TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「危いことなら銭になる」*中平康監督作品

DANGER PAWS_ps

DANGER PAWS
監督:中平康
原作:都筑道夫 「都筑道夫」
脚本: 池田一朗、山崎忠昭
撮影: 姫田真佐久
音楽: 伊部晴美
主題歌:「危いことなら銭になる」三宅光子
出演: 宍戸錠、浅丘ルリ子、長門裕之、草薙幸二郎、左卜全、武智豊子、野呂圭介、榎木兵衛、郷鍈治、平田大三郎、藤村有弘

☆☆☆ 1962年/日活/82分

    ◇

 “ヤバいことならゼニになる”

 モダニスト中平康が監督したクライム・コメディで、軽快でポップな色合いが実に愉しい。


 紙幣印刷用のスカシ入り和紙10億8000万円相当が、ギャングたちに強奪された。
 臨時ニュースを聞いてニヤリと笑ったのは、拳銃無敵の腕前ながらガラスを擦る音には全く弱い事件屋の“ガラスのジョー”こと近藤錠次(宍戸錠)、三流雑誌「週刊犯罪」の編集長で“計算尺の哲”と呼ばれる沖田哲三(長門裕之)、格闘技が得意の“ダンプの健”こと芹沢健(草薙幸二郎)の3人。彼らの目的はお互いを出し抜き、紙を盗んだ連中に贋幣の名人坂本老人(左卜全)をギャングに高く売りこむことだった。
 ところが肝心の名人をさらったのは、強奪犯の一味のビッグの修(郷鍈治)とポーカーフェイスの秀(平田大三郎)。ジョーと哲と健の3人は、それぞれにあの手この手を使って名人を奪還しようと悪戦苦闘する。

 ジョーが目をつけた共栄商会に乗りこんでみると、そこには秋山とも子(浅丘ルリ子)という若い美人が一人いるだけ。パリの柔道教師を夢みるとも子は大学に通うかたわら、このトンネル会社の電話番のアルバイトをしていたのだった。ひょんな拍子でジョーと行動をともにすることになるとも子だったが、ある日、ギャング仲間の管理人のあとをつけ、盗まれた和紙を積んだワゴン車を盗み出す事に成功。ギャングに一泡吹かせたと思いきや…………。


    ◇

 都筑道夫原作の作品は、東宝映画『100発100中』シリーズや小林旭の『俺にさわると危ないぜ』のように、エンターテインメントの愉しさとあか抜けたカッコ良さだろう。

 犯罪アクションコメディなので、ストーリーの無茶なところは俳優陣の会話と演技で目くらまし、4人がギャングたちと闘うクライマックスにエレベーターの高低を斬新に使ったり、ラストの偽札交換シーンの引きの画とか、画面転換もスピーディで、とにかくテンポがいい中平康監督のセンス!

 敵対しながらも友情をみせる3人の男と美女ひとりのパターンは、モンキーパンチの劇画「ルパン三世」連載前の映画ながら、池田一朗との共同脚本の山崎忠昭がアニメ『ルパン三世』第一話に携わったことに無関係ではないかも?

 “エースのジョー”ならぬ“ガラスのジョー”でセルフパロディに興じ、自らが所持する赤いメッサーシュミットを颯爽と駆る宍戸錠は粋でダンディ。
 長門裕之の気障ったらしや、左卜全のお惚けと武智豊子のガンマニアぶりなど、ナンセンスな笑いにもあふれるが、しかしこの映画の見ものは、おきゃんで愛らしい22歳の浅丘ルリ子のコメディエンヌとしての魅力である。
 ぽんぽんぽんと早口で捲し立てる威勢のよさと、柔道二段、合気道三段のキャラクターでダンプのあんちやん相手にアクションを見せたり、パンツ丸見えでひっくり返るお色気もあったりと、そりゃもう可愛いいったらありゃしない。ぞっこんになること間違いない。

 誰があなたを殺すのかしら 
 にぎやかなその街角で 冷たいナイフのひと突きで
 ある晴れた秋の朝 誰があなたを殺すのかしら

 谷川俊太郎作詞の主題歌を歌っているのは、当時は大橋巨泉夫人であったジャズ・ヴォーカリストのマーサ三宅である。


★俺にさわると危ないぜ★
★100発100中★

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◆「人類学入門 「エロ事師たち」より」*今村昌平監督作品

