TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

GONIN サーガ[ディレクターズ・ロングバージョン]


 『GONIN』(’95)の真正続編として、19年という年を経て生み堕とされた『GONIN サーガ』のディレクターズ・ロングバージョン Blu-ray BOXに興奮している。
 
 過酷で知られる石井隆ワールドの現場に若い俳優陣たちが挑み、血みどろの足跡を刻印した『GONIN サーガ』は、引退を表明した根津甚八の魂の演技の記録ともなり、連綿と連なる『GONIN』ファンの期待を大きく上回るピカレスクロマンとして劇場公開を終えたのだが、石井隆作品はヒットになかなか結びつかないのが現実で、映画はまたしても不入りだった。
 ある意味石井映画の不遇は想定済みだが、この作品が永くこころに残る稀代の傑作だということは間違いなく、小さな劇場での上映が相応しいと思っているファンとしては、少しでも語り継いでゆくのが努めだろう。
 その語りに恰好なのが、新たに衣を重ね差し出されたこのBOX。ふたたび体感し、目撃する喜び、どれもこれも感慨一入(ひとしお)なものである。

 本編ディスク1は、劇場版より40分長尺(169分)のディレクターズ・ロングバージョン。
 続編としての本作は、前作を見ていない新しい観客(特に若い俳優陣の女性ファンなど)への説明がある程度必要なうえ、ストーリーは単純だが細部に関わる登場人物が多いため、それぞれの情報量がかなり多い。それに加え、シネコンでの上映時間の制約で細かなカットを強いられたのは明白だったので、今回のロングバージョンで如何に石井監督の意向反映がなされるのか愉しみであった。
 ひと言で云って、期待に応えてくれたバージョンになっている。
 特に、石井ワールドを絢爛と彩る女たちの描写には顕著な増量があり、土屋アンナと福島リラのシーンでのアンナの表情の豊かさや、井上晴美の母として女としての仕草と表情の艶やかさを再発見できる。
 ほかにも、ヤミ金受付嬢(屋敷紘子)や氷頭が入院している病院の看護婦(高尾祥子)への肉付けなど、登場人物としての意味付けも完成したように見える。

 本編ディスク2は劇場版本編・特報/予告編が納められ、オーディオコメンタリー(東出昌大、柄本佑、竹中直人、石井隆監督、佐々木原保志カメラマン)と、audio仕様にDTS HEADPHONE:Xなるものを設定できるようになっている。
 オーディオコメンタリーでは、監督が『フリーズ・ミー』における井上晴美に言及しているのが嬉しい。哀しみの稲光りに消えた石井ワールドのイコンが今回、アクアリウムに儚く消えるところから大きくドラマが動き出すわけだが、そこまでの(本編ではほんの前半)井上晴美の存在感を以てすれば、今後も石井ワールドを彩る重要な女優であることは間違いないだろう。
 DTS HEADPHONE:Xはヘッドフォンでマルチサラウンドを体感できる仕様で、思っていた以上に雨の音響が素晴らしい。彼らと同じ土砂降りの雨の中に立っているような臨場感あふれる優れもので、凄いのひと言。これはひとりで、じっくりとヘッドフィンで愉しむに限る。

 ディスク3はメイキング映像(153分/スタッフバージョンのオーディオコメンタリー収録)に、各地のイベント映像(51分)と日本映画専門チャンネル用に製作されたミニ特別番組(15分)が納められている。
 時系列で構成された膨大なメイキング映像では、特に、スタジオの中に再現されたクラブ〝バーズ〟の巨大セットで行われた、雨と血しぶきの過酷な撮影現場に感動を覚える。
 本編はもちろん、ディレクターズ・ロングバージョンでも見ることができない〝それぞれの家族たちのワルツ〟は涙腺を刺激するものだし、そのあとにくる佐藤浩市と根津甚八氏の絡みにも涙……劇場であれだけ感涙したのに、またここでも泣きっぱなしとなる。
 俳優・スタッフたちの、まさに狂気とも言える姿勢には、ドラマ1本を鑑賞したに等しい感動を味わうことができ、3種類の『GONINサーガ』という素晴らしいものを見せてもらった。

