TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「サラリーマン悪党術」*須川栄三監督作品


監督:須川栄三
脚本:松木ひろし、須川栄三
音楽:山本直純
撮影:逢沢譲
出演:小沢昭一、団令子、弓惠子、長谷川照子、黒沢年男、田中邦衛、藤岡琢也、砂塚秀夫、石丸謙二郎、加藤武、天本英世、アイ高野、春川ますみ

☆☆☆ 1968年/東宝/91分

    ◇

 東宝には伝統的なサラリーマン映画があるのだが、本作は少し毛色がちがう。
 監督第2作の『野獣死すべし』で乾いたハードボイルド作風を見せつけた須川栄三監督が描くサリーマンは、所謂これも、一種のピカレスク・ロマン。シニカルなサラリーマン艶笑コメディの傑作であろう。


 広告代理店に勤める伊達秋男(小沢昭一)は、エリートコースを外れたサラリーマン。そんな彼の楽しみは女遊びで、コピーライターで才色兼備の妻・友子(団玲子)がいるにもかかわらず、大坂支社の19歳の里美(長谷川照子)を愛人にしている。大坂への出張費を浮かしたりして資金を調達する伊達だったが、会社に新しく導入された電子計算機のおかげで大坂へ行くのにも難儀する毎日。斯くなるうえは会社で競馬のノミ屋を開業して、その金で大坂の里美を東京に呼ぶことにした。
 そんななか伊達は、得意先の製薬会社の仕事を得るために社長の妾で芸妓の小まり(弓惠子)と関係を持ったために、小まりに惚れられてしまう。
 果たして、伊達は3人の女性との間で忙しくなる。小まりを満足させたあと、里美のアパートに寄り、明け方帰ってくれば妻の友子が迫ってくるのである。
 いくらなんでもこれでは身体が持たぬと、伊達は狭心症と偽った診断書をつくり、妻には夫婦生活禁止を宣言。そして、伊達の友人でCMディレクターの酒井(田中邦衛)は友子にご執心だ。
 ひょんな事から里美が酒井のカメラテスト受け、現場にいた友子と仲良くなった里子は伊達のアパートの隣に引っ越して来ることに。当然の如く友子に里美の存在を知られ、小まりとの関係も知られるはめになる。
 然して、小まりと別れると友子に誓う伊達。そして里美も、伊達の後輩で元全学連の野尻(黒沢年男)と結婚することになる……。

    ◇

 スケベで軽薄なキャラクターには絶妙な味を出す小沢昭一とクールな団令子の、少し不釣り合いな二人だが、どうしてこんなに綺麗な女房がいるのに他に女をつくるかね、と言っても男は真面目に生きるだけが人生じゃないって思っているからね。若い愛人も、色っぽい妾も、そりゃ欲しいでしょうよ。

 最後は愛人ふたりと別れ、美しい妻にはなんとか許してもらえるも、入院先の看護婦(春川ますみ)といい仲になる結末。オチは判っていても、スケベな小沢昭一と春川ますみのエロは見事な終息である。

 業界人ぶりがキマる田中邦衛や、真面目で堅物な黒ブチ眼鏡の黒沢年男や、普通のサラリーマン役の天本英世など、脇の出演者にも見どころあり。

 コンピュータではなく電子計算機であり、真っ赤なミニスカートにゴーゴー喫茶……
 オープニングタイトルは前年にヒットしたフォーク・クルセダーズの「帰って来たヨッパライ」風テーマ曲と、当時流行のサイケデリック紋様。
 昭和元禄花盛りなのである。

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「大地震」*マーク・ロブソン

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1974-11_大地震
EARTHQUAKE
監督:マーク・ロブソン
脚本:マリオ・プーゾ、ジョージ・フォックス
音楽:ジョン・ウィリアムス
出演:チャールトン・ヘストン、エヴァ・ガードナー、ジョージ・ケネディ
☆☆ 1974年/アメリカ/122分

 70mmセンサラウンド方式で上映され、本物の地震を感じる迫力が宣伝文句だったのでDVDで見てもつまんない映画であろう。まぁ、大体がチャールトン・ヘストンを上手い俳優とは思っていないので……。

「パピヨン」*フランクリン・J・シャフナー

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1974-12_パピヨン
PAPILLON
監督:フランクリン・J・シャフナー
原作:アンリ・シャリエール
脚本:ダルトン・トランボ、ロレンツォ・センプルJr
音楽:ジェリー・ゴールドスミス
出演:スティーヴ・マックィーン、ダスティン・ホフマン
☆☆★ 1973年/フランス/151分

 フランス領ギニア。無罪の罪で収監されたパピオンと気弱な詐欺師ドガが、自由を求めて執念の脱獄を繰り返す実在の物語。
 音楽は美しく叙情的なのだが、いまひとつ楽しめなかった覚えがある。

「未来惑星ザルドス」*ジョン・ブアマン

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1974-09_ザルドス
ZARDOZ
監督:ジョン・ブアマン
原作:ジョン・ブアマン
脚本:ジョン・ブアマン
出演:ショーン・コネリー、シャーロット・ランプリング
☆ 1974年/イギリス/106分