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監督:今村昌平
原作」野坂昭如
脚本:今村昌平、沼田幸二
撮影:姫田真佐久
美術:高田一郎
音楽:黛敏郎
出演:小沢昭一、坂本スミ子、近藤正臣、佐川啓子、田中春男、中野伸逸、菅井一郎、園佳也子、菅井きん、北村和夫、浜村純、二代目中村鴈治郎、殿山泰司、ミヤコ蝶々、西村晃、佐藤蛾次郎、加藤武、榎木兵衛

☆☆☆★ 1966年/日活/128分/B&W

    ◇

 原作は野坂昭如の小説デビュー作『エロ事師たち』。
 〈エロ道〉の追求と〈エロ事〉への執念を燃やす男の生き様と、人間たちの本能である「性」への感情を、ブラックユーモアを交えて描いた人間喜劇の傑作。

 エロに耽溺する人間たちの切なさと滑稽な姿こそ「生」へのエネルギーだと言わんばかりに、徹底的に人間観察を施した演出で日本人の「性」に関する後ろめたさとか暗さを遠慮なく曝け出してゆく。


 8ミリカメラを数台持って、今日もスブやん(小沢昭一)は仲間たちとブルーフィルムの撮影に勤しんでいる。相棒の伴的(田中春男)が編集をし、エロ写真の合成は色男のカポ一(中野伸逸)の仕事。
 カラカラと映写機の音が響くなか、フィルムのチェック。8ミリのスクリーンが映し出されて、本編のクレジットになる。そのまま画面は、スブやんが住んでいる部屋にズームして物語がはじまる。

 エロ事師の仕事は、8ミリのブルーフィルム、エロ写真、エロ(官能)小説、エロテープの製作販売のほかにも、売春斡旋、乱交パーティの主催など幅広い。顧客は大手会社の重役筋。非合法な裏世界に住まい、俗世間の「欲」に応えるべく、採算度外視で仕事に励む職人気質のスブやんは、エロ稼業に誇りと自信を持っている。
 
 スブやんは、下宿先だった戦争未亡人で理髪店を営む松田春(坂本スミ子)と内縁関係にあり、春には浪人生の息子・幸一(近藤正臣)と15歳の娘・恵子(佐川啓子)がいる。
 幸一は極度のマザコンで、恵子は幼い頃、スブやんが原因で交通事故に遭い太ももに痛々しい傷跡が残っている。ふたりはスブやんの商売を知ってから、幸一は金の無心、恵子は嫌悪感を露にしながら不良中学生のように過ごしている。
 スブやんは、そんなふたりの面倒も嫌がらず、春のためにも懸命に、ヤクザに邪魔をされようが働き稼いでいる。

 そんなある日、春が病で倒れた。商売にも障害が起こりイライラするスブやんは、つい恵子と情交を結んでしまう。それを知った春は、スブやんに恵子と結婚してくれと言い出す。
 伴的は商売をもっと頑強にするために、自前の現像所を作ろうと提案し金の工面をするが、その金を幸一が持ち逃げしてしまう。それでも、幸一を案ずるスブやんである。

 精神不安定で個室で療養するようになった春のところに、嫁をもらったと幸一が尋ねてくる。スブやんもひさしぶりに病室で春とセックスをするが、翌日、春は突如として狂いだし、亡くなってしまう。
 エロ事に生き甲斐をなくしインポテンツになったスブやんは、人間への性的快楽を機械に求めるようになり、完璧なるダッチワイフの製作にとりかかる。エロ事師一世一代の大仕事である。

 5年後。実家を美容院にして開店させた恵子は、不良仲間だった客と「十(とう)でズベ公、十五(じゅうご)でアネゴ、二十歳(はたち)過ぎたらただの人や」と笑い飛ばすほど一人前の美容師になっていた。
 店の裏の運河の川縁には、停泊する屋形船のなかで春に似せたダッチワイフの研究に余念のないスブやんが生活している。ダッチワイフを南極観測船に提供しようと、商売っ気たっぷりの幸一の話を一蹴するスブやんは、まるで達観した仙人のような姿だ。
 恵子からもらう髪の毛を、一本一本陰毛部分の植毛に没頭するスブやん。
 その夜、停泊用のロープがほどけ、スブやんの船はゆっくり大阪湾から大海に流れていく。

