TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

石井隆の世界~歌謡曲10選

 “女と男の世界”を独自の視点で描き続けている石井隆は、2004年「花と蛇」で杉本彩 との相性の良さが実を結び、2006年にはパート2へと疾走した。
 石井隆の監督作品がこの17年間に13本と少ないとはいえ、1本1本が解き放つエロティックぶりは、石井隆のエロスの原点であるアントニオーニやポランスキーらを彷佛とさせる。

 その“エロス”を存分に書きなぐっていた劇画家時代の“名美と村木”が織りなすセンチメン タルなメロドラマの世界は、作品ごとに年齢も職業も違う土屋名美という女性が綴る普遍の女性像として歌謡曲がお似合いだった。
 名美の不幸や諦め、男への恨みと意地、おんなが再生するときに流れる通俗的な歌謡曲。土屋名美の世界として、それは鮮やかに決まっているのだ。

 70年代を中心に、石井隆の劇画と映画の中に流れる歌謡曲を10曲選んでみた。

 《本文は70年代カルチャー誌『Hotwax』第3号(2005年8月発売)に掲載された記事を加筆修正したものです。》

    ☆    ☆

第1位
あかね雲/梶芽衣子('75)
劇画:緋の奈落('76年 ヤングコミック誌掲載)
 ヌードモデルの名美と、ヒモとインテリヤクザとの奇妙な三角関係が描かれる。
 土砂降りの雨の夜、包丁片手にズブ濡れ姿で現れた名美のバックに♪~女は不幸でいいと思った~♪と、ヤクザが好んだ梶芽衣子が流れる。しかし、男の世界に従属しているつもりの名美は、結局自分の世界に男たちを引きずり込む。優しすぎたヤクザの男には、愛の不条理が理解出来ないだけ無理心中した名美より悲劇なのだ。

第2位
時の過ぎゆくままに/沢田研二('75)
劇画:カーニバル・イン・ブルー('75年 ヤングコミック誌掲載)
 ここに描かれるのは暴力によって性の快楽を失った男と女。
 勤め先の組合のストライキで会社側が雇った男たちからキンタマを蹴られた男と、通学帰りに強姦されて不感症になった名美が天狗ショーのコンビを組む。そのショーで流すBGMは、♪~からだの傷なら治せるけれど、心の痛手は癒せはしない~♪
 優しさという精神性だけで繋がる男女の関係は、ヌード劇場の客から「インポ野郎!」と罵声を浴びながらも続いていく。堕ちていくのが幸せなときもある。

第3位
夜へ/山口百恵('79)
映画:ラブホテル(監督:相米慎二 1985年)
 別れ話の電話で、通話が切れたあとも延々と喋り続ける名美の躰を優しく包み込むように流れるのが、山口百恵の情感豊かなヴォーカル。最高の甘美さを香らせていた。

第4位
赤いアンブレラ/もんた&ブラザーズ('80)
映画:ラブホテル(監督:相米慎二 1985年)
 名美と村木のこころが通じ合う埠頭のシーンでの、この歌の揺さぶりは絶品。
 そしてラスト、花吹雪降る石段で名美と村木の別れた女房とがすれ違うシーンにおいては、もんたの狂おしいほどのハスキーヴォイスが作品を忘れ難いものにした。

第5位
紅い花/ちあきなおみ('91)
映画:GONIN(監督:石井隆 1995年)
 映画『GONIN』には名美も村木も登場しないが、ちあきなおみのこの妖しさが男の世界に情念を漂わせている。この曲が流れる本木雅弘と根津甚八のシーンは、土砂降りの雨とともに暴力を甘美なセンチメンタリズムに昇華させ、男の琴線に触れる唄声が切ない。

第6位
マイ・レディ/郷ひろみ('79)
劇画:夜に頬よせ('75年 ヤングコミック誌掲載)
 名美と暮らしている陽介は、名美に頼られたくて好奇の眼をした女たちの客前で裸になる……♪~マイレディ 君はまぶしい このままでは胸が張り裂けそうだ~♪。
 村木に襲いかかる陽介がたったひとつ願うことは、姉である名美とふたりだけで生きていきたいという想い。ラストカットのふたりの姿が、雨の中に滲む。

第7位
テネシーワルツ/G.スタッフォード('50)
映画:天使のはらわた・赤い眩暈(監督:石井隆 1988年)
 石井隆初監督作品『天使のはらわた・赤い眩暈』のラストに使われたこの歌は、江利チエミの歌唱でも有名な失恋の歌。
 ♪~恋人とテネシー・ワルツを踊っていたとき、旧友に恋人を紹介したら盗られてしまった。私はあの夜とテネシー・ワルツを忘れることができない……~♪
 待たされる名美の最後の言葉「まっ、いいか」は決して諦めの呟きではなく、この潔さが、新たに再生して一歩を踏み出すおんなの姿。

第8位
飛んでイスタンブール/庄野真代('78)
劇画:ラストワルツ('78年 増刊ヤングコミック誌掲載)
 おとなしく誠実そうだと思い見合い結婚した夫の緊縛趣味に耐えてきたある朝、夫の下着を干しながら♪~人の気持ちはシュール。だから出会ったことも蜃気楼~♪と口ずさみ、夫を気遣う置き手紙を残し家を出る名美の顔には笑みが浮かぶ。これは名美の門出の歌だ。

第9位
いとしのエリー/サザンオールスターズ('79)
劇画:少女 名美('79年 GORO誌掲載)
 屈託のない明るさが心地よい“少女 名美”のラストバラード。

第10位
さすらい/小林旭('62)
映画:夜がまた来る(監督:石井隆 1994年)
 石井隆が描く映画の名美三部作の最後は、一途な名美の愛と哀の世界。仄かな灯りとして浮かぶ人間模様と刹那の美学が、明けない夜は来ないと告げている。

  ☆    ☆

 『Hotwax』が70年代のカルチャー誌のため80年代以降の劇画作品を取り上げられなかったのだが、80年代にも重要な作品がある。
 歌謡曲の曲名をそのままタイトルにした88年の連作『雨物語』の四編は、どれも名作の部類。
 八代亜紀の「雨の慕情」、島秀樹の「酒場の花」、もんたよしのりの「赤いアンブレラ」、歌唱者を特定できないのだが「雨物語」…………どれも切ないラストシーンが心地よい。
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