TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「十九歳の地図」*柳町光男監督作品



原作:中上健次
監督:柳町光男
脚本:柳町光男
音楽:板橋文夫
出演:本間優二、蟹江敬三、沖山秀子、山谷初男、原知佐子、白川和子、中島葵、竹田かほり、楠侑子、津山登志子、川島めぐ、柳家小三治、友部正人、、清川虹子、中丸忠雄

☆☆☆☆☆ 1979年/プロダクション群狼/109分

    ◇

 原作は中上健次のモノローグ小説で、神代辰巳監督や長谷川和彦監督も映画化を試みたという。
 ドキュメンタリー映画出身の柳町監督は、誰にでも起こりうる人間の心の闇を冷徹な眼で活写していく。

 まだ夜が明けきっていない蒼い町。ガスタンクがある町。黙々と新聞配達の少年が走っている。

 和歌山から上京してきた19歳の少年(本間優二)は、新聞配達のアルバイトをしながら予備校に通っているが、さして目的を持って大学を目指しているわけではなかった。
 単調な新聞配達の日々のなか、一軒一軒に「犬が吠えるからバツひとつ」「狭い路地に物が置いてあるからバツふたつ」と採点し、それがたまると各家に嫌がらせ電話をしている。
 少年のノートには電話帳で調べた電話番号と家族構成そしてバツ印が記載され、それを元に手書きで町の地図を作成することに熱中し始める。
 「幸せになるのが怖いのだ」と言われると心当たりがある少年。ひととの繋がりを、沸き起こる敵意とか人を貶める感情でバツ印を付け、嫌がらせ電話をかけることで満足しているのだ。

 新聞店の2階に住む少年の同室には30過ぎの男(蟹江敬三)がいる。同僚から金を借りては返さない、胸の刺青も痛くて途中で辞めてしまう、ホラばかり吹いて何も出来ないダメ男に少年は軽蔑の眼差しを向けている。
 そんな男には「かさぶたのマリア様」と慕う女がいる。自殺を仕損なって片足が不自由な娼婦(沖山秀子)だ。

 マリアが子供を身籠った。男は彼女のために、ひったくりをし、八百屋に侵入して強盗傷害で警察に捕まってしまう。男の逮捕を知らせにきた少年の前で、マリアはガス自殺を図るが死ぬことができない。
 やり場のない、どうしようもない気持ちを抱えた少年は、ガスタンクの会社にタンクを爆破するという脅迫電話をかける。「のうのうと生きている奴なんか殺してやる!本当だぞ……本当なんだからな」受話器を握った少年の目には次第に涙があふれてくる。バツ印でいっぱいになった町の地図が貼られた部屋で、ひとり慟哭する少年。

 翌朝、朝露に濡れた町を走る新聞配達の少年の前にマリアの姿があった………。

    ◇

 ひとり一人が“希薄な存在感”でいる世の中で、ひとは何も助けてはくれない。自分で解決するしかない。

 少年が集金に行く毎に、金を払わない中年男、情事の男の金を借りて「不幸に負けちゃダメよ」と偉そうに言うひとり暮らしのOL(津山登志子)、宗教の勧誘をする中年女(白川和子)、少年の身の上を聞き出しては満足している中流階級の主婦(楠侑子)、物品ばかり請求する元女教師らに腹を立てる。“ごくろうさま”のメモとアメ玉ひとつを新聞受けに入れている家にも少年はイラつき、バツの数を増やしていく。
 こうしたカットを織りまぜながら、悪意のマスターベーションとなる手書きの地図を完成させていくシーンが見どころだ。

 向いの部屋からはいつも激しい夫婦喧嘩が聞こえる。女(中島葵)のヒステリックな声に「どういった具合に生きていきゃぁいいか、わかんないよな」と呟く蟹江敬三。男が愛読するのは中原中也の詩集だ。
 この蟹江敬三の、だらしなく、みっともない男の姿が、恐ろしいほどリアルな演技で秀逸を極めている。