 冒頭の8ミリ画面に変わり、漂っていく船とともに8ミリ映画は終わる。

 スブやん「わかるなぁ。この男の気持ち」
 伴的「わいには わからんなぁ」
 カポ一「死んでまうんやろか」
 スブやん「さ、次やろ!」

 …………暗転………

    ◇

 初の主演映画である名ヴァイプレイヤー小沢昭一(1967年の『痴人の愛』でも主役だった)は、巧みに大阪弁を操りエロ道まっしぐらの主人公の哀れさと滑稽な姿を、見事なほどの存在感で見せつけ、ひたすら裏世界に生きる男の純情さと人に対する温かさが微笑ましい。
 大阪弁に関しては、自然体の坂本スミ子に比べ小沢昭一はいかにもわざとらしさがあるのだが、それが逆に生臭さを消す作用になり、俗世間を漂う如何わしさを醸し出していて面白い。

 今村昌平好みのぽっちゃりした坂本スミ子は、その体躯から発散する妖艶さが素晴らしい。決して美人ではないのだが、菩薩のような優しさがとても美しい。
 セット撮影がほとんどなくロケーションだらけの本作で、3階の病室のベランダから叫び歌う坂本スミ子の鬼気迫る狂人演技は他を圧倒する。浴衣の前がはだけた半裸姿で、病室の鉄格子の出窓から手足をばたつかせ、大声で春歌を歌う坂本スミ子を大通りから群衆が見上げているのだが、その驚きようは決してエキストラとは思えない。今村昌平のリアルな演出の一端であろうか。理髪店となる河川沿いの住居も、実際に人が住んでいる家を借り受けて改装したらしい。
 
 そんな今村昌平の演出に伴う姫田真佐久のカメラワークも、人間を冷徹に見据えているかのように相変わらず凄い。
 スブやんの商談を隣のビルからロングショットで撮らえるカメラをはじめ、天井から覗いたり、窓越し、襖越し、ガラス越し、水槽を挟んだり、登場する人物はほとんどのシーンでカメラと相対することなく、子どもが蟻の巣を虫眼鏡で観察するかのように、カメラのレンズが人間を観察する眼となり、観客はこっそりと市井の生活を覗き見をしている錯覚に陥る仕組みだ。
 果ては、恵子の高校入学式では床においたカメラで女子生徒の沢山の脚だけしか映さない奇抜さとか、幸一の嫁が病院の廊下を歩いてくるシーンではただならぬ空気がカメラから立ちのぼっている。

 子持ちの娼婦を処女に仕立てる置屋のミヤコ蝶々の図太さとか、処女を欲しがる中村鴈治郎のエロ爺ぶりや、知恵遅れの自分の娘をブルーフィルムの相手役にする男優の殿山泰司の畜生ぶりなど、名優のリアリティによっても人間の「欲」のどうしようもなさが暴かれている。

 嗚呼、人間なんて節操もない愚かな動物。みんな同じ穴の狢ってことだろ。

「モネ・ゲーム」*マイケル・ホフマン



GAMBIT
監督:マイケル・ホフマン
脚本:ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン
撮影:フロリアン・バルハウス
美術:スチュアート・クレイグ
衣装:ジェニー・ビーヴァン
出演:コリン・ファース、キャメロン・ディアス、アラン・リックマン、トム・コートネイ、スタンリー・トゥッチ

☆☆☆ 2012年/アメリカ/90分

    ◇

 名画の贋作を使って、一世一代の詐欺計画を企てる美術鑑定士が主人公のコメディ。

 英国のメディア王で傲慢な雇い主シャバンダー(アラン・リックマン)からの屈辱に耐えかねた美術鑑定士ハリー・ディーン(コリン・ファース)は、一世一代の詐欺を企てシャバンダーから大金を奪おうと計画する。
 ハリーはまず、印象派画家モネの名画「積みわら」の連作の1枚で、行方不明になったとされる“夕暮れ”の贋作を、友人で贋作の名人ネルソン少佐((トム・コートネイ)に描かせる。 
 絵画に信憑性を持たせるために、この絵画を第二次大戦中にナチスから押収した将校の孫としてテキサスに住むカウガールのPJ(キャメロン・ディアス)を絵の持ち主に仕立て上げ、シャバンダーに売りつける計画だったが、PJの想定外の行動によって、計画はハプニングの連続。思いがけない事態へと転がっていく…。

    ◇

 元ネタは1966年に公開されたマイケル・ケインとシャーリー・マクレーン主演の『泥棒貴族』。どんでん返しも気の効いたクライム・コメディの傑作だった。
 これをストーリーテラーのジョエル・コーエン&イーサン・コーエン兄弟が脚色し、伏線も見事に張られた洒落たコン・ゲーム映画になっている。

