TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「八月の鯨」



The Whales of August
監督:リンゼイ・アンダーソン
脚本:デヴィッド・ベリー
主演:リリアン・ギッシュ、ベティ・デイヴィス、ヴィンセント・プライス、アン・サザーン、ハリー・ケリーjr

☆☆☆☆ 1987年/イギリス/91分

    ◇

 人生の最終章を迎えた姉妹。小さな島の丘に立つ別荘で過ごす夏の一日が、静かに淡々と描かれる。

 誰もが必ず経験する“老い”という未知の世界。老いてからの生き甲斐ってあるのだろうか。身体の衰えと気力が失われていくなかで、何を楽しみに生きていけるのだろうか。解答はない。ただ、人は年月を積み重ね“老人”となり、その人生の長さの中に多難な出来事が多くあれど、ひとつでも美しい想い出が残されていれば、その“老い”はとても幸せなものになるのかもしれない。
 
 遠い昔。きらきらと光があふれ、輝いていた遠い日々。誰にでもある若かった頃の美しき想い出や風景。心の中は何も変わらない。
 
 リビー(ベティ・デイヴィス)とセーラ(リリアン・ギッシュ)の姉妹にとって、人生の中でもっとも輝いた想い出は、若かりし頃、毎年夏になるとやってくる鯨の来訪を岬から見た光景。
 しかし、もう鯨はやって来ない。望みが叶えられないことがわかっていても、沖を望む日々はつづいていく………。

    ◇

 リリアン・ギッシュ90歳。ベティ・デイヴィス79歳。ヴィンセント・プライス76歳。アン・サザーン78歳。ハリー・ケリーjr66歳。ここに登場するのは、人生の年齢を重ねた名優ばかり。老練な演技は素晴らしく、姉のリビーを演じるベティ・デイヴィスと妹セ-ラを演じるリリアン・ギッシュの年齢の逆転が見事。

 若くして未亡人になったセーラは、いまも毎朝亡夫の写真に話しかける日課。生き生きと家事をこなし、庭で絵筆をとり、バザーのためにぬいぐるみを作る。
 一方、姉のリビーは恋愛時代も結婚も華やかに過ごしていたが、夫に先立たれ、白内障で目が見えなくなってからは、人の世話になることに苛立ち、わがままで、気難しい皮肉屋。
 優しく姉に仕えるリリアン・ギッシュの可愛らしいおばあちゃんと、ベティ・デイヴィスの凛とした佇まい。人生の違い、性格の違いがしっかり表現される。
 ふたりの品格ある生き方と美しさが、人生を語っているのだ。

 鳥のさえずり、海のさざ波、満月に照らされキラキラと輝く海面、赤と白の野バラの香り、風のささやき……自然への回帰。のどかな風景のなかで、些細なことで喧嘩をしながら暮らすふたりの、こころの揺れが振動する。
 言い争ったあと、ふたりはお互いの部屋で亡くなった男を思いだす。亡き夫の遺髪で頬や口元を撫でるベティ・デイヴィスの、動作ひとつひとつに女性の情熱が込められる。

 ふたりが仲直りする翌朝、リビーが差し出す手をセーラが強く握り、岬に向かって歩いて行く。
 「鯨は行ってしまったわ」「分かるものですか」肩を抱き合うふたり。
 想い出に生きているって、決して悪いことではない。

 「人生の半分は面倒で、あとの半分はそれを乗り切ることよ」

それでも、 人生は美しい。そして、素敵なものだと、この映画は語っているようだ。

    ◇

 10代や20代にはまだ“八月の鯨”が何なのか分からないだろうが、30~40代で探し求めることだろう。そして、分かる時が来る。
 一度はこういう作品もわるくないだろう。年代に関係なく、すべての人に観て欲しい………。

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Comment

キリヤン says... ""
i-176かなり前に、映画館で観ました…
流血の映画にお金かけないで、人生の美しさを語る、このような映画を撮ってもらいたいものです・・・
90歳現役女優にも、力づけられる作品。
リリアン・ギッシュは本当に可愛いおばあちゃん演じてました。
何歳になっても、可愛い女でありたいものです・・・e-273

