TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ラブホテル」*相米慎二監督作品



監督:相米慎二
脚本:石井隆
挿入歌:「夜へ…」山口百恵、「赤いアンブレラ」もんた&ブラザーズ
出演:速水典子、 寺田農 、志水季里子 、中川梨絵 、益富信孝 、尾美としのり、 佐藤浩市 、伊武雅刀、木之元亮、萬田久子 (ノンクレジット)

☆☆☆☆★ 1985年/にっかつ:ディレクターズ・カンパニー/88分

    ◇

 流麗なカメラワークを得意とした相米慎二監督の唯一のロマンポルノであり、石井隆がこれまでに描いてきた20本近くの“名美の物語”の映画群のなかで、ベストワンに挙げられる映画だ。

 2週間足らずで撮り上げた本作は、そのほとんどがワンシーン・ワンカットで撮影されている。俳優のモチベーションを持続させ、登場人物のデリケートな心の動きをエモーショナルに伝える長廻しは、女と男の情愛の深さをえぐり、観る者の心の奥底を震わせ、心の襞に響いてくる。

    ◇

 経営していた小さな出版社が倒産し、愛妻を取り立てのヤクザに陵辱された村木(寺田農)は人生に絶望。ゆみと名乗るホテトル嬢(速水典子)を道連れに自殺を決意するが、女の生きていることの芳醇なエロティックさに魅入られ、思いとどまる。

 そして2年後、タクシー運転手になった村木は、借金の取り立てが及ばないように妻の良子(志水季里子)とは離婚をし、一人でひっそりと暮らしていた。
 ある日、村木は街で偶然にも2年前の彼女を見かけ、客として乗せる。現在、OLとしてアパレル会社に勤める彼女の名前は土屋名美。上司との危うい不倫関係を続けているが、2年前の一度きりのアルバイトが忌まわしい過去の傷として残っており、「きみは天使だ」と口にする村木に戸惑うのだった。
 しかし、次第に名美の心のなかには、村木を支えにする思いが芽生えてくる。
 
    ◇

 石井隆作品といえば、雨と暗闇とネオンが象徴だが、この相米作品においても“雨”がよく降る。
 冒頭、空っぽになったビルの事務所跡で、一匹のハエに自殺の邪魔をされる夜の雨。名美が上司との別れ話の後、村木の部屋の前で彼を待つ夜の土砂降りの雨。生きていることがぎりぎりの、こころの喪失感に叩き付けられる。

 映画は“名美と村木の物語”に終始するのだが、もうひとり、村木の別れた妻の良子にも注目したい。
 夜勤明けの村木を公園のブランコに座って待つ良子。村木の部屋の煎餅布団でしっとりと彼を待つ良子。健気に待つ女を演じる志水季里子の存在感。
 ここに“ふたりの名美”が居て、それでこそ、村木の愛の物語は成立する。

 不倫相手の上司の妻正代(中川梨絵)に無言電話をかけられたり、相手の上司の思いやりのない別れ話などに、もはや心がボロボロになった名美。彼女には、2年前のたった一度の経験で躰が覚えた行為が蘇る。
 あの日に着ていた黄色いカーディガンを羽織り、村木の部屋を訪ね「あの夜の続きをして欲しい」とせがむ名美。戸惑う村木。
 相容れない名美の“不純な愛”と村木の“無垢な愛”は、ふたりの間に時の流れとして存在する。「出逢いからやり直したい」と呟く名美に、村木は何も言うことができない。
 名美の嘘を知りつつ激しく躰を重ねる村木のこころは離れていってしまう。名美と村木、そして村木と良子の心のすれ違いは、結局、村木が純粋すぎるゆえなのか………。

    ◇

 村木と名美が思いがけずに再会した夜の、タクシーのラジオから流れる山口百恵の「夜へ…」。

 “修羅 修羅 阿修羅 修羅”
 “あやしく、あまやかな 夜へ……”
 “ひそやかに ひめやかな 夜へ……”

 この阿木燿子の詞の甘美さが一段と高まるのが、別れ話の電話で通話を途中で切られ、その後も延々と喋り続ける名美を、4分16秒間優しく包み込む山口百恵の情感豊かなヴォーカルだ。