 タイトバックのコミックがいかにも60年代のコメディっぽくて懐かしい感じがするし、全体にのんびりとしたオールドタイプに仕上げているのには好感。
 
 オスカー俳優コリン・ファースが見せるサヴォイ・ホテルでの一連のスラップスティックな笑いは、いかにも英国人らしいスマートさで演じているので愉しい。
 キャメロン・ディアスのコメディエンヌぶりはとってもチャ−ミングだし、アンダーウェア姿でスタイルの良さを魅せるサービスぶり。オンチな歌を披露するのも、とにかくキュートで可愛いのだ。
 アラン・リックマンが真面目な顔で何度もフル・ヌードになるのは笑っちゃうしね。

 途中、バブル時代を思わせるかのような日本人の商社マンたちが現れるのだが、今時こんな日本人の描き方はないだろと少し引く。何だか不快な気持ちにまでなるのだが………これがあとあと………見てのお楽しみである。

さあ、楽しくダマされよう!



「黒薔薇昇天」*神代辰巳監督作品



監督:神代辰巳
原作:藤本義一
脚本:神代辰巳
撮影:姫田真佐久
主題歌:「賣物ブギ」ダウンタウン・ブギウギ・バンド
出演:岸田森、谷ナオミ、芹明香、高橋明、庄司三郎、谷本一、山谷初男、東てる美

☆☆☆☆ 1975年/日活/73分

    ◇

 藤本義一の「浪花色事師~ブルータス・ぶるーす」を原作に、ブルーフィルム作りに奔走する男と女の哀歓をコミカルに描いた傑作。
 題材は今村昌平監督の『エロ事師たち~人類学入門』('66)に似ているが深刻さは皆無。活動屋へオマージュを捧げながら、実にバカバカしく、摩訶不思議に、裏映画のバックステージ物に仕上げているのが神代流か。


 大阪を根城にブルーフィルムの製作をしている十三(岸田森)は、カメラマンの安さん(高橋明)と照明や雑用係の石やん(庄司三郎)、専属女優のメイ子(芹明香)とメイ子のオトコで男優を務める一“はじめ”(谷本一)らを従え、和歌山の海辺の旅館の一室で撮影していたが、メイ子が一の子どもを妊娠したため、胎教に悪いので引退すると言い出した。仕方なくロケ隊は撮影を中断して大阪に引上げるのだった。
 メイ子への説得はつづく。
 「わいら撮ってるもんは、そこらのヤクザが資金稼ぎにやってるのとはわけが違うで。わいらのはゲージツなんや」と声を高める十三は、大島渚や今村昌平を敬愛する“活動屋”くずれ。安さんとふたりは独立系成人映画制作会社の残党だ。しかしメイ子の意志は固く諦めるしかない。

 副業でエロテープを作っている十三は、ある日、行きつけの歯科医院に仕掛けた盗聴テープの録音から、和服姿の美しい幾代(谷ナオミ)と歯科医(山谷初男)との関係を知る。そして十三は、録音テープを手に探偵だと偽り幾代に接近し、彼女が関西財界人のお妾さんと知る。淑やかな彼女の魅力に惹かれた十三は、浮気の証拠があると幾代を部屋に連れ込んだ。

 「ファックちゅうもんわですなぁ……………人間の行為のなかで一番崇高なもんなんですわぁ。人間の根源的な美の再確認ですわ」

 幾代を口説きおとし、抱く十三。たちまち絶頂に達するや、そこに機材を抱えた安さんと石やんが乱入し、撮影をはじめる。
 こうして幾代はブルーフィルムの主演女優になり、同時に十三の嫁になった。

 「焼きもちやきまへんな」
 「誰とファックしようと、これは仕事や。女優をヨメはんにしてる監督はんはいっぱい居てはるけど、焼きもちやく監督はんがいてはるか?」

 ふたたび和歌山の旅館の一室。幾代と一のセックスシーンに、お腹の大きくなったメイ子が嫉妬し、十三さえも幾代に焼きもちをやき、撮影はまたもや中断。
 せっかくのテープがフイになっておかんむりの安さんに対して、「焼きもちやいてしもうた。修行が足らんのや」と照れる十三なのであった……。