GONIN-BOX_soundtrack-cd.jpg

 初回BOXには、サウンドトラックCDが限定特典として納められている。
 例えば『仁義なき戦い』のテーマ曲が映画の総てを想起させるものであるように、安川午朗が手掛けた『GONIN』の音楽も物語を彩る圧倒的なテーマとして映画史に残るもの。
 前作『GONIN』のサントラ盤が廃盤であることから、『GONIN サーガ』公開後からサントラ盤を待ち望むファンが多くいただけに、今回のCDは嬉しいプレゼントとなっているのだが、ひとつ、久松親子のテーマとなるピアノ曲が納められていないのが、とても好きなサウンドだけに惜しい。

GONIN-BOX_IshiiTakashi.jpg

 ブックレットの充実も半端ない。脚本家港岳彦と作家桜庭一樹との対談は読み応え十分に、音楽担当の安川午朗インタビューはかなり珍しいもので、石井隆監督の特別寄稿「少女からの手紙」は相変わらず作品に傾けた熱量の昇華に戸惑っている様子が窺え面白い。

★手を携える者が舞い降りた~GONIN サーガ★


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Comment

さすらい日乗 says... "一度だけ会ったことがあります"
学生時代に、「早稲田大学映画研究会に入りたい」として石井さんが来ました。1966年の秋で、私はすでに演劇研究会にいたのですが、たまたま遊びに行った日に、彼が来たのです。
彼曰く、「今までいたシナリオ研究会が革マルのものになったので嫌で来た」とのことでした。
当時、すでにピンク映画のカメラマンをしているとのことでした。

親父臭い感じの人でしたが、同期の金子裕の話では、
彼は非常に暗いかなり異常な趣味(死体写真の収集など)の人間だとのことです。
2016.08.04 08:33 | URL | #o/PXu/q6 [edit]
GROTTA // Birds // Rouge says... "母を描く映画になってますね"
「石井ワールドを絢爛と彩る女たちの描写には顕著な増量があり、表情の豊かさや、母として女としての仕草と表情の艶やかさを再発見できる。登場人物としての意味付けも完成したように見える」というところは、まさにその通りですね。石井ワールド好きの人にはいつか機会をみつけてDISC1を目撃してもらいたいです。

上の方のコメントですが、わたし達がこれまで聞いた話と少し食い違いがありますね。石井監督は当初から早稲田の映画研究会に入るために(!)進学したはずですから、他のサークルは経由されなかったのじゃなかったかしらん。

それに学生時代に自主映画を作ろうとしたけれどクランクイン当日に女優さんの都合で流れちゃったりした話、とても有名だし、自分らしい映像(動画)を撮ったのはかなり後、シナリオライターとして人気を得てから「イメージフォーラム」誌の企画に乗ってビデオを回したはずだから、学生時分に映画カメラマンをしているという点も含め、きっと誰か別の方の話と混同されておられるのじゃないかしらん。(違ってたらごめんなさいね)

石井監督の世界の根底には、ルーベンスやゴヤなんかの西洋絵画や芳年や彦造なんかの日本のリアルな絵が大量にあって、それらの収集はよく知られたところなんだけど、なかに心揺さぶる死者の像がまぎれていても可笑しなところはないと思うし、異常な趣味という括りかたはちょっと可哀想とも思ったりいたします。

私個人としても「ライフ」写真集を時どき開き、Robert Wilesが1947年に撮ったThe Most Beautiful Suicideなんかを観て、あれこれ考えたりもするもんな。人間の存在ってほんとうに儚く、一瞬のまたたきですよね。石井ワールドってそういう誰もが抱える淋しさを基調としているように思います。
2016.10.09 19:23 | URL | #SFo5/nok [edit]
さすらい日乗 says... "多分、間違いないと思いますが"
石井隆さんとは1回しか会ったことはなく、1966年の秋、その時に「シナリオ研究会にいたが、完全に革マルのものになったので、嫌で来た」と言っていました。
当時、ピンクのカメラマンをやっていると言っていました。勿論、アルバイトとしてで、自分のものではありません。
2016.11.02 22:17 | URL | #o/PXu/q6 [edit]

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