TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「みのたけの春」志水辰夫



 志水辰夫の書き下ろし長篇時代小説の第2弾は、激動の時代に翻弄された郷士(農村に居住する下級武士)たちの生き方を描いている。

 時は幕末。
 北但馬の農村で養蚕で生計を立てている清吉は、病身の母を抱えながらつましい暮らしを送っていた。
 清吉は家業の合間に、武術や学問を学ぶために私塾・山省庵に通っている。
 大転換期の時代、尊王攘夷の風は山深い農村にまで届き、山省庵にも天下国家を論じる血気盛んな者たちが多くいたが、清吉は行動をともにしない。
 ある日、私塾仲間で幼馴染みの民三郎が刃傷沙汰を引き起こし、京へ身を隠す。
 兄妹のしがらみを断ち、尊王攘夷の活動に参加する民三郎に対し、清吉は母親の看病をしながら、時代に流されず、身の丈で生きる道を見い出そうとしていた。

 そしてついに、京で何人もの人を殺し罪人となった民三郎が逃げ帰ってくる。
 清吉は、友のために行動にでる………。

    ◇

 「すぎてみれば、人の一生など、それほど重荷なわけがない。変わりばえしない日々の中に、なにもかもがふくまれる。大志ばかりがなんで男の本懐なものか。」

 毎日縁側に座り、自然の移り変わりを眺めながら、自分の本分をわきまえている主人公の静かな生き方は、目立たず、騒がず、常に己の道を歩む姿勢だ。そこにすっかり引きこまれる。
 いかに、激変の時代であれこの殺伐とした現代と比べてみると、そこには、親と子、兄と妹弟、師と弟子、そして主と仕える者との関係など、いまの日本には決してない忘れられた何かが見えてくる。

 そして、相変わらず魅力あふれる傍役たちと、鮮やかな情景描写。
 民三郎の兄妹たちの健気さと頼もしさはもとより、清吉がほのかに想いを寄せる女性への拙い行動や、清吉の家に長年仕える下男の存在がほんの二言三言の会話で浮かび上がってくる様子など、見事にシミタツの世界である。

 最後の2頁が往年の代表作のラストを彷彿させながらも、読後感はまったく違った思いにさせられる。いい小説である。

    ◇

みのたけの春/志水辰夫
【集英社】
定価1,890円(税込)
2008年11月初版

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