    ◇

 内田あかり主演の歌謡ポルノ『ロスト・ラブ~あぶら地獄』('74・小沼勝監督)に次ぐ、岸田森の2本目のロマンポルノ出演作となる本作。ヒロインを谷ナオミに据えているとしても、主人公は岸田森。なんてったって岸田森なのだ。
 岸田森の本作出演は多分、前年のテレビドラマ『傷だらけの天使』で神代辰巳が2話分のメガホンをとったことがきっかけであろう。特に第4話『港町に男涙のブルースを』で、荒砂ゆきに対しての岸田森のふざけっぶりは大ウケなのだが、こちらはもっと弾けてる。コテコテの大阪弁を捲し立て、胡散臭さと呆けた所作での怪演ぶりは絶妙。
 映画の後半では、谷ナオミとの濃厚なセックスを延々と繰り広げるのだから、クールな岸田森を知っているファンはビックリするであろう。
 ついでに記しておくと、岸田森が最初に出演した『ロスト・ラブ~あぶら地獄』は、荒砂ゆきが主演した神代辰巳監督の文芸ロマンポルノ『鍵』の併映作だった。

 映画芸術論、ワイセツ論を語らせ、映画撮影を撮る内省的手法は、どこまでも神代自身が私事を映し取っているかのよう。
 全編にユーモアと哀しみを漂わせ、唐突に、画面の繋がりなどお構いなくびっこを引きながら歩く岸田森の姿には、当然にして川島雄三をダブらせている。

 70年代の大阪の街の風情、そこに流れるダウンタウン・ブギウギ・バンドや奥村チヨなどの歌謡曲は見事にマッチし、愛染かつらから大正琴、果ては全裸でローラースケート・ファックをする岸田森と谷ナオミのBGMに結婚行進曲と、シュールな神代流遊び心が遺憾なく響き渡る。
 ダウンタウン・ブギウギ・バンドの「賣物ブギ」の冒頭となるグルーヴィーなブルーズ部分をテーマにしたのは、後の『赫い髪の女』('79)で絶妙な選曲となる憂歌団のブルーズに先立つ、会心の世界観だ。
 「カッコマン・ブギ」と「知らず知らずのうちに」も見事に画とマッチした選曲。
 タクシーの中で日傘を差す谷ナオミのテーマとして「終着駅」が流れるのも、貞淑さと豊満な女の匂いがブレンドされたかたちで妙に色っぽい。

 撮影は、今村昌平映画の時代から神代作品でもお馴染みの姫田真佐久。
 全裸の芹明香が赤いパラソルを持って入り江を歩くシーン、岸田森と谷ナオミが乗る松坂屋屋上の丸型ゴンドラ、岸田森と高橋明が釣舟屋の桟橋で掛け合うロングショット、岸田森が芹明香を説得する天王寺動物園ではキリンの檻の前を通り過ぎる幼稚園児の列、なんば駅前で岸田森と谷ナオミがタクシーに乗り込むシーンとか、ワンシーン・ワンカットの長回し多用は腰の据わった美しい構図を数々見せてくれる。

 そして見事なローアングルは、芹明香が階段ででんぐり返りして「産まれてしもうやないかぁ」のストップモーションで決まる。


[神代辰巳作品]
★赤線玉の井 ぬけられます★
★一条さゆり 濡れた欲情★
★恋人たちは濡れた★
★女地獄 森は濡れた★
★やくざ観音 情女仁義★

「「市井」より 本番」*西村昭五郎監督作品



監督:西村昭五郎
原作:藤本義一「市井」
脚本:熊谷禄朗
撮影:山崎善弘
音楽:高田信
出演:山口美也子、宮下順子、橘雪子、高橋明、庄司三郎、丹古母鬼馬二、椎谷健治、中西良太、雪丘恵介、松井康子

☆☆☆★ 1977年/日活/69分

    ◇

 流れ歩くドサ回りのストリッパーたちの生態を書いた藤本義一の小説「市井」の映像化で、男たちに踏みつけられ、泣かされ、それでも華やかなスポットライトの下で踊りつづけるストリッパーたちの日常と哀歓を淡々と描いた秀作。


 高知の施設で育ち、4歳の時に旅芸人一座の座頭の養女となり、18歳の時には義父に犯された過去を持つストリッパーのチェリー(山口美也子)。
 座員のケンちゃんと逃げるように上京したが、働きだしたストリップ小屋では織田(椎谷健治)というヒモがついたが、粗暴な織田は暴力沙汰で服役している。チェリーはその間、小屋の従業員で純朴な青年酒田(中西良太)と関係を持っていた。
 ある日突然、出所した織田が現れた。しばらくして、チェリーと酒田の関係を知った織田は、チェリーの肩をガラスの破片で突き刺し、裸で逃げる酒田を交番まで追いかけ、挙げ句にまた手錠をかけられる。
 当分戻っては来れない織田に、チェリーをはじめ姉貴分の万子(宮下順子)らはほっとするが、逆に酒田はすっかりチェリーのオトコ気取リ。果てはヤクザ相手のイカサマ麻雀のオトシマエにチェリーを男たちに差し出す始末。
 やけ酒を煽る酒田に、万子は「あんた、織田に似てきたね」と言い放つのだった……。
 

