TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「肉体の門」*鈴木清順監督作品



監督:鈴木清順
原作:田村泰次郎
脚本:棚田吾郎
音楽:山本直純
美術:木村威夫
出演:野川由美子、宍戸錠、川西郁子、松尾嘉代、石井富子、富永美沙子、和田浩治、玉川伊佐男、江角英明、野呂圭介

☆☆☆☆★  1964年/日活/90分

    ◇

 当時19歳の野川由美子映画デビュー作で、鈴木清順が彼女を主演に描く女性映画3部作(「肉体の門」「春婦伝」「河内カルメン」)の1作目に当たる。
 敗戦直後の東京に徒花のように咲き乱れた街娼たちが、腑抜けになった男たちに愛想をつかし、身体ひとつで生き抜くヴァイタリティさと、男に惑う女たちの姿を描いたこの映画は、これまでに何度も映画化がされている。その内ぼくが観たものは、この鈴木清順版以外に、かたせ梨乃主演の五社英雄版とロマン・ポルノで製作された西村昭五郎版の3本だが、やはり、映像美と映像表現に関して独特な清順作品が一番印象に残る。
 美術・音楽ともに名作として“魅せて”くれる映画だ。

 たったひとりの兄をボルネオで亡くした戦争孤児の17歳のマヤ(野川由美子)は、生きていくために関東小政のおせん(川西郁子)が率いる街娼グループに入り、ボルネオ・マヤを名乗る。
 廃墟の地下に巣食うグループには、ジープのお美乃(松尾嘉代)、ふうてんのお六(石井富子)、年増女で未亡人の町子(富永美沙子)らが、それぞれ暗い過去を背負いながら住み着いている。グループには愛と身体の悦びを厳禁する掟があり、掟を破れば厳しいリンチが待っている。

 映画ならではの魅力として、美術の木村威夫が創る舞台風セットの廃虚には目を見張るものがあり、清順美学として目を惹く色の使い方も素晴らしい。女たちをそれぞれ着ているもので色分けして、画面ごとにそのイメージカラーを使い華麗な極彩色で彩っている。豊潤な町子は着物姿で、4人の女たちは、真っ赤な無地のドレスのおせんをはじめ、緑のマヤ、紫のお美乃、黄色のお六という風にインパクトを与えてくれる。
 主人公たち以外の街娼らはすべて柄ものの衣装で区別されているし、映画がはじまってすぐにリンチを受ける少女は学生と恋仲になり罰せられるのだが、真っ白なドレスが“娼婦の処女性”をイメージさせているのも面白い。

 ある日、傷ついた復員姿の伊吹新太郎(宍戸錠)が転がり込んで来た。敗戦後腑抜け状態の男たちがあふれる中、男らしさを備えていた伊吹の出現に、荒んだ心の女たちの間に愛に似た感情が生まれてくるようになる。

 リアリティより映像表現に重きを置く鈴木清順らしさは、例えば、おせんと伊吹が入ったホテルの一室のシーンに見られる。伊吹を画面から外し、おせんにだけピンスポットを当て、彼女の動きだけでシーンを語る。バックの音は規則正しいパーカッションだけで、奇異な感じと緊張感に包まれる。

 もちろん面白い絵づくりだけではなく、画面に女の内面がじっくりと滲み出てくる演出も凄い。町子が馴染みの男と結婚の約束をし、それをおせんに知られたことで宙吊りリンチにあうシーンだ。“官能”の象徴であった町子の身体に、マヤが衝撃を受けるシーン。自分たちにない性の歓びを知っている女の妖艶さに、おせんたちは嫉妬の気持ちになる。どこにも陰惨なリンチや裸の露出がないのに、画面は官能で溢れている。
 画面構図も素晴らしく、町子を中心に左右に広がる空間描写と、そこに被さるマヤの表情の変化を合成画面で見せ、女たちの思惑をひと画面に納めている。

 マヤが伊吹に兄以上の感情を持つようになり、ひもじさも無くなってきたある日、ふたりが激情にかられて身体を重ねた。そして、伊吹と共この街を出ていく決心をするマヤが、リンチを受ける。その時のマヤの不敵な笑みは、底辺から抜け出す希望を持った女の優越感だったのだろう。

 ラストシーンは、見事なヤミ市セットの中をマヤを除いた3人の娼婦たちが男を漁りながら闊歩する。その眼光が、これまで以上に凶暴に輝いているのが印象的だ。

 開巻すぐに流れる「星の流れに」は、オリジナルの菊池章子の歌唱なのかどうか判らないが、捨て鉢でやさぐれ感いっぱいなこの歌い方は好きだ。

    ◆

 ほかの2作品について書いておくと、1988年の五社英雄作品は笠原和夫が脚本を手掛けていることもあり、かなりダイナミックでエキサイティングなものに仕上がっていた。
 かたせ梨乃扮する小政のおせんのグループと、敵対する名取裕子らとの抗争や、地回りやくざ(根津甚八)との闘いなど、『仁義なき戦い』女版といったところか。ラストに流れる「星の流れに」は八代亜紀が歌っている。

 1977年のロマン・ポルノ版は露出度が多いわりに官能性が低かったが、山口美也子のおせん、宮下順子の町子、加山麗子のマヤ(これがデビュー作)など、女優陣は見応えがあった。

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