TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

心の砕ける音

 北陸の小さな港町を舞台に、性格の対照的な兄弟がひとりの女に翻弄されていく……。

 トマス・H・クックの原作を元にトリックや意外な犯人など登場しないこのドラマは、人間の奥深く潜む業を緻密に描くことでリアルな人物像を創りだし、日本的風土を背景にこころの襞に眠る孤独と哀しみを優しく描いた鄭義信の脚本と佐々部清の演出で、一級のミステリードラマに仕上っている。

 妻子ある弟・耕介(吉岡秀隆)は、控えめで実直だが心の奥底には孤独感を持って生活をしている。兄の洋介(香川照之)は、陽気で情熱家だが刹那的な愛しか知らない。そのふたりの前にふらりと現れた水原早紀(鈴木京香)という女は、自分を語りたがらない謎めいた女性。家財道具が何もなく、持ってきた赤いスーツケースひとつ、ぽつんと置いてある寒々しい早紀の部屋を見たふたりは唖然とし、洋介はその影のある部分に惚れてしまう。兄のために奔走する耕介も次第に、早紀に対して同じ寂しさや孤独の匂いを嗅ぎとっていくことになる。

 ありふれた日常が過ぎていく中で、静かに恋慕の炎が燃えていく様を複雑な心の機微として演じる吉岡クンはまさに“はまり役”。同じように、京香さんのファム・ファタールぶりも彼女以外には考えられない。だから、吉岡くんと京香さんのラヴシーンのなんと官能的なことか。
 早紀の家で扉を挟んで耕介が胸の内をぶつけるシーンも、 男と女の孤独と切なさで狂おしくなる。

 「ぼくの心が骨で出来ていたら、心の砕ける音がしただろう」

 なんて切ない言葉だろう。
 言葉にならない寂しさを抱えたもの同士、寄り添うことはできても報われることはない。
 さよならを云うための探求の旅路の果ては、哀しみへの共感として、見るもののこころに深く静かな余韻を残していく。

 「さよなら」を云えば、もう二度と会えないとわかっている。
 最後の瞬間(とき)を終えたあと、またいつもの日常に戻っていくふたりの後姿は、以前とは確実に変わったはず。
 ふたたび繰り返されていく日々にも、ふたりのラストシーンは明るい。

  ★        ★

 香川&吉岡に絡む女として3人のベテラン女優が出てくるのだが、これが皆さんいいです。危うい男たちと、しっかり地に足をつけた女性たち(アル中弁護士がいますが)という図式だろうか。

 真夏に白いロングコートの水原早紀が現れるオープニングは、同じトマス・H・クック原作のドラマ「緋色の記憶」を思い出し、また、その脚本を書いた野 沢尚の「青い鳥」をも連想するくらい、《運命の女》にお似合いな登場シーンだった。


原作:トマス・H・クック
脚本:鄭義信
監督:佐々部清
出演:吉岡秀隆、鈴木京香、香川照之、鶴田真由、池内博之
   銀粉蝶、絵沢萌子、山口美也子

☆☆☆☆ 2005年2月20日放送/WOWOW/110分

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