TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「うしろ姿」志水辰夫



 7編の人生が詰まっている短編集。
 志水辰夫の短編はいつも長篇ドラマの一部分を読んでいるかのようで、文字として書かれていない登場人物の過去や未来の人生までが読者の脳裏にくっきりと浮かんでくる。
 叙情感あふれるその文体が“シミタツ節”と云われ、この短編集でもいかんなく“シミタツ節”に浸ることができる。

 『人生の終着が見えたとき、人は何を思うか。人の弱さや哀しさ、たくましさを独特の筆致で描き切る』(惹句より)

 初老の逃亡者が人生を振り返る『トマト』は、ハードボイルドな展開のなかに男が関わってきた人間たちとの惜別が描かれる。
 不肖息子が母親のために、父親が借した金を取り戻す『香典』は、母と息子が父親の通夜の日にそっと語り合うラストに胸がつまる。
 『もう来ない』は、16歳で母親を亡くし故郷を捨てた娘が水商売をしながら子を育て、亡くなった母親の年になった頃に故郷の遺骨を引き取りに来る。二度と戻らない地で、わずかな温もりに触れて去る人生。
 危篤状態の姉を見舞いに来た弟の回想から姉弟が共有する過去が浮き彫りになる『ひょーぅ!』。“ことばで伝えられるものなど、ほんのわずかしかない”と突き放しながら、過酷だった人生のただ中に読者は放り込まれる。

  人生を生きていくなかで忘れたいもの、忘れなくてはいけないもの、避けられない哀しみや決断、郷愁と決別、それらが映画のワンシーンのような情景として差し出される珠玉の作品集です。

 あとがきに『この手の作品はこれが最後になります。』と著者の言葉がある。
 これまでに何度となく作風を変えてきた志水辰夫だが、氏と一緒に歩んで来た読者は新しい“シミタツ節”を待ってます。

うしろ姿/志水辰夫
【文藝春秋】
定価 1,600円(税別)

スポンサーサイト

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/164-dae247a8