 ローディ・マクドウォール出演の併映作「ヘルハウス」の方が面白かった記憶……。

「アラビアンナイト」*ピエル・パオロ・パゾリーニ

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。


Il Fiore Delle Mille e Una Notte
監督:ピエル・パオロ・パゾリーニ
脚本:ピエル・パオロ・パゾリーニ
音楽:エンニオ・モリコーネ
出演:ニネット・ダボリ、フランコ・チッティ
☆☆☆ 1974年/フランス・イタリア/134分

「デカメロン」「カンタベリー物語」につづくパゾリーニ監督の艶笑3部作の1本。

「白熱」*ジョセフ・サージェント

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1974-13_白熱
WHITE LIGHTHING
監督:ジョセフ・サージェント
脚本:ウィリアム・ノートン
出演:バート・レイノルズ、ネッド・ビューティ、ジェニファー・ビリングスリー、ボー・ホプキンス
☆☆ 1973年/アメリカ/102分

 カー・アクションだけが見ものといった凡作だが、ジョセフ・サージェント監督にとって翌年の大傑作『サブウェイ・パニック』への助走であったのかも……。

「かもめのジョナサン」*ホール・バートレット

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1974-15_かもめのジョナサン
JONATHAN LIVINGSTON SEAGULL
監督:ホール・バートレット
原作:リチャード・バック
挿入歌:ニール・ダイアモンド
☆☆★ 1973年/アメリカ/99分

 1970年に出版されたリチャード・バック寓話。
 ジョナサン・リビングストン・シーガルは、魚を取るだけに飛ぶ生活に飽き足らず、ただ飛行するだけの行為に生き甲斐を見出していたかもめだった。より速く、より高く……その奇行に対して両親をはじめ仲間たちは理解せず、批判をぶつけるのみであった。そしてついに、長老たちに集落からの追放を言い渡されるジョナサン。

 原作同様に一切人間は登場せず、調教されたかもめたちが演じる。ヘリコプターでの爽快な空撮にニール・ダイアモンドの歌が流れる一種シネマポエトリーの精神世界だ。

「スティング」*ジョージ・ロイ・ヒル

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

0974-06_スティング
THE STING
監督:ジョージ・ロイ・ヒル
脚本:デヴィッド・S・ウォード
出演:ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ロバート・ショウ、チャールズ・ダーニング、アイリーン・ブレナン
☆☆☆☆ 1973年/アメリカ/129分

 最も有名なコン・ゲーム映画は不朽のエンターテインメントの世界。騙し、騙され、結末を知っていても何度でも楽しめる。

「コーザ・ノストラ」*フランチェスコ・ロージ

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1974-10_コーザ・ノストラ
LUCKY LUCHIANO
監督:フランチェスコ・ロージ
脚本:フランチェスコ・ロージ
音楽:ピエロ・ピッチオーニ
出演:ジャン・マリア・ボロンテ、ロッド・スタイガー
☆☆☆ 1973年/イタリア・フランス・アメリカ/115分

 実在したマフィアの大ボス、ラッキー・ルチアーノの生涯を描いた実録モノで、『シシリーの黒い霧』(’62)とか『ローマに散る」(’76)など、社会派監督で知られるフランチェスコ・ロージの渾身作。
 同じルチアーノをモデルにした『ゴッドファーザー』のドラマチック・ドラマとは違い、まさにドキュメンタリーとなる本作。活劇などの見せ場が少ない分、リアリティは半端ない。

「ダーティハリー2」*テッド・ポスト

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1974-16_ダーティハリー2
MAGNAM FORCE
監督:テッド・ポスト
脚本:ジョン・ミリアス、マイケル・チミノ
音楽:ラロ・シフシン
出演:クリント・イーストウッド、ハル・ホルブルック、デビッド・ソウル、ロバート_ユーリック
☆☆☆ 1973年/アメリカ/123分

 証拠不十分で裁けない悪党どもが武装グループに次々と射殺される事件が発生。この事件を担当するのは、サンフランシスコのはみ出し刑事ハリー(クリント・イーストウッド)。彼は警察内に私刑グループが存在することを知るのだった……。

「高校教師」*ヴァレリオ・ズルリーニ

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1973-09_高校教師
LA PRIMA NOTTE DI QUIETE
監督:ヴァレリオ・ズルリーニ
脚本:エンリコ・メディオーリ、ヴァレリオ・ズルリーニ
出演:アラン・ドロン、ソニア・ペトロヴァ、レア・マッサリ、ジャンカルロ・ジャンニーニ、レナート・サルヴァトーリ
☆☆☆ 1972年/イタリア/132分

 北イタリアの小さな海辺の町を舞台にした、暗い過去を持つ教師の愛の葛藤物語。
 無精髭のうらぶれた教師役のアラン・ドロンと美少女の恋愛は公開当時話題になったもの。

「風雪の太陽」*スティベ・デリッチ

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1973-19_風雪の太陽
SUTJESKA
監督:スティベ・デリッチ
出演:リチャード・バートン、イレーネ・パパス
☆☆ 1973年/ユーゴスラビア/130分

友よ死ぬな!いま歴史が動くのだ! 
炸裂する戦場に燃え上る自由への炎!

