TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「刑事マディガン」*ドン・シーゲル


MADIGAN
監督:ドン・シーゲル
原作:リチャード・ドハティ
脚本:ヘンリー・シムーン、エイブラハム・ポロンスキー
音楽:ドン・コスタ
出演:リチャード・ウィドマーク、ヘンリー・フォンダ、インガー・スティーヴンス、ハリー・ガーディノ、ジェームズ・ホイットモア、スティーヴ・イーナット

☆☆☆  1968年/アメリカ/101分

    ◇

 拳銃を奪われたふたりの刑事の必死の捜査と、片腕として頼る部下の不正を知り苦悩の渦中にあるNY市警本部長。彼らの長く暑い週末の3日間をリアルに描いた警察ドラマである。


 金曜日。ニューヨークのスパニッシュ・ハーレム地区の敏腕刑事マディガン(リチャード・ウィドマーク)は、相棒のロッコ(ハリー・ガーディノ)とともにブルックリンを拠点に置くギャングのベネッシュ(スティーヴ・イーナット)を聴取するためにアパートに踏み込むが、一瞬のスキを突かれ逃げられ、そのうえふたりの拳銃まで奪われてしまう。
 ふたりには72時間以内に逮捕するように厳命が下る。
 昇進試験も受けず現場の刑事に誇りを持つ仕事一途のマディガンだが、妻のジュリア(インガー・スティーヴンス)は欲求不満で口喧嘩が絶えない。
 市警本部長のラッセル(ヘンリー・フォンダ)には、長年の友である主任警部のケイン(ジェームズ・ホイットモア)への汚職疑惑と、自分自身の愛人問題に心を悩ませていた。
 土曜日。マディガンはジュリアが楽しみにしていた本部のパーティに連れ立ってゆくが、会場まで同伴したあと知り合いにジュリアにあずけ捜査に戻っていった。
 そんな中、街を巡回中の警官ふたりがベネッシュに撃たれる。拳銃はマディガンのものだった。
 日曜日の午後。ベネッシュが潜伏しているアパートを突き止め、マディガンとロッコは体当たりで部屋に踏み込むが………。

    ◇

 その昔、犯罪スリラーや西部劇で見かけたリチャード・ウィドマークは、その強面から一度見たら忘れられない俳優。不気味な薄笑いで冷酷な悪役を演じさせたら右にでる者はいないだろう存在感。本作ではヘンリー・フォンダを差しおいての主役として、男の孤独と哀愁を漲らせ好演している。
 初見はTV日曜洋画劇場。彼の代表作のひとつと言っていいだろう。72年には『鬼警部アイアンサイド』に対抗したのか、マディガンのキャラクターでリチャード・ウィドマーク主演のままにTVシリーズが製作されている。 

 この映画が製作された1968年といえば、アメリカン・ニューシネマが台頭し出してきた時代だ。〝アンチ・ヒーロー〟〝アンチ・ハッピーエンド〟のニューシネマの波は70年代に向ってあっという間に映画界を呑み込んでゆくのだが、この作品はニューシネマには分類されていないのだが、マディガンと相棒のロッコ、ラッセルと親友ケインの二組の人物描写はそれ以前の警察ドラマよりは〝アンチ・ヒーロー〟っぽく、ラストの報われない哀しい現実が〝アンチ・ハッピーエンド〟として印象に残る。

 警察官とてひとりの人間、ということで描かれるマディガンの家庭内での行き違いや、愛人との二重生活をおくる市警本部長など、リチャード・ドハティの原作通りの人間味を醸し出す演出だが、映画では若い頃のマディガンとラッセルとの因縁が描かれきっていないので、ラストにおけるジュリアの言葉が響いてこないのが惜しい。

 あと、禁煙11日目のロッコにマディガンが煙草を勧めるエピソードは、これ以後、多くの洋邦画ドラマに使われるが、ふたりの関係性を味わい深くするいいシーンだ。
 
 本作以前で監督ドン・シーゲルの手腕を見てとることができる作品は、犯罪映画『殺人者たち』(’64)であろう。これも初見は日曜洋画劇場だった。
 もともとTV用に製作された作品なのだが、暴力描写が激しいことから劇場公開された映画で、とにかく主役のリー・マーヴィンとジョン・カサヴェテスが恰好いいのだ。

 そしてドン・シーゲル監督はこのあと、『ダーティハリー』(’71)を生み出すのである。


 