2008.02.07 07:44 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
90歳で、実年齢で11歳も違うベティ・デイヴィスの“妹を演じる”リリアン・ギッシュって、本当に素晴らしい女優ですね。

「母べぇ」の倍賞千恵子さんと戸田恵子さんの三つ違いの姉妹も、なんてことないですよ(笑)。

日本では、熟年女優さんが主役になる作品って少ないですよね。
吉永小百合さんの「母べぇ」や、風吹ジュンさんの「魂萌!」、新藤兼人監督の「午後の遺言状」や、原田美枝子さん、浅丘ルリ子さんの「木曜組曲」…………
梶芽衣子さんは、今の年齢でアクションを演りたいと切望されていました。
伊丹十三監督がご存命だったら、もっと女優映画を観ることができたでしょうね。

キリヤンさん、腰の加減が芳しくないようですが、どうぞお大事にしてください。

2008.02.07 20:22 | URL | #- [edit]
シリウス says... "懐かしき名前の女優"
久しぶりです。
今回と前回の2回続けて、3人の懐かしき女優の名前が出ました。
ベティ・デイヴィスとジョーン・クロフォードの「何がジェーンに起こったか?」は、この映画を観たような記憶はあるようですが、遠い昔の映画なので確かな覚えはありません。

リリアン・ギッシュの映画は1本も観ていないが、名前はよく知っています。
昔、映画好きであった叔父は彼女のファンで「容貌・容姿に可憐な美しさがある女優であった」と聴かされたことがあります。
若かりし頃に一時代を風靡した銀幕の恋人が、90歳を超えた高齢で再び映画に出演したことは、生涯女優としての充実した人生であったのだと思います。
彼女は75年におよぶ女優人生で、生涯独身で1893~1993年の一生でした。

当時、リリアン・ギッシュと人気を二分したスクリーンの華のもう1人にメリー・ピックフォードという女優がいました。
亡き淀川長治氏は。メリー・ピックフォードとリリアン・ギッシュがお気に入りの女優だと聞いていますが。
2008.02.08 11:39 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
シリウスさん  本当にお久しぶりです。

たしかに、シリウスさんにはとても懐かしい時代の名前が続きました。
たまには往年の大女優を観るのもいいです。

この『八月の鯨』は、故・淀川長治氏が大絶賛していました。

>容貌・容姿に可憐な美しさがある女優であった

リリアン・ギッシュの可憐さが、90歳にしても見受けられると云うのは、やはり持って生まれた品格なのでしょうね。
何度も書きますが、本当に可愛らしいおばあちゃんでした。

ベティ・デイヴィスは、1978年のオールスター映画『ナイル殺人事件』でも一筋縄ではいかない存在でした。
2008.02.08 13:21 | URL | #- [edit]
Iris says... ""
>日本では、熟年女優さんが主役になる作品って少ないですよね。

本当ですね、残念な事です。
私はファニー・アルダンやイザベル・ユペールなどフランスの女優さんも好き
なのですが、彼女達はその年齢でなければ出来ない演技、出せない味で主役を
張っているんですけどね。
「デュラス 愛の最終章」でマルグリット・デュラスを演じたジャンヌ・モローは
本当に魅力的でしたし・・・

日本にも素敵な女優さんが沢山いるのですから、もっと女優映画を観る事ができれば
いいですね。
2008.02.08 18:31 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
ジャンヌ・モローは『死刑台のエレベーター』が何と云っても大好きだなぁ。

そう云えば、ジャンヌ・モローは『リリアン・ギッシュの肖像』というドキュメンタリーを監督していますね。未見です………。

イザベル・ユペールの映画は『バルスーズ』が最初かな。
ジャンヌ・モローも出ていました。
『8人の女たち』ではカトリーヌ・ドヌーヴの妹役でしたっけ。
ロミー・シュナイダーの『夕なぎ』にもちょこっと出ていたらしい……
2008.02.09 13:24 | URL | #- [edit]

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