「マクベス」*ロマン・ポランスキー

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1973-12_マクベス
MACBETH
監督:ロマン・ポランスキー
原作:ウィリアム・シェイクスピア
脚本:ロマン・ポランスキー、ケネス・タイナン
出演:ジョン・フィンチ、フランセスカ・アニス
☆☆☆ 1971年/アメリカ/コロムビア映画

 日本公開は1973年。

「ポセイドン・アドベンチャー」*ロナルド・ニーム

 以下作品は、映画前売券のコレクションとして記録するのみです。

1973-18_ポセイドン・アドベンチャー
THE POSEIDON ADVENTURE
監督:ロナルド・ニーム
原作:ポール・ギャリコ
脚本:スターリング・シリファント、ウェンデル・メイズ
主題歌:「モーニング・アフター」モーリン・マクガバン
出演:ジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナイン、ロディ・マクドウォール、レスリー・ニールセン、シェリー・ウィンタース
☆☆☆★ 1972年/アメリカ/117分

 1970年『大空港」のヒットによりパニック映画が流行し出したが、本作もこの流行の担い手の1本。

「ボウイ&キーチ」*ロバート・アルトマン

1974-02_ボウイ&キーチ
THIEVES LIKE US
監督:ロバート・アルトマン
原作:エドワード・アンダーソン
脚本:ジョーン・テュークスベリー、カルダー・ウィリンガム、ロバート・アルトマン
撮影:ジャン・ボフェティ
出演:キース・キャラダイン、シェリー・デュヴァル、ジョン・シャック、バート・レムセン、ルイーズ・フレッチャー

☆☆☆★ 1974年/アメリカ/122分

    ◇

 恐慌に呪われた1930年代のアメリカ、ミシシッピー州。刑務所を脱獄した酒飲みの強盗チカモー(ジョン・シャック)とベテラン銀行強盗のT-ダヴ(バート・レムセン)、そして23歳の殺人犯ボウイ(キース・キャラダイン)の3人は、ともに終身刑の身。
 チカモーの親戚のガソリンスタンドに3人は身を隠し、自由の身を喜びながら新たな銀行強盗の計画を練っていた。
 そんな中に、彼ら無法者の世話を黙ってこなす痩せっぽちで陰気な娘キーチ(シェリー・デュヴァル)がいた………。

 アメリカン・ニューシネマの先頭を切った『俺たちに明日はない』(’67)よりもリアルな描写で、不況に喘ぐ時代のなかで一瞬の光を求め死の逃避行をつづける男女の青春ストーリーを、ロバート・アルトマン監督が活写した傑作。

 劇伴は一切なくラジオから流れてくるラジオドラマが効果的に演出され、ギャングたちの死に様も画面には映されず、それでいてエンディングの鮮烈さとラストシーンには感動をしてしまう。

 お世辞でも決して美しいとは云えないシェリー・デュヴァルの、コーラばかり飲んでいる病的なヒロインがなんとも素晴らしく、この感じがこの時代のリアリティを感じるところ。
 密告者マティを演じるルイーズ・フレッチャーの存在感も達者で、この作品を観たミロス・フォアマン監督が『カッコーの巣の上で』(’75)に抜擢したと云われ、期待に応えた彼女はオスカーを手にすることになったのである。

「カラスの親指」*伊藤匡史監督作品


監督:伊藤匡史
原作:道尾秀介
脚本:伊藤匡史
音楽:林祐介
出演:阿部寛,村上ショージ、石原さとみ、能年玲奈、小柳友、ユースケ・サンタマリア、ベンガル、上田耕一、鶴見辰吾

☆☆☆★ 2012年/20世紀フォックス/160分

    ◇

 道尾秀介の同名小説の映画化で、物語にも俳優たちにも爽快にダマされる快感。見事なエンディングには、感動さえ生まれたエンターテインメントな作品だ。
 

 ベテランの詐欺師タケこと武沢竹夫(阿部寛)は、競馬場で見つけた客(ユースケ・サンタマリア)をカモに、少し間抜けな新米の相棒テツこと入川鉄巳(村上ショージ)に寸借詐欺の手ほどきをしていた。
 ある時、スリの腕が一人前の少女まひろ(能年玲奈)を助けたことから、彼女の姉で自由奔放なやひろ(石原さとみ)と恋人の貫太郎(小柳友)の3人がタケのところに転がり込んで来た。
 5人の奇妙な共同生活がはじまり疑似家族のような賑やかさになるが、実はが5人はそれぞれに哀しい過去を背負い不幸な生い立ちを抱えていた。
 タケは8年前に闇金業者ヒグチ(鶴見辰吾)の恨みを買い娘を火事で失い逃亡生活に、テツさんは多額の借金から妻に自殺され、美人姉妹もヒグチのせいで一家離散の悲惨な人生を送ってきていた。
 連帯感で結ばれた5人は、逃げている生活から脱するためにヒグチへの反撃を決意し、一世一代の大勝負をすることに……。彼らに一発大逆転の目はあるのか。

    ◇

 「カラス」はプロの詐欺師を指す隠語で、はて「親指」とは?
 
