TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「錦繍」



◆原作:宮本輝
◆脚本・演出:ジョン・ケアード
◆音楽・演奏:藤原道山 
◆共同脚本・演出助手:藤井清美
◆出演:鹿賀丈史/余 貴美子/馬淵英俚可/西川浩幸/西牟田恵/野沢由香里/植田真介/神保共子/清水幹生/高橋長英
◆観劇:2007年8月12日 天王州 銀河劇場 C列20番
◆上演時間:190分

    ◇

 千秋楽を観劇してきた。
 原作は宮本輝の書簡形式の小説で、戯曲化に際して朗読劇のようなものになるのかと思っていたら、たしかに会話劇には違いないのだが、一種アングラ芝居を思わせるような演出方法が面白く、3時間以上の長丁場に飽きることなく惹き込まれてしまった。
 舞台を彩る尺八の音色とモーツァルトのレクイエムとともに、俳優たちの躰と言葉のアンサンブルだけで、こんなに圧倒される空間が創り上げられたことに驚く。

    ◇

 夫が巻き込まれた心中未遂事件の結果、愛し合いながらも離婚したふたりが、10年の時を経て紅葉の蔵王で再会する。
 亜紀はかつての夫有馬靖明に宛てて一通の手紙を書き綴る。それは、亜紀のこころに深く突き刺さっていた謎、心中事件の真相を問う内容だった。過ぎ去った時間を振り返りながら「事件」を語りだす靖明。
 孤独に生きてきた男女の、過去を埋め合わせる儀式が往復書簡という形で始まる…………。

 14通の手紙の中に書き綴られているのは人間の「業」と「性」、「死」と「生」。
 手紙を書くことで過去を見つめ直し、自己嫌悪に陥りながらも生きる力を確認し、感情をぶつけ合うことで過去と決別し、人生を再出発させる人間再生の物語だ。

    ◇

 舞台には和紙で作られた半円形の垂れ幕が下りている。
 尺八奏者の藤原道山が舞台中央に立ち、始まりの音色を奏でる。垂れ幕の下には、舞台上手に余貴美子をはじめ5人の女優、下手には鹿賀丈史を含んだ5人の男優たちが桐で作られた椅子に座っている。この10人の俳優たちは開演中ほとんど舞台上にいることになる。
 女優たちは白の衣装(暖色系のライティングのためベージュ系にも見える)、男優たちは黒かグレーの衣装で、この色合いは最後まで統一されている。

 セットと云えるものはなく、俳優たちが座る桐の椅子が総てを代用する。ときにゴンドラの椅子になり、ときに病院のベッドになり、室内のソファにもなれば酒場のカウンターにもなったりするわけだ。小道具は封書の手紙だけで、手紙の中の話の再現は台詞のあるパントマイムの如く進んでいく。

 亜紀(余貴美子)が舞台中央の最前に手紙をそっと置く。下手から有馬靖明(鹿賀丈史)が手紙を拾い上げ、封を切る。余貴美子が『前略 蔵王のダリア園から、ドッコ沼へ登るゴンドラ・リフトの中で、まさかあなたと再会するなんて、本当に想像すら出来ないことでした。』と読み始め物語が始まる。

 この一人称の手紙は余貴美子の台詞だけではなく、女優全員が語る演出になっている。ときに声を合わせ、ときに一言ずつ交代に。それは靖明の手紙でも同じで、ふたりの主人公星島亜紀と有馬靖明の台詞を、他の俳優たち全員が分けて語るのだ。ナレーションや説明的な心の声を、テンポよく一人の言葉として掛け合うわけで、これがまさしく言葉のアンサンブルとなり、実に奇妙な響きと自由な空間が生まれることになる。

 手紙を互いに読み合うふたりの前には、心中の相手となった瀬尾由加子(馬淵英俚可)、亜紀の父照孝(高橋長英)、亜紀の再婚相手勝沼壮一郎(西川浩幸)、壮一郎との間に産まれた障害を持つひとり息子清高(植田真介)、靖明を支える令子(西牟田恵)、喫茶“モーツァルト”のオーナー夫婦(清水幹生、神保共子)、令子の祖母(神保共子)、心中した旅館の仲居絹子(野沢由香里)といった人物たちが揃い、絡み合いながら、亜紀と靖明の人生を浮かび上がらせていく。

 鹿賀丈史と余貴美子以外の俳優たちは、三つ四つと登場人物を演じる。それは時間と空間を飛び越え、一瞬に変化するなかで行われるわけで、想像以上に集中力と演技力がないと努められないだろう。

 “生きていることと、死んでいることは、もしかしたら同じことかもしれない……”

 宇宙的で運命論的な言葉に聞こえるが、人間が生きていくための力は愛であり、それを支えるのは心の強さではないだろうか。

 障害のある清高を受け入れ浮気をしている壮一郎との離婚を決意する亜紀も、ヒモのように過ごす靖明の心を解きほぐした亜紀との書簡を読み「うち、あんたの奥さんやった人を好きや」と口にする令子も、心中でひとり死んでしまった由加子を忘れずにずっと弔ってきた仲居の清子も、指の障害を戦死した息子たちと現世で会う印として生きて来た令子の祖母も、女として、母として、人間として、何かしらの苦しみを味わったひとたちの強さを感じずにはいられない。

 “業”を背負って生きている女の姿を、静かに、ときに痛々しく、ときに激高しながら演じる余貴美子。
 人生を踏み外し転落していくダメ男をチャーミングに演じる鹿賀丈史。
 ひたむきで健気な姿で観客のこころに迫り、包容力と芯の強い女を魅せた西牟田恵。
 妖艶さで男たちを惑わし“性”をまき散らす女三人を演じた馬淵英俚可。
 素晴らしい俳優たちによる、濃密な舞台だった。

 千秋楽のカーテンコールでは、馬淵英俚可と西牟田恵が涙で目を真っ赤にしながら観客の盛大な拍手を浴びていたのが印象的だった。


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Comment

ひろっち says... "なるほど"
ここに載せてあるレヴューをコピーしたほうが早そうだなあ!by Y's製作人
2007.08.20 13:59 | URL | #- [edit]
mickmac says... ""
ひろっちさん
業務連絡に使わないでよぉ~(笑)。
めぇるしてあるので、管理頁より作業を続けてくださいナ。
2007.08.20 16:01 | URL | #- [edit]

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