TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「夜を着る」井上荒野



 タイトルに惹かれて買った。

 それぞれの事情を抱えた主人公たちが、日常生活から小さな“旅”にでる8つの物語を収めた短編集は、そのなんとも甘美なタイトルどおり、ビターな読後感がかなりハードボイルドだった。
 各編のラストの断ち切り方が見事で、主人公たちの心情とともに、心がざわざわする感覚を憶える。

    ◇

 アナーキー
 2度目の堕胎手術を終えたばかりの若い恋人たちが、あてのないドライブに出る。大人になりきれないふたりの彷徨いの果ては………。

 映画的な子供
 通学途中の見知らぬ町に降り立ち、初めて学校をサボる女子高生。親がほしい子供らしさと、子供がほしい親らしさ。

 ヒッチハイク
 更年期を意識し始めた女性が、以前知り合った若いヒッチハイカーの男性に逢いに、ふらりと家を出る。夫婦の岐路の結末は……。

 終電は一時七分
 五十代を迎えた男が妻に愛人の存在を伝え家を出るが、年若い愛人は本気ではなかった。男は、TVで話題になった恋人を殺した男の事件現場に出向き、そこで自分を同級生と見間違う女に出会う。

 I島の思い出
 詩人だった父親が亡くなった。女性スキャンダルでふさぎ込んでいた母を連れて、娘の私は沖縄のI島へ向う。ちょっとちぐはぐな道中記。

 夜を着る
 夫の浮気を探るために、隣家の旦那と共に夫の旅先へ向う妻。妻の心の中にも、小さな不義が芽生えるが……。

 三日前の死
 卒業旅行でパリへ来た二組の恋人たちは、一組の仲睦まじい夫婦と出会う。最終日に知らされたひとつのニュースから、それぞれの男と女の微妙な事情が浮かび上がってくる。

 よそのひとの夏
 父親の葬儀に現れた父のかつての愛人。娘たちは、ある夏の日を思いだす……。

    ◇

 簡潔な文章のなかに浮かぶ男女の機微と揺れる心象風景は、繊細でありながら、大胆で、骨太な印象を残す。
 居場所をなくしたものたちが、不安定な日常から少しだけ逃げ出し、人と関わることで喪失感を埋めようとするのだが、結局、帰る場所があるはぐれ者たちには、ただ戸惑いばかりが膨らんでいく。微妙な余韻。

 同情するべくもない男の情けなさと哀れさが強烈な『終電は一時七分』は、男の身には痛いラストだ。
 
 書籍を手に持ったときのザラついた紙の触感と、粒子の粗いモノクロ写真がひりひりする物語の空気をもたらしてくれる装丁も、またよろしい。

    ◇

Put the Night On Me
夜を着る/井上荒野
【文藝春秋】
定価 1,260円(税込)

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