 親指(お父さん指)は、人差し指(お母さん指)、中指(お兄さん指)、薬指(お姉さん指)、小指(赤ちゃん指)と難なくくっつくけれど、人差し指は小指とだけ寄り添わない。でも、親指が人差し指を支えれば、難なく小指と寄り添うことができる。

 テツさんがタケに話すこのエピソードは原作でも深いいい話となっている。
 そう、これはコンゲームというよりも詐欺師たちの人情噺なのである。だから、エピローグにホロリとさせられるわけで、プロローグとエピローグの空に放たれた風船にも意味合いが生まれてくるというもの。

 序盤のコンゲームのスリリングさが影を潜め、ミステリーとしては致命傷になるご都合主義に陥っていたりするが、なるほど、幕が上がった瞬間からの伏線がそこら中に張られ、それらが、ラストには絶妙に回収されるという快感は充分に味わえる。
 伏線回収のための説明過多になったり、種明かしが少し雑だったかもしれないが……。

 キャスティングは微妙ながらいい感じである。こんなに弾けている石原さとみには初め気づかなかったし、台詞棒読みの村上ショージも朴訥としたおっちゃんとしてほのぼの。
 そして能年玲奈。ある意味“まひろ”が主役と言ってもいいような存在感。さすが「あまちゃん」のヒロインに抜擢されるはずだ。


「突破口!」*ドン・シ-ゲル

0974-05_突破口!
CHARLEY VARRICK
監督:ドン・シ-ゲル
原作:ジョン・H・リース
音楽:ラロ・シフリン
出演:ウォルター・マッソー、ジョン・ドン・ベイカー、アンディ・ロビンソン

☆☆☆ 1973年/アメリカ/111分

    ◇

 1973年製作。『ダーティハリー』の次にドン・シーゲル監督が撮ったアクション映画。

 かつてはアクロバット飛行のパイロットだったチャーリー・ヴァリック(ウォルター・マッソー)は、いまは農薬散布の仕事をしている。冴えない中年男の彼だったが、実は裏の仕事として銀行強盗をしていた。しかしそれは、田舎町の小さな銀行を狙う程度のものだった。
 ある日、チャーリーはいつものように妻と相棒のハリー(アンディ・ロビンソン)ともう一人と共に田舎町の銀行を襲撃した。しかし、この日はいつものようにはいかなかった。
 逃走用の車にいた妻が警官と撃ち合い重傷を負い、助かる見込みがないと判断したチャーリーは車に火を放ち何とか逃げおおせた。そして隠れ家で奪った金を見てみると、何と75万ドルと予想以上の金額に唖然とするのだった。実はその金はマフォアの隠し資金で、チャーリーたちはメキシコに高飛びすることを決めた。
 警察とFBIに追われるチャーリーたちは、マフィアが差し向けた殺し屋モリー(ジョン・ドン・ベイカ)からも狙われることになった……。

 強盗シーンや複葉機とのカースタンドなど、ドン・シーゲルのキレのあるアクションが見ものだが、キャスティングも全員クセ者揃いってところがアクション映画の傑作とも云われる所以か。
 ウォルター・マッソーは、ヨメさん連れて小遣い稼ぎをするしがない中年男だが、死を覚悟した妻を車ごと爆破するドライな男っぷりがいい。
 彼の相棒には『ダーティハリー』で強烈な印象を残したスコルピオのアンディ・ロビンソン!
 そして追っ手の殺し屋には、薄ら笑いを浮かべながらアンディ・ロビンソンをなぶり殺しにして、この作品で強い印象を残した強面ジョン・ドン・ベイカー。
 

哀悼、藤圭子

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ここで ここで 右左
ここで ここで 西東

三つあなたと一緒の 思い出があれば
私はこれから 生きてゆける


阿木燿子作詞
「圭似子」と名乗っていたこの時期も大好き

安らかにお眠りください

「悪魔を見た」*キム・ジウン

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I SAW THE DEVIL
監督:キム・ジウン
脚本:パク・フンジョン
出演:イ・ビョンホン、チェ・ミンシク、オ・サナ、チョン・ググァン、チョン・ホジン、チェ・ムソン、キム・インソ

☆☆☆ 2010年/韓国/144分

    ◇

 連続殺人犯によって最愛の婚約者を残虐な殺され方をした国家情報院捜査官とサイコパスとの常軌を逸した復讐譚。


 怪物と闘う者は自らが怪物と化さぬよう心せよ
 お前が深淵を覗き込む時 深淵もまたお前を覗き込んでいるのだ
            ~フリードリヒ・ニーチェ「善悪の彼岸」より~


 冬の夜道でパンクをしてレッカー車を待つジュヨン(オ・サ)は、通りかかった男に襲われ連れ去られた。「助けて!お腹に子どもがいるの」と懇願するジュヨンだったが、無残にも叩き殺され遺体はバラバラに切断されて川辺に遺棄された。
 ジュヨンは引退した重犯罪刑事チャン班長(チョン・ググァン)の娘で、一ヶ月前に国家情報院捜査官のスヒョン(イ・ビョンホン)と婚約したばかりだった。ジュヨンが襲われる間際まで電話で話をしていたスヒョンは、彼女を救えなかったことで自分を呪い、犯人を追いつめることを誓って復讐の道へと踏み出す。

