TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「約束」*斉藤耕一監督作品

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監督:斉藤耕一
原案:金志軒、斉藤耕一
脚本:石森史郎
音楽:宮川泰
出演:岸惠子、萩原健一、三国連太郎、南美江、中山仁、殿山泰司、姫ゆり子

☆☆☆☆☆ 1972年/松竹/88分

    ◇

 雪国の地へ向う列車のなかで、たまたま乗り合わせた男と女。
 女は、夫殺しで収監された模範囚。母親の墓参りのために仮出所中の身。
 男は、羽越信金の現金強奪に加わるために列車に乗っていた。
 女に好意を寄せた男は墓参りに同行し、翌日、帰りの列車に乗る前に逢瀬の約束をする。
 しかし男は、一度目の約束を守れなかった。
 仲間割れから素性が警察に知れ逃亡犯となった男は、それでも女が出所する2年後に同じ地で今度こそ逢う約束をするのだが…………。
 
    ◇

 北陸の沿岸地を北上する列車。小雪舞い散るどんよりと暗い風景にヨーロッパの匂いを感じさせられる。
 冬景色を彩る流麗なカメラワークとリリカルに流れる宮川泰の音楽が、まるでクロード・ルルーシュとフランシス・レイの趣なのだが、この作品が万人にフランス映画を連想させるのは、その映像と音楽以上に、日本人を感じさせない岸惠子の持つ雰囲気が大きな要因となっている。

 主演女優が決まるまでに、岩下志麻、岡田茉莉子、倍賞知恵子などの名前が浮かんでは消え、決定までに困難をきたしたのは有名な話だが、結果、岸惠子の出演で作品のトーンが決まったようなものだ。

 ミニスカートから伸びた美しい脚、コートの襟を立て靴音を硬く響かせ歩く姿勢。
 スレンダーな身体から女の哀愁を香りたたせる岸惠子は、煙草をくわえる仕草や佇む立ち姿からして、『第三の男』のアリダ・ヴァリや『男と女』のアヌーク・エーメの如く凛々しく美しい。

 岸惠子が映しだされるシーンの半分近くは、心を閉ざし表情をほとんど変えない女の顔のアップだ。35歳の松宮螢子を演じる岸惠子は当時40歳。決して若くない顔の小さな皺ひとつひとつに女の人生の末路を漂わせ、心に刻まれる想いで微妙に変化していく表情を、哀しく、空ろに表現していく。

 男の役は当初中山仁がキャスティングされていたが、これを当時21歳の若いショーケンが演じる。
 無邪気で、無教養で、屈託のない若いチンピラがこんなにも似合うのがショーケン。歳の差も考えず、若さに物言わせる強引さで迫られたら、どんな女のこころも動いてしまうのだろう。ショーケンには嵌り過ぎの役だ。

 こころを少し開いた螢子は、翌日、帰りの列車に乗る前に海岸べりの旅館で待ち合わせることを承諾する。
 ひなびた旅館の一室で、仮出所用に買い揃えられた安い化粧品をひろげ、ルージュをひき、髪を下ろす。
 若い男によって、何年も忘れていた“おんな”を取り戻すこのシーンは秀逸だ。寡黙で上品な女のなかに隠れていた“性”が表出するのだが、このあと、男の事情でスッポかされた螢子が、駅の鏡でルージュを拭う姿がやるせない。

 男は饒舌。そして女は寡黙。

 饒舌な男は、駅で螢子の真実を聞かされる。発車ベルがけたたましく鳴るなかの茫然自失の男を、映画俳優としては駆け出しのショーケンの群を抜く演技モードを見ることができる。順撮りで進行したのではないかと思うくらい、ショーケンの内面の変化の演技に驚かされる。

 いかにもありふれた痴情に溺れた行為から始まった女の犯罪は愛の欠乏からだが、男の饒舌が無軌道ぶりからくるのなら、女の寡黙は「私は死んでいる人間なの」というくらい自分自身を否定していた。
 そんな螢子に男は、いくつもいくつも言葉を投げかけていたのだが、終幕、どんな言葉も虚しいものになっていく。

 寡黙な男と、女。

 ただ一度のラヴシーン。螢子の情熱あふれるキスシーン。
 「逃げよう……。一生懸命に働くから………結婚なんてものでなく、弟としてでもいいから、一緒に暮らそう。」男の必死の願いに、「ありがとう」としか応えられない螢子。強い絆だけが残された場面だ。

 三重の刑務所に着いたあとのふたりは無言の行方。刑務所の鉄柵に隔られたのち「あなたの名前、聞いてなかった」と駆けてくる蛍子に胸が熱くなる。
 初めて名乗る男の名前は中原朗。朗らかって書くアキラ。「出所できる2年後の今日、あの場所で逢いましょう」と“約束”を交わす蛍子にとって、この男の名前が2年間の生き甲斐になったろう。

 そして、あのたった1日の日々が、これからの女の生きていく希望となるのだろうと、岸惠子の表情から伺えるラストシーンは、あまりに切ない。

 DVD化が熱望される、史上の名作である。

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Comment

showken-fun says... "こんにちは!"
ちょうど、『約束』のことをチラっと記事に書いていました。
詳しいことは書かなかったので、リンクさせてください。
2008.04.23 01:58 | URL | #Fyc9aO.k [edit]
mickmac says... ""
リンクは全然構いませんョ。

showken-funさんのレヴューも読んでみたいです。
今度、探させてください。
2008.04.23 13:24 | URL | #- [edit]
ゆりネコ says... "約束"
はじめまして。
明日シネマアートン下北沢の特集上映で「約束」を観ます。
ずっと観たかったので楽しみです。
先ほどTOKYO FM「松本人志」の放送室を聴いていて
ショーケンの話が出ました。松本さんは「ショーケン」を読んだ感想や
浜田さんのショーケン好きの話など。
映画のレビュー面白く読ませていただきました。またきます☆
2008.04.27 03:10 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
ゆりネコさん はじめまして。

やはり映画は映画館で観たいですね。
「ショーケン特集」はタイムリーな企画ですし、それを観ることが出来る方々が羨ましいです。
「雨のアムステルダム」はVTRを持っていないので、観たかったなぁ。

しかし、「約束」を楽しみにされていたのに、ここででネタバレを読んでしまわれたことが申し訳ないです。
でも、きっと何かこころを揺さぶられたと思います。
もしよければ、感想をお聞かせいただけると嬉しいです。
2008.04.27 19:02 | URL | #- [edit]

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