TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「ストロベリーナイト」*佐藤祐市監督作品

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原作:誉田哲也「インビジブルレイン」
脚本:龍居由佳里 林誠人
監督:佐藤祐市
音楽:林ゆうき
出演:竹内結子、西島秀俊、渡辺いっけい、高嶋政宏、遠藤憲一、小出恵介、丸山隆平、 生瀬勝久、宇梶剛士、武田鉄矢、津川雅彦 / 大沢たかお、染谷将太、金子賢、鶴見辰吾、石橋蓮司、田中哲司、柴俊夫、今井雅之、伊吹吾郎、金子ノブアキ、三浦友和

☆☆☆★ 2013年/フジTV・東宝/127分

    ◇

 暴力によって地獄を見せつけられ、大きな闇を抱えた男女の物語。
 “姫川玲子シリーズ”待望の映画である。


 東中野にあるマンション一室にて男の惨殺死体が発見された。被害者は指定暴力団の下部組織構成員・小林充。数日前に見つかった別の2件の殺しと手口が似ていた。
 被害者たちが暴力団構成員だったころから組同士の抗争が疑われ、組織対策四課との合同捜査となるが、姫川(竹内結子)には何か違和感があった。
 そんななか、姫川は「小林殺しは柳井健斗」というタレ込み電話を受けた。入院中の今泉係長(高嶋政宏)に報告するものの、翌朝、橋爪管理官(渡辺いっけい)からは「柳井健斗には一切触れるな」と厳命を受けるが、納得のいかない姫川は単独捜査をはじめる。
 柳井健斗とは、9年前に起こった事件の被害女性・柳井千恵の弟。事件の重要参考人だった父親の柳井篤司が、警察署内で警官から拳銃を奪って自殺していた。最終的に検察と警察が選んだのは、被疑者死亡により不起訴という幕引き。今回殺された小林充は柳井千恵の元恋人だった。
 柳井健斗のアパートを張る姫川は、そこでマキタと名乗る男(大沢たかお)に出会う……。

    ◇


 全編に降りしきる雨が、映画ならではの映像美となり、時に甘く、時に狂気となり登場人物たちを包み込んでゆく。

 『インビジブルレイン』が本来映画のタイトルとなるのだろうが、本作はテレビ・ドラマシリーズに倣ったままに『インビジブルレイン』はエピソードタイトルとしている。
 劇場版だからといってダイナミズムを打ち出したりスケールアップすることなく、まずは好感をもてた。(『相棒/劇場版』の1作目で大きな失敗があったことを思えばである)
 良しも悪しきも、ドラマ『ストロベリーナイト』の世界が展開する。

 ドラマ&映画において『ストロベリーナイト』というタイトルで貫いているのは、何をおいても姫川玲子にとってのトラウマ、屈辱の夜と真っ赤な月を象徴していることだ。
 姫川自身、常に“ある殺意”を腹の底に沈め、心に烙印を押し、生きてゆくことの重しにしている。この姫川玲子の感情こそ、男社会の警察組織において自分を駆ることのできるエネルギーであり、闇を孕んだものへの共通観念となり犯罪者の暗部に近づくことができる源だ。

◆以下ネタバレあり

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 青年期に両親を自殺に追い込んだ男たちを殺した牧田(大沢たかお)は、同じように復讐の刃を持つ柳井(染谷将太)に共感し、姫川に対しても自分と同じ“ひと殺し“の匂いを嗅ぎとっている。姫川も、牧田の闇を理解することができる哀しい存在だけに、このあと禁断の関係に陥ることになるのだが、原作では牧田に身を任せながら指で弄られ感じてゆく姫川の様子が克明に記されるが、いざその瞬間に今泉からの電話でおあずけを喰って終わる。
 しかし映画は、車中でのセックスにまで及ぶことになる。これは、今後の警察官としての姫川の精神的感情にも及ぶだろう事柄なのだが、姫川が牧田に惹かれてゆく様が小説よりリアルに描かれるので、これはこれでアリかなと思う。