 そしてもうひとり、醜く、薄汚く、孤独な女を演じる沖山秀子も凄い。
 今村昌平監督の『神々の深き欲望』('68)でデビューをした沖山秀子は、何度かの自殺未遂や精神病院への入退院を繰り返した曰くのある女優で、この映画で見せる不自由な足は、実際にビルの7階から飛び下り自殺未遂に終ったときの傷跡であり、この作品が事件直後の復帰作だった。
 ガス自殺を試みるシーンにおいて「死ねないのよ、死ねないの、死ぬことができないの……」と、咽び泣く沖山の姿は本物。この生々しさが柳町監督らしく、彼女をキャスティングした時点で映画は成功している。目力と凄みのある太い声は半端ない迫力である。
 彼女はジャズシンガーとしても有名で、現在もジャズクラブで活動している。

 地を這う虫の如く生きている人間たちへの鎮魂歌は、全編に流れるピアノ・ジャズ。
 マリアの姿を捉えたラストのスローモーションは、脳裏に残る名シーンである。


スポンサーサイト

Comment

なるときよし says... "昔、"
中上健次の、「あきゆきシリーズ(?オリュウノオバが出てくる熊野のやつ)」にはまって、これも20年くらい前に読みました。(内容いまいち覚えてない)赤い髪の女が入ってる短編とか。

映画未見なのでみたい。
2008.12.12 08:26 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
なるときよしさん

中上健次原作の映画化作品はほかにも、長谷川和彦監督『青春の殺人者』、神代辰巳監督『赫い髪の女』、藤田敏八監督『十八歳、海へ』、柳町光男監督『火まつり』と傑作揃いですよ。
2008.12.12 12:46 | URL | #- [edit]
蟷螂の斧 says... "はじめまして。"
大学1年の時に、下宿(汚くて薄暗い部屋)のテレビでこの映画を見ました。
見ているうちにどんどん引き込まれましたね。
主人公がいろんな人に×をつける。イタズラ電話をする。しかし、大きな悪事を実行するわけではない。
すごい映画だと思いました。

そして長い年月を経て、先日CATVのチャンネルNECOで本当に久しぶりに見ました。
沖山秀子さんの存在感が凄いです!
沖山さんは2011年3月に逝去。同じ頃に亡くなったエリザベス・テーラーよりも沖山秀子さんの死去のニュースの方がショックでした・・・。
2012.11.22 07:19 | URL | #UwJ9cKX2 [edit]
mickmac says... "Re: はじめまして。"
>蟷螂の斧さん  
はじめまして

都会の中での存在感にもがき苦しむ人間たちの様子が、とてもリアルに表現されていた作品でしたね。
本間優二はこの後のロマンポルノ『狂った果実』で、蟹江敬三さんは同年のロマンポルノ『天使のはらわた 赤い教室』でも秀逸な存在感を醸し出していました。
そして沖山秀子さん……この人は凄いひとですよね。大柄な身体から発散するエネルギーとエロティシズムは強烈です。まさしくマリアでした。

この作品のリマスター版がやっとTV放送(チャンネルNECO)されたことは、大いに喜ばしいことです。
既発のDVDより綺麗で、ワイド画面だったのがうれしかったです。
2012.11.22 18:15 | URL | #- [edit]
蟷螂の斧 says... "レスありがとうございました!"
沖山秀子さんを初めて見たのは「真剣勝負(宮本武蔵番外編)」でした。
宍戸梅軒(三国連太郎)の女房役です。
幼い子供を武蔵に人質に取られて泣き喚きながら太股を見せるエロチシズムがありました。
この映画の立ち小便場面でも、撮影秘話を他のブログで読んで驚きました。
2012.11.23 19:54 | URL | #3ig1qbZY [edit]
mickmac says... "Re: レスありがとうございました!"
>蟷螂の斧さん  

歌手・沖山秀子は
破滅型アーティストとして
青山ミチと双璧だったでしょうか………

「ダンチョネ節」にしても「Summertime」にしても
ジャケットのインパクトは強烈でした………
森崎東監督の『黒木太郎の愛と冒険』は、足の不自由な芸者置屋のチイ婆……清川虹子さんの妹役で迫力あったなぁ
2012.11.26 23:51 | URL | #- [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/473-5fae2485