TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

12人の優しい日本人



 日本に陪審制度があったら?そんな仮定のもとに、映画『12人の怒れる男」(シドニー・ルメット監督)のパロディーとして東京サンシャインボーイズが1990年に初演した戯曲で、パルコプロデュースとしては1992年以来の上演(初演からは再々々演になる)。1991年には中原俊監督によって映画化され三谷幸喜の名前が巷に広まった作品でもあり、劇団からはオリジナル・キャストの梶原善、相島一之らの映画デビューでもあった。

 とにかく今までにも増して厳しいチケット争奪戦だったこの舞台。東京公演の先行予約はすべて玉砕。しかし何という奇跡! 大阪公演の主催者先行予約で前から6列目というベストポジションを手に入れた。神に感謝……なんて大げさなことを云いたいくらい、三谷幸喜の舞台はいつもプラチナチケットなのだ。(1月20日観劇)

    ☆    ☆    ☆

 日本でも陪審制度が現実になってきた現代だが、日本人は議論をすることに馴れていないといわれている。そんな人間たちが審議など出来るのだろうか?
 この作品では、その口べたやら理論立てて話せない人たちと議論好きな者たちとの激しい言葉のバトルにより、情や理論に揺れる人間の悲喜が笑いとともに描き出されていく。

 自分勝手な意見ばかり云う人、人の意見にコロコロと影響される人、優柔不断な人、ひとの意見を一切受け付けない人、人情に弱い人……この“優しい”日本人たちからは、止めどない笑いしか生まれてこない。
 最高の法廷劇は、最高の会話劇であり、最高の喜劇だ。(不満がないでもないが、それはネタバレで………)
 
 舞台は一幕。登場した12人が、扉の向こう側から入ってきた瞬間から最後まで、ひとりとして舞台をおりることがない。熱く議論を交わしている者だけではなく、周りにいる全員から目を離せない。12人全員に観客の目や耳が注がれるから、役者たちの緊張感は計り知れないだろう。役者全員の言葉の格闘技と緊張感の維持が、観客にとってのこの舞台の大いなる魅力となっている。それは12人が退場するまで、一切の音楽や効果音が使われていないことに気づかないほどにである。

Gentle 12
◆脚本・演出:三谷幸喜
◆出演:浅野和之、生瀬勝久、伊藤正之、筒井道隆、石田ゆり子、堀部圭亮、温水洋一、鈴木砂羽、小日向文世、堀内敬子、江口洋介、山寺宏一(陪審員番号順)
◆公演:東京/2005年11月30日(水)~12月30日(金) PARCO劇場
    大阪/2006年1月6日(金)~29日(日) シアター・ドラマシティ

★千秋楽前日の1月28日(日)pm19:00~ WOWOWにて生中継

◆以下、ネタバレがいっぱいなので未見の方はご注意を。

 会場の暗転なしに突然正面のドアが開けられ、陪審員1号につづいてゾロゾロと全員が入ってくる。
 舞台には大きな丸テーブルが置かれているのだが、芝居が始まる前から気になることがあった。一番手前の椅子がひとつだけ小さいのだ。子供用なんてものではなく、観葉植物でも乗せるようなインテリア的な椅子で、当然、そこで起きるだろう笑いは想像できる。だから陪審員7号(温水洋一)の想像以上の動きに思わず大笑いはしたものの、彼の頻繁な動作がつづく中、他の役者たちの芝居は何ごともなく続いていくのだから、温水洋一の笑いで他の台詞が聞き取りにくいという現象が起きる。何の説明もなく意味もない小道具での笑いって、三谷さんらしくないような気がする。

陪審員1号(初演~再々演:小原雅人~甲本雅裕 映画版:塩見三省)
 浅野和之
 12人の中で一番常識人のタイプ。浅野和之はお得意の身体の柔らかさを披露。

陪審員2号(初演~再々演:相島一之 映画版:相島一之)
 生瀬勝久 
 台詞が一番多いエキセントリックな生瀬勝久は、良く通る力強い声で熱弁する姿が後半から実に愛らしくなってくる。上手いなぁ。

陪審員3号(初演~再々演:阿南健治~小林隆 映画版:上田耕一)
 伊藤正之 
 黙々と甘栗を剥きつづけ地味~に演じている。それにしてもあの大きなプリンアラモードには驚く。フルーツ類はほとんど平らげていたようなので、毎日の舞台を考えると役者も命がけ。今ではこの人が状況劇場出身とは思えない。

陪審員4号(初演~再々演:小林隆~阿南健治 映画版:二瓶鮫一)
 筒井道隆 
 ボ~っとしながらも、納得いかないものには頑として自説を曲げない。なんとな~く最期まで無罪を主張してしまっている、って役柄は筒井道隆ならではだろう。

陪審員5号(初演~再々演:かんみほこ~岡崎淑子 映画版:中川まり子)
 石田ゆり子 
 メモ魔のオールドミスって感じは悪くなかったが、いかんせん声の通りが悪くて聴きづらい。テレビや映画だけに出ている俳優と舞台役者の違いが明白。

陪審員6号(初演~再々演:一橋壮太郎~近藤芳正 映画版:大河内浩)
 堀部圭亮 
 真剣さに欠けるサラリーマンにはピッタリ。笑いのネタは『愛知万博』のマンモスネタと、バナナジュースの連呼。そして彼が暇つぶしに書く似顔絵は「姉歯氏」。これは毎回違った似顔絵で、ほかにも「小嶋進(ヒューザー)」や大阪ならではの「キダタロー」。東京公演では「岸部シロー」「鈴木宗男」になっていたらしい。

陪審員7号(初演~再々演:梶原善 映画版:梶原善)
 温水洋一 
 テレビでのオドオドしたヌクちゃんしか知らないのだが、前半ひとりで舞台を雑ぜっ返している。例のイスの笑いから、ひとの話への割り込みと、とにかくウザったい。もちろん、これは三谷幸喜の「観客から嫌われるくらいのキャラ」という演出の下でのことだろうが、とにかくウルサくてイライラしてくるのだ(笑)。

陪審員8号(初演~再々演:斉藤清子 映画版:山下容莉枝)
 鈴木砂羽 
 『新選組!』の明里や『相棒』の美和子もいいが、コメディエンヌの才能もバッチリな、こんなキュートな女性も素敵だ。

陪審員9号(初演~再々演:西村雅彦 映画版:村松克巳)
 小日向文世 
 いつもニコニコと温厚な役と違い、議論好きの切れ者。テレビでもたまに演じるサディスティックでクールなコヒさんも好きだ。

陪審員10号(初演~再々演:宮地雅子 映画版:林美智子)
 堀内敬子 
 映画『THE 有頂天ホテル』で初めて知った女優だったが、巧いです。口ベタなおばさんの役だが、どこかしら沢口靖子を思わせるところもあり、優柔不断さも可愛い。

陪審員11号(初演~再々演:野仲功 映画版:豊川悦司)
 江口洋介 
 台詞まわしが時々心もとない箇所もあったが、初舞台にしては中々キマっていた。格好いいはずの彼が、この12人の中に入ると華がなく見えたのは、役柄として成功だったのかな。

陪審員12号(初演~再々演:伊藤俊人 映画版:加藤善博)
 山寺宏一
 ヤマちゃんの、仕切りたがりで目立ちたがりの変幻自在ぶりはサスガ。

 カーテンコールは3回。客電が明るくなっても鳴り止まない拍手に応えた3度目は、客席全員のスタンディング・オベーションだった。そして、浅野和之が江口洋介の手を取りながらふたりで両の扉を閉じて、至福の時間は終わった。
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