 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: ありがとうございます"
kirikoさん 
相米監督のエピソードをありがとうございます。

監督の作品には、何度も繰り返し観たくなる力があります。
監督の全精力を感じるからなんでしょうね。
2009.03.11 00:14 | URL | #- [edit]
コー says... ""
お久しぶりです。

夏目さんに「生き急いでいた」と相米さんは札幌でも確かに言っておりました。
同時に、腹だか何所か「近頃痛くてねぇ」と言うので、まっとうに「病院行かなきゃ」と言うと、「何所かが痛いなんて生きてる証しだろ」って…あの時は話は痔だったかな(^O^)
しかし過酷な現場であったという話はしておられました。

相米映画を観るたびに、監督よ化けて出て来いと思うのですが、あのガキ大将なかなか頑固で夢にも出て来ない。
2009.03.23 20:27 | URL | #SFo5/nok [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
コーさんはひょっとして、以前、相米監督の飲み友だちだと云われていた札幌の慎三さんでしょうか。

どの監督の、どんな作品であっても現場ってものは過酷でしょうが、相米監督の逸話っていうのは多いですよね。

♪ゲタを鳴らしてヤツが来る~

ひょっこりと、超大作をぶら下げて、化けて来られたらお知らせください(笑)

相米監督が創り出した作品群に乾杯!
2009.03.24 11:31 | URL | #- [edit]
蟷螂の斧 says... "相米慎二監督と言えば"
長廻しですよね。
「台風クラブ」「ションベン・ライダー」「セーラー服と機関銃」・・・etc.
長廻しに対する評価は賛否両論ですが、僕は好きですよ。役者さん達の演技力が伝わって来るし。

この映画では路線バスの場面が印象に残っています。夏目雅子さんの美しさと共に。
夏目雅子さんが亡くなったのは、確か僕が大失恋をした翌日だったかな・・・?(苦笑)
2013.01.26 15:27 | URL | #HMPKSmtQ [edit]
mickmac says... "Re: 相米慎二監督と言えば"
蟷螂の斧さん  

>「台風クラブ」「ションベン・ライダー」「セーラー服と機関銃」・・・etc.

今月は相米監督の生誕65周年でしたらか、WOWOWで9本もの作品が放送されましたね。
「あ、春」の放映は貴重でした。
2013.01.27 23:32 | URL | #- [edit]

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