 もともと、この映画はシナリオ段階でのタイトルが「夜へ…」と名付けられていたというし、通俗的な歌謡曲を名美の男に対しての恨みや諦め、意地と再生に浄化させる手だてに使用するのは、劇画時代の昔から石井隆の本領でもある。

 挿入歌ではもう1曲、もんた&ブラザーズの「赤いアンブレラ」が、名美と村木のこころが通じ合う埠頭のシーンで魂を揺さぶる。もんたよしのりの狂おしいハスキーヴォイスは、ラストシーンでも活かされる。

1985_LoveHotel.jpg

 雨の上がった日の朝。
 無人となった村木の部屋。
 アパートの前の石段ですれ違う名美と良子。
 「赤いアンブレラ」に被せるように、志水季里子が口ずさむ「赤い靴」。
 “ふたりの名美”に降る情念の桜吹雪。
 果てない哀切が滲む…………

 このラストシーンを音声を消して眺めてみると、そこには、阿木燿子の世界を透かして見ることが出来る。
 1979年に発表された山口百恵の『A Face in a Vision』には、甘美なクロージング曲「夜へ…」とともに、オープニングに「マホガニー・モーニング」という歌が収録されている。

 “はらはらと散っていく 花びらの下で”
 “起きたまま見る夢を 当ててみましょうか”
 “階段の踊り場では 子供が遊んでいる”
 “そっと そっとしてあげて マホガニー・モーニング”

 ここに、山口百恵&阿木燿子と石井隆の世界がリンクした………

    

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Comment

キリヤン says... ""
ありがとうございます
低予算のお陰で、私に配役がまわってきましたv-238
この作品に出逢えたことに感謝ですv-237
2008.01.15 08:55 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
あのラストシーンの切なさは、キリヤンさんだからこそ……堂々のご出演でした。
キリヤンさんの撮影現場でのエピソードを読んだ後だと、余計に良子が気にかかる存在になりました(笑)。

tohjiroさんも同じようなことを書いていますが、良子には当時鑑賞したときには感じられなかったものを、いま、感じています。

いつか石井作品のなかで、もう一度、速水典子さんとすれ違って欲しいなぁ。
2008.01.15 13:53 | URL | #kuX..F9k [edit]
キリヤン says... ""
速水さんとすれ違う・・・
それは面白い・・・(内輪受け?!)
ついでに寺田さんにも登場してもらいましょうか(笑)
2008.01.22 07:43 | URL | #- [edit]
慎三 says... ""
はじめまして。
ちょうちょい読ませていただいてます。
相米の飲み友達でした。
亡くなって後、忘れ去られる相米を寂しく思っていた折、かような話題を提供していただき有り難く書き込みさせてもらいました。

こちらを知ったのは森崎東「ニワトリははだしだ」のDVDを見た後、中川梨絵を検索してたどり着きました。

今後も楽しみにしております。

相米の育った札幌より
2008.01.23 21:10 | URL | #SFo5/nok [edit]
mickmac says... ""
慎三さん はじめまして

相米監督のご友人ですか……
うれしいコメント、ありがとうございます。

この『ラブホテル』は、ロマンポルノとして製作されたとはいえ、ぼくら石井隆ファンばかりではなく、十分に一般映画として見てもらいたい作品です。

遺作の『風花』では、独特の長廻しにも新境地を開いた感があり、もっともっと作品を見たかったです。
2008.01.24 00:29 | URL | #- [edit]
慎三 says... ""
レスありがとうございます。

「日活で育てられたお返しをしたい、日活でロマンポルノを撮る」と言っていたんだったか、何かで読んだのか、忘却の彼方ですが、「ラブホテル」の後、「光る女」のロケハンを頼まれた頃は、武田泰淳の「富士」を撮ると珍しく意気込んでいたことがこの頃の記憶としてあります。