 このラブシーンにおいて姫川は、牧田に「殺して……」と囁く。
 ふたつの意味を成す最高の台詞と、竹内結子の妖しい表情にはゾクリとくる。
 お互いの心にある空白を埋めるかのような激しい愛は、地獄を知らない者として理解もできないであろう菊田にとっては辛い現実である。
 自分が堕ちていくのを何とか留まらせてくれるだろう菊田の手を払う姫川。
 菊田、切ないよなぁ。
 西島秀俊が原作よりいい感じなので、余計に哀しいショット。
 菊田は、精一杯に心の均整を保ちながらある決心をする。これは、この後の「ブルーマーダー事件」で新たな展開に繋がるのだが………。

 刃のように軀に突き刺さるシャワーを浴び苦悩する姫川玲子……体現する竹内結子の凄みある美しさに感嘆する。


 少し不満だったのは、橋爪管理官や今泉係長、ガンテツまでが一目おく和田課長(三浦友和)の存在が、原作よりかなり希薄になっていたことか。今泉係長が入院する病室のワンシーンだけで説明されても、何のこっちゃと思うのではないかな。
 和田課長と懇意にする新聞記者とのエピソードもなく、ラストシーンの悪しき警察官僚の長岡刑事部長(田中哲司)を道ずれにするカタルシスも大きく得られなかった。
 
 さて姫川班解散後のエピソードは、26日のスペシャル・ドラマ『アフター・ザ・インビジブルレイン』においてオムニバスで描かれ順調。

 凛々しく、美しく、強く、哀しい女性、姫川玲子の魅力はまだまだ続く………

 今後は『ブルーマーダー』を軸に、姫川玲子の捜査一課復帰までの“シーズン2”を期待し、楽しみに待とう。


★Book Review「インビジブルレイン」★
★Book Review「ブルーマーダー」★



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眠りについた街にBluesを「ALIVE AGAIN」内藤やす子

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ALIVE AGAIN

 1993年7月にリリースされたロック色の強いアルバムである。

01. I WANNA BE FREE
02. LONELY EYES
03. SOMEBODY WHO LOVES YOU
04. IT'S ONLY LOVE
05. LIARS
06. EVERYDAY
07. ALIVE AGAIN "Sway to my dad"
08. GONNA SAY GOOD-BY
09. 夜が冷たい
10. HEAVY RAIN



 もともとバンドでブルージィーにロックなヴォーカルを歌っていたとは云え、歌謡曲歌手(ロック歌謡)からロック歌手転向はアン・ルイス以来ではなかったろうか。
 そのアン・ルイスが「六本木心中」でロングヒットを出したあたり、80年代の女性ロッカーたちが気勢をあげてきた。
 ヘヴィ・メタルの女王と云われた浜田麻里しかり、女性バンドの草分け的存在のSHOW-YAしかり、ポップなバンドREBECCAも、田村“SHO-TA”直美のPEARLなども、当時はよく聴いていた女性ロッカーたちだ。

 刺激されつづけてきたのだろうか、内藤やす子の「ロック宣言」も特に驚くことでもなかったが、これより先にリリースした『BLOOD TRANSFUSION』なるアルバムをスルーしてしまったことには理由もなかった。ただ、気張って歌われるバンドサウンドより、当時はほかに聴きたいものがあったのだろうな。
 だから、この『ALIVE AGAIN』も2000年になってから買い求めた。

 ROCKというよりPOPS、と云うか、歌謡ロックのままだとしても、内藤やす子にとってどんな歌を歌うことも“ROCK”な塊を内包した歌手であることはデビュー時から変わらないのだから、やりたいことをやった本作は、りっぱにロック・アルバムとして成立していると言えよう。

 10曲中9曲が馬飼野康二の作曲で、作詞にはSHOW-YAのヒット曲を書いた安藤芳彦が5曲ほど手掛けている。
 全編に響き渡るギターはこの時期流行りのハードロックな音色を出し、張りのある内藤のハスキーヴォイスとのせめぎあ合いは震えがくるほど素晴らしい。
 「IT'S ONLY LOVE」や「夜が冷たい」のようなスローナンバーでは、内藤やす子の本領発揮とも云える乾いたブルーズが聴こえてくる。

マイケル・ウィナー監督を偲んで

 2013年1月21日に亡くなったイギリスの映画監督マイケル・ウィナー作品の前売券が3枚あったので紹介。

1973-06_メカニック
メカニック
THE MECHANIC
監督:マイケル・ウイナー
出演:チャールズ・ブロンソン、ジャン=マイケル・ビンセント、ジル・アイアランド
☆☆☆ 初見1973年6月/アメリカ/ユナイト映画