 「いまの若い子たちは、本当に飢えるってこと知らないわ。貧乏がどんなものか、ホント、分かっちゃいないのよ。だからサ、死ぬだの生きるだの、辛いとか………わたしはちがうわ。他のみんなが死んでも、わたしだけは絶対に生きてやる。死んだりなんかしてやるもんですか」

 男たちの間を漂いながら、不貞腐れるでもなく、男に従順になるでもなく、懸命に生きているチェリー。ルポライター(丹古母鬼馬二)に語るかたちでチェリーの生き様が見えてくるのだが、結局、捨て鉢になった酒田によって舞台の上で刺されて死んでしまう。

 山口美也子はこの作品が映画デビュー。チェリーの逞しさを見事に演じる彼女が、とにかく素晴らしい。自由劇場や黒テントを経てきた演技力は当然ながら、スタイルもよく、踊りも巧く、独特の雰囲気をもったその存在感。いっぺんに虜になった女優だ。
 彼女はこの後、つづけて西村昭五郎監督の『肉体の門』('77)と曽根中生監督の傑作『新宿乱れ街 いくまで待って』('77)に出演し際だつ魅力を見せつけ、根岸吉太郎監督のデビュー作『オリオンの殺意より 情事の方程式』('78)ではコメディエンヌの才能を見せたりと、70年代末のにっかつロマンポルノを支える存在になった。
 そして、80年代に一般映画『さらば愛しき大地』('82)でブルーリボン賞助演女優賞などを獲得している。

 姉貴分に扮した宮下順子は、脂の乗った時期だけに貫禄充分。
 その宮下が可愛がっていた犬が死んでしまったエピソードや、狂言自殺する橘雪子と庄司三郎の成り行きなど、踊り子とヒモたちの世界は可笑しくも哀しい。


[山口美也子出演作品]
★さらば愛しき大地★
★われに撃つ用意あり★
★新宿乱れ街 いくまで待って★
★おんなの細道/濡れた海峡★
★天使のはらわた 名美★
★ピンクサロン 好色五人女★

「チェイシング・リリー」マイクル・コナリー

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 『ハリー・ボッシュ・シリーズ』や『リンカーン弁護士シリーズ』が人気の、ハードボイルド作家マイクル・コナリーのシリーズ物ではない長編サスペンス。


 「リリーはいるか?」
 いきなり、ナノテクノロジーのベンチャー企業の科学技術者ヘンリー・ピアスの引っ越してきたばかりの新居に、間違い電話が次々とかかってくる場面からはじまる。一気に謎への渇望を抱かされる見事な導入部というほかない。
 腹を立てながらも、やはり気になる主人公と読者。リリーって誰なんだ?リリーってどんな女なんだ?
 調べてみると、リリーはアダルト・サイトを媒介にしている売春婦。黒髪にブラウンの瞳、スペインとイタリアの血が混じった美しい女性で、リリーへの連絡先電話番号がピアスの番号と同じだった。
 リリーに何かあったのではないか?

 ピアスが社長でもある企業では、革命的な発明による特許出願間近で、社運を賭けた出資者とのプレゼンテーションが週明けにあるというのに、彼はリリー探しに没頭してしまう。
 まずは、リリーが3Pを愉しむときのパートナーになるロビンという女に電話をして会いに行くのだが、やがて、自らに犯罪の嫌疑がかかり容疑者として追われるようになってしまう……。

 いかにリリーが美しても、たかが娼婦ひとりの行方。まさしく、妖しくアブナイ世界にわざわざ首をつっこんでいくピアスの行動にありえないと思い始めるころ、ピアスにとってリリーの行方を探すことが、彼の過去のある出来事に起因していると判明する。なるほど、巧いストーリー展開である。

