TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

踊りましょうよ、中川梨絵




 1976年、女優・中川梨絵さんが出した唯一のレコード「踊りましょうよ」。B面の「さすらいのトランペッター」ともに彼女の作詞・作曲で、小室等とムーンライダースが編曲に関わっている。演奏もムーンライダースと思われる。デカダンスの香りがするミディアムな曲で、梨絵さんの甘い歌声が素敵だ。

 森崎東監督の5年ぶりの劇場公開作品「ニワトリはハダシだ」のキャスティングの中に、中川梨絵という懐かしい名前を見つけた。
 東京生まれの彼女は、東宝において成瀬巳喜男監督の「乱れ雲」('67)で映画デビューをしている。鳴かず飛ばずのまま東宝を退社し1972年に日活に入社するのだが、その時の日活はロマンポルノ路線を打ち上げていた時だったことから、必然的にポルノ女優として再出発したわけだ。
 大きくクリッとした眼と鼻すじの整った美人の顔立ちに甘い声で、初期のロマンポルノのスター女優のひとりとなったのだが、初主演作の「OL日記・牝猫の匂い」('72)が摘発・押収されたことからいきなり注目を浴びていた。残念ながらぼくはこの作品を観てはいない。

 梨絵さんを初めて観たのは、藤田敏八監督が初のロマンポルノのメガホンをとった「八月はエロスの匂い」に続く2作目「エロスの誘惑』('72)だった。吹きだまりの倉庫街に集まる冴えない男女の、虚無的日常と性を淡々と描いていた。ちなみに、翌年に作られた同監督の「エロスは甘き香り」は、桃井かおりの唯一のロマンポルノです。

 梨絵さんの作品で一番忘れられないのが、神代辰巳監督の「恋人たちは濡れた」('73)。この映画はロマンポルノという枠を外して、70年代を浮遊する若者の心象をとらえた青春映画の傑作と云いたい。70年代のはじめ、学生運動の挫折から生み出された“無気力”“無感動”なシラケ世代の姿を見事に映しだしている。
 海沿いの田舎町で、映画館のフィルム運びをしている若者がいる。故郷であるこの街で誰も彼の過去を知らないのだが、なにかしらに傷ついて町に帰ってき たらしいことが伺える。過去も未来もなく意味のある行動も何も無いこの男は、ただヘラヘラと薄笑いを浮かべながら、自分の存在を否定しながら生きている のだ。その男が、同じ匂いを持つ女・洋子(中川梨絵)に恋をし始め、ある日、「人を殺してきた」と打ち明けた瞬間、いままで自己否定してきた男の存在理由が肯定されることになり、全てが終わる。自転車の二人 乗りの最中に、路地から出てきた男のドスに刺され、女とともに海に沈んでいくラストシーンは、アメリカンニューシネマの如く鮮烈な終幕であった。
 この映画の中で印象的なのは、砂浜で全裸の男女3人が延々と馬跳びをするシーン。これは目的のない、意味のない行動をし続ける若者たちの心象をとらえたもので、この後作られた神代監督の傑作「青春の蹉跌」('74)で、ショーケンに「エンヤ~トット、エンヤ~トット」と呟かせるシーンとともに、カッタるい日 常をイメージさせる名シーンであった。

 さてもう1作品、神代監督で作られたのがマルキ・ド・サドを翻案した「女地獄・森は濡れた」('73)。これは、またまた警視 庁の標的となり上映中止にされた曰くがあるが、現在はDVD で一般発売(成人指定)されている。

 梨絵さんが出演したロマンポルノは12~3本で、その中で代表作と云われているのが田中登監督の「女郎責め地獄」('73)。タイトルからSM映画 を連想させるが、まったく違い、映像美にあふれた時代劇だった。彼女と関係した男は次々と死んでいくことから“死神おせん”と呼ばれている女郎を中心にした郭話で、美しさと妖しさを生身の人間らしく演じた梨絵さんの最高に魅力あふれた作品だ。

 このあと、大和屋竺監督の「愛欲の罠~朝日のようにさわやかに」('73)にゲスト出演(白痴の娼婦役)したあと、とっておきの時代劇がある。
 ATG作品の黒木和雄監督「竜馬暗殺」('74)だ。
 原田芳雄の坂本竜馬、石橋蓮司の中岡慎太郎で、暗殺される最後の3日間をモノクロ映像で描いた作品。これも先の神代作品と同じように、終わってしまった60年安保から、70年代の虚無感を染み込ませた斬新な竜馬映画だった。とにかく男たちがカッコ悪いのだ。
 梨絵さんの役は、竜馬が隠れている蔵の隣にいる女郎・幡。ケラケラ笑ってばかりいる女郎だが、美しさは絶品。印象的なのが、竜馬、中岡そして松田優作が扮する幡の弟で勤王のテロリスト右太らと記念写真を撮っているシーンと、そのあとに映る彼女の表情です。

 その後は、東映の任侠ものや松竹の喜劇に出演するのだが、次第にスクリーンから消えてしまった。そして1985年、突然スクリーンに姿を現したのが、相米真二監督の唯一のロマンポルノ「ラブホテル」であった。これは石井隆の脚本で、ヨコハマ映画祭で作品賞・監督賞・脚本賞・主演男優賞・新人女優賞を獲った石井隆の世界の最高作品だ。石井隆ならではの名美と村木のメロドラマで、梨絵さんの役は名美の不倫相手であるアパレルオーナーの妻。名美を追いかけ回す少しヒステリックでコミカルな演技をしていた。

 いま現在、同時代に活躍した白川和子や絵沢萠子、山口美也子、宮下順子、風祭ゆき、岡本麗らがしっかりと映画やドラマを支えているのだ。梨絵さんがまた、このまま消えてしまうのではあまりにもったいないと思うのだが……。


スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/22-e5ed35d7
「乱れ雲」~小技が冴える演出
1967年監督/成瀬巳喜男出演/司葉子 加山雄三 加東大介 森光子   浜美枝 草笛光子 土屋嘉男 中丸忠雄アメリカ栄転間近の夫を交通事故で失った由美子は、婚家から縁を切られ十和田湖の畔にある実家の旅館に身を寄せることになった。そこで、青森に左遷されフィア...
カッコイイ怪しげな男と全然そんなことはない怪しげな男と
http://www.tobunken.com/news/news20110725204427.html 怪しかった男 【訃報 原田芳雄】 死にざまのいい人だったと思う。 もちろん、映画の中での話だ。 『田園に死す』(74)では、風来坊のような男...