TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「黒木太郎の愛と冒険」*森崎東監督作品



監督:森崎東
脚本:森崎東
原作:野呂重雄
撮影:村上雅彦
音楽:佐藤勝
出演:田中邦衛、倍賞美津子、財津一郎、伴淳三郎、清川虹子、沖山秀子、小沢昭一、三國連太郎、緑魔子、杉本美樹、岡本喜八、火野正平、殿山泰司、芥川比佐志、伊藤裕一、太田聖規、荒木健一、赤木春恵、麿赤児

☆☆☆★ 1977年/ATG/110分/B&W

    ◇

 初見1977年11月。
 松竹喜劇『喜劇・女は度胸』(’69)や『男はつらいよ・フーテンの寅』(’70)などでヴァイタリティにあふれた庶民の生活を描いたり、黒沢明の『野良犬』のリメイク(’73)を撮った森崎東監督が松竹退社後、フリーとなっての第1回作品。

 中年のスタントマンとその家族、友人たち、映画監督を夢見る若者たちを交えた群像青春喜劇に仕上がっているが、残念ながらATG作品の中では不入りのワースト映画となった。


 かつては優等生だった定時制高校5年生の銃一(伊藤裕一)は、いまでは学校と学友たちを軽蔑している。彼にはふたりの親友がおり、小学校時代から付き合いのある気の優しい乾物屋の公二(荒木健一)と、パーマ屋(あの時代は美容院とは言わずこう蔑称していた)の倅で女たらしの大学生の勉(太田聖規)らと一緒に八ミリ映画を撮ったりしている。
 銃一はアルバイトで知り合ったゴメさん(伴淳三郎)の世話で、大人のオモチャ屋を営んでいる元刑事の菊松さん(財津一郎)の家に下宿させてもらっている。

 モンキーに似ていることから〝文句さん〟と呼ばれている黒木太郎(田中邦衛)は勉の叔父にあたり、パーマ屋に間借りする映画のスタントマン。当年42歳の冒険好きで、多趣味な彼のいまの趣味はゲリラごっこ。デモがあれば大きな日の丸を掲げたジープで走り廻っている。
 文句さんの奥さんは美人で元女優の牧子さん(倍賞美津子)で、一人娘の白百合ちゃんがいる。
 銃一の夢はいつか牧子さんのカムバック映画を監督することだ。

 勉の母親の加津江(清川虹子)は通称〝大婆〟と呼ばれ、かつては馬賊になり満州に渡り、今は年下の信太郎(小沢昭一)という彼を持つ性豪な女性で、彼女の下には横須賀で芸者の置屋をしている〝ちい婆〟こと満江(沖山秀子)がいる。
 銃一は、セックスも含めてすべてにおいてあけっぴろげなこの家族と、この街を愛している。

 文句さんの世話で博打の負け金の取り立てをしていたゴメさんが、路上で死んだ。文句さんと銃一はゴメさんの遺骨を持って聾唖の娘の吹雪さん(杉本美樹)を訪ねるが、場末の小さな理髪店を営むやはり聾唖の亭主(岡本喜八)と幼い娘との三人の暮らしは想像を絶する貧しさだった。
 理髪店の経営不振は2階を貸している中学の女教師が原因。猫を20匹も飼い、そのノミが原因で客が寄り付かなくなったのだ。
 その女教師君島(緑魔子)は、かつて教え子に輪姦されたショックで猫を飼うことと生徒をいじめることが生きがいになったオールドミス。
 文句さんは、菊松さんのアドバイスでショック療法を用いて君島を立ち直らせた。

 この騒ぎで銃一は、自分を訪ねてきた父親の豊大郎(三國連太郎)に逢えなかった。父は陸軍士官学校出の砲兵大尉で、戦闘中に神経がおかしくなり戦後は山谷暮らしをしていた。
 父親の後を追った銃一は、労務者が溜まる飲み屋で手配師ら(殿山泰司と火野正平)に「お前が本当の大尉だったのなら切腹をしてみろ」と嘲笑され、無言で出て行ったと聞いた。
 ひっそりと静かな戦没者の墓の前で、立派に切腹している軍服姿の父親を見つけるのに時間はかからなかった。

 銃一は郷里に帰ろうとパーマ屋へ挨拶に寄ると、自主八ミリ映画に出てもらった勉の従妹で14歳の和美ちゃん(靏ひろみ)が家出して、トルコ(この時代はソープランドをこう名称していた)の寮にいると騒ぎが起きた。
 頼りにならない警察を尻目に、自分たちで和美ちゃんを救出しようと決心した文句さんたちは、やくざ相手ならプロらしくスーツを着込んで日本刀片手にジープを走らせた。
 無事に救出された和美だったが、「売春がどうしていけないの?自分の身体でお金を稼いでいけないの?」と詰問してくる。文句さんは「裏街道を生きる覚悟があるなら指をつめな。そんな度胸もなけりゃ生きて行けねぇよ。お前が可哀想だ」と独自の論法で説得し落ち着いた。

