TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「愛の流刑地」

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監督・脚本:鶴橋康夫
原作:渡辺淳一
主題歌:平井堅『哀歌〈エレジー〉』
出演:豊川悦司、寺島しのぶ、長谷川京子、佐藤浩市、陣内孝則、仲村トオル、余貴美子、浅田美代子、佐々木蔵之介、松重豊、本田博太郎、貫地谷しほり、富司純子、津川雅彦、高島礼子、森本レオ、阿藤快、六平直政、三谷昇

☆☆☆☆  2007年/日本・東宝/125分

    ◇   

 かつては売れっ子作家であった40代半ばの菊治(豊川悦司)は、京都に住む元編集部員の女性から、菊治の作品のファンだという32歳の人妻・冬香(寺島しのぶ)を紹介され、彼女に惹かれる。肉体関係を続ける中で、ある時から冬香は「エクスタシーの最中に死にたい」と口にするようになる。そしてある日、願いを叶えるかのように冬香の首を絞め殺してしまう菊治。
 そこに殺意はあったのか。
 裁判で明らかになるのは、余人には到底理解し難い、ふたりの愛の形であり愛の証明ということになる。

    ◇

 実は、あまり不倫ドラマというものは見ない。倫理観や道徳性に潔癖なわけではないのだが、単純に好みの問題で、話自体に興味が湧かないのだ。
 ただこの映画は、鶴橋康夫氏がホン(脚本)とメガホンを取るということと、主役ふたり以外の役者陣に魅せられたものもあり、初めて積極的に出かけてみた。

 確かに激しい性愛シーンがこれでもかと映しだされたり、スキャンダル性に満ちた内容なのだが、はっきり言ってそんなことはどうでもいい。エロだけを目的に行くひとには、何か違うかもしれない。

 これは、人を想う人間のドラマだ。
 作品として素晴らしく、心を揺さぶる傑作に仕上がっている。

    ☆    ☆

 ◆以下、物語の細部に触れる箇所があります。

    ★    ★

 いきなり、激しいセックスシーンから始まり、意表を突かれた。
 そう来るか、って感じだ。

 真っ赤に燃えた太陽と、豊川悦司と寺島しのぶのゾクゾクするエロティシズムに、朝焼けの街が被さり美しいシーンになっている。
 そして、その絡み合った躰のまま、ヒロインの首が絞められる。

 男に自分を殺してと願う女と、女の願いを叶えるために罪を犯す男の間には、戯れという肉欲愛ではなく、本気で思いを込められる純粋愛が生まれたのだろう。究極的な人間愛かもしれない。

 裁判が進行するなか菊治は、自分が愛する女に手をかけた理由を自問する。
 人を愛することに理由がないように、冬香を手にかけたことにも理由なんかないだろう。誰にも判るはずのないその気持ちを、肉欲の“罪と罰”として倫理観だけでは裁けはしない。必ずしもそこで“真実”が発見されるわけもなく、モラルを無視することで見えてくるものもある。

 ドラマは、生と死で男と女の性差を描き、“ひとの想い”を考えさせる。
 冬香が亡くなったあとも、ずっと菊治の心を支配し続ける想いに苦しむ姿を、豊川悦司は見事に演じており、クライマックスの法廷で「この裁判は、何もかもが違うっ!」と泣き叫ぶシーンでは、感動さえ憶える。
 
 豊川悦司と寺島しのぶのセックス・シーンに嫌らしさはなく、冬香の心情を見事に演じた寺島しのぶは、神々しく眩しかった。凄い女優だ。

 もうひとり熱情に生きようとする女性として、検事の美雪(長谷川京子)がいる。こちらも、上司の稲葉(佐々木蔵之介)と不倫中で、しかも、うまくいっていない。“欲求不満のおんな”を長谷川京子が醸し出していた。いろんな感情が入り乱れる難しい存在の美雪を、見事にこなしている。
 佐々木蔵之介とのラブシーンも激しいものがある。裸で絡むことこそないが、土砂降りのベランダでのラブシーンは、セックスシーンと言ってもいいほど官能的で美しかった。好みで言えば、一番エロティックな箇所だな。

 キャスティングも見応えがある。
 冬香の母親を演じた富司純子。弁護側の証人に立ち、殺された娘への思いと、女としての娘を理解する母親の立場を、圧倒的な存在感で見せてくれる。
 そして、証言台を降りる時の豊川悦司と富司純子の対峙は、映画史に残しておきたい凄いシーンだ。胸に熱いものがこみ上げてくる。

 菊治の理解者である出版社の人間を演じた津川雅彦や、菊治の行きつけのバーのマダムに扮した余貴美子らが、抑えた演技で光る。
 余貴美子と豊川悦司との気持ちの交わし合いが、大人の女と少年の会話のようで面白い。「破滅するまで、とことん行ったわよ。」と語る余貴美子は、なんともセクシー。
 また、高島礼子、森本レオ、六平直政、阿藤快らが台詞のない役だなんて、もったいないほど贅沢な使い方です。鶴橋康夫監督は、スクリーンに映る隅々の人間にまで息を吹き込んでいる。

 これまでテレビ畑一筋だった鶴橋康夫監督は、ドラマ『永遠の仔』『天国への階段』『刑事たちの夏』などの名作や、亡くなった野沢尚氏の『砦なき者』をはじめ半分近くの作品を手がけている。作品創りに間違いのない監督のひとりと思っているので、その監督の映画初演出の手腕を見る、それだけで価値ある映画だ。



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Comment

ひろっち says... "とりこ"
ここ数日、頭がディズニーシーのひろっちです。
余さんのレヴューが読みたいですが、最近書いてないではありませんか。
この映画、「愛の流刑地」見たいなあと思ってるんですよ。
でも田舎なので、隣の市まで行かないと映画館がない。ない。ない。
町まで出たら、見に行かないとね。
2007.01.16 21:55 | URL | #5Vrd59AE [edit]

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貫地谷しほり
貫地谷しほり貫地谷 しほり(かんじや しほり、1985年12月12日 - )は女優。東京都出身。血液型はA型。伊藤正次演劇研究所を経て、現在、ABPinc所属。特技は着物の着付