 1本の間違い電話から、抜き差しならぬ泥沼にはまり込んでしまう男の話となると、巻き込まれ型サスペンスの典型。アルフレッド・ヒッチコックやブライアン・デ・パルマの映画への連想もできる。
 ブロンドで青い瞳のロビンの登場では、ヒロインではないにしろ偏執症的ヒッチコックの『鳥』('63)。あの映画では、ブロンドのティッピ・ヘドレンが生き残り、黒髪のスザンヌ・プレシェットは眼を烏にえぐられた。
 ロビンのキャラクターはデ・パルマの『ボディ・ダブル』('84)。まるっとメラニー・グリフィス(ティッピ・ヘドレンの娘)に果て嵌るじゃない。
 解説にも書かれているがリリーの題材は実在の『ブラック・ダリア』事件で、デ・パルマの映画『ブラック・ダリア』も連想してしまうのだが、リリーに偏ることなくもうひとつの物語として主人公のベンチャー企業の開発話が平行する。
 原題の『Chasing The Dime~ダイム(10セント硬貨)を追いかけろ』とは、主人公がスーパーコンピュ-タを10セント硬貨のサイズにまで小型化しようと開発を目指していることを指している。
 また〈Dime〉のスラングとして「10=パーフェクト=セクシーなほど完璧な美女」という意味合いがあるので、邦題で〈Dime〉を分かり易く〈リリー〉に変えたのも単に安易な変更ではないってことになる。

 窮地に追い込まれたピアスは打開策として科学者の論理のアプローチを活用する。この理論的推理で真相に迫るところがなかなか面白いし、大学時代の友人ハッカーとの会話に映画の台詞などを小道具に使うスタイルも洒落っ気がある。

    ◇

チェイシング・リリー/マイクル・コナリー
訳:古沢嘉通・三角和代
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
定価 1,050円(税込)

「二流小説家」デイヴィッド・ゴードン

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 2012年度の『このミステリがすごい!』『週刊文春ミステリーベスト10』『ミステリが読みたい!』で、海外部門第1位の3冠を獲得したミステリ。


 ポルノ小説や、SF小説、ヴァンパイア小説、ハードボイルド小説などをそれぞれ別名義で書いている三文小説家ハリー・ブロックは、ある日、12年前に4人の女性を惨殺した連続殺人鬼で死刑執行を3ヶ月後に控えているダリアン・クレイから、自分の告白本を書いてくれと依頼させる。
 世紀の殺人鬼の自叙伝なら一気に有名になれる。しかし、そのためにはひとつ条件があった。ダリアンを崇拝する女たちを取材して、ダリアンが読むために彼女たちを主人公にしたポルノ小説を書けというものだった。
 さて、ハリーが取材を続ける最中、その相手が次々と殺害される事件が勃発する。それも、殺人の手口が12年前のダイアンとまったく同じものだったことから、ダリアンが無実だった可能性が示めされてしまった。もし過去の事件がダリアンの手によるものでなかったら、いったい真犯人は誰? 
 FBIから容疑者として扱われるハリーは真実を追いはじめるが、今度はハリーが何者から命を狙われるようになる………。


 ミステリとして二転三転する展開は面白い。ハリーのビジネス・パートナーとなる女子高生クレアや、ダリアンの弁護人の助手テレサのキャラクターも魅力的で(特にクレア!!)好きになれる。

 前半は、ハリーを取り巻く女たち(クレア、テレサのほかに、被害者の双子の妹でストリッパーのダニエラ、元恋人のジェイン、そして女弁護士のフロスキー)の人間関係にかなりの頁を費やし、事件までなかなか進まない。
 その間、本作作中にはハリーが書くポルノ小説、SF小説、ヴァンパイア小説、ハードボイルド小説がチャプターとして挿入され、さらに著者の文学論芸術論なるものが記される趣向だ。それが本書のキモなんだろうが、冗長な記述は鬱陶しく感じることしばしば。
 著者のデイヴィッド・ゴードン自身の投影だというが、別名義で二流・三流な分野で小説を書き分けている有名作家はいっぱいいる。この自虐的な趣向は、ただの経験のひけらかしみたいで鼻についてしまった。
 もちろん無意味な作中作ではなく、最後の最後の場面にはある余韻をもたらしてはいるのだが、これでなくてはならないものでもないので、効果は薄い。
 
 まぁ、我慢して読みつづければ光も射すってもので、中盤の急展開から加速度をつけて物語が大きく動いていくあたりは読み応え充分で、後半はグロテスクに残虐なシーンが盛りだくさんの物語になる。

 そしてまさか、本作が上川隆也主演で映画化されるとは!
 でも映画の方が、監督と出演者の魅力で楽しめるのではないかな。6月15日の公開をかなり期待しているのである。