 和美の身を隠すために横須賀の〝ちい婆〟のところに送り届けた銃一たちに、文句さんが仕返しにやくざに襲われ首と腹を刺され瀕死の重傷だと知らせがくる。
 「私のせい?!」と泣き叫ぶ和美に「そうさ、お前のせいだよ!だから、そのことを一生忘れるんじゃないよ」と満江の声が響く。

 パトカーに連行されるやくざの組長(麿赤児)に、日本刀を持って立ち向かう銃一。

 春………刑務所を出る銃一。
 「俺は刑務所という〝俺の大学〟を出た今、やっと本物の映画が作れそうな気がしています」

    ◇

 映画の冒頭には森崎監督自身が登場し、3人の若者を紹介する。彼らは、森崎監督が講師をしていた横浜放送映画専門学院の教え子で、監督の分身ともいえるキャラクターだろう。
 主人公黒木太郎の役には、企画時から念頭にホンを書いたという田中邦衛。
 菩薩のような美しき倍賞美津子、当時8年ぶりの映画カムバックで話題になった(精神疾患で自殺未遂などスキャンダル女優の名を欲しいままにしていた)沖山秀子と清川虹子の豪快・豪傑姉妹の存在感、労務者の伴淳や手配師の殿山など、森崎監督のために集まった布陣が快調。

 この作品を最後に引退した杉本美樹の薄幸うら寂しい様と、亭主役の監督・岡本喜八も味があり、いま見直すと身障者差別と騒ぐ輩が出るかもしれないほどの無力感がいい。
 猫狂いの変質的女教師緑魔子も不気味だが、彼女を立ち直らせるために「強姦には強姦」の発想は完全にアブナイ。

 そして財津一郎が群を抜いていい。「日本人として恥ずかしいことだけはするな」の言葉や「ニワトリは所詮ハダシよ」の台詞が脳裏に残っていたのだが、2004年森崎監督は『ニワトリはハダシだ』のタイトルで、在日問題や障害者問題を扱い権力に立ち向かうパワーあふれる傑作を創りだしている。

 森崎湊の遺稿集「遺書」が三國連太郎の自死に映る……森崎湊は森崎監督の実兄で海軍少尉候補生(特攻)の20歳の時、昭和20年8月17日「御国の御役に立たず、何の手柄も立てず、申し訳ありません。死んで護国の鬼となります」の遺書を残して割腹自殺した。16歳から20歳までの5年間に書き留めた兄の歴史感を、森崎監督はどうしても自分の作品の中で戦争への憎悪として取り上げたかったのであろう。
 ラスト、文句さんの病院に駆けつける銃一に「遺書」の頁が被さり、父親に教わった「砲兵のうた」を口ずさみながらやくざ者に刃を向ける銃一の憤りは「自分たちの戦争は終わっていない」と語っているかのようだ。

 密かに反戦魂を秘め、セックスと排泄物で人間学を語る森崎喜劇の一編である。

kurokitarou_panf.jpg


スポンサーサイト

Comment

妄想大好き人間 says... "ちょっと気になったこと。"
お邪魔いたします。

この映画は本編を見ておらず、「IMCDB」というサイトで画像を見ただけです。

この「IMCDB」は、世界各国の作品に登場する自動車の情報が詰まった便利なサイトなんですが、そこでちょっと気になる車両が・・・。

この映画に登場していると思われる警察車両の二台↓なんですが・・・
http://www.imcdb.org/vehicle_913635-Isuzu-BA.html
http://www.imcdb.org/vehicle_913637.html
これ、どう見ても本物の機動隊バスにしか見えないのですが・・・まさか、無許可で撮影?

乱文失礼いたしました。
2016.05.22 20:57 | URL | #- [edit]
mickmac says... "Re: ちょっと気になったこと。"
>妄想大好き人間さん はじめまして

1970年代の邦画には、無許可でのゲリラ撮影あるいは隠し撮りは頻繁にあったことです。
例えば有名なのでは長谷川和彦監督の『太陽を盗んだ男』の皇居前広場などがありますが、普通に街中での撮影は都会の生々しい喧騒を捉えるのに、半ば隠し撮りが普通に敢行されていた時代ですね。

2016.05.23 12:40 | URL | #- [edit]

Post comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

trackbackURL:http://teaforone.blog4.fc2.com/tb.php/1105-018ce8a8