TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

名美のいる景色★「人が人を愛することのどうしようもなさ」



 映画「人が人を愛することのどうしようもなさ」は“名美再生”にふさわしい場所であるように、過去の石井劇画がいくつものモチーフとして使われていた。
 古くからのファンには、カット割りひとつからそれがどの劇画なのかが連想でき、故に、名美とともに迷宮を彷徨う快感を感じていた。

 今回のDVD化には、本編でカットされたシーンや石井監督のコメンタリーが特典として付いており、それにより、一層顕著に劇画と映画の二重写し的作法を見ることができる。
 覚え書きのつもりで類似点などを記しておく。

    ◇    ◇ 
 
 まず映画は、クライマックスとして劇画【愛の行方】('80)と【主婦の一日】('92「カンタレッラの匣」所載)がある。

 冒頭に出てくる劇中劇『ブラックバード』は、映画ファンにもお馴染みの「夜がまた来る」を下敷きに“黒の天使”を登場させているのだが、興味深いのは特典映像の『“ブラックバード”の真相』の中に収録された多くのカットされたシーンだ。
 名美(『ブラックバード』内では名もなき女殺し屋)が階段上から追っ手を蹴り落とす様には、劇画“黒の天使シリーズ”の基になった“パイソン357シリーズ”のあるひとコマが頭に蘇る。
 銃を構える恰好が決まるカットはよく見かけるのだが、大きく脚を蹴り上げるシーンは“パイソン357シリーズ”の【ヒットガール】('80「少女名美」所載)と【横須賀ロック】('76)だろうか。映画の方はまるで劇画のようにストップモーション気味に決まるカットになっており、マネージャー岡野役の津田寛治が、カメラの横で素で微笑んでいるのが印象的。
 その岡野に関しては、『ブラックバード』のフルヴァージョンとして岡野の登場シーンが追加されたことで、名美に対する岡野の純粋さがより際立っている。
 惜しいカットだったと思う。
 岡野という存在は、レヴューでも書いたが【象牙色のアイツ】('83「象牙の悪魔」所載)に登場する丈太郎だ。
 ひとを愛することが叶わない儚い存在として、岡野がいた。
 岡野の妻から発せられた「人が人を愛することのどうしようもなさ」は、ここに登場するすべての男女が一方通行の愛に翻弄されていたことを示す。

 劇中劇『ブラックバード』内で喜多嶋舞が電気ショックの拷問をされるシーンが映画の予告編など宣伝媒体に利用されているが、この電気ショックシーンが映画で使用されるのは初めて。『花と蛇』の2作でSM緊縛の称号が刻印されていても、劇画でもあまり印象にない。この『ブラックバード』の設定と同じものは【赤い弾痕】('86「夜よふるえて」所載)だろうか。

 倒れる名美に人影が近づき名美が「だれ?」と問いかけるタイトルバックは、石井監督の意向では“もうひとりの名美”ということになる。これは【聖夜の漂流】('76「イルミネーション」所載)のラストカットに似ている。

 名美が娼婦となり行きずりの男を誘う場所が廃病院。台本上のラブホテルから変更されたのだが、これこそ石井隆らしい設定だ。石井隆ファンの友人とのメールで交わした事柄なのだが、この廃病院の屋上に洗濯物が翻っていることの“不自然さ”も、石井作品のキーポイント。友人が指摘した言葉どおりに、ポーランド映画「灰とダイヤモンド」('57 アンジェ・ワイダ)が石井監督の記憶の隅にあった事がコメンタリーで明かされていた。
 劇画では、名作【雨のエトランゼ】('79)の“反故原稿”の中に大きく描かれている。

 今回久々の名美のいる風景で、注目だったのが名美の眼鏡をかけた姿であった。
 劇画内で土屋名美が眼鏡をかけた姿(サングラスは除く)は、【夜をください】('80「月物語」所載)と【悪戯の小窓】('85「甘い夜」)に見られる。(【夜にアイ・ラブ・ユー】('79)のワンカットはその範疇に入らない。)
 【悪戯の小窓】は自称探偵に扮した19歳の土屋名美が、大人の女の虚実に巻き込まれる話。
 【夜をください】はひとりぼっちの名美が“エロイムエッサイム”の呪文を唱えることで写真本の中に入り込み、主役として見られる快感を得ながら本当の自分ともうひとりの自分を行き来する話だった。妄想の中を彷徨う名美ということでは同じで、最後には向こう側(写真の中)に行ったきりになる顛末からは、「人が人を愛することのどうしようもなさ」での結末を夢想の中に放り投げたと想像するファンがいても不思議ではないだろう。(そんな読者・観客は希有な存在なのは承知………笑)

 眼鏡をかけた名美が最初に登場するシーンは、深夜のベッドの上で一時の安らぎを求める名美に対し、冷たい態度を示す夫を誘うシーンだった。女優の私生活が眼鏡をかけることでリアルに表現されていた。劇画では【裸景の漂流】('84「ラストワルツ」所載)に同じものがあった。
 この眼鏡のアイデアが、現場の喜多嶋舞の楽屋で思いついたとコメンタリーで石井監督が口にするのだが、腑に落ちないのは、クライマックスに近づくにしたがっての妄想と現実の名美を観客に判り易くするための眼鏡着用だと云うわりには、もし楽屋でそのアイデアが出なかったら、後半の名美と鏡子の入れ替わりをどのような形にしたのか興味が湧く。

