TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「仁義の墓場」*深作欣二監督作品

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監督:深作欣二
脚本:鴨井達比古
原作:藤田五郎
出演:渡哲也、梅宮辰夫、多岐川裕美、ハナ肇、安藤昇、山城新伍、池玲子、芹明香

☆☆☆☆  1975年/日本・東映/94分

    ◇

 昭和20年代の新宿で、狂犬と恐れられた実在のやくざ石川力夫の、暴力と抗争のなかで壮絶に生き急ぎ、そして散って逝った生涯。
 この映画の凄いところは、全編に狂気があふれていることだ。
 悪い奴らばかり登場する映画ならいくらでもある。やくざの実録ものだっていくつもある。しかし、ここに登場する石川力夫の前ではおとなしい羊のようなものだ。実際、この映画に出てくる他のやくざ者は、ただ迷惑を被る一般常識人に映るほどだ。この男ひとりが狂っている。
 狂っている人間にも何らかの論理はあるはずだが、深作欣二は人間の愚かさを、ただ冷たく見つめるだけで解明しようとはしない。闇雲に人生を突っ走した男の、荒涼とした軌跡だけが刻まれている。

 そしてこの映画が稀代の傑作になったのは、凄まじほどの演技で応えた渡哲也の存在だ。深作ミーツ渡としてはたった2本の作品しか残されなかったが、どれだけの作品量にも叶わないこの濃密さだけで十二分である。

 この男の中には“仁義”なんてものはない。自分の組の親分ハナ肇までも平気で刃を向けるし、親身に面倒を見てくれる兄弟分の梅宮辰夫を何のためらいもなく殺してしまう。
 逃げ隠れした置き屋で匿ってくれた少女多岐川裕美を強姦し、情婦にし、果ては売り飛ばす。しかしこの薄幸の多岐川裕美が、生涯の女になり、石川の心の中に唯一純粋なものを目覚めさせたのかもしれない。多岐川裕美の哀しい役どころは素晴らしい。
 渡が自殺した多岐川の骨を拾うシーンが切なく、つづく、遺骨をポリポリとかじりながらハナ肇に金の無心をする場面は、語り草になっている名シーンだ。
 
 白眉は芹明香とのワンシーン。セピア画面で映るドヤ街のベッドで、芹明香扮するシャブ中のパンパンが渡に注射を打つ。隣りの部屋で位牌を拝む男と、放心状態で宙を眺める芹と渡の横並びの画面には、堕ちた世界の恐さがリアルに伝わってくる。芹の出演は、前の年に田中登監督作品『(秘)色情めす市場』で演じたトメという娼婦に、深作が感銘したことは確かだ。

 「大笑い 三十年の 馬鹿さわぎ」

 府中刑務所で投身自殺した石川。独房の壁に書かれた辞世の句だ。
 そして、石川自身が建てた墓石に彫られた文字に、観客が唖然とさせられて映画は終わる。




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