TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「フリーズ・ミー」*石井隆監督作品



freeze me
監督・脚本:石井隆
音楽:安川午朗
出演:井上晴美、竹中直人、鶴見辰吾、北村一輝、松岡俊介

☆☆☆★   2000年/日活/101分

    ◇

 石井隆の監督作品としては、初めてのサイコ・サスペンス。『GONIN』から4作続いたアクションの次は、虐め抜かれるヒロインが、訪れる男たちをひとりづつ殺し、冷凍庫の中にコレクションしていく話だ。名美も村木も登場しない、ブラック・ユ-モアを含んだスリラーになった。

 東北のある町で、幼馴染みを含む3人組に乱暴された薄幸の少女ちひろ(井上晴美)は、逃げるように町を離れ、東京で新たな人生をスタートさせた。
 5年後、恋人と結婚の約束をし、幸せが訪れようとした途端、目の前に忌わしい3人組がつぎつぎと現れる。
 追い詰められたちひろは、こころの奥で何かがハジけ、反撃に出る………。

    ◇

 雪が、降る………しんしんと、石井隆の世界に、雪が降る。

 石井隆と云えば“雨”。裏切られ、辱められたヒロインに、無情に降り注ぐのはいつも“雨”。
 その雨が、雪に変わった。

 石井隆が降らせる“雨”は、いつも傷ついたヒロインのこころを包み込む作用だった。今回は、冷酷に、過去を凍結させる“雪”となって降りつづく。真夏の夜、ヒロインには身も凍るような雪がしんしんと降りつづける。

 雪………
 石井隆の映画作品に、本格的に雪が降るのは初めてだろう。劇画作品では、身を投げ砕け散った名美の肉体に雪が舞う【雪が降る…】('86)や、映画『ラブホテル』のベースとなった【真夜中のナイフ】('77)に吹雪くオープニングと、【今宵あなたと】('83)のラストシーンに初雪が降る3作くらいなもの。
 そんな希有な情景となる雪は、美しく煌めく結晶となり、凍り付く静寂となり、ヒロインのこころを包み込んでいる。

 北村一輝の厭らしさは真骨頂。
 そして、その北村一輝相手の第一の殺人が、何といっても凄い。
 これまでに数々の映画にオマージュされてきたヒッチコックの『サイコ』のバスルームでの殺人は、石井作品でも『死んでもいい』『ヌードの夜』でお馴染みだが、この作品では、バスタブの中で肉体と肉体がぶつかり合う壮絶なものとして記憶に残るだろう。

 鶴見辰吾は、小心者だが酒で暴力的な男に変貌する様がなんとも哀れ。
 最後のひとり竹中直人のエキセントリックさは、マジで不愉快になる。やり過ぎの演技に、ニコニコしながらOKを出す石井監督はある意味マゾヒズムだ。
 
 3つの冷凍庫で、部屋のブレーカーが落ちるユーモア。
 スリリングさとともに、戻ってきた恋人(松岡俊介)をも手にかけなくてはいけなくなる状況には、ちひろの哀れさしかない。

 ベランダの外は、やっぱり“雨”が降る。闇に身をさらす裸身のちひろ。劇画【主婦の一日】('92)と同じように、凍てつくこころの哀しみは稲光りの閃光で消し去るしかないのだろう。
 石井作品のヒロインは、どうしようもなくこの世で幸せを成就することを許されない。


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Comment

キリヤン says... ""
石井さんから、試写会の案内状頂いたので、観に行きました・・・
色合いの違う作品ですね・・・
2008.02.12 09:59 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
>石井さんから、試写会の案内状頂いた………

監督は、キリヤンさんにラヴコールを送っていたのかもしれませんね。

石井氏は“監督と俳優との縁”を大事にされる、と云うか、気を使う方ですから……『人が人を愛することのどうしようもなさ』DVDコメンタリーの石井氏の発言を聞いていると、まさに監督の念願叶ったうれしさに溢れていたと思いますよ。
2008.02.12 12:39 | URL | #- [edit]

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