 そしてラストシーンは【ジオラマ】('92「カンタレッラの匣」所載)だ。
 彷徨った末の名美が辿り着いた先………そこに、狂気の名美が存在する趣向だ。

 今回、コメンタリーで石井監督は観客への判り易さを強調している。
 確かにオープニングの電気ショックシーンからしてネタばらしが隠されてはいるのだが、通り一遍の妄想劇だけでは、やはり石井隆の本質ではないような気がする。
 それは、村木を登場させないこととも共通しているのかもしれないが、何か、石井監督の中では二重の構造を持つ作品として「人が人を愛することのどうしようもなさ」は成り立っているのではないだろうか。
 石井隆のなかでは、“名美”そのものの亡き妻への想いが試練としてのしかかっていた時期があり、その想いが、何かのかたちで残されていこうとしているのではないか。

 
☆reviewはこちら☆
「人が人を愛することのどうしようもなさ」

★彷徨う名美ふたたび★



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Comment

tohjiro says... "おお!"
わお!【ヒットガール】、【横須賀ロック】! こんな会話が成り立つのはmick
macさんとだけですよ!嬉しいなあww それにしても『ブラックバード』の階段での180度開脚キックは素敵過ぎますよねw 白いレースの下着越しに淡い草むらが顔を覗かせ、真一文字に蹴り上げた綺麗な右足が天を突いて静止する。ビールマンスピンを初めて観たときの感動が蘇えりました。(なんだそりゃw) あれが観れただけでも買った甲斐があったと中年オヤジは頷くのでしたw 

結局あの楽しそうなアクションシークエンスを切除することで名美の“地獄”を徹底したのでしょうね。映画の為の涙のカットだったのでしょう。映画作りって過酷ですねw こうしてつぶさに検証していくと、石井監督のほんとに集大成といった趣きですねw でも、もっと名美の本音に重なる劇画からの透視図がワンカットありましたよ、うふふ…。
2007.12.03 00:15 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
はははっ。
美脚180度開脚に、劇中監督が「エキサイト!」と呟く通り、中年男の性でしょうか。どこのヘアーシーンよりも、目に焼き付きますね。

>でも、もっと名美の本音に重なる劇画からの透視図がワンカットありましたよ、うふふ…。

あ、何か気になる言葉だなぁ。
どこかで教えてくださいな。
2007.12.03 00:37 | URL | #- [edit]
ワトソン says... "奥が深いですね"
こんにちは~
石井監督作品初心者です、レビューを拝見してレンタルで探しましたが、いつも空箱でした。もうこれは特典がある内に購入するしかないと思ってます(^^;
前に観た「ヌードの夜」はインパクトが有りました。只気になったのは何故か映画とDVD版では少し違ってたように感じました。
2007.12.03 15:38 | URL | #- [edit]
キリヤン says... ""
HPのコメント、今朝見つけました!気づかなくてすみませんでした。
ありがとうv-218
2007.12.04 09:05 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
ワトソンさん

ただただ狂気なファンの戯れ言におつき合い頂き恐縮です。
「ヌードの夜」にインパクトを感じていらっしゃれば、これはリッパな石井ファンの資格がございます。
これから「人が人を~」をご覧になるのでしたら、これらの記事がネタバレになっていることに反省しますが、逆に、これら(レヴューをふくめ)記事がどれだけの妄想に翔んでいるのかをご指摘ください。
普通に鑑賞できないファンに一撃を(笑)。

後半の、津田寛治くんと志水季里子さんのやり取りもお楽しみください(笑)。
志水季里子さんは、相米監督の「ラブホテル」で村木の妻を演じ、ラストシーンでは名美とのすれ違いを永遠の名場面にしています。「ブルーレイン大阪」の女優さんです。
2007.12.04 13:54 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
キリヤンさん どういたしまして。

こちらこそ訪問してくださり歓喜の思いです。
ついでに「ブルーレイン大阪」のレヴューも読んでいってください(笑)。
今度またキリヤンさんのブログにもお尋ねいたします。
tohjiroさんンちでもよろしくです~。
2007.12.04 13:57 | URL | #- [edit]
ミルフィーユ says... "通りすがりです"
いつも拝見させていただいてます。
石井ファンと名乗るほどでもないですが、GONINが好きです。ヌードの夜
のトカレフを構える竹中直人に見入ってから、人人、ヌードの夜2
GONIN2,黒い天使2作、夜がまた来る
も好きです。アクション主体から石井作品に興味を持ちました。ブラックバードの劇中劇もいいですね。
2015.10.02 17:35 | URL | #cBjBseNM [edit]
mickmac says... "Re: 通りすがりです"
>ミルフィーユさん
ありがとうございます。

>GONINが好きです。ヌードの夜 のトカレフを構える竹中直人に見入ってから、人人、ヌードの夜2 、GONIN2,黒い天使2作、夜がまた来る も好きです。

それだけご覧になっていれば十分に石井隆ファンです。
劇画時代ファンのぼくらと足並みを揃えることなんかないので、堂々と石井映画のファンを名乗って下さい(笑)
最新作『GONINサーガ』はご覧になりましたか?
久々のバイオレンス作品で、絶対のおススメ作品ですよ〜
レヴューは後日アップしようと思っていますが、ネタバレ近辺まで踏み込むかもしれませんので、お早めにご覧になっておいてください……(笑)

2015.10.02 17:56 | URL | #- [edit]
ミルフィーユ says... "通りすがりです"
HPのコメントありがとうございます。
GONINサーガ 楽しみですね。
小説も購入して途中まで読みました。
1作目の新たな解釈ができますね。
稚拙な文章にて失礼しました。
2015.10.03 17:11 | URL | #cBjBseNM [edit]

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