TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「紙の月」*吉田大八監督作品

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監督:吉田大八
原作:角田光代
脚本:早船歌江子
音楽:緑川徹
主題歌:「Femme Fatale」ヴェルヴェット・アンダーグラウンド & ニコ
出演:宮沢りえ、池松壮亮、小林聡美、田辺誠一、大島優子、石橋蓮司、近藤芳正、佐々木勝彦、中原ひとみ

☆☆☆★ 2014年/松竹/126分

    ◇

 角田光代のベストセラー小説の映像化。
 すでに2014年2月にNHKで原田知世主演のドラマが放送されていたが、映画は独自の視点で、平凡な主婦が快楽(恋と金)に溺れ堕ちていく様をスリリングに描いている。


 1994年。梅澤梨花(宮沢りえ)は、子どもには恵まれなかったが郊外のマイホームでサラリーマンの夫(田辺誠一)と二人で穏やかに暮らしている。
 契約社員として勤める〝わかば銀行〟では、厳格なベテラン行員の隅より子(小林聡美)や若いテイラーの相川恵子(大島優子)ら様々な女性たちとともに働き、営業に励む梨花は真面目な仕事ぶりが評価されている。
 しかし、一見なに不自由ない生活を送っている梨花だが、私生活では自分への関心が薄く鈍感なところのある夫との間に虚しさを募らせていた。
 ある夜、先輩女子行員の送別会が催された渋谷で、顧客で裕福な独居老人(石橋蓮司)の家で一度顔を合わせた孫の大学生の光太(池松壮亮)と再会。
 その後、梨花は何かに導かれるように光太と逢瀬を重ねるようになる。
 そんな中、外回りの帰りに衝動買いした化粧品の代金が不足し、顧客の預かり金から1万円を借りたことをきかっけに、度々、預り金の横領に手を染めるようになっていく。
 学費のために借金をしているという光太への援助や遊興費に浪費し、使えば使うほど金銭感覚が麻痺した梨花は、自宅で定期預金証書や支店印のコピーを偽造し、横領額は歯止めがかからずエスカレートしていくのだった。
 上海に赴任するという夫には同行せず、梨花は光太と一緒に高級ホテルやマンションで贅沢な時間を過ごすが、光太の行動にも変化が現れ、ある日、光太が大学を辞めたことを告げられる。
 そんな折、より子が銀行内で不自然な書類の不備が続いていることを不審に感じ始めていた……。

    □

 原作にある梨花の友人たちのエピソードをまるっと削除し、銀行内部をハブにした映画オリジナルの女性2人を加えた大胆な脚色は、ありがちな横領事件を三者三様の女の生き方で見せてくれる。

 主人公の梨花が若い男に貢ぐのは、自分の居場所を求めているのだろう。しかし、そこから何を得て何を失ったのか。
 7年ぶりの映画主演の宮沢りえには、普通の主婦の日常の歯車が少しづつ狂ってゆく様から、恋に堕ちる女性の表情とその表現力に見蕩れてしまった。
 自転車で振り返るとき…地下鉄ホームで振り返るとき…一心不乱に偽造行為をするとき…走って走って走り去るとき…宮沢りえの顔が、素晴らしい。

 「ありがちでしょ……?」
 恵子の悪魔の囁きは、梨花が堕ちてゆく道先案内としてスリリングな言葉となって弾む。
 大島優子の無邪気さと、達観視したしたたかな表情にゾクっとくる。

 梨花の対極にいるより子は、自分の居場所から外れない真っ当さで梨花を追いつめていく。
 想像しえなかった梨花の行動に楔を打つより子は、閑職に追いやられる身。自分の「行くべきところ」に大きな差があることを認めながらも「お金はただの紙よ。あなたが行けるとこはここまで」と説くが、しかし……
 「一緒に来ますか?」と梨花に誘われる。簡単に自分の枠を飛び越えてゆく梨花の姿に、どこかで共感するより子を見抜いている言葉。受ける小林聡美の巧さは、表情……とても印象的だった。
 このクライマックスの対峙は、堂々たるふたりヒロインの図である。
 そして、悪いことをしている実感もないままに「自分自身の解放」に突き進む梨花の行動は、道徳観を超越し、カタルシスさえ感じるのであった。

 ヴェルヴェット・アンダーグラウンド & ニコの「Femme Fatale(邦題:宿命の女)」がラストに流れるが、よくぞ使用許可が下りたものだ。
 この曲は、1967年にリリースされたヴェルヴェット・アンダーグラウンドのデビュー・アルバム『ヴェルヴェット・アンダーグラウンド & ニコ』に収録されていたもの。アンディ・ウォーホルがプロデュースし、バナナの絵のジャケット・デザインが有名。
 ドラッグ・カルチャー全盛期のアルバムから生まれた退廃的で気怠いニコの歌声が、罪の意識もなく逃亡する梨花の潔さに相応した働きをみせる。

 ♪彼女がやってくる 気をつけたほうがいいぞ
  彼女は本当に悩ましい 
  彼女の歩き方を見てみろよ 彼女の喋りかたを聴いてみろよ………

Femme Fatale」by the Velvet Underground & Nico



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