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「プレタポルテ」*ロバート・アルトマン

1995_プレタポルテ
PRET-A-PORTER
監督:ロバート・アルトマン
脚本:ロバート・アルトマン、バーバラ・シャルガサー
撮影:ピエール・ミニョー、ジャン・ルピーヌ
音楽:ミシェル・ルグラン
出演:マルチェロ・マストロヤンニ、ソフェア・ローレン、アヌーク・エーメ、ジャン=ピエール・カッセル、キム・ベイシンガー、ローレン・バコール、ウテ・レンパー、キアラ・マストロヤンニ、ミッシェル・ブラン、スティーヴン・レイ、リリ・テイラー、ジュリア・ロバーツ、ティム・ロビンス、テリー・ガー、サリー・ケラーマン、トレイシー・ウルマン 、フォレスト・ウィテカー、サム・ロバーツ、リンダ・ハント
[実名カメオ出演]ビョーク、川原亜矢子、デヴィッド・カッパーフィールド、シェール、ハリー・ベラフォンテ

☆☆☆☆ 1994年/アメリカ/133分

    ◇

 初見1995年6月
 『ショート・カッツ』につづいてロバート・アルトマンが挑んだ本作は、パリコレを舞台に、デザイナーやモデル、カメラマン、ファッション雑誌など、マスコミも含んだファッション業界の人間模様を織り込んだ群像劇でありシニカル・コメディといった作品だ。

 1960年代に一部のセレブ御用達の〝オートクチュール〟に対抗して、大衆相手の既製服として生まれた〝プレタポルテ〟は、1980年代後半から90年代には映画スターやスター歌手以上の冨と名誉を得る地位を築き上げ、クラウディア・シーファーとかナオミ・キャンベル、ケイト・モスやシンディ・クロフォードといった〝スーパーモデル〟がもてはやされていた。もちろんそれ以前にも、ツィッギーとかマーゴ・ヘミングウェイ、1972年には日本人で初めて山口小夜子がパリコレクションに起用されたりと、一種のカウンターカルチャーとして肥大してきたファッション業界。

 映画は、1993年の実際のパリ・プレタポルテ・コレクションの会場にカメラを持ち込んでの撮影は、業界マスコミやメディアが大いに盛り上げて進んだようなのだが、いざアメリカで初公開された途端に各マスコミから酷評されている。
 「VOGUE」や「ELLE」といった実在のファッション雑誌が実名で登場し、コレクションの舞台裏や編集部の内情を痛烈にカリカチュアした様相に、ファッション業界が一斉に反発したのであろう。

 しかし、これが面白い。前2作(『ザ・プレイヤー』『ショート・カッツ』)のような鋭い批評性がなくても、華やかなパリ・コレクションに集うスターやモデルたちの美しさを堪能し、ストーリーなど関係なくカリカチュアした人間コラージュを楽しむことだ。

 オールスター・キャストに相応しく音楽も、ROLLING STONES、ROBERT PALMER、BASIA、JANET JACKSON、U2、k.d.Lang、TOWER OF POWER、TERENCE TRENT D'ARBY等々、多彩で豪華だ。


 

[ロバート・アルトマン作品]
★ロング・グッドバイ★
★ボウイ&キーチ★
★ザ・プレイヤー★
★ショート・カッツ★


「ショート・カッツ」*ロバート・アルトマン

1994_ショートカッツ
SHORT CUTS
監督:ロバート・アルトマン
脚本:ロバート・アルトマン、フランク・バーハイト
撮影:ウォルト・ロイド
音楽:ハル・ウィルナー
出演:アンディ・マクダウェル、ジャック・レモン、ジュリアン・ムーア、マシュー・モディーン、アン・アーチャー、ロバート・ダウニー・Jr、ティム・ロビンス、トム・ウェイツ

☆☆☆☆★ 1993年/アメリカ/187分

    ◇

 初見1994年11月。
 現代アメリカ文学の小説家で詩人のレイモンド・カーヴァーの短編と詩を下敷きに、ロサンジェルスの住人22人を主役にした群像劇で、ヴェネツァ国際映画祭の金獅子賞を獲得したロバート・アルトマンの傑作。

 メド・フライと呼ばれる害虫を駆除するために、L.A.郊外の上空を数機のカラフルなヘリコプターが飛び回る、美しくも不気味なプロローグ……このオープニングが素晴らしい。

 9組の家族のエピソードが平行に描かれながら、その複数視点の人間たちの関係が少しずつ複雑に絡み合っていく。ひとつの家族が描かれるなかで他の人物が脇役として登場したりと、さまざまな日常のコラージュが映画的興奮となってグイグイと引込まれていくのである。あっという間の3時間であろう。


 22人の主役たちの関係を記してみると…

 TVパーソナリティのハワード(ブルース・デイヴィソン)の妻アン(アンディ・マクドゥェル)は、明日9歳を迎える一人息子ケイシー(ザーン・キャシディ)のために、気難し屋で無愛想なケーキ職人アンディ(ライル・ラヴェット)にバースデーケーキを注文する。
 しかしその朝、ケイシーは登校中に車に撥ねられ昏睡状態になってしまい、さらに、悪質な悪戯電話に悩まされるようになる。

