TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「夜の分水嶺」志水辰夫

【徳間書店】定価1400円 1991年8月初版

【徳間文庫】定価 620円 新装版2007年9月

    ◇

 極上の冒険小説が、究極の恋愛小説になった!

 刻々と追いつめられてゆく男と女。夜が動く。山が退き、谷が消え、天地がひとつになった……。ふたりは旅立つ。地の果てまで。官能に抱かれて。

元警部補の青野淳一郎は仕事先でトラブルに巻き込まれ、殺人容疑者として追われる羽目に。逃げ込んだ軽井沢の山荘で、秘密機関と闘争中の男から、彼の妹を脱出させるよう頼まれた。
 ふたりの未来は……世界は恋人たちのためにある。 (惹句より)

    ◇

 この『夜の分水嶺』は、圧倒的な権力から男と女が逃避行するだけの話。
 大事なひとを守るために、ただ、逃げるのみ。誠実に生きるために、誇りを失わないために、逃げて、逃げて、逃げきってみせる、そのための気概と反撃。逃亡劇だからこそ、全編にいきわたる緊張感は凄いものがあり、作者の文章力にまたまた参ってしまうのだ。
 
 執拗に追っかけてくる国家権力側の姿ははっきりと描かれず、追われる側の人間だけで進行していく単純さが歯切れいい。
 脇役たちのキャラクターも実に魅力的に描かれ、後半、逃亡の途中で出会う山中にひっそりと暮らす人間との触れあいがとても印象に残る。
 故郷にこだわり静かな余生を送る老人。故郷を捨て、自分の居場所を探し求めながら、また故郷に舞い戻ってきた従兄。彼らとの関わりが、主人公たちに、誠実に生きることの尊さを感受させる。

 だからこそ、このラスト。
 賛否両論あるだろう最終章は、生命の息吹を感じるありふれた風景のひとコマ。その静寂さが、気持ちのいい読後感となる。

★志水辰夫小説書庫【noa noir

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