TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「おくりびと」



監督:滝田洋二郎
脚本:小山薫堂
音楽;久石譲
出演:本木雅弘、広末涼子、余貴美子、吉行和子、笹野高史、山田辰夫、山崎努

☆☆☆☆ 2008年/日本・松竹/130分

    ◇

 亡くなった人が残された遺族へ最後のメッセージを伝える場が納棺であり、それに携わる人間の清らかさと優しさを通じて、ひとが命をつないでいく。
 “死”に向き合うことで“生”を考えさせるこの作品は、第32回モントリオール世界映画祭で見事グランプリに輝いた、世界に誇れる日本映画の傑作である。

 オーケストラの解散で失業したチェロ奏者の大悟(本木雅弘)は、妻の美香(広末涼子)とともに郷里の山形に帰る。健気な妻のためにも、少しでも高給な仕事をと探すが、好条件の求人広告に釣られて就いた仕事は、遺体を扱う“納棺師”という職業だった。
 特異な仕事のため妻には冠婚葬祭の仕事と偽りながら、戸惑いながらも見習いとしてベテラン納棺師である社長の佐々木(山崎努)の下で働き始める。次第に仕事に打ち込んではいくが………。

    ◇

 とても素晴らしく、美しい作品だった。

 その美しさとは、舞台となる山形県庄内の風景や久石譲の情感あふれる曲を奏でるチェロの音色はもとより、納棺師の静謐な所作のひとつひとつに、凛とした日本人の品格と佇まいを感じることができるからだ。
 横たわる遺体に白装束をまとわせ、死化粧を施す作法。その荘厳なセレモニーに見入ってしまうのだ。

 ◆以下、微妙にネタバレしている箇所があります。

    ◇

 オープニングの“納棺師”の仕事が儀式として丁寧に描かれるが、すぐに軽妙なオチをつけられる。そのユーモアのセンスが、“死”を描く重たい映画だろうという先入観をかわす巧い導入部になっている。
 そして、ニュ-ハ-フの死化粧のエピソード、娘たちから顔中にキスマークをつけられる父親、おばあちゃんにルーズソックスを穿かせる孫娘、遺影とまるで違うヤンキーの女子高生など、様々な別れの場面が軽妙に描かれることで、そこに生きる人間たちの深い愛情が温かく観客の胸に迫ってくる。

 しかし一方、妻の美香や幼馴染みの山下(杉本哲太)が納棺の仕事を非難するなど、“納棺師”という仕事が職業差別的な扱いをうけていることも描かれる。
 
 生きているものは必ずいつか死んでしまうのに、なんびとにも避けて通ることの出来ない“死”に対して、人はそれを何となく忌み嫌っているところがある。
 それに対しては、逝くひとの想いと送るひとの気持ちをつなぐ厳粛さと繊細さを丁寧に行動することで、“死”を当たり前の風景にしてしまうことで解決される。

 佐々木たちの数分の遅刻に苛立つ喪主(山田辰夫)が「ひとの死で喰っているくせに!」と罵るが、亡くなった30代の妻への丁寧な仕事ぶりを終えた後には、心から「ありがとうございました」と泣きながら頭を下げる。
 真摯な態度で“死”と向き合っている姿だからこそ理解される。

山田辰夫の演技には鳥肌がたつ。
 死化粧の際の山崎努の言葉にも反応しない“何もしない演技”で見せる山田辰夫が、「ありがとう」の前に「あいつ……今までで一番、きれいでした」と発する言葉に、涙があふれてくる。
 
 幼馴染みの実家の銭湯のおばちゃんツヤ子(吉行和子)と、常連客の平田(笹野高史)のエピソードも凄いインパクトで、泣かずにはいられないものがある。

 佐々木役の山崎努の“納棺師”の佇まいとしての絶妙な芝居には息を飲むものがある。
 ほかの人物に比べて過去があまり語られないのだが、その言動などから生きざまを感じることができる。