 スヒョンは休暇を申し出、後輩からGPS機能のカプセルを手に入れ、チャンから入手した捜査資料から捜査線上に浮かんだ4人の容疑者をひとりずつ締め上げていく。
 3人目の男ギョンチョル(チェ・ミンシク)の一人息子から、離れて暮らす彼のネグラを聞き出し、そこで大量の女性用下着や装飾品を発見する。作業場は血の生臭さが漂い、排水溝からジュヨンの婚約指輪を見つけたスヒョンは、ギョンチョルこそが犯人と確信する。
 塾のスクールバスの運転手をしているギョンチョルは、その間にも若い女性を惨殺。別の日、塾の生徒をビニールハウスに連れ込んでいたところにスヒョンが襲撃する。ギョンチョルを血まみれになるほどに叩きのめし、失神したギョンチョルにGPSのカプセルを呑み込ませたスヒョンはその場を立ち去った。
 いつでも自分を殺せたはずなのに、あまつさえ金まで与えられたギョンチョルは訳がわからないままも、逃亡しながら殺しをくりかえしていく。飛び込んだ町医者の看護婦を強姦しようとしたところに、ふたたびスヒョンが現れた。
 「これからが始まりだ。ますます残酷になるぞ」と耳打ちするスヒョンは、ギョンチョルの片方のアキレス腱を切り裂き姿を消した。

 ギョンチョルは友人の殺人鬼テジュ(チェ・ムソン)の元に身を寄せる。
 「惚れられたな。俺たちと同類だ。狩りをして、捕まえて、痛めつけて、また放して、その繰り返しを楽しんでいる」と云われたギョンチョルは、テジュの女セジョン(キム・インソ)をキッチンで犯しながら「ゲームだったら負けやしない」と、俄然精気を取り戻す。
 復讐なのかゲームなのか、ふたりの死闘は更なる展開へと向っていく……。

    ◇

 生かしてやる代わりに痛みを覚えろ
 最愛のひとの借りは10倍返しでは効かない
 100倍、1000倍返しで味あわせてやる  ってところであろうか……

 徹底したデスマッチは、追う側も追われる側もその執念たるもの、まさに“悪魔”に魅せられた人間たちの極悪を曝け出した拷問ゲーム。後味の悪さも『セブン』など可愛いものぞ。

 GPSを仕込まれたことを知ったギョンチョルは、チャン班長の顔を潰し、ジュヨンの妹を強姦して殺害し、警察に自首をしに来る。
 スヒョンはギョンチョルを連れ去り監禁。「お前が一番苦しんでいる時に殺してやる」と言い放つ。
 「これだけ遊べば充分だろう? 俺は苦痛など知らん。お前が俺から得るものなどない」と嘲笑うギョンチョル。

 苦痛も反省もないギョンチョルは、食欲も性欲も旺盛な鬼畜であっても人間の生々しい欲望を体現している。反対にその鬼畜を冷静に拷問するスヒョンは、冷徹なだけに人間として狂っているのであろう。箍(たが)を外し怪物と化した復讐者は、紙一重のところで我々の心のなかにも棲む悪魔なのだと肝に命ずることだ。
 罪悪感も反省もない鬼畜をいくら罰しようが何の効果にもならないし、ましてや痛みも知らない奴を復讐の名の下に痛めつけても失うものはこちら側の方が多い。

 さて、鬼畜を演じたチェ・ミンシクは『オールドボーイ』しか知らないのだが、この半端ない凄みと不気味さには圧倒される。
 当初企画段階では、本作の企画持ち込み者のチェ・ミンシクが復讐者スヒョンの役を演じるつもりだったらしいが、キム・ジウン監督の説得でこの稀代の悪役が誕生したと云う。

「哀しき獣」*ナ・ホンジン

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THE YELLOW SEA/黄海
監督・脚本:ナ・ホンジン
撮影:イ・ソンジェ
美術:イ・ウキョン
編集:キム・ソンミン
音楽:チャン・ヨンギュ、イ・ビョンフン
出演:ハ・ジョンウ、キム・ユンソク、チョ・ソンハ、イ・チョルミン、イム・イェウォン、タク・ソンウン、イーエル

☆☆☆☆ 2010年/韓国/140分

    ◇

 世界を震撼させた『チェイサー』(’08)でデビューしたナ・ホンジン監督の長編第2作。日本公開は2012年。
 登場人物が朝鮮族という日本人には少し判りにくい社会性を持った一面もあるが、彼らを取り巻く背景や差別と暴力を生々しく描いたコリアン・ノワールを楽しむことができる。


 ロシア、北朝鮮に国境を接する中国延辺の朝鮮族自治州。貧しい生活を送る朝鮮族(韓国系中国人)の女たちは、不法入国で韓国へ出稼ぎにゆく……。

 タクシードライバーのグナム(ハ・ジョンウ)はドン底生活のなか、妻(タク・ソンウン)の出稼ぎのために多額の借金をしたが、妻からは仕送りもなく音信不通の状態。タクシーの仕事だけでは返済もままならず、麻雀賭博に入り浸っている毎日だ。
 そんなある日、行き詰まったグナムに犬商人で殺人請負業者のミョン(キム・ユンソク)から、借金の帳消しを条件に韓国にいるある人物の殺しを持ちかけられる。
 苦悩するグナムだが、借金返済と妻に会いたい一心で密航船に乗り黄海を渡った。
 帰国は10日後、そのまま逃げれば故郷の母親と娘に刺客を送ると脅されている。