 孫のケイシーの見舞いに病院を訪れたポール(ジャック・レモン)だが、30年ぶりに逢う息子ハワードの態度は冷たい。

 24時間営業のダイナーで働くウェイトレスのドリーン(リリー・トムリン)と夫でリムジンの運転手アール(トム・ウェイツ)は、愛し合っているのになぜかギクシャクしていた。そんななか、夜勤帰りのドリーンは男の子を車で撥ねてしまった。

 ハワードとアン夫婦の隣人で、ジャズ・シンガーのテス(アニー・ロス)とチェロ奏者のゾエ(ロり・シンガー)母娘は、互いを巧く理解し合えない。ケイシーが事故で亡くなったことで心を痛めるゾエは、何の関心も示さない母親テスに幻滅する。

 警官のジーン(ティム・ロビンス)は、ヘリのパイロットをしているストーミー(ピーター・ギャラガー)の元妻ベティ(フランシス・マクドーマンド)と浮気中。そんな夫を陰で軽蔑している妻のシェリー(マデリーン・ストー)。

 シェリーの姉でセクシーな画家のマリアン(ジュリアン・ムーア)と、ケイシーの担当医師ラルフ(マシュー・モディーン)夫妻は、傍から見ると理想の夫婦にみえたが、実は夫婦の間には深い溝があった。

 無職のスチュアート(フレッド・ウォード)は、釣り仲間のゴードン(バック・ヘンリー)とヴァーン(ヒューイ・ルイス)の3人で鱒釣りに出かける。途中立ち寄ったダイナーでは、ミニスカートの年増のウェイトレス(ドリーン)を冷やかし、目的地に着いたらそこで女性の全裸死体を発見する。しかし趣味の欲求の方が勝り、3日間釣り三昧のあと警察に連絡をするのだった。
 スチュアートの妻クレア(アン・アーチャー)はピエロの出張サービスで病院を慰問している。

 アールとドリーンの娘ハニー(リリー・テイラー)はメイクアップ・アーティストのビル(ロバート・ダウニー・ジュニア)と夫婦関係。管理を任されている家で、親友のプール清掃業ジェリー(クリス・ペン)夫婦を呼んでドンチャン騒ぎをしている。

 ジェリーは、妻ロイス(ジェニファー・ジェイソン・リー)が育児をしながらテレフォン・セックスのパートタイムをしている姿に耐えられず、欲求不満が募っている。
週末、ビルの家族と郊外の森にピクニックに出かけた時、そこで見かけた二人の女の子をビルとふたりでナンパするのだが、突然ジェリーの欲望が爆発する。

 そして、L.A.に大きな地震が起こる……



 アルトマンのシニカルな視点は物語の中心に無垢な子どもの「死」を置き、人間が抱える欲望、絶望、矛盾、悲観を俯瞰にして「生」と「孤独」と「荒涼感」を人工的な街L.A.に寒々しく映し出している。

 何が起きようと、そこから逃れることはできない。巧くいく人生も、下手を打つ人生も、それが人間。
 毎日の繰り返しのなかの一場面でしかない「日常」を世紀末的世界観で示し、大地震という異常事態が起こる幕引きのあとにも、ゲームのような人生はつづいていくのである。


[ロバート・アルトマン作品]
★ロング・グッドバイ★
★ボウイ&キーチ★
★ザ・プレイヤー★

「ザ・プレイヤー」*ロバート・アルトマン

1993_ザ・プレイヤー
THE PLAYER
監督:ロバート・アルトマン
原作:マイケル・トルキン
脚本:マイケル・トルキン
撮影:ジャン・ルピーヌ
音楽:トーマス・ニューマン
出演:ティム・ロビンス、グレタ・スカッチ、フレッド・ウォード、ウーピー・ゴールドバーグ、ピーター・ギャラガー、ビンセント・ドノフリオ、シドニー・ポラック

☆☆☆☆ 1992年/アメリカ/124分

    ◇

 初見1993年1月。
 “プレイヤー”とは、ハリウッド映画界のすべてを牛耳る人間を指す業界用語のこと。
 この映画は、いかなる汚い手を使ってもトップの座を手に入れようとする若きプロデューサーを主人公に、きらびやかなハリウッド映画界の人間関係や欲望を痛烈な風刺で描いたハリウッド内幕物となっている。
 ただ、ハリウッドのヒット作至上主義に反発しメジャーなスタジオやプロデューサーたちとトラブルを起こしてきたロバート・アルトマンとはいえ、そこには批判や皮肉ばかりではなく、殺人事件の犯人捜し的サスペンスやロマンスも盛り込みながら、第一級のエンターテインメントな作品に仕上げている。
 1992年カンヌ国際映画祭では、監督賞と主演男優賞を獲得している。