 クラシックな佇まいのNKエージェントの社内はなんとも不思議な空気に満ちており、一番には事務員上村百合子役の余貴美子さんの醸し出すけだるさであり、その雰囲気である。
 入社一日目に、出勤した本木に“合版”と“彫り物”と“総檜の窓付”の三つの棺桶の違いを説明する余さん。
 「燃え方もおんなじ、灰もおんなじ、人生最後の買い物は他人が決めるのよ」
 絶妙な台詞まわしだ。
 そしてラストのあたりで、慈愛に満ちた百合子が大悟の心を揺り動かす様には、過去の生きざまがつきまとった哀しい姿があり、胸を打つ。

 どの人物にも心の美しさが表れており、清清しい気持ちで映画館を出ることができる。
 
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Comment

キリヤン says... ""
是非観たい作品ですね
私は葬祭レディーのバイトを長くしてたことがあります。
交通事故なので変わり果ててしてしまった遺体を復元する勉強のの為、アメリカに修行に行った同業の若い女性もいました。
いつも、葬式でもらい泣きする性格だったので、業者から淡々としないとと注意されたことも…。
最後のお別れの仕事は、大仕事ですよね。
2008.09.21 19:08 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
キリヤンさん 
是非、ぜひ、ご鑑賞ください。
TVドラマやマンガ原作が大手を振る昨今の邦画界のなかで、完全オリジナル脚本というだけで素晴らしいのです。
キリヤンさんが尊敬される伊丹十三氏の趣を感じます。
ポスト『お葬式』とも言われてますが、『タンポポ』の要素も………。
このあたりは、観て、感じてください。

おくる人の哀しみを美しい思い出に変えるのは、大変な仕事だと思います。
2008.09.22 00:15 | URL | #- [edit]
ワトソン says... "今年一番の邦画だと思います。"
こんにちは~
何よりも好いのが暗くならない処だと感じました。
重いテーマですが、今まであまり人に知られて居なかった納棺師という職業に光がさしていました。
彼岸への身支度の儀式にこんなにも神聖で無駄のない
作法が有ったとは知りませんでした。

私事ですが、今年身内を送りましたが、
納棺の儀に際して
映画に描かれているような感動は有りませんでした。
納棺師は遅れたし、儀式も形だけでしたが
怒るわけでもなく感謝で泣ける事もなく無事に終えた
安堵感だけでいっぱいでした。
初めての経験でした。映画を観ながらこの作品を観ていればと思った程でした。
いい映画でした。
2008.09.22 09:22 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
ワトソンさん どうもです。

この作品は、間違いなく2008年度の賞を独占すると思いますね。
当初、単館ミニシアター封切りなので自由に書かせてもらったらしいです。
それが功をそうしたのでしょう。
いろいろなエピソードも実際のもので、まさにシナハンの成果。
伊丹十三作品の流れを感じるのはそんな地道な取材があるからで、そこに、オリジナ
ルの醍醐味もあるんですよね。
2008.09.23 00:42 | URL | #- [edit]
シリウス says... ""
こんにちは、ご無沙汰しています。
映画「おくりびと」を家内と観てきました。
我々夫婦は前期高齢者(70~75歳未満)ですから、この映画には強い関心がありました。
映画の内容はここでは触れませんが、納棺師の心のこもった仕事ぶりに涙がこぼれるシーンもあり、とても良い映画でした。
山崎努、本木雅弘の師弟関係(社長と従業員)も味あい深い描かれかたがされていたと思います。

私は銭湯の女主人役であった吉行和子のファンですが、余貴美子も彼女とよく似た雰囲気(容貌、演技)がありますね。常々そう思っています。
「おくりびと」で、事務員役の余貴美子は予想以上に出番が多く、暗い・哀しい過去を背負って生きていることが、最終部に近いシーンで分ってきました。

