TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「死ぬにはまだ早い」*西村潔監督作品

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監督:西村潔
原作:菊村到『閉じ込められて』
脚本:石松愛弘、小寺朝
出演:黒沢年男、高橋幸治、緑魔子、小栗一也、若宮大佑、草野大悟

☆☆☆☆ 1969年/東宝/83分

      ◆        ◆

 60年代後半から70年代にかけ加山雄三や黒沢年男を主演においた東宝ニュー・アクション映画が製作され、これは西村潔の監督第一作目にしてそのシャープな感覚が見事に結実している最高傑作である。

 東京近郊のドライブインの一室だけで繰り広げられる密室劇で、閉じ込められた人々の人間性が剥き出しになるハードボイルドなサスペンス。映像的効果の音楽は一切使われずに、流れるのは劇中音としてカーステレオやジュークボックスの歌謡曲だけ。流行歌はひどく日本的な趣にはなるが、全体のトーンはフランス映画の粋さだろうか。ラストへ向かって集結される伏線の張り方も巧い。

 冒頭の高橋幸治と緑魔子のベッドシーンは、時折挿入されるカーレースシーンからジャン・ルイ・トランティニアンとアヌーク・エーメの『男と女』の情事を想像させる。
 かつて名レーサーと呼ばれ今はアクセサリー・ショップを経営する男(高橋幸治)と、平凡な結婚生活に収まっている元ファッション・モデルの女(緑魔子)の逢い引きも、私生活での倦怠を埋め合わせるには至らないほど空虚な男と女。東京へ帰る車中のラジオからは殺人犯の男のニュース。カセットからは越路吹雪の歌が流れてくる。会話はとてもクールだ。
 警察の非常検問を通りながら、二人がドライブイン『エンプティ』に入るのが深夜11時を少し過ぎたころ。開巻10分を過ぎ、このあと映画は長廻しが多用される室内劇としてリアルタイムに近い感じで進む。
 
 店内にいたのはマスター(小栗一也)の他に、常連の中年医師(若宮大佑)、新婚の男女、ジュークボックスの音楽に合わせて踊るフーテン娘がふたり、顔色の悪いタクシー運転手とカウンター奥でマッチ棒を積み上げている男(草野大悟)の8人。

 突然若い男(黒沢年男)が飛び込んでくる。高橋幸治に「ひとりか?」と聞きながら誰かを探しているようだ。若い男は見回りにきた警官を突然撃ち殺すことで、ドライブインを狂気の空間に一変させる。
 若い男は浮気をした恋人を撃ち殺して来たと云う。恋人の洋子が浮気相手と11時半にこのドライブインで待ち合わせをしたのを知り、その相手をも殺しに来たのだ。

 この映画の中で唯一、殺された恋人だけが洋子という名前で呼ばれ、出演者に名前はない。狂気の空間のなかで生死の自由がない人々には、人間性だけが浮き彫りになり個々の名前など必要はないのだ。
 また、外部の警官隊の描写は排除されている。急病になったタクシー運転手を外に運び出し、手伝った男たちがまた引き返してくる。警察との打ち合わせなりが出来るだろう事柄も一切ない。
 閉じ込められた10人の濃密な時間だけを描く事で、結末を想像させない緊迫感あふれるサスペンスとなっている。

 この作品はビデオ商品化もされていない。西村監督の次作『白昼の襲撃』や、『狙撃』など東宝ニューアクション映画のDVD化をぜひとも願うのです。
 こんな傑作を埋もれたままにしちゃマズイでしょ。

    ☆    ☆

 ギラギラと狂気に上り詰める様の黒沢年男がいい。
 11時半よりも早くやって来たことで殺す相手がいないと知ったあと、ジュークボックスに寄り掛かる姿をロングで撮らえたカメラからは虚無感がいっぱいだ。ジュークボックスから流れる森進一の『花と蝶』が異質で、そのあと狂暴化する彼はサディスティックに一人ひとりに激情をぶちまける。

 中年の医者には新婚の女を犯せと強要し、新婚の男にはその復讐をけしかける。クールに事態を見つめていた高橋幸治の目の前では緑魔子に裸になれと命じる。

 そして修羅場に転じた密室に一発の銃声が響く。

 カウンター奥でマッチ棒を積み上げていた草野大悟の手に拳銃。黒沢年男の胸には鮮血。「いい加減にしときなっ」黒沢年男の胸に一発二発三発と銃弾を打ち込むと、カメラが一気に俯瞰になるこのシーンは強烈だ。

 連続警官殺しで指名手配犯の草野大悟。ラジオニュースにしろ検問にしろ、観客へのトラップが見事に冴える。
 事件のあと、三々五々と散る人質たち。ドライブインの前に一台のスポーツカーが停まり、何かあったのかと男が訪ねる。
 「ちっ、せっかく今晩がチャンスだったのになぁ。ツイてねえや」と立ち去る中山仁(出演者としてクレジットされていない)。「運のいい奴もいるもんだ」とマスターの独り言。
 車の助手席に座る緑魔子の顔がブレ、ストップモーションで終わる。


※初見は1974年。池袋文芸座地下の『東宝ニューアクション映画・オールナイト5本立て』にて鑑賞。

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