TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

手を携える者が舞い降りた★「GONIN サーガ」*石井隆監督作品

GONIN-saga_ps.jpg

監督:石井隆
脚本:石井隆
撮影:佐々木原保志
編集:石井隆、阿知波孝
音楽:安川午朗
挿入歌:「紅い花」ちあきなおみ、「ラスト・ワルツ」森田童子、「rose」土屋アンナ
出演:東出昌大、桐谷健太、土屋アンナ、柄本佑、安藤政信、井上晴美、りりィ、松本若菜、屋敷紘子、間宮夕貴、飯島大介、菅田俊、伊藤洋三郎、福島リラ、テリー伊藤 / 竹中直人、根津甚八、鶴見辰吾、佐藤浩市(特別出演)

☆☆☆☆ 2015年/KADOKAWA、ファムファタル/129分

    ◇ 

 ~手を携える者の 魂の滑空 すべては元に立ち返る運命~

 〝名美と村木〟を幹として純愛と性愛を描いてきた石井隆が、もう片方で進行させてきたピカレスクロマンの世界。
 劇画時代でいえば【パイソン・シリーズ】【黒の天使シリーズ】【曼珠沙華】など女ヒットマンを主題にしたものと、映画に移り葉月里緒菜と天海裕希の『黒の天使』2作や〝名美と村木の物語〟として夏川結衣の『夜がまた来る』、サイコパスなヒロインを登場させた川上麻衣子の『赤い閃光』も、井上晴美の『フリーズ・ミー』もしっかりとハードボイルドな作品であった。
 そんななかで、1995年に男だらけのバイオレンス・アクション『GONIN』を撮りあげた。公開当初の興行はおもわしくなかったが、のちに監督の代表作となったのも必然の流れであり、国内のみならず海外においても評価が高まった作品だ。

 『GONIN サーガ』は、数奇な運命を背負った5人の男たちはもとより、死闘のなかで命を落とした遺族たちへのレクイエムとなる19年ぶりの真正続編となる。

 五人組による、暴力団五誠会系大越組襲撃事件から19年。大越組の若頭・久松(鶴見辰吾)の遺児である勇人(東出昌大)は母・安恵(井上晴美)を支えながら真っ当な人生を歩み、勇人の幼馴染で大越組組長の遺児・大輔(桐谷健太)は壊滅した大越組再興の夢を抱きながら、五誠会三代目の誠司(安藤政信)のボディーガードをしていた。元アイドル歌手の麻美(土屋アンナ)はあるネタを元に五誠会に囲われているが、なんとか逃れたいと呪う日々を送っていた。
 ある日、19年前の事件を追う富田(柄本佑)と名乗るルポライターが安恵を訪ねてきたことから、遺された者たちの人生が大きく歪みだすのだった…。

    ◇

 2010年に病気で引退を表明した根津甚八が〝1度限り〟の俳優復帰となる作品でもあり、発表になったときの根津氏のコメントや、石井監督との出演経緯を読んだときには涙を禁じえなかった。
 〝役者〟であった根津甚八……右目下直筋肥大という俳優にとって致命的でもある病状を、石井監督は根津甚八でしか成り立たない設定でホンを書き、渾身の演出で根津甚八という〝役者〟を復活させている。
 邦画史に残る〝GONIN〟の蘇りは演者と監督との信頼関係があり、スクリーンの中におけるふたりの死闘には狂気さえも感じさせる凄まじいもので、根津甚八の演技に圧倒されるのだった。

gonin-saga_nez.jpg (C)2015「GONINサーガ」製作委員会

 映画の冒頭、カセットテープからちあきなおみの「紅い花」が流れる。
 嗚呼、こうして始まるのか…やっぱり、ここから始まるしかないよな、と感慨を覚えての涙モノである。
 『GONIN』のアイコンと云えるこの曲は、万代(佐藤浩市)の悪魔の囁きによって家族を冥界に差し出す結果に陥った氷頭の、妻・早紀(永島暎子)との唯一の繋がりであり、『GONIN』に通底した血と硝煙の無慈悲を浄化するメロディとして、いつ、どこで流れてこようと、自然と涙が滲んでくる。