私は今年50になりますが、映画と云い、志水辰夫といい、歌謡曲と云い、ツェッペリンと云い、似た符丁が多く不思議な縁を感じております。
2008.01.25 00:03 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
ツェッペリンを聴きながら、歌謡曲を口ずさみ、志水辰夫を独り読み、昭和の映画に想いを馳せる……

いつまでも、こんな生活をしています(笑)。

ゲバ棒の残骸を尻目に、モーレルからビューティフルへとシラけた青春を過ごした世代として、これからもよろしくです。
2008.01.27 15:28 | URL | #- [edit]
VVV says... "なつかしい・・・"
今、ケーブルで「光る女」やってて観てしまいました。
で、監督が相米慎二さんということで
「これは『ラブホテル』の監督さんじゃん!」
「そういえば、あの挿入曲なんだっけ!」
と気になり、ここに辿り着きました。
「ラブホテル」初めて見たのが大晦日から元旦の朝まで
の間の、深夜枠の映画。
確か中学生の時で、親が寝静まったあと、タイトルが
エロかったので、そういう映画かと思いきや、
めちゃめちゃ切なくて。
ハエのシーンとか、妙に頭に残ってましたが、周りに
観た人がいなくて、この映画の話題を振れぬまま十数年
経過してしまいました。
というか、この映画のおかげ?なのか、それ以降、
日本映画が好きになりました。

そんなわけで、ここで再度ストーリーを追えてよかった
です。超感動です!

2008.12.09 04:30 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
VVVさん はじめまして

喜んで頂けて光栄です。

テレビ放送となると危なっかしいシーンはカットされていたのでしょうが、ロマンポルノとしてのからみがなくても、この作品のテーマは充分に伝わったことでしょう。
素晴らしい作品と、素晴らしい監督との出会いでしたね。

2008.12.10 16:44 | URL | #- [edit]
台湾人 says... "初めまして"
日本のベテラン男優の寺田農と日活ロマンポルノですか。

寺田農はとても素敵な男優だと思います。

2010.09.19 17:43 | URL | #D9.4zkVk [edit]
mickmac says... "Re: 初めまして"
台湾人さん はじめまして

寺田さんの長い俳優歴の中で、日活ロマンポルノに出演したのはこの一本だけじゃないのでしょうか。
これは相米監督の作品だからこそです。

日活ロマンポルノは、女優をはじめ若いライターや監督を輩出しています。あまり語られないのが男優ですが、風間杜夫氏や内藤剛志氏も若い頃の糧でした……。
2010.09.20 23:54 | URL | #- [edit]
台湾人 says... ""
浦山桐郎監督の「暗室」(1983年)、東陽一監督の「うれしはずかし物語」(1988年)にも出演しているのは知っていますが、いずれどの作品も台湾では見られないので、すごく悔しいです。

最近寺田農は私の好きな多くの有名人と同じ1940年生まれだということを知りました。寺田農は1942年生まれ、ジャクリーン・ビセットとジャン=ピエール・レオは1944年、シャーロット・ランプリングは1946年、ファニー・アルダンは1949年生まれなので、寺田農がジャクリーン・ビセットより年上だと知った時は大変驚きました。

これらの俳優の中で寺田農は最年長で何だか長男のお兄さんのような感じがします。私は1983年生まれなので、1940年代、1950年代、1960年代、1970年代など彼らが歩んできた時代の歴史や文化は想像しがたいです。
2010.09.21 00:55 | URL | #D9.4zkVk [edit]
mickmac says... "Re: タイトルなし"
台湾人さん ドーモです。

>浦山桐郎監督の「暗室」(1983年)、東陽一監督の「うれしはずかし物語」(1988年)にも出演しているのは知っていますが、いずれどの作品も台湾では見られないので、すごく悔しいです。

「暗室は」にっかつ文芸路線のひとつで、東陽一監督作品はロマンポルノ終焉期の作品。川上麻衣子さんが主演でした。

J.ビセットは好きな女優でしたよ。「ブリッド」も「ロイ・ビーン」も印象深いし、もちろん「アメリカの夜」の彼女は綺麗でした。

寺田さんをはじめ。ジャン=ピエール・レオとかシャーロット・ランプリングとは、お若いのに渋いですね(笑)。
2010.09.21 23:38 | URL | #- [edit]
台湾人 says... "私は洋画マニアなので"
サンドリーヌ・ボネール、イザベル・ユペール、マリー・ジランやモニカ・ベルッチなどの女優も大好きです。