 グナムが狙う相手は、表向きは大学教授を装う裏組織の一員キム・スンヒョン。
 ソウル市内の自宅を下見したグナムは、合間に妻の消息を尋ねてまわることにする。
 二日目、いつものようにアパート周辺にやってきたグナムは、一足先に二人組の男たちに教授を仕留められる。証拠品となる教授の親指を切断する現場で教授夫人(イム・イェウォン)に見られたグナムは警察に追われる羽目になってしまった。
 教授を襲ったのは、弟分のバス会社社長キム・テウォン(チョ・ソンハ)に依頼された男たちで、教授の運転手も襲撃者のひとりだった。テウォンは、自分の愛人(イエール)を教授に寝取られたことから殺害を決行したのだった。
果たして、教授殺しを依頼していたのは2組あったわけで、襲撃現場を見られたテウォンはグナムを追い、グナムを雇ったミョンのことをも探り出し殺害を企てるが、ミョンはテウォンの裏をかき反撃。代わりに、高額の報酬を条件にミョンにとっても邪魔者になったグナムの殺害を請け負う。

 ヤクザと警察に追われながら妻の行方を探るグナム。そんな中で、朝鮮族の女性の死体が上がる。死体置場に写真確認を頼んだ男から、死んだ女はグナムが探している女だと告げられ絶望したグナムは、ミョンとテウォンへの反撃を決意し、三つ巴の死闘がはじまった。
 そしてグナムを狙うもう一つの魔手……ミョンに教授殺しを依頼した人物は誰だったのか……。

    ◇

 後半に解かれる殺人動機は他愛ないのだが、事件の発端なんてこんなものだと承知できるレベル。警察の包囲網を簡単に突破するご都合主義も、追いつ追われるスリリングな展開とダイナミックでスピーディーな映像から生まれる緊張感の方が勝り、140分の長さもあっと云う間。
 圧倒的なカーチェイスにカークラッシュも見応え充分に、ノンストップ・アクションを存分に楽しめる。

 そして韓国映画特有の残酷描写。
 コリアン・ヴァイオレンスは拳銃でドンパチやるよりも、牛刀や斧を振り回しザクザクと肉片と血しぶきを飛び散らすスプラッタが多い。これは日本映画では出来ない残酷描写なのだが、このグロテクスなスプラッタが、やる方もやられる方も人間の生命力の強さを生々しく見せつけているのは確か。
 本作では、キム・ユンソク演じる犬商人ミョンの執拗で凶暴な行動が凄い。あまりのターミネーターぶりに失笑するとこもあるが、凄みのある不気味さは秀逸。敵は最強であればあるこそ面白い。

 事件自体は単純な話で、結末は謎を残す。
 結局ミョンに教授殺しを依頼した人物は、唐突に出てくることになる銀行員と判明するのだが、資料を探ると銀行員と教授夫人は不倫関係にあるらしい。ただ、最後の銀行内のシーンからは、教授夫人が共謀しているのかどうかは観客の想像に託される描き方だ。
 夫人を演じるイム・イェウォンの涙目がいい……この表情からは夫人と銀行員との不倫関係などはなく、ただただ銀行員の横恋慕だったのではないかと推理もできるのだが……。

 そしてクロージングのあとのワンシーンが、主人公の虚しさを一層無常にする。
 女のことで殺し合い意地と面子で闘いつづける男たちは哀しく、女はしたたかに生きていく生き物ということだろう。


 

どこへ行く、山口冨士夫

元ザ・ダイナマイツのギタリストであり、元・村八分のギタリストだった山口冨士夫氏の急逝
何年か前からの闘病生活の果てかと思いきや、ひと月前に路上で突き飛ばされて意識不明の状態からの死、という驚きの訃報

一昨日、村八分のBOXを聴いていたばかりなんだよな
「どこへ行く」冨士夫……

享年64
ご冥福をお祈りします



素晴らしき映画タイトルの世界~ソール・バス

 ソール・バス(Saul Bass:1920~1996年)は、映画のタイトル・シークエンスのデザインを確立したことで有名なニューヨーク出身のグラフィック・デザイナーで、映画タイトルにコンピュータ・デザイン(ヒッチコック『めまい』)を最初に使った第一人者とも言われている。
 映画を見始めた頃に彼の多くの作品に出会えたことが、自分をグラフィックデザインの道に導いてくれたことは確かだ。

 昨年Googleが、ソール・バス生誕93周年にロゴ・アニメーションを制作したのだが、これが素晴らしい。



 順番に『サイコ』『黄金の腕』『スパルタカス』『ウエストサイド物語』『めまい』『北北西に進路を取れ』『或る殺人』『オーシャンと十一人の仲間』『八十日間世界一周』と、ソール・バスの代表作を散りばめた作品になっている。これは永久保存版。

   ☆

 上記以外の作品では、1950~60年代は『七年目の浮気』『大いなる西部』『おかしなおかしなおかしな世界』『グランプリ』など……
 1970年代以降は『エイリアン』(クレジットなし)、1990年代になると『グッドフェローズ』『ケープ・フィアー』とマーティン・スコセッシ作品を手掛け、最後の作品もスコセッシ監督の『カジノ』だった。

