TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「オリンピックの身代金」奥田英朗



 昨年暮れに出版された奥田英朗の新作は、東京オリンピックが開催された1964年を舞台にした極上の犯罪小説だ。

 昭和39年夏、10月に開催されるオリンピックに向け、東京は建設ラッシュに湧き大変貌を遂げようとしていた。
 8月、警察最高幹部の邸宅と警察学校が次々と爆破される事件が起こり、当局に「オリンピックを妨害する」と脅迫状が届いた。しかし、そのことは国民に伝わることなく、警察は国の威信を賭けて捜査を始める。

 秋田の貧農村出身の東京大学経済学部学院生の島崎国男は、出稼ぎでオリンピック関連の工事現場で働いていた兄の遺骨を受取りに飯場へやってきた。
 孫受会社の社長の云う通りに簡易な葬儀を済ませ田舎に帰るも、兄の生活を実感するためにその飯場でアルバイトを始める。
 優男の国男には過酷な仕事であったが、そこで見知ったものは、東京と地方の格差、過酷労働を強いられる出稼ぎ労働者の現実であり、やがて国をあげてのオリンピックに疑問を持つようになる。

 そして、若きテロリストと警視庁や公安警察との熱い闘いがはじまった………。

    ◇

 『最悪』『邪魔』と、たて続けに第一級のサスペンス小説を出版し、その後、直木賞受賞の『空中ブランコ』や『サウスバウンド』『真夜中のマーチ』といったライトな作品の執筆が多くなっていた奥田英朗が、久々に放つクライム・サスペンスは読み応えのある大作となっている。

 日本の高度成長期の裏側を、丹念な取材と緻密な時代考証で描く筆力は圧倒的。
 昭和39年当時の時代描写は実に見事だ。 
 「富」と「貧困」の不平等、「繁栄」に取り残される側の差別や理不尽な社会。
 そんな日本の“光と影”をあぶり出す展開は、平成の格差社会への痛烈な批判にもなっており、質の高い社会派エンターテインメントの傑作として楽しむことができる。

 時系列をバラバラにした構成は、同じ状況を立場の違う視点から語ることで事件の裏側を描く臨場感となり、スピーディでスリリングな展開がサスペンスを盛り上げていく。
 
 登場する多くのキャラクター描写も、この時代のリアルな風景に溶け込んでいる。
 なんと云っても主人公の島崎国男が断然魅力的で、途中から相棒になるベテラン“箱師”(スリ)の村田留吉とともに、ふたりのコンビネーションがとてもいい。

 読み始めてすぐに連想したのが映画『太陽を盗んだ男』と『新幹線大爆破』だった。国家、体制への反逆と云う意味で、その痛快さにおいてもテイストは同じように感じる。
 歌舞伎役者を想わせる端正な顔だちの国男に、若き日のジュリーを重ね合わせても不思議ではない。そういえばドラマ化('01)された『最悪』では沢田研二が主人公を演じていた。

 価格に見合うだけの満足を絶対に得られる、お勧めナンバーワンの大傑作だ。

    ◇

オリンピックの身代金/奥田英朗
【角川書店】
定価1,890円(税込)

スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/486-3ec1b5da