アニエス・ヴァルダの「冬の旅」、モーリス・ピアラの「愛の記念に」などのフランス映画や日本の昔の映画も見たくて仕方ないのですが、台湾ではDVDやビデオなどが発売されていないので、すごく腹が立ちます。

日本の映画の濡れ場はフランスよりすごいと思います。この前動画共有サイトのDailymotionで寺田農の「うれしはずかし物語」の濡れ場を拝見しましたが、「王妃マルゴ」のイザベル・アジャーニとヴァンサン・ペレーズの濡れ場より過激で大胆だと思います。
2010.10.16 02:13 | URL | #D9.4zkVk [edit]
mickmac says... "Re: 私は洋画マニアなので"
台湾人さん こんばんは

>サンドリーヌ・ボネール、イザベル・ユペール、マリー・ジランやモニカ・ベルッチなどの女優も大好きです。

お好みが年代的に幅広いですが、モニカ・ベルッチだけは少しタイプが違いますね(笑)。まぁ、あの色っぽさにはどの殿方も魅了させるのは当然ですが………。

>日本の映画の濡れ場はフランスよりすごいと思います。

そうですか………。結構フランス映画の方が大胆ではありますが、“濡れ”具合はたしかに日本映画の方が機微があるかな………。
しかし最近の日本映画主演女優は肌を出さなくなりましたからね。『身も心も』の永島瑛子さんとかたせ梨乃さん、『透光の樹』の秋吉久美子さんを見倣って欲しいです。
2010.10.17 00:15 | URL | #- [edit]
台湾人 says... "私は結構リベラルなタイプです"
私自身アーシア・アルジェント、モニカ・ベルッチ、クリスティン・スコット・トーマスなどフランス語が堪能な俳優にすごく憧れなんです。

私はフランス語のフもイタリア語のイも知らないので、全くの門外漢なんです。

私自身は結構リベラルで、専門学校時代に佐藤浩市と高岡早紀の四谷怪談が学校の夜の授業で放映された時、浴場の濡れ場と露出に何名かのクラスメートたちがきゃあきゃあ騒いでいましたが、私は何とも思いませんでした。

2010.10.18 00:16 | URL | #D9.4zkVk [edit]
蟷螂の斧 says... "もう随分前の事です。"
年末に帰省しました。
地方テレビの深夜番組によくあるパターンで「台風クラブ」と「ラブホテル」が放映されました。続けて見ました。
寺田農が大好演です。大胆な事を、悪い事をしようとしても出来ない中年男。こう言う男って結構多いかも知れません。相米慎二監督にもそう言う部分はあるのでしょうか?
2014.07.10 18:39 | URL | #wHTgGx4k [edit]
mickmac says... "Re: もう随分前の事です。"
>蟷螂の斧さん

寺田農は相米慎二作品の常連ですから、どんな些細な役でも印象に残ります。
「ラブホテル」は村木哲郎を好演していますね。
これは、蟹江敬三とともに石井隆の世界を見事に体現しています。
「台風クラブ」においての三浦友和のダメな大人ぶりも良かったでしょ。
2014.07.12 12:45 | URL | #- [edit]
蟷螂の斧 says... "台風クラブ"
>三浦友和のダメな大人ぶりも良かったでしょ。

仰る通りです!
映画公開前に某映画評論家が雑誌に「台風クラブ」の事を絶賛した文章を書いていました。彼独自の青春論と共に。そして「これも書いておかなければならない。三浦友和がいい!彼も青春の最後を懸命に生きている。」と書いていました。「本当かな?」と思いましたが、映画を見て納得しました。
相米慎二監督。さすがです!用務員さん役で伊達三郎(眠狂四郎シリーズの悪役常連)を使っている事を最近知って再び驚いて感心しました!
2014.07.13 21:12 | URL | #wHTgGx4k [edit]

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