TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「OL日記 濡れた札束」*加藤彰監督作品



監督:加藤彰
脚本:宮下教雄
音楽:樋口康雄
出演:中島葵、絵沢萠子、堂下かずき、叶今日子、浜口竜哉、賀川修嗣

☆☆☆☆ 1974年/日活/76分

    ◇

 大阪のある街の古びた安アパートに、「恵子」と名乗る女が住み着いた。四畳半の小さな部屋で、中年男とひっそりと暮らしている。
 彼女の本名は「北村潤子」。逃亡中の公金横領の元銀行員だ。
 
 潤子は高校を卒業してすぐに京都の銀行に勤めていた。離婚した厳格な母親と、婚約者を戦争で亡くした姉との三人暮らしの中、姉妹は性を封印していた。そして家庭環境のせいか、奥手で男を寄せ付けない潤子は、いつの間にか適齢期を過ぎてしまう。
 30半ばを過ぎたある日、同窓会の帰りに以前酔った時に介抱してくれたタクシー運転手の慎二に出会い、食事に誘われ、自然とホテルへ行き結ばれる。男に対して免疫のない潤子は慎二のテクニックに酔いしれ、虜になってしまう。
 そんな潤子に、慎二は何かと金をせびるようになり、いつしか潤子は銀行の金を横領するようになる。
 やがて事件が発覚。潤子が慎二に心中を迫るも、彼は有り金を奪いひとりで逃げていく。

 数ヶ月後、大阪のアパートで慎ましく暮らす生活に終止符が打たれる。
 何も知らず一緒に暮らしていた男宛に「お世話になりました。ごめんなさい。」と手紙を残し、訪れた捜査員に連行される潤子だった………。

    ◇

 これは1973年に現実に起こった、滋賀銀行公金横領事件をモデルにした実録ドラマだ。
 戦後史に残るこの事件の主役は42歳のベテラン行員奥村彰子で、5年間に横領した額は全部で約9億円にのぼり、現在でも史上最高額だそうだ。その総ての金を情夫はギャンブルに使ったというから、現実の話は凄い。

 逃亡先のアパートから始まり過去の半生をインサートしながら、男に喰いものにされ堕ちていく女の典型的なストーリーは、ロマンポルノということでスキャンダル性に満ちた煽情的なセックスシーンで埋め尽くされそうなところだが、ベテラン加藤彰監督はしっとりと落ち着いた演出で、亡くなった婚約者に操を捧げつづける姉を対比にして、性に溺れる一途な女の哀しみを丁寧に追っていく。
 終盤、情夫が逮捕されたことを知った潤子が、その夜同棲相手の男を駅に迎えに行き、彼が持つ弁当箱の中の箸をカランコロンと聞く場面は秀逸である。

 そして、何と云っても中島葵が素晴らしい。

 数々の一般映画やTVドラマのバイプレイヤーとして活躍した中島葵は、28歳で日活ロマンポルノ・デビューをし、この作品が5作目にして初めての主演作であり代表作になっている。名優森雅之と宝塚スターとの私生児として産まれた血筋以上に、文学座をはじめ小劇団で鍛えてきた演技には風格さえ漂っている。

 孤独な女性が性に溺れる狂おしい姿と、男に貢ぎ男に想いを寄せる感情の揺れをリアルに演じ、何度も繰り返される情夫との逢瀬では徐々に変化していく彼女の表情の美しさと、情夫に心中を持ちかけるシーンでの痛ましさが何とも愛おしい姿だ。
 中島葵……1991年享年45の若さで逝ってしまったのが惜しい。

 ところで、ここで使用されている樋口康雄の楽曲全てが、前年に製作された藤田敏八監督の「エロスは甘き香り」の流用であり、低予算のロマンポルノの実情を垣間みた思いだ。

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