 “メカニック”と呼ばれる殺し屋の孤独な世界が描かれた傑作で、寡黙なチャールズ・ブロンソンが渋く、カッコ良いのだ。
 友人の息子をプロの殺し屋に仕立てていくのだが、その若造ジャン=マイケル・ビンセントに裏切られ追われるサイドストーリーもいいんじゃないかな。


1973-08_スコルピオ
スコルピオ
SCORPIO
監督:マイケル・ウイナー
出演:バート・ランカスター、アラン・ドロン
☆☆ 初見1973年12月/アメリカ/ユナイト映画

 二重スパイのCIA情報員バート・ランカスターを追う、殺し屋アラン・ドロン。
 既に『山猫』で共演していたアラン・ドロンは、バート・ランカスターの貫禄の前には存在感も希薄がち。致し方ないだろうな。


1975-01_狼よさらば
狼よさらば
DEATH WISH
監督:マイケル・ウイナー
音楽:ハービー・ハンコック
出演:チャールズ・ブロンソン、ヴィンセント・ガーディニア、ホープ・ラング、スティーヴン・キーツ
☆☆☆ 初見1975年3月/アメリカ/コロムビア映画

 三人組の強盗に妻を殺され娘も暴行により廃人にされた設計技師のブロンソンが、自らの手で犯罪者たちを処刑するために夜のニューヨークを彷徨う。「必殺仕掛人」の如きお話になってゆき、続編も作られるようになったっけ。

    □

 チャールズ・ブロンソンを主演にしたB級アクション映画が多かったのを覚えているが、ほかに、ロバート・ミッチャム主演でリメイクしたレイモンド・チャンドラーの「大いなる眠り」や、無声映画時代のハリウッドを舞台にブルース・ダーンとマデリーン・カーン、テリー・ガーらが出演したコメディー「名犬ウォン・トン・トン」も結構楽しめた。


「NO MORE ENCORE」内藤やす子


01:NO MORE ENCORE 
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/米光 亮編曲
02:夢みた頃から 
   山崎羽咲作詞/中崎英也作曲/関淳二郎編曲
1991年9月発売

 テイチクでの最後のシングルとなったこの歌が、宇崎竜童×阿木燿子との最後の楽曲でもあった。

 「これがラストのステージ 客席は総立ちの波さ」と歌い出し、「さみしい時こそ 歌いたい歌がある」から「さみしい時には 歌えない歌がある」への対比言葉の妙。
 そして、ハードに、切なく「しゃがれた心に これ以上 NO MORE ENCORE」と熱唱する内藤やす子の力強い歌声は、これからロックを歌ってゆく気概を示していたのだろう。

 ロック・バラードとして完成度の高いこの曲は、1994年に宇崎竜童自身が『しなやかに したたかに ~女たちへ part2』でセルフカヴァーしているが、もうひとり、中森明菜がカヴァーアルバム『歌姫3~終幕~』のラスト曲として切々と謳い上げていることに注目。
 歌詞の内容からだろうか、明菜ファンにとっても至極の名曲として知られている。

十人十色のおんな心、「WOMAN」内藤やす子

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WOMAN

 1986年6月リリースのオリジナル・アルバム。
 当時、シングル「わたしを棄てたらこわいよcw/翔びそこない」を含んだ新作としてリリースされたもので、LPとCDの両方で発売されたが所有しているのは7〜8年前に中古で購入したCDのほうだ。
 
01. DISTANT LOVE
02. BYE BYE YESTERDAY
03. わたしを棄てたらこわいよ
04. 恋心
05. さりげなくLONELY NIGHT
06. 火の鳥
07. 雨
08. 黄昏
09. 翔びそこない
10. シャンソン



 「わたしを棄てたらこわいよ」「翔びそこない」「黄昏」の3曲が阿久悠&芳野藤丸コンビの作品で、ほかは可奈みその、佐藤健、山本アキラ、神田エミ、松井忠重、門谷憲司が詞曲を提供している。
 ポップな感じで弾み、メロウなメロディに乗せ、カンツォーネ風味やシャンソンを味付けた歌謡曲であり、演歌の匂いもさせ、ブルースを漂わせ………女たちは泣き、立ち上がり、歩いてゆく。
 十人十色の女たちの人生が、内藤やす子のヴォーカルの力で浮かび上がってくる。
 やっぱり、内藤やす子の声はいい。
 