 その「紅い花」と同じように、今回の『GONIN サーガ』のアイコンとなる曲が、白いホリゾントと松本若菜が着用する真っ白なウェディングドレスを鮮血に染めるクライマックスに流れる森田童子の「ラスト・ワルツ」。
 優雅な調べで亡霊を導き、“死”と“血脈”を抱擁するためのプレリュードとなる。
 『夜がまた来る』のカスタネット音と明け空を飛翔する3羽の念いが『GONIN』に移行し、永き瞬間〈とき〉をくぐり『GONIN サーガ』に舞い降りてくるのには相応しい楽曲ではないか。

 石井美学の象徴である雨を屋内に降らせ、凄惨で血みどろながら綺羅綺羅輝く舞台には冥界と現世を漂ってきた言霊が渦巻き、息絶え絶えの漂流者には優しき声の囁きと手を携える死して歳を重ねた主が出現する。
 その一瞬、「ラスト・ワルツ」を終えた〝レコード盤〟からブチッブチッと聴こえる針音が、麻美の鼓動と連動…驚喜!
 そこに居るのは、まさしく名美…土屋〝アンナ〟名美である。
 
 麻美と名美をダブらせるシーンは何もエンディングばかりではなく、墓石のように林立するビルの谷間から、奈落にいる大輔に女ヒットマン余市(福島リラ)のスマホで連絡を入れる麻美の仰ぎ見に、劇画【象牙の悪魔/第三話イリュージョン】(’84)の扉絵を思い出すのも石井ワールドの楽しみ方である

GONINsaga-GALLERY_3.jpg (C)2015「GONINサーガ」製作委員会

 クライマックス後のBirds舞台上の〝YONIN〟は、遂、土屋アンナに眼差しが向くだろうが、斬られたホリゾントの端が風に揺らぎ見える柄本佑の神々しさも格別なものがある。
 そんな柄本佑をはじめ次世代俳優たち(東出昌大、桐谷健太、安藤政信)の熱演も見どころではあるが、やはり石井隆の世界を絢爛とするのは屍に乱舞する女優たちだ。

 バスルームでの土屋アンナと福島リラの対決では、劇画【黒の天使/闇の音】(’81)に描かれた画を見事に体現した土屋アンナの、ビッチな感じと恐怖におののく表情のバランスが見事。
 現代アートのように壁にペイントされた血の紋章も『死んでもいい』のバスルームを思い起こすに十分なシーンだった。

 個人的に一番素敵に見えたのが『フリーズ・ミー』『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』につづいて3度目の登場となる井上晴美。愛する亭主(鶴見辰吾)の名誉を回復したい思いで五誠会に怒鳴り込む迫力マムだ。
 土屋アンナも、福島リラも、銃を構える姿も様にはなっているが、井上晴美の水泳で鍛えた肩幅の広い体躯からスッと腕を伸ばした均整のとれた立ち姿には、惚れぼれするばかりである…。

 そんな女優たちがまとう音楽の選択も石井ワールドの聴きどころで、先に述べたように「紅い花」が『GONIN』のアイコンであるように、土屋アンナには Waltz、福島リラには Baroque~テレマンの「アリア」、井上晴美はJazz(オリジナル曲なのかスタンダードなのか不明だが安川午朗のピアノ演奏と思える)が、それぞれの女たちの妖気を包み込み、『GONIN』よりも女たちの映画として成り立っているのが嬉しい。

 『GONIN』においてビートたけしのヒットマンに殺された竹中直人は、根津甚八同様に石井ワールドには欠かせない役者として狂気のヒットマン明神として再起用されるが、『GONIN』との共通の遊びを交えたキャラクターと、変幻自在な俳優だけあって何の無理もない再登場となっている。この造形は面白い。
 その明神が掟破りのウージー機銃を使う説得性は、相棒の余市の首を持って彷徨う姿に『GONIN』のジミーとナミィの姿を転写させることで納得できるのだが、もう少しふたりの関係性も見せて欲しかった…これはブルーレイのディレクターズカットとしてのお楽しみになるのか?

 本編でカットされた部分といえば、麻美とアノ人とのワルツ・シーンもディレクターズカットで復活されるだろう。
 一瞬の夢想として、ワルツに身をあずけた麻美のストップモーションが、かつて「テネシーワルツ」で再生へ踏み出した名美の呟きと重なり、より強固な石井ワールドを感じることができるはず…。


★ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う★
★夜がまた来る★
★死んでもいい★
★フリーズ・ミー★
★天使のはらわた 赤い閃光★


 

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