 翻訳版映画「二流小説家~シリアリスト~」の公式サイト

    ◇


二流小説家/デイヴィッド・ゴードン
訳:青木千鶴
【ハヤカワ・ミステリ文庫】
定価 1,050円(税込)

「藁の楯」*三池崇史監督作品

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監督:三池崇史
原作:木内一裕
脚本:林民夫
音楽:遠藤浩二
出演:大沢たかお、松嶋菜々子、岸谷五朗、伊武雅刀、永山絢斗、本田博太郎、高橋和也、余貴美子、藤原竜也、山崎努

☆☆☆★ 2013年/ワーナー・ブラザース/125分

    ◇

 面白い。
 ありえない荒唐無稽なストーリー展開だが、ハリウッド映画にも引けをとらないパワフルなサスペンス・アクションとして十二分に楽しめるエンターテインメント大作だった。


 8年前に少女への暴行殺人で服役したものの、出所したばかりにまたも少女暴行殺人を犯した清丸国秀(藤原竜也)。全国指名手配され警察の捜査がつづくが、行方はわからないまま。そんなある日、全国紙の朝刊各紙に清丸の顔写真と「この男を殺してください。謝礼として10億年お支払いします」という見開き全面広告が掲載された。
 広告主は日本の財界を牛耳る大富豪の蜷川隆興(山崎努)。「誰の目にも明らかな“人間のクズ”を殺せば10億円が手に入る」と日本中が殺気立った。
 福岡に潜伏していた清丸は信頼していた友人に殺されかけ、否応無しに警察に出頭してきた。しかしそれで、清丸の賞金首の有効が終わったわけではなかった。留置場のなかでも、警察病院の中でも命を狙われる存在になっただけだった。
 警視庁は清丸を東京へ移送するために特別チームを編成。警視庁警備部警護課SPから銘苅一基(大沢たかお)と白岩篤子(松嶋菜々子)、警視庁刑事部捜査一課から奥村武(岸谷五朗)と神箸正貴(永山絢斗)、福岡県警から関谷賢示(伊武雅刀)の精鋭5人。しかし日本を縦断する大規模な護送計画は、さらなる最悪の事態を引き起こすことになった………。

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 ストーリーはシンプル。護送車による高速道路通行や、新幹線、自動車による一般陸路などを利用して、5人がひとりの人間を目的地まで運ぶだけの単純明快なものだが、身内も信用できない存在になってくることからサスペンスが生みだされていく。

 冒頭、清丸が犯したという事件は描かれることなく、本題の指名手配と警護シーンへのスピーディな展開と、5人の警護チームのなかでは銘苅の妻が何らかの事故で亡くなっていることを示唆するだけで、ほかの4人のことは順次、言動だけで性格付けがされ人間性が表出されていく構成もすっきりしていていい。

 各所に甘い設定が見受けられるものの、序盤の高速道路上でのダイナミックなカーアクションや新幹線の中での銃撃戦などが好例を示すように、この手の作品は力づくで突っ走ることが正解である。
 台湾での新幹線撮影を見ていると、『新幹線大爆破』のリメイクを見てみたいと思ってしまった。

 5人各人が、幼い少女を惨殺した正真正銘のクズを命がけで護ることへの自問自答。護る価値があるのか。護るだけの大義があるのか。殺されるべきなのか。殺すべきなのか。その末、誰もが全員傷ついてゆく様は、観ていて本当に痛々しい。
 そしてラストの清丸の一言は、5人が貫いた職務とプライドへの返答としてはあまりに残酷なものだ。

 理性と希望を象徴する銘苅が、蜷川と対峙する最後の場面は設定が緩過ぎる感があるが、山崎努の狂気は遺憾なく発散される。

 人間的感情が欠落した性的倒錯者の清丸を演じる藤原竜也は出色。あの顔から放たれる邪悪さは半端なく凄い。

 殺伐とした人間たちのなかで、“良心”を灯すのが余貴美子。彼女のドラマの当たり役さながらに人への優しさと情の深いタクシードライバーは、ファンとして嬉しいキャスティングだ。
 本田博太郎も好きな役者。銘苅の上司というだけでなく、彼らしい見せ場も充分にあり楽しめた。

 序盤とクライマックスのシーンは、名古屋の官庁街の大通りを全面封鎖してのロケだろう。見覚えのある、多分あの地区で撮影がされたのだろうと見当がつく大通りだ。そう云えば、あの辺りは『ストロベリーナイト〜インビジブルレイン』も撮影されたところ。大沢たかおはふたたび名古屋で熱演してくれたわけだ………。

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