TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「丘を越えて」*高橋伴明監督作品



監督:高橋伴明
原作:猪瀬直樹「こころの王国」
脚本:今野勉
出演:西田敏行、池脇千鶴、余貴美子、西島秀俊、猪野学、嶋田久作、石井苗子、高橋恵子

☆☆☆ 2008年/日本・「丘を越えて」製作委員会/114分

    ◇

 「真珠婦人」や「父帰る」で一躍人気作家になり、文藝春秋社を創立し、芥川賞・直木賞を創設した人物菊池寛と、その周囲の人々の人間模様を描いた物語。

 女学校を出たばかりの細川葉子は江戸情緒を残す下町育ちの貧しい娘。知人の紹介で文藝春秋社の面接を受ける。一度は編集長(嶋田久作)に断られるが、人柄が菊池寛(西田敏行)の目にとまり私設秘書として働くことになる。
 葉子にとっては何もかもが新しい世界のなかで、菊池の運転手の“地下鉄のしんちゃん”(猪野学)や、編集部に席を置く朝鮮人の青年・馬海松〈マカイショウ〉(西島秀俊)らと関わりながら、働く女性として成長し、女流作家への夢を見ながら、大人の恋愛を経験していく。

 時はモダン、昭和初期。
 映画の冒頭、葉子が育った遊郭吉原界隈の竜泉寺町で、遊女と兵隊のひとコマが静かに映し出される。軍靴の足音が迫っていた短かった時代とはいえ、ラヂオから流れるチャールストンや流行りの昭和歌謡曲に人々が魅了され、街には自動車や洋服姿のモガやモボたちが闊歩していた頃。大正モダニズムの流れを残しながら、大衆文化として風俗や昭和のファッションが華開いた時代だ。
 スクリ-ンにはモダンな街並が輝かしく再現され、流れる昭和歌謡曲の名曲には耳を奪われます。

 しかし少し残念なのは、映画として全体に人間臭さを感じることがなく、どこか綺麗にアッサリと流れてしまった感じがする。
 馬海松や地下鉄のしんちゃんのバックボーンが台詞だけで終っているし、菊池の女性関係もはっきり見えない。タクシー運転手の語りだけで別宅があるように想像させるのだが、本物の愛に満たされなかった中年の菊池が、若い葉子に恋心を抱いていく過程が見えないので、葉子と菊池の旅館での情事が胸に迫ってこなかった。

 ラジオ放送が満州事変の始まりを伝え、日本は暗い時代に突入することとなる。これからの幾つもの困難な丘を乗り越える大衆の力強さを見せつけるかのように、映画は唐突にレヴューとなって幕を下ろすのだが、いやぁ、本当に唐突なのだ。これ、少し評価しにくいな。

 菊池寛を演じる西田敏行は風貌や雰囲気がソックリ。威風堂々と演じる西田だが、ときおり見せるチャーミングな振る舞い、情けない中年ぶりが彼らしくて楽しめる。
 終盤、余貴美子の三味線で小唄を披露する西田敏行は見ものだ。

 かつて中国大陸を三味線ひとつで稼ぎ回ったという強者が、余貴美子さん演じる葉子の母親はつ。登場するシーンでは、毎回違うハイカラな着物姿を魅せてくれる。
 余さんの粋な着物姿とともに、都々逸や小唄、三味線で謳う「丘を越えて」、そして、着物でチャールストンを踊る姿には目を奪われっぱなしだった。
 貫禄あり過ぎです。

 個人的には、余貴美子さんだけを見ていて幸せな時間を得られる映画だったので、とりあえずは満足。


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