この映画は、導入部で納棺師の仕事ぶりを見せ、一転、オーケストラの演奏会に切り替わり、そこから物語が始まるという場面展開がなかなか良かったのではないかと思います。(全体のストーリーが分りやすい)

mickmacさんも書かれていましたが、この「おくりびと」は今年の日本映画の各賞を呼び込む可能性が高い作品だと思います。

別件ですが、小生が今年観た映画は、
・「相棒・劇場版」
  テレビでは出来ない迫力シーンがあり楽しめた。

・「クライマーズ・ハイ」
  これはNHKドラマで熱心に観ていたが、好ドラ   マであった。
  主人公の佐藤浩市(テレビ)、堤真一(映画)は共  に甲乙つけ難い好演技であった。
・「インディ・ジョーンズ クリスタルスカラの王国」
  このシリーズは4作目だったと思いますが、5作目  は製作されるのですかね?
  もしかしたら、ジュニアが主人公で5作目?
  (ハリソン・フォードの年齢を思うと)
・「ゲゲゲの鬼太郎 4年の呪い歌」
  去年の前作も観ている。
・2008年優秀映画鑑賞会
 大阪歴史博物館・4階講堂
 メロドラマの巨匠・成瀬巳喜男の藝術
 「めし」(1951年作)
  原節子、上原謙(大阪の下町が舞台)
 「浮雲」(1955年作)高峰秀子、森雅之
  何といってもこの映画の高峰秀子は美しい。
  森雅之は、当時の日本の男優の中でダンディな姿が
  抜きん出ていると思う。

  不倫関係を断ち切れない二人のやるせなさと、なに  かにすがりつかずには生きていけない当時の世相の
  中での人間の業の深さを描いている。
  
2008.10.16 14:03 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
シルウスさん お久しぶりです。

『おくりびと』を観に行ったときに驚いたのは、その年齢層の高さです。
 50代のぼくが若く見えたくらいでした。(若いひとも居ましたが目だたない?……笑)
高齢の方々の強い関心ていうのもいろいろあるのでしょうが、送るひとの気持ちを描いているこの作品は、世代を超えて多くのひとたちに観て欲しいですね。

余さんは思いもかけず多くのシーンがあり嬉しかったし、登場するあらゆる人たちがこころに残る演技を見せてくれました。
根岸徹さんには、こころからご冥福をお祈りします。

『相棒~劇場版』は、あまりに映画にこだわり過ぎたように感じました。期待した分だけ、テレビドラマの映画化の難しさを感じてしまったのですが……。
映画の迫力はありましたねぇ。

『クライマーズ・ハイ』は、NHKドラマも映画版も観ました。
群像劇として、映画版の迫力が勝っていたように感じました。
が、映画独自のラストは入らなかったかな………(笑)
堤真一が良かった。

堤真一なら、公開中の『容疑者Xの献身』もピカ一の演技を見せてくれます。
これはTVドラマの映画化なんていうレベルではなく、映画として秀作です。
原作もよかったですが、何といっても堤真一が凄いです。
お勧めしますよ。
2008.10.19 16:31 | URL | #- [edit]
蟷螂の斧 says... "山田辰夫さん"
素晴らしい演技でした。
山田さん自身が、この時癌に蝕まれていたんですよね。本人もそれをわかっていたんですよね。
そして遅れた納棺師に最初は怒るけど、最後は感謝する。
見ていて泣けてきました・・・・。

山田辰夫さん。
「沈まぬ太陽」でも素晴らしい演技をしていましたが、映画が公開される前に永眠。無念だったと思います・・・・。
2013.01.31 19:13 | URL | #HMPKSmtQ [edit]
mickmac says... "Re: 山田辰夫さん"
蟷螂の斧さん 

>素晴らしい演技でした。
山田さん自身が、この時癌に蝕まれていたんですよね。本人もそれをわかっていたんですよね。
そして遅れた納棺師に最初は怒るけど、最後は感謝する。
見ていて泣けてきました・・・・。


この作品でいまだに鮮明に記憶に残っているのが、この山田辰夫さんのシーンです。
強面で無骨、無口な役回りは山田辰夫さんの真骨頂。
「壬生義士伝」の佐助も胸に沁みたなぁ。
「狂い咲きサンダーロード」から80年代に好きだった作品には必ずどこかで見かける存在。
たとえワンシーンしかみかけなくても、「あの映画に出ていたよね」って話なる俳優さでした。
2013.02.01 12:47 | URL | #- [edit]

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