TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「行きずりの街」志水辰夫

【新潮社】定価 1400円 1990年11月初版

【新潮文庫】定価 580円 1994年1月

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 かつて東京都内の名門校で教師をしていた主人公の波多野は、女生徒との結婚がスキャンダルとなり学園を追放され、教え子の妻とも離婚をして郷里で塾の講師をしていた。十数年後、塾の教え子が行方不明となり東京へ捜しに来た彼は、そこで、かつて自分を追い出した学園の関係者が関与していたことを知る。波多野は過去の清算をすべく、孤独な闘いに挑んでいく……。

    ◇

 志水辰夫全作品の中で一番評価が高い本作は、日本冒険小説協会大賞受賞作であり、氏の代表作のひとつ。しかし、これまで売れていなかった。
 それが2006年の後期、「1991年度『このミステリーがすごい!』第1位」の惹句を謳った新潮社のキャンペーンによって全国書店に平積みされるようになり、売れ始めた。現在もベストセラーを続けている。
 15年以上経ってのこの売れ行きは何なんだろう。当然、知名度が上がり売れてくれた方が、昔からのファンとしては嬉しい。それまで志水辰夫を知らなかった若い人たち、それも、女性層にも売れているってことは素晴らしいことだ。本作がただのハードボイルドな作品で終らず、大人の恋愛物語にもなっている証かもしれない。

 志水辰夫の作品は、ハードボイルドとか冒険小説といった、一見同じようなパターンのなかで、実は、作者の視線は常に上質な恋愛小説として完結させている。
 この『行きずりの街』でいうと、別れた妻との出会いから、女と男のすれ違う思惑と嫉妬と、男の未練たっぷりな感情が噴出する過程が卓越した文章で描かれている。
 恋慕する女性、その母親、そして主人公を何かに導いていく女性……彼女らの存在に男は懺悔し、奮起し、身を震わす。
 初の時代小説として2007年2月に発表した『青に候(あをにさうらふ)』が、初期のシミタチ節を彷佛とさせたのは、この作品のイメージが強いはず。

 この作品は唯一ドラマ化をされており、水谷豊・藤谷美紀の主演で2000年土曜ワイド劇場にて放映された。

★志水辰夫小説書庫【noa noir

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