TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「河内カルメン」*鈴木清順監督作品



監督:鈴木清順
原作:今 東光
脚本:三木克己
音楽:小杉太一郎
挿入歌:野川由美子「ハバネラ」
    藤原伸「ふるえる指」「燃える恋の炎」
美術:木村威夫
出演:野川由美子、川地民夫、和田浩治、佐野浅夫、宮城千賀子、桑山正一、松尾嘉代、楠侑子、伊藤るり子、嵯峨善平

☆☆☆☆  1966年/日活/89分

    ◇

 野川由美子の均整のとれた肢体にクラクラしてしまうほど、モダンな魅力に満ちた作品で、監督も女優も、弾けている。

 女3部作として先の2作品(『肉体の門』『春婦伝』)の深刻さと違い、このエンターテインメントぶりは、何と云っても主人公の女性像にあるだろう。
 原作の今東光が描いた「多くの男を愛し自由に生きた女性」がただの“情熱的な女”という事だけではなく、人生を前向きで突き進み、くよくよせず、逞しく、それでいて情の深さと愛らしさを持ち、人生を闊歩するカッコ良さの魅力に溢れているからだ。 
 そして、その河内弁の威勢の良さと、鉄火肌な女をキュートに演じている野川由美子は、奇抜な清順ワールドの構図のなかに埋もれる事なく、その存在感は傑出している。

    ◇

 河内の山深いところで育った露子(野川由美子)は、勤めている工場の経営者の息子・彰(和田浩治)に初恋を抱いていたが、ある日村の若い衆3人(野呂圭介ら)に乱暴され処女を失う。更に、近所の生臭坊主(桑山正一)に身体を与える淫蕩な母親(宮城千賀子)の姿を目撃してしまい、すべてに嫌気がさした露子は大阪へ出てキャバレーのホステスになって自立する。
 天性の美貌と明るさでナンバーワンのホステスになる露子だが、露子に本気で惚れた冴えない銀行員の勘造(佐野浅夫)が横領でクビなり、なんとなくヒモ同然の同棲生活を送ることになる。

 ある日、ファッション・モデル・クラブの社長で女性デザイナーの洋子(楠侑子)にスカウトされた露子は、キャバレーを辞め、勘造と別れ、洋子の屋敷に住み込みで働くことになる。
 しかし、そこで知り合った前衛画家の高野(川地民夫)から聞かされたのは、洋子がレズビアンだということだった。ことあるごとに身体を求める洋子から逃げ出した露子は、高野のマンションに居候することになる。
 この飄々とした高野が、最後まで露子と最大の友情で結ばれることになる。

 ある日、街でばったりと彰と再会。工場がつぶれ、今はひとりで廃屋のような長屋暮らしをしているかつての初恋相手ボンは、河内の山の中に温泉を掘り当てるという夢を追っていた。すっかり山師になってしまったボンなのだが、露子は何とか援助をしてやりたく、高野にパトロンとして大会社の社長の斉藤(嵯峨善平)を紹介してもらう。が、斉藤の無理強いで出演させられたブルーフィルムの撮影現場に現れたのは、金のために良心を売ってしまったボンだった。

 すべてに絶望した露子は故郷に帰るのだが、そこもまた、地獄のような荒んだ絵図が待っていた。

    ◇

 ストーリーだけはとんでもなく酷い物語で、まるでロマン・ポルノの題材のようなのだが、これが鈴木清順の手にかかると見事にポップ感あふれる作品に仕上がっている。

 今作も木村威夫が造り出す舞台さながらの大胆なセットと、流麗なカメラワークの演出を楽しむことができる。
 露子と勘造との別れのシーンでは、狭い二間の一室をダイナミックに横移動する座ぶとんカットや、新派のようなふたりの台詞のやりとりを、あらゆる角度から見せる構図。洋子の屋敷では、1階2階の断面を一画面で見せ、上下を行き来する野川由美子をスポットライトが追い掛ける。高野のマンションも同様に、シネマスコープを十二分に活用した画面構成には感動さえ覚える。
 まさに、リアリティよりケレンの清順ワールドなのだ。

 この作品はモノクロ映像なのだが、例えば、オープニングとラストに露子が口に銜えるバラの花や、高野がガラスのキャンパスにぶちまける絵の具の色など、至るところにカラフルな色彩を感じることができる。
 同時に、野川由美子の顔のアップによる露子の心象(戸惑い、怒り、不安)は、モノクロームの黒の深い部分で映し出され、いくつかのカットでドキっとさせられる。

 ラスト・シークエンスは、それまでの空気とガラリと変わり、怨念の世界が構築される。それは後年の『ツィゴイネルワイゼン』('80)や、小道具の水瓶のシーンなどは『陽炎座』('81)への道筋となっているように感じる。

 終幕は一転、東京の雑踏にバラを一輪くわえて立っている露子の姿。
 この、あっけらかんとしたラストカットに、女の図太さと愛に生きようとする女の逞しさが現れている。

    ◇

 キャバレー・シーンにおいて、バーカウンターの上でカルメン気取りで男客たちを挑発する野川由美子の歌と踊りが溌溂としていて見ものだが、エレキバンドで歌われるエレキ歌謡「燃える恋の炎」にも注目したい。クレジットなしの出演で、ギター片手に歌っている藤原伸は、後の作曲家曽根幸明氏だ。
 この「燃える恋の炎」はシングル盤として発売されたのだろうか。探したい逸品だ。
 
 

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