TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「天使のはらわた 赤い教室」*曽根中生監督作品



監督:曽根中生
原作:石井隆
脚本:石井隆、曽根中生
音楽:泉つとむ
出演:水原ゆう紀、蟹江敬三、水島美奈子、草薙良一

☆☆☆☆★ 1979年/にっかつ/79分

    ◇

 男の純真さと女の絶望は、男と女の世界の中で永遠にわかりあえないこととして存在する。自虐的にとことん奈落に沈んでいくしか生きていけない女の性は、そんな女に対して一途な恋ごころを抱いてしまう男を笑い飛ばすこともできないほど壮絶だ。奈落の底から見えるものは、男の純情の中のエゴ。それを見抜いているところが、女の恐さでもある。
 この映画は、劇画家石井隆の初のシナリオとして映画化された「天使のはらわたシリーズ」の2作目で、日活ロマンポルノの中でも、激しく切ない秀作だ。

 ブルーフィルムの中の名美(水原ゆう紀)に魅せられたポルノ雑誌社の編集者村木哲郎(蟹江敬三)は、偶然、仕事場に使用するラブホテルの受付で彼女に出会う。見つけ出した彼女の口からでた言葉は「私を抱きたいのでしょ」。フィルムに映っていたレイプは教育実習生だった頃の忌まわしい事実で、心ない噂により教職に就くこともできず、フィルムを見ては脅迫してくる不特定多数の男性から逃げるために身を潜める生活をしていたのだ。そんな境遇から救い出してやるからと彼女を説得し、あらためて再会の約束をする村木。
 しかしその約束の日、村木は猥褻図画販売容疑で逮捕されてしまう。村木の言葉に一縷の望みを賭けていた名美は、指定された公園で降りだしてきた雨のなかを何時間も待ち続けていた。絶望した彼女は、行きずりの男に躰を預けながら奈落の底に堕ちて行くことになる。
 3年後、結婚をして雑誌社も軌道に乗せた村木は、場末のスナックで偶然にも名美と再会をする。そこは絶望と不条理がまかり通っている世界だった。

 これぞ石井隆ワールドといったところか。
 曽根中生監督の演出・映像的実験も見応えがある。
 まず、最初の旅館の長廻しシーン。夕方から夜に変わる照明の中、村木が一生懸命に胸の内を語りながら彼女に優しく接し、「明日、あらためてデートしてくれないか。」と場所と時間を指定して出て行くのだが、その間、名美は裸の背中を画面に向けたままの姿勢でいる。名美の表情を見せないことで、逆に彼女の心が動かされていく経過が伝わってくる。
 再会のシーンも面白い。カメラが厚化粧の名美の姿を追いながら、所々に、高速で左右にぶれる映像カットが何度も挿入される。村木のこころの動揺と、名美のこころの中の不気味さが表れている。

 村木以外に名美のそばにもうひとり男が出てくる。落ちぶれたボクサーくずれの元歌手でヒモのマー坊。自分の思い通りのことが出来ず、アウトローな世界に埋もれてしまった男だ。自分がこんな環境にいることを嘆き、泣きながら名美を抱いている。村木は、名美を救う事で、今いる惨めな環境を輝くものにできるのかもしれないと幻想するわけで、結局いつも名美のまわりの男たちは、彼女の掌で踊っている哀しい存在でしかない。
 夜ごとスナックの2階で白黒ショーを演じながら、男たちに弄ばれる名美の姿を見て、「ひど過ぎる………」と声も出ない村木に対して名美は、棲む世界の違いをまざまざと見せつけるだけだ。

 工事現場の解体跡地でふたりが対峙する引きの画のラスト。あの日のことを詫び「3年間捜し続けてきた」という村木に対して、「私はたったの3時間。たったの……」と応える名美。ふたりの間の時間の深さが、何て切ないことか。「過去なんてどうでもいい!」という村木に、名美が言い放つ言葉は痛烈。「来る?あなたが」。日常生活を捨てられない村木は絶句するだけで、佇みながら「いちゃいけないよ、あんたは。」と言うのが精一杯。
 生きている世界の違いは、ずっと相容れないまま深くて暗い川(ここでは工事現場の水たまり)として、男と女の間にあるだけなのだ。
 水たまりに写る自分を踏み付けるようにして去る名美の姿を、俯瞰カメラが不安定に捉えるラストカットは秀逸。

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