TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「さらば愛しき大地」*柳町光男監督作品



監督:柳町光男
脚本:柳町光男
音楽:板橋文夫
出演:根津甚八、秋吉久美子、矢吹二朗、山口美也子、蟹江敬三、中島葵、日高澄子、奥村公延、佐々木すみ江、白川和子、岡本麗、港雄一、小林稔侍、粟津號、草薙幸二郎

☆☆☆☆☆ 1982年/プロダクション群狼/130分

    ◇

 茨城県鹿島の田園地帯。小さな農家の長男に生まれた幸雄(根津甚八)は、粗暴だが男気があり、ダンプカーの運転手をして一家を支えている。
 ある日、最愛の息子ふたりが溺死する事故に見舞われる。
 荒れた幸雄は、妻の文江(山口美也子)に暴力を振るい酒浸りになるが、背中に息子たちの戒名を刺青して供養している。
 昼は工場で働き、夜は母親の飲み屋を手伝う順子(秋吉久美子)は、突然母親が若い男と蒸発してしまい、ひとりぼっちになった。
 背中に子供の命を背負った男と、その重さを感じた女の出会い。幸雄は妻と両親のいる家を捨て、順子と暮らすようになる。
 4年が過ぎ、生来の不器用さから次第に仕事が減り、その不安を癒すために覚醒剤に溺れる幸雄。優秀な弟への嫉妬も絡み荒んでいく幸雄と、いつか立ち直ってくれるものと信じる順子だが、ふたりの破局は意外な形で訪れる……。
 
    ◇

 柳町光男監督の第3作目の映画は、高度経済成長の波に飲み込まれる地方都市の農村部を舞台に、風土に根付いた人間模様を絡めながら、ひとりの青年の堕落と献身する女の姿を徹底したリアリズムで力強く描いている。
 柳町光男監督作品では、屈折した青年を描いた『十九歳の地図』とともに、永遠に心に刻まれている作品のひとつであり、1982年はこの映画のほかに、宇崎竜童の『TATTO0あり』と緒形拳の『野獣刑事』をマイベスト3に上げていた。

 まずこの映画で目を惹くところは、度々象徴的に挿入される風になびく田圃や防風林など、まるで神の目で写しとっているかの如く美しい風景だ。
 自己嫌悪と猜疑心でシャブを打ち、もうろうとする幸雄が眺めている先に一陣の風が走る田園風景。その美しさには、生命の息吹きを感じさせながらも、その後の展開が痛烈だ。
 田園地帯を我が物顔で走るダンプカーや異質で巨大なコンビナート地帯は、農村を喰う怪物さながらに醜い姿を曝け出している。
 激情する人間模様の重苦しさとそこに起きる悲劇を、静かな時間で包み込む日常的な風景の数々もまた恐ろしく美しい。
 近くの沼にボートを浮かべるふたりの子供が、ひとりづつ沼に落ちて、そのあと何もなかったかのように水面が静かになるワンシーンは、そのスリリングさに息を飲んでしまうのだが、撮影は万全であっただろうが、子役とはいえ小さな子供が溺れて沈んでいく映像には唖然とする。
 それに続く、野辺送りでの日食は“神憑かり”な奇蹟のカットだ。

 そして何と云っても、この風土に土着した人間たちに息を吹き込んだ俳優たちが凄まじい。どの俳優たちからも、血の流れる音が聞こえてくる生々しい息遣いに目を奪われるのだ。
 根津甚八は、愚かな心と哀しみ、荒ぶる心と狂気で、自己を崩壊する様を繊細に演じている。土砂降りの泥道で、山口美也子を引きづりまわし足蹴にし、なじる根津の苛立ち。
 その山口美也子は「これまでの愛人役から、ついに本妻の役を勝ち取った」と喜んだと聞くが、従順な妻に見えながら、ふてぶてしさとしたたかさで女の業を見せ、見事にブルーリボン賞助演女優賞と報知映画賞助演女優賞を獲得している。デビュー時からのファンにとっては嬉しかった。同様に記しておくと、根津甚八はキネマ旬報最優秀主演男優賞を受賞している。

 愛人になる秋吉久美子は、その浮遊感がいい。そして哀れさ。
 ホステスとして働く酒場のカラオケで、客として居る根津の前で歌う中島みゆきの「ひとり上手」は、順子の役がそのまま歌詞に表れていて秀逸なシーン。酔客らに野次られ、不貞腐れて歌う久美子。静かに聞いていた根津がうなだれ、涙を浮かべ、いたたまれなくなる。久美子の音程の外し方で、いじらしさを感じさせる見事なシーンだ。
 そのカラオケで、「夜来香」を歌うジャパゆきさんの岡本麗の台詞まわしが絶妙。
 ダンプ仲間で農地を売って成金御殿を建てた蟹江敬三の巧さは云うまでもなく、彼の妻で足の悪いフミ子役の中島葵も、秋吉久美子の母親役の佐々木すみ江も、少しのシーンだがその存在が忘れられない。

 落ちぶれた根津が、久美子との子供を連れて無人自動販売機の食堂でラーメンを啜る雨の日の夜。かつての仲間から投げ付けられる軽蔑の眼差しに、声を荒げる力もなく、堕ちていく惨めさが生々しい。

スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/498-0c3266bb