TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「嫌われ松子の一生」



監督:中島哲也
原作:山田宗樹
脚本:中島哲也
出演:中谷美紀、瑛太、伊勢谷友介、香川照之、市川実日子、黒沢あすか、柄本明

☆☆☆☆★ 2006年/東宝/130分

    ◇

 映像クリエイター中島哲也監督が、『下妻物語』につづいて凄い作品を魅せてくれます。

 山田宗樹の原作は、川尻松子というひとりの才媛な女性が徹底的に堕ちていく様が描かれていく。読んだひとりひとりの頭のなかには正統派過ぎるほどにイメージできる転落劇なのだ。
 だからそんな三面記事的ストーリーをリアルにドラマ化しても、現実社会での多くの“事実は小説よりも奇なり”な事件の前ではちっともドラマティックなものではない。

 そこで中島哲也監督は、その波乱万丈な女の人生をジェットコースターのごとく疾走させ、ハイテンションな位置に松子を据えた。
 歌ものの音楽を多用し、ミュージカルシーンの挿入でテンポよく画面を切り替えていく。
 ヴィヴィッドな色彩とスピード感でエンターテインメントな世界に松子を放り込むことで逆に、創りものの主人公がリアルな人間としてスクリーンのなかを躍動し、それが素晴らしく魅力的なものになっている。
 
 中島哲也監督は、豊川悦司vs山崎努のサッポロ黒ラベルや木村拓哉でミュージカル風なJRA、SMAPガッチャマンのNTT東日本、Smap Short Filmsでの『ROLLING BOMBER SPECIAL』などを見ればわかるように確固たる作風を持っている映像作家で、テレビドラマ『私立探偵濱マイク』の第9話「ミスターニッポン」でも独特の映像の世界観を表現していた。
 たしかに広告クリエイターは、凝った映像イメージばかりが先行するきらいがある。
 しかし『下妻物語』では、そのビジュアル的映像美の世界のなかでしっかりと人間観察が出来上がり、ロリータファッションの少女とヤンキー娘の友情がきっちりと描かれていた。ラストの痛快さは鮮烈だった。

 今回はその『下妻物語』以上の膨大な映像カットに目を見張る。CGとアニメで溢れる過剰なまでの絢爛豪華さ。そしてファンタジーな世界のなかでは物語性をなるべく排除することで、松子の人生をリアルに創りあげている。

 ストーリーはほぼ原作通りに展開し、数々のエピソードもカットなしの台本になっている。
 原作の半分を使って描かれる教師時代とトルコ嬢時代、そして刑務所時代のエピソードを見事なまでに音楽と映像のコラージュで彩り、その中で登場人物の言葉や行動のひとつひとつに切なさや優しさを味つけていくので、創りものに溢れ可笑しく笑ったあとでも、グッとくる瞬間が用意されているのだ。
 ミュージカルシーンが多かったり、数々の小ネタやキャスティングした芸人らを見て笑えるシーンもあるのだが、コメディではない。
 不思議と心打たれるシーンが多い。余韻に浸れる場面が多い。

 松子自身の人生観の欠如から始まる流転も、もとをただせば愛情の渇望。それを求めるために、松子は何に対しても常に一生懸命に生きている。
 人に尽くすことで自分のアイデンティティを確保しつづけるのだが、結局、いつも自分の帰る場所を無くすばかり。ひとりぼっちの部屋に「ただいま」と話し掛ける松子は、「おかえり」の言葉を待っている。
 
 小さなショートケーキを前に、ひとりで「誕生日おめでとう」と祝う切なさ。
 そして、「生まれてすみません」と壁に殴り書くほどに追い詰められてしまう松子。

 愛されたい、必要とされたい、と願う松子の思いは、ラストの魂の滑空で鮮烈に観客の心を揺さぶる。
 このパラグライダーによる空撮の美しさと、柄本明と香川照之の笑顔には胸詰まるものがある。
 素晴らしい。

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