 若きプロデューサー、グリフィン・ミル(ティム・ロビンス)は大手映画スタジオの重役。彼の仕事は、さまざまな脚本家から映画のアイデアを聞いたりシナリオを読むこと。ヒットする映画を見つけるために、山と送られてくる企画書を切り捨てては成果を上げてきた。
 しかし最近、多忙な職務を送っている彼には気がかりなことあった。ひとつは、20世紀フォックス社から敏腕プロデューサーのラリー・リーヴィ(ピーター・ギャラガー)が引き抜かれてくるというのだ。グリフィンの心中は穏やかではない。。
 そしてもうひとつは、何通も届く脅迫状。これは弁護士のディック・メロン(シドニー・ポラック)に相談するが、グリフィン自身が調べ上げた結果、過去に企画をボツにされた脚本家ケヘイン(ビンセント・ドノフリオ)が浮かび上がる。
 バーの駐車場でケヘインと話し合うつもりのグリフィンは口論となり、誤ってケヘインを殺してしまった。泥棒の仕業にみせかけ現場を立ち去ったグリフィンだったが、翌日、早くも刑事(ウーピー・ゴールドバーグ)がグリフィンのもとへ聞き込みにやってきた。
その日、ふたたび脅迫状がグリフィンに届く。グリフィンは誤って違う男を殺してしまったのだ。
度重なる脅迫状に疲れきたグリフィンは、同棲している恋人を裏切りケヘインの葬儀で知り合ったジューン(グレタ・スカッチ)と恋仲になる。さらに、ヒットの見込みもないような脚本をライバルのラリーに掴ませ失脚の罠を仕掛ける。
 しかし、遂に警察の手がグリフィンに迫ってきた…。


 いきなりオープニング約8分の複雑な動きの長廻しから始まる。「こけおどしさ」と言い放つアルトマンの大胆さが感じられる素晴らしいシーンだが、これはオーソン・ウェルズの『黒い罠』('58)へのオマージュ。
 そのワンシーン・ワンカットのなかで「最近の映画はカットが短い…」などと『黒い罠』を懐かしむ台詞がでてくる。後年、そのアメリカ映画史に残る空前のショットと言わる『黒い罠』を鑑賞したが、確かに息を呑む複雑なカメラワークであったが、アルトマンはそれを遥かに凌ぐオープニングを創りあげている。

 『さよならゲーム』(’88)で注目されたティム・ロビンスだったが、まだまだネームバリューがなかった彼がこの鼻持ちならない男グリフィンを見事に演じきり存在感を見せつけた。彼はこの後、アルトマン作品の常連になっている。
 
 さてこの映画は、多くのスターやショービジネス界の著名人がカメオ出演(本人自身としてエキストラ出演)していることがお楽しみのひとつだ。
 出演しているスターを列記してみると…
 オープニングで『卒業Part2』の企画をジュリア・ロバーツで売り込むシナリオライターは、オリジナルの『卒業』を書いたバック・ヘンリー。
 パーティ・シーンでピアノを弾くジャック・レモン。
 シナリオを読んで「グリフィンという男はクソ野郎だ」と悪態をついたバート・レイノルズはその言葉が採用され、ピーター・フォークはコロンボ・スタイルで登場する。
 主役のティム・ロビンスと同棲中だった(のちに20年間のパートナー関係を解消した)スーザン・サランドンも登場。
 あっと驚くブルース・ウィルスとジュリア・ロバーツの登場シーン……。
 ほかに、アンジェリカ・ヒューストン、ロッド・スタイガー、リリー・トムリン、マルコム・マクドゥエル、スコット・グレン、シェール、ニック・ノルティ、ジェームス・コバーン、テリー・ガー、ロバート・ワグナー、カレン・ブラック、ルイーズ・フレッチャー等々。
 
 アルトマン監督自らが、スター本人に電話でエキストラ交渉をした彼らのギャラは、ユニオン規定の最低日当賃金。出演者によっては、シーンのいくつかではアドリブだったという。

 劇中グリフィンに「映画で一番大事なのはハッピーエンドだ」と言わせ、この卑劣な男の結末をハッピーエンドに終わらせるところが、アルトマンならではのシニカルな視点。
 脅迫状の犯人が判明するラストも、観客にはその正体が明かされない。その人を喰ったような締めくくりでアンチ・ハリウッドが貫いている。
 犯人の見当は映画の前半に登場しているという。何度も見直し、よく耳を澄ませば…。

[ロバート・アルトマン作品]
★ロング・グッドバイ★
★ボウイ&キーチ★