 「BYE BYE YESTERDAY」と「さりげなくLONELY NIGHT」は、映画主題歌としてリリースされたシングル「あんた」と「涙の色」の各B面にカップリングされた。

★ 7inch 「わたしを棄てたらこわいよ/あんた/涙の色」★

天使じゃない女がためいきついて「祈り」内藤やす子


祈り

 1991年1月にリリースされた内藤やす子にとって久々のフル・オリジナル・アルバム。
 詞はすべて阿久悠の作品。作曲は三木たかしとEDISONが担当し、アレンジもすべてEDISONが手掛けている。

01. 堕天使
02. 哀しい場面
03. USAGI
04. ボタンのかけ違え
05. TO BE CONTINUED(つづく)
06. BAD-BYE
07. 暗い日曜日
08. 自由でいなさい
09. 心の壁
10. 一握りの愛情も



 本作は、シングル「KOKU-HAKU vol.1」時のアウトテイクらしきモノクロ写真を使用し、蛇腹のCDジャケットのデザインは歌謡曲というよりポップス的だが、楽曲は全編ブルージーな香りが漂う。

 「別に何がいけないわけでもないのに」と天使じゃない女がためいきつき、「その日その日はしあわせなのに 突然つなぎ会う心がない」と気がつく女たち。
 「いい女でいたいなら まだ自由でいなさい」と諭され、「愛は惜しみなく ひとを 愛してこそ ひとよ」と祈り捧げる女たち。

 都会で様々に孤独と向き合っている女性たちの生き方を、円熟期に入った内藤やす子がハスキーヴォイスで歌い、聴かせてくれる傑作だ。

 「J-POP」という言葉が普及し一気にCDの売り上げが上がったあたりに内藤やす子は「ロック宣言」をしたが、宇崎竜童の「NO MORE ENCORE」をシングルリリースしたのはこのアルバム後で、本格的にロックで活動したアルバムは次作の『BLOOD TRANSFUSION』からである。


内藤やす子 7inch シングル[テイチク]追記:USAGI


A面:USAGI
   阿久悠作詞/三木たかし作曲/EDISON編曲
B面:紙のヒコーキ
   阿久悠作詞/三木たかし作曲
1989年9月発売

 バロック風にハモンド・オルガンによるイントロが印象的な、シングル通算21作目。
 三木たかしの哀切感たっぷりなメロディに内藤やす子のハスキーヴォイスが絡み、情景は都会のなかで颯爽と生きる女性のふと見せる孤独の景色。
 阿久悠が“日本作詞大賞”を意識してつくった意欲作である。


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内藤やす子 7inch シングル[テイチク]

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A面:街角すみれ 
   門谷憲二作詞/鈴木キサブロー作曲/川村栄二編曲
B面:逃げましょ今宵
   門谷憲二作詞/佐藤三樹夫作曲/川村栄二編曲
1987年5月発売

 テイチク移籍第1作。通算18枚目のシングル。
 街の片隅に咲いた小さな花に、自分を重ね日々生きてきた女性を切なく歌う名曲。ゆったりと、抑えた歌声で、心地よい気分にさせてくれる。
 
 B面「逃げましょ今宵」は、可愛らしくもどこか危険な感じに、ゆらりゆらりと生きてゆく女の妖しさを軽やかに歌っている秀作。
 作曲は高橋真梨子や四季穂が歌った「OLD TIME JAZZ」の佐藤三樹夫。「OLD TIME JAZZ」同様にジャズの風味が効いている。


    ◇

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A面:落日 
   G.Nannini作詞・作曲/神田エミ日本語詩/大谷和夫編曲
B面:鳳仙情歌
   五木寛之作詞/小林亜星作曲/松井忠重編曲
1988年2月発売

 B面はフジテレビ系 ザ・ドラマチックナイト「〜艶歌〜旅の終り」の主題歌となっているが、知らない番組だ。五木寛之の詞もどうってことなくmつまらない。


    ◇

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A面:KOKU-HAKU vol.1(陶酔ヴァージョン) 
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/関