 一つの作品として出来上がっているのが……
 とにかくオシャレな『オーシャンと十一人の仲間』



 カラーアニメーションとして秀逸な『おかしなおかしなおかしな世界』



 最後に、ソール・バスの作品ではないが、ソール・バス・スタイルとして決まっているのが『パルプ・フィクション』と『キス・キス・バン・バン』だろうか。





妖艶な歌姫、Caro emerald

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 VILLAGE/VANGUARDで見つけたCaro emerald。
 最近のお気に入りのオランダの歌姫である。
 1950年代風のビッグバンド・ジャズからスウィング、ラテン系ミュージックが懐かしい感じを醸し出し、ラップやスクラッチなどの打ち込みのリズムが新しさを生むサウンドに仕上り、かなり心地よい。
 歌唱力はもちろん、セクシーさも兼ね備えた美貌にも虜になること間違いなし!

 デビュー・アルバム『DELETED SCENES FROM THE CUTTING ROOM FLOOR』の1曲目「That Man」のPVは、ソール・バスの映画タイトル風な趣がお洒落。



 他にも、カッコいい「Back It Up」をはじめ彼女のPVはどれも見応えあるものばかり。



「いくつかの場面」沢田研二

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 別の場所で「いくつかの場面」の話が出て、思い出したかのように聴いている。

 沢田研二主演の伝説のドラマ『悪魔のようなあいつ』の主題歌で、大ヒットした「時の過ぎゆくままに」を収録した7枚目のオリジナル・アルバムとして1975年の年末にリリースされた。

 ヒット曲「時の過ぎゆくままに」以外、作家陣に及川恒平、加藤登紀子、西岡恭蔵、河島英五ら70年代フォークの世界観を持ち込んだアルバムは、ジャケットも内省的歌詞の雰囲気を充分に伝えている写真で素晴らしい。
 演奏は朋友井上堯之バンドの他に、ティン・パン・アレー(松任谷正隆、細野晴臣、鈴木茂、林立夫)とプレ・ゴダイゴのミッキー吉野グループといった面々を揃えている。

SIDE A
01. 時の過ぎゆくままに (作詞:阿久悠/作曲:大野克夫)
02. 外は吹雪 (作詞:及川恒平/作曲:大野克夫)
03. 燃えつきた二人 (作詞:松本隆/作曲:加瀬邦彦)
04. 人待ち顔 (作詞:及川恒平/作曲:大野克夫)
05. 遥かなるラグタイム (作詞:西岡恭蔵/作曲:東海林修)
06. U.F.O. (作詞:及川恒平/作曲:ミッキー吉野)

SIDE B
01. めぐり逢う日のために (作詞:藤公之介/作曲:沢田研二)
02. 黄昏のなかで (作詞/作曲:加藤登紀子)
03. あの娘に御用心 (作詞/作曲:大滝詠一)
04. 流転 (作詞:加藤登紀子/作曲:大野克夫)
05. いくつかの場面 (作詞/作曲:河島英五)


 3曲の詞を提供している及川恒平の世界って少し判りづらいが、ミッキー吉野がプログレ風の曲をつけた「U.F.O.」は壮大なお伽噺で面白い。

 ジュリーが作曲した「めぐり逢う日のために」は、叙情的なしなやかなメロディが心地よい切ない恋歌の名曲。

 加藤登紀子の2曲は、いまこの年で好きになれる歌。特に「流転」は七五調演歌の“ハードボイルドな世界”だから、ジュリーには「どうなの?」って感じなのだが、これ、耳につく。

 タイトル曲「いくつかの場面」は、この年のジュリーは結婚があったり、PYGの解散を引きずっていたり、仕事面でも海外進出など多忙を極めていたときで、河島英五の歌詞はまさに沢田自身に置き換えられるほど内省的な世界だ。


 日本のロック黎明期に、いたるところで行われたロック・コンサートでPYGは罵声を浴びた。悔しい思いを忘れないから、前に進んでこれたジュリーたちPYGのメンバー。これも日本ロックの歴史の足跡。
 この歌、ジュリーは2コーラス目のサビで涙声になってしまう。ディレクターの大野克夫はこの涙声のテイクをそのままアルバムに収録している。大野克夫にしても期するところがあったのだろう。
 
 泣きながらのレコーディングについては、山口百恵の制作ディレクター川瀬泰雄氏の回想記に「ラスト・ソング」の裏話として、谷村新司からの「泣きながら歌わせてください」の要求を頑として拒んだことが書かれている。川瀬氏にとっては〈以前に聞いた、泣きながら歌ったレコードに “あざとさ”を感じた 〉が理由なのだが、ディレクターもそれぞれだから面白い。因みに山口百恵の「ラスト・ソング」は、泣くギリギリの震えた声が収録されている。

