TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「赤線地帯」*溝口健二監督作品



製作:永田雅一
監督:溝口健二
脚本:成沢昌茂
撮影:宮川一夫
音楽:黛敏郎
助監督:増村保造
出演:京マチ子、若尾文子、木暮実千代、三益愛子、町田博子、沢村貞子、菅原謙二、川上康子、進藤英太郎、

☆☆☆☆ 1956年/大映/86分/B&W

 58歳で生涯を閉じた巨匠溝口健二監督の遺作となった作品。
 売春禁止法が何度も国会で審議されていた頃の、赤線地帯と呼ばれていた吉原で働く5人の娼婦たちの生き様が生々しく描かれ、底辺に蠢く人間たちに向ける溝口監督の鋭い眼差しと、“生”をリアルに演じる女優たちの凄みに圧倒される傑作である。

 舞台となる売春宿の名前は『夢の里』。男に夢を売り、女たちは自由になることを夢見る、人生どん詰まりの仮の宿。
 社会から糾弾されながらも生きていかなければならない女たちの事情は、身体を売ることの後ろめたさを覚えながら日々苦悩し、そこから這い上がろうともがく。吹きだまりの人生模様だ。

 官僚疑獄事件で投獄された父親の保釈金のために身を堕とした20代前半のやすみ(若尾文子)は、男を手玉にとり金をふんだくり、仲間の女たちへの金貸しもしながら貯金を増やし、逞しく生きている女。
 「たった20万の金のために人生めちゃくちゃ。私は貧乏が大っ嫌い!」
 美しい若尾文子のリアリストぶりがクールで魅力的だ。

 神戸から流れて来た20代のミッキー(京マチ子)は、先輩や宿の女将(沢村貞子)にもズケズケと物言い、自由に生きている。
 妾をつくり母親を苦しめた資産家の父親に反抗してズベ公になったミッキーが、世間体のために彼女を引き取りに来た父親に「金を出して私を抱け」と迫るところは悲痛。
 「けったくそワル!大メロドラマやわ」と毒づく姿には母親への恋慕を感じさせ、同僚の女たちへのキツい言葉も芯のところでは優しさのある女を、京マチ子が若々しく演じている。

 結核で失業中の夫と赤ん坊を抱え、通いで『夢の里』で働く30代のハナエ(木暮実千代)もタフに生きている。
 「子供のミルクひとつ買えないで、何が文化国家よ。わたしゃ死なないよ。生きてこの目で見てやるよ。淫売しかできないおんなが次に何をやっていけるのか、見極めてやる!」
 首吊り自殺を試みる夫に対して吐くこの台詞。名カメラマン宮川一夫が映し出す光と影のなか、スクっと男を見下し立つ姿が鬼気迫る。
 木暮実千代のあまりにも生々しい所帯疲れの姿に圧倒されながらも、眼鏡をかけた木暮実千代が漂わせるエロティシズムは他を寄せ付けない。

 一人息子のために内緒で娼婦として働く40代のゆめ子(三益愛子)は、将来コンクリートの家で息子と一緒に暮らすことを唯一の楽しみにしている。
 息子に会いに行く途中飲食店で化粧を落としていると、店の者に「紅や白粉を落としても、玄人衆はどこか粋だね」と云われる。どう見ても堅気の女に見えない姿に後ろめたさを感じる母親の姿である。が、客に声をかけている姿を息子に見られてしまい、息子から絶縁を言い渡される。
 「息子を育てるのは親の責任じゃないか!」
 三益愛子の茫然自失な姿が痛々しい。気が狂うことでしか、この吹きだまりから出ることができない残酷さ。
 ミッキーが父親と縁を切るのと同じように、ゆめ子の息子も子供の側から家族の縁を切る。子供が親を捨てる世代の誕生だろうか。

 20代半ばのより江(町田博子)は、普通の主婦に憧れている。仲間内から送りだされ下駄職人と結婚をするが、主婦だなんて名ばかりで人手を得るためにこき使われるだけの夫婦生活に疲れ、『夢の里』に舞い戻る。
 「働いたら働いただけお金になる。この商売が心底いいと思っちゃった。」
 
 それぞれに描かれる女の人生が違えど、鮮明に浮き彫りになるのは逞しい女たちの姿だ。

 それに反してここに登場する男たちは、ろくでもない男ばかり。
 『夢の里』の店主(進藤英太郎)は「売春防止法が出来たら、お前たちはどうやって生活していくんだ。政治家さんらはお前たちの苦労を分かっちゃいない。おれたちは国家の代わりにお前達の面倒をみているんだ。」と何度も演説したり、ハナエの夫はより江の送別会で皆の前で「ここに戻ってきてはダメだ。あんなとこに居るのは人間のクズだ」と説教する。なんという無神経さ。
 どちらも女たちを貶めているのに変わりはない。

 スキャンダルスな逸話を数々もつ溝口監督の女を見続けた眼差し。
 人間を見ることは面白い。


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Comment

シリウス says... ""
溝口健二監督は、女性を主人公にした作品が圧倒的に多いですね。
この「赤線地帯」(1956年)は最後の作品ですが、映画で観たのかテレビの放映で観たのかはっきりとした記憶はありません。
観た記憶が確実にあるのは、「祇園の姉妹」「雨月物語」「雪婦人絵図」だけです。

以前、日本映画専門チャンネルだったと思いますが、新藤兼人監督の「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」(150分)をしっかりと観ました。
内容は溝口監督とかかわりがあった映画関係者・俳優のインタービューを中心にしたドキュメンタリー形式の作品でしたが、溝口健二は映画製作で非常に厳しい姿勢(無理難題など)を常に俳優・スタッフに要求してきた人だったようです。
特に、女優・田中絹代との関係は濃密だったようです。
(彼女が映画監督をするようになってから、二人の仲は急速に離れていったようです)

インタービュー関係者の監督への賞賛の声や確執(不和)の声などの赤裸々な語りが、溝口健二の公私にわたる生き様が浮かび上がってきましたね。
この150分の作品は、なかなか目を離すことができませんでした。

新藤兼人監督は、溝口健二へのオマージュとして、この映画を製作したのだと思います。
2008.11.16 10:38 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
シリウスさん どうもです。

溝口健二監督のあまりに凄い行状は、この「ある映画監督の生涯 溝口健二の記録」で知っていました。
この「赤線地帯」でも、若尾文子さんへの虐めとも言えるような執拗な追い込み方はハンパではなかったそうですね。
女を描く監督の鋭い眼差しが、自身の放蕩の贖罪になっているのでしょうか。
続けて鑑賞した、田中絹代さんの汚れ役が有名な「夜の女たち」がこれまた凄くて、唖然とする作品を生み出す力となっていることは確かなのでしょう。

2008.11.17 00:32 | URL | #- [edit]

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