TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「善良な男」ディーン・クーンツ



 本国アメリカで2007年に刊行され2008年に翻訳されたこの作品は、クーンツお得意の“ジェットコースター・サスペンス”である。

 大男で物静かなレンガ職人ティムは、友人夫婦が経営する馴染みの酒場で、いつも決まった奥の席に座り一杯飲むのを日常にしている。
 ある日、ティムの隣に座った男に殺し屋と間違われ、ある女性の殺人計画を知ることになる。ティムは殺される標的の女性リンダのもとに危険を知らせに行くが、すでに、本物の殺し屋の追跡が始まっていた……。 

 「男は、正義のために女を守り抜く」

 ヒチコック映画を想起する“巻き込まれ型”の典型で、とにかくシンプルに、わずか2日間の追いつ追われつの追跡劇が展開される。
 初期の傑作『戦慄のシャドウファイア』('87)や『ファントム』('83)でファンになった者には堪えられないほどうれしく、昔ながらのスタイルを貫き通しているクーンツの妙技に酔うことができる。
 そのうえ、3部構成(それぞれのタイトルが面白い)の中を細かくチャプター分けして場面転換が図られているので、映画を見ているような感覚で、緊迫感だけで一気に読める作品となっている。

 興味深いのはここ何年間のクーンツが書く文体、会話の面白さだ。ハラハラドキドキ感だけで物語を進行させるのではなく、主人公らの会話の妙を楽しめるのもクーンツ作品ということになる。
 冒頭、友人でバーテンダーのリーアムとの会話や殺し屋と依頼人との会話はハードボイルド小説だし、リンダとの逃避行中の会話はウイットとユーモアにあふれている。

 主人公らがいくら逃げてもあっという間に追い付いてくる殺し屋クライトのキャラクターは、かなりのアブノーマルでパラノイアな人間。ヴードゥー教の悪魔の人形(『チックタック』)や、超自然現象から現れた怪物(『ファントム』)や、科学実験から生まれた化け物(『戦慄のシャドウファイア』)などのようなスーパーナチュラルではなく、存在だけでサスペンスの効果を上げる魅力ある敵役となっている。
 ふたりを追う過程で訪れる家の住人らと交わす会話は、どれも不気味でゾクゾクさせられる。

 さて、途中ティムの友人で刑事のピ-トの協力を得ながら、殺しの背景に警察や政府機関をも動かせる大きな組織の存在がわかるのだが、この顛末がクーンツらしい大風呂敷の広げ方。
 ワンパターンと云われようが、楽しんで読むのが一番なのだ。

    ◇

善良な男/ディーン・クーンツ
訳:中原裕子
【ハヤカワ文庫】
定価 940円(税別)

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