 さて、名曲揃いのこのアルバムの中で異質なのが、大滝詠一作詞作曲の「あの娘に御用心」だろう。
 『キャラメルママ』でアルバムデビューしたばかりのティン・パン・アレーを従え、山下達郎と大滝詠一がコーラス参加をしている。大滝詠一もティン・パン・アレーと同時期に『NIAGARA MOON』をリリースしたばかりで、ポップス・ファンは別にして広く一般にはまだその名前は浸透していない時期。山下達郎もシュガーベイブ時代であって、ブレイク寸前の彼らを起用したことが目玉のひとつだったかもしれない。
 しかし残念なことに、軽く歌うジュリーの声はくぐもり歌詞がとても聞き取りにくく、他の曲とのバランスにとても奇異な感じを受けることだ。

 この変な感じは、アルバム・リリースから20数年後に判明した。
 驚くべきことにアルバムに収録されているテイクは、ミキシングした大滝詠一の大チョンボでリハーサル・テイクが使用されていたのである。道理で、デモテープをなぞって大滝詠一の歌唱を真似ているかのような歌唱だったのだ。
 その昔、ビートルズやストーンズなど60〜70年代のロック・アルバムでテイクミスの収録があったりするのは周知であっても、まさかジュリーのアルバムでそんなことが起きているなんてびっくりであろう。
 この「あの娘に御用心」は『GO! GO! NIAGARA』で大滝詠一自身がセルカヴァーし、ジュリーが歌う本テイクは後に、大滝詠一のミキシングにより『大滝詠一SONG BOOK 2』に収録されて陽の目をみている。


 このあとジュリーは、セルフ・プロデュースのアルバム制作を挟んで、阿久悠との派手な世界観へと翔んでゆくわけで、このアルバムは“スター”ジュリーの試行錯誤のなかで生まれた傑作と云えるだろう。


「ホテルローヤル」桜木紫乃



 2度目のノミネートで第149回直木賞を受賞した桜木紫乃の連作短編集。
 北海道の釧路湿原を180度望める高台に建つ、部屋数6つの小さなラヴホテル“ホテルローヤル”。
 そこに関わる様々な事情をもった市井の営みや孤独、閉塞感といった悲哀が、一話ごと時間軸を遡って描かれる人間模様。

シャッターチャンス
  夢と希望は、廃墟できらきらと光る埃にそっくりだった

 かつてはアイスホッケーの選手で知られた中学の同級生と付き合っている美幸(33歳)は、彼に誘われ廃墟として佇んでいる“ホテルローヤル”に、投稿雑誌用のヌード写真を撮りにやって来た……。

本日開店
  死ぬまでいいひとでいられる能力は
  そのひとに与えられた徳ですもんね

 二十も年上の僧侶と結婚した幹子(40歳)は、寺を維持してゆくために、定期的に檀家と寝ている。ある日、経営難で倒産した“ホテルローヤル”のオーナーが死んだことを知る……。

えっち屋
  男も女も、体を使って遊ばなきゃいけないときがある

 ある事件がもとで客足が途絶えた“ホテルローヤル”が営業を終える最後の日、実質的に経営してきたオーナーの娘雅代(29歳)は、アダルト玩具の在庫を引き取りにきた営業マンにあることを頼む……。

バブルバス
  五千円でも自由になったら、わたしまたお父さんをホテルに誘う

 小学生の娘と中学生の息子と舅を抱える主婦の恵は、たまたま浮いた5千円で夫と“ホテルローヤル”の門をくぐる……。

せんせぇ
  帰る家を失った少女に「かわいそう」と言わせた自分を嗤った

 単身赴任している数学教師は、妻が20年間不倫をしていたことに耐えている。高校2年のまりあは担任の彼が帰省する電車に同乗し、両親に捨てられたことを告げる……。

星を見ていた
  なにがあっても働け
  一生懸命に体動かしてる人間には誰もなにも言わねぇもんだ

 十も年下の無職の夫に毎日求められるミコ(60歳)は“ホテルローヤル”の清掃婦。3人の子どもたちは既に家を出て音信不通。ある日、次男から3万円入りの封書がホテル宛に届いた……。

ギフト
  幸せなんてね、過去形で語ってナンボじゃないの

 42歳になる看板屋の大吉には21歳の愛人るり子がいた。妻と子どもと愛人のために一念発起した彼は、高台にラヴホテルを建てることにする。しかし、ラヴホテル経営を嫌がる妻は子どもとともに出て行ってしまった。るり子は大吉の子を身籠り、大吉はホテルの経営に夢を乗せる……。

    ◇

 ここに登場する人間たちはみんな金銭に困窮している。それに加え「性の貧困」「愛情の貧困」と、生臭い話ばかりが沁み込んでいる。
 暗く、重い話ばかりだが最後まで面白く読ませるのは、ホテルの開業から衰退までの時間を逆に遡ってゆく構成だろう。

 登場人物のリンクばかりでなく、例えば「シャッターチャンス」でヌード撮影に適された部屋がなぜ乱れたままなのかは「えっち屋」で明かされ、ホテルが経営難に陥った原因は「せんせぇ」の“その後”につづく。
 結末に希望らしきものが見える一編でも、読者には彼らの未来が見えているわけだから、長い時間の流れのなかに、女と男の狡さと弱さ、生きる希望と性欲がごちゃ混ぜになり、そこから抜け出せないまま、もがいている人たちの様子に生きていることの実感を見いだすだろう。切なさが、読後の余韻となって迫ってくる。
 
    ◇

ホテルローヤル/桜木紫乃
【集英社】
定価 1,470円(税込)