TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「闇に抱かれて」*武田一成監督作品



監督:武田一成
脚本:たかい・すみひこ(高田純&荒井晴彦)
出演:風祭ゆき、夏麗子、鶴岡修、北見敏之

☆☆☆★ 1982年/にっかつ/68分

    ◇

 ゲームセンターでひとりはしゃいでいた女が、買物袋を抱えながら交差点に立っている。隣に立つアベックを横目に、女は、青信号でも渡ろうとしない。何度も歩行者用ボタンを押しながら、その場に佇む女。
 スレンダーな体躯と憂いある美しさの風祭ゆきが、都会に暮らす女の孤独な心象を滲ませながら、映画は始まる。

 女の名前は美枝子(風祭ゆき)。住んでいるアパートに帰っても、部屋には上がろうとはせず、隣接した空地で三角野球をしている小学生に混じって時間を潰している。
 アパ-トの部屋には、同居生活をしている幼馴染みの親友で、同じ出版社に勤めている綾子(夏麗子)が、妻子あるルポライターの本間(鶴岡修)と躰を重ねている。恋人もいない美枝子は、本間が来る日は散歩に出ることにしているのだ。

 ある日、会社に本間の妻が現れ、本間の子供を堕ろしてきたことを告げる。急激に心が醒めてしまった綾子は、その晩、バーで自殺志願の男(北見敏之)と知り合い、三宅島へ自殺をしに行くことを決意する。綾子を追って美枝子と本間も三宅島へ向かう。

 さて、ここからこの映画は、ミケランジェロ・アントニオーニ監督の名作『情事』('60)を踏襲するようなストーリー展開を見せる。

 シチリアのある島で突然姿を消した恋人アンナを探す青年サンドロと、女の親友クラウディア(モニカ・ヴィッティ)。発見できない不安な捜索の間に、いつしか二人の間に愛が芽生え、クラウディアは後ろめたさを感じながらも情事に耽り、次第にふたりの頭からアンナの存在が薄れていく。
 そしてある日、クラウディアは男が娼婦と過ごす姿を見て唖然とする。クラウディアには男の気持ちが判らない。涙を流してひとり泣く男。男の背中を抱くクラウディア。それが女の許しなのかどうか、判らない。

 人間の孤独、愛の不確かさと不安を描いた『情事』は、ある出来事をまったく簡素に観客に呈示するだけで、詳しい事柄は一切描かれない。「愛の不毛」「愛の不条理」と云った言葉が生まれたこの映画には解答のない非日常があるだけで、十代の頃観たぼくは見終わったあと訳も判らず、モニカ・ヴィッティの掠れた声と気怠く冷めた表情だけが印象に残った。

 この映画は、『情事』への解答かもしれない。
 激しく昇りつめた愛のあとにくるのは、往々にして白々しく空虚なもので、瞬時に欲望の対象を変化できる性も珍しいことではないし、恋愛の快楽に溺れていても、ほかが満たされない人生なんてこの世にはいっぱいある。女も、男も、孤独より空虚な官能を選んでも不思議ではない。

 『闇に抱かれて』のラストは、涙する男を許した美枝子が、再びふたりの前に現れた綾子に新たな三角関係を告げるところで終わる。

  

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