TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「人が人を愛することのどうしようもなさ」*石井隆監督作品



監督:石井隆
脚本:石井隆
音楽:安川午朗
出演:喜多嶋舞、津田寛治、永島敏行、美景(みかげ)、伊藤洋三郎、山口祥行、中山俊、志水季里子、品川徹、竹中直人

☆☆☆☆  2007年/東映/115分 

    ◇

 名美探しの長い旅を、石井隆監督が自ら封印をして13年。
 これほど、待ち焦がれた映画はなかった。
 切なく、痛く、どうしようもなく愛しい、愛の物語として
 ここに、永遠のミューズ“名美”が、ふたたび舞い降りてきた。

 映画は、名美(喜多嶋舞)を女優として登場させる。劇中映画『レフトアローン』と、そのまた劇中劇『ブラックバード』と『愛の行方』というマトローシュカの入り子のような構造を創りあげ、何重にも“虚”と“実”を仕込んだ構造のなかで、そこを行き来するヒロイン名美をどこまでも壮絶に追っていく。
 劇中劇の名美の役名は『鏡の国のアリス』の如く鏡子と名付けられ、名美がインタビュアー(竹中直人)に語る“虚”(映画『レフトアローン』)の鏡子と、現実の名美とが溶け合いながら、妄想と理性の狭間に名美を堕としていく。
 実に映画的、いや、これこそ映画だ。

 深夜の山手線の車中で、紅いルージュをべったりと唇に塗りたくり、極限にまで広げた脚の間から闇に向けて閃光を放つ女優・喜多嶋舞の肉体は、石井隆監督の凄まじいほどの濃密な画〈絵〉の中で、異様なほどに輝き、過激なほどに朽ちていく。

 常に女優を美しく描きたい、スクリーンには女優を輝くように映したいと考える石井監督が、今回は、喜多嶋舞のリアルで生〈き〉のままの肉体を映像に焼き付けてきた。観客がたじろぐことなどお構いなく、子を産み母乳を与えた女の“勲章”を隠すことなく曝け出してくる。
 先の『花と蛇』('04)『花と蛇2~パリ/静子』('05)において主演した杉本彩の肉体は、完璧ではあったが残念ながらアンドロイドの如くフィギュアの美しさだった。
 それに対して喜多嶋舞は、エロティックとかいう前に、女そのものを見せつけてくる。名美の、これまでの人生が刻まれたリアルな肉体として、そして、その歩みがあることから、女から夜叉への変貌を見ることができるのだ。

 隠すためではなく、曝け出すための化粧。
 石井隆の劇画では、頻繁に化粧による“虚”と“実”の入れ替わりが描かれてきた。崩れる化粧から、内面を鋭くえぐってくる。
 1988年の劇画『雨物語』の第2話「酒場の花」では、ニューハーフの男がルージュをひき好きな男を待つ様子に、名美の心の虚空を絡ませながら、化粧の下の本質を切なく描いている。また、映画『GONIN2』('96)での大竹しのぶの若作りの街娼からは、化粧の下から、演じるという女のしたたかさが見え隠れする。

 女優名美は、けばけばしい化粧をして街娼として立つ。そして、理性の錯乱とともに化粧はどんどん崩されていく。

 石井隆の世界で名美の相手は、名美を常に愛しつづけ、守りつづける男として村木哲郎が登場する。しかし今回、村木は劇中劇『ブラックバード』の中にしか登場しない。(ややこしいが、この『ブラックバード』は『夜がまた来る』のリメイクとして見てみたい)代わりに名美のそばにいるのは岡野というマネージャー(津田寛治)だ。1983年に描かれた長編劇画『象牙色のアイツ』において、芸能プロダクションの社長名美を守り通した丈太郎のような男だろうか。

 ラスト・シークエンスとなる劇中劇『愛の行方』は、1980年の同名劇画と1992年の『カンタレッタの匣』第9話「主婦の一日」がモチーフとなっており、特に「主婦の一日」のカット割が引用されている。

 血まみれのベッドに座る名美の唇にルージュをひく岡野の切なさこそ、純愛だ。
 化粧が崩れ、マスカラの流れ落ちる顔の名美が、なんとも美しい。

 さて、ひとつの解決として描かれた問題のラストシーンには、さらなる変貌が潜んでいるのか………石井隆、恐るべし。


☆彷徨う名美ふたたび☆




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Comment

tohjiro says... ""
わあ、『象牙色のアイツ』! こういうのが出てくるからmickmacさん、
好きですよ!w 嬉しいなあ! 御世辞抜きに面白い映画ですからね、
これからも一生懸命応援いたしましょう! 

では!
2007.09.17 22:03 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
私信メッセでお話しましたように、再度、名美に会いに行ってまいりました。
thojiro さんの読解力にはかないませんが、新たに、違う方向からの鑑賞ができたことも、石井作品の魔力なのでしよう。
エンド・クレジットが暗闇になるまで、目も耳もスクリーンの磁力から離れることができませんでした。
2007.09.25 12:32 | URL | #- [edit]

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