TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「映画の荒野を走れ プロデューサー始末半世紀」伊地智啓

book_映画の荒野を走れ
 〝 ロマンポルノから相米慎二へ 日本映画の転換期を語る 〟

 本書は、1936年生まれの映画プロデューサー伊地智啓(いじち けい)氏へのインタビューをまとめたもの。
 伊地智氏は助監督として日活に入社し、その後、ロマンポルノを経て70年代末よりフリーの映画プロデューサーとして活躍。特に80年代、薬師丸ひろ子のアイドル映画で監督デビューさせた相米慎二とのタッグが有名。
 もし伊地智氏がプロデューサーに転じず、助監督から監督へと進んでいたら、相米慎二のキャリアがまた違ったものになっていたかもしれない。 
 製作総指揮した『太陽を盗んだ男』(’79:長谷川和彦)の混乱を極めた現場エピソードが読み手としてとてもスリリングなもので、そこに登場する相米慎二との初体面が、その後の伊地智氏と相米慎二との関係に、深く、奇妙に、繋がってゆく。

 「そこにドブネズミがいた」と漏らす伊地智氏。

 稀代の傑作『ションベン・ライダー』(’83)の話では、オールラッシュ時には4時間半もあったことや、オープニングの長回しへの恨み言をくり返すところにプロデューサーと監督との関係性を見ることができるが、氏ならではの辛辣な言葉の数々は、その端々に相米慎二への敬愛と、戦士であり同志を失った哀しみを存分に読み取ることができる。

 本のタイトルは、伊地智氏が関わったロマンポルノ『濡れた荒野を走れ』(’74:澤田幸弘)から持ち入れられている。
 そのロマンポルノの話は[第2章]で語られ、監督たちの個性や、現場の試行錯誤から女優を作り出してゆく苦労や、会社側と製作側の思惑が対立する現場の秘話など、とても興味深い話が詰まっている。
 とっておきは『濡れた荒野を走れ』で地井武男が演じた悪徳刑事役を、クランクイン3日前までは藤竜也が演じるはずだったとか。

 日活退社後は、セントラル・アーツやキティ・フィルムの設立に立ち会う伊地智氏。松田優作の話はもとより、村上龍の監督デビュー(『限りなく透明に近いブルー』)と長谷川和彦のデビュー作(『青春の殺人者』(’76))に関する裏話は面白く、この話は『69 Sixty Nine』(’04:宮藤官九郎)と『太陽を盗んだ男』の恨み言に及んでゆく。

 薬師丸ひろ子を担ぎ出した『翔んだカップル』(’80)『セーラー服と機関銃』(’81)の製作秘話もとても面白いし、ボツになった企画も聴き逃せない話だ。

 巻末には伊地智啓が関わったフィルモグラフィを掲載。あらためて、作品の多くを目の当たりにしてきた世代として感慨を覚える。


[第1章]日活助監督時代
[第2章]日活ロマンポルノ時代
[第3章]キティ・フィルムへ
[第4章]相米慎二、最初の三本
[第5章]1980年代、マンガとテレビと
[第6章]「雪の断章 情熱」と「光る女」
[第7章]アルゴ・プロジェクトの頃
[第8章]「お引越し」と「夏の庭 The Friends」
[第9章]ケイファクトリーへ
[第10章]エピローグ
対談:盟友プロデューサー、すべての始まり


    ◇

映画の荒野を走れ プロデューサー始末半世紀/伊地智啓
【インスクリプト】
定価 3,500円+税

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