TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ゆれる」

監督:西川美和
脚本:西川美和
出演:オダギリジョー、香川照之、伊武雅刀、蟹江敬三、真木よう子、新井浩文、木村祐一、田口トモロヲ、ピエール瀧、河原さぶ、田山涼成

☆☆☆☆★  2006年/シネカノン/119分

    ◇

 心を揺さぶられ、胸の内が痛くなる映画だ。

 新進気鋭の西川美和監督の劇場映画第2作目は、兄弟間の確執や葛藤そして家族の絆を描いた骨太な人間ドラマとなっている。

 売れっ子カメラマンとして東京で成功した猛(オダギリジョー)が、母親の一周忌で故郷に帰ってくる。派手な職業にして傲慢で自分勝手なところがあり、故郷への優越感がそのまま甘えになっている彼は、喪服も着ないで法事の席にさえ遅れてくる。父親(伊武雅刀)との折り合いも非常に悪い。

 一方、家業のガソリンスタンドを継いだ兄の稔(香川照之)は、猛とは正反対な温和な性格で、いまだ独身で父親と一緒に暮らしている。
 母親代わりもする兄は、父親への反抗的な弟を穏やかに諌める。そんな兄に対して弟は、幼いころから慕い敬意は持っている。ここまでは理想的な兄弟だ。

 そんな兄と弟の間に、ひとりの女性が存在する。

 兄弟と幼馴染みの智恵子(真木よう子)は、兄のガソリンスタンドでアルバイトをしている。かつては猛と関係をもった間柄だが、いまは慎ましく故郷で平凡な生活を強いられている。

 法事の翌日、三人は町はずれにある渓谷に遊びに行く。幼いころの懐かしい場所だとはしゃぐ兄と、どこか居所が収まらない弟はこの場所の記憶がない。
 そして、事件が起きた。
 智恵子が、吊り橋から落ち、死んでしまう。その場所には稔がいた……。
 事故死なのか。果たして、兄が突き落としたのか。

 映画は、ミステリーの様相を深め、オダギリジョーと香川照之が“揺れる”兄弟の心情を、繊細に表現していく。
 全体に台詞が少なめで、語ることより、佇まいや視線の動きで表現するふたりが素晴らしい。

 兄弟のなかの、優越感と羨望と嫉妬感。
 兄弟だからこそ、こころの底に溜まっていた悪意や憎しみがぶつかり合ったとき、そこに出来た溝を修復する術などあるのだろうか。
 この若い女流監督は、おとこ兄弟の心情に対して深い洞察力があり、画面全体から溢れる切なさに、胸が苦しくなる。

 たぶんこの先10年、常にぼくのベストテンからは外れない映画だろう。

    ☆    ☆

 西川監督の演出は、人間の奥底に潜むあらゆるものを、徹底的に暴き出す。いぶり出す。
 法廷に立つ稔に、じわりと迫るのが木村祐一扮する検事。その木村の静かな語り口は、見るものに緊張感を強いるほど執拗にいやらしく、その存在感は素晴らしい。

 人間がもつ本性が表出するときの恐ろしさも、また凄い。
 智恵子が吊り橋の上で、稔に対して『触らないでっ!』と叫ぶときの、あの嫌悪の顔。
 留置場の面会室で、弟に唾を吐きかける兄の形相。
 徹底して悪意を見せつける演出のあとには、人間のイメージなんて、誰もが自分に都合の良いように作り出しているだけだと思い知る。

 オダギリジョーの女たらしぶり。男の狡さや傲慢さぶりも初めて見る演技だが、香川照之の卑屈さも見事だった。
 そして、オダギリが「にいちゃ~ん』と叫びながら兄を追うラストシーン。
 香川の表情が素晴らしく、あの無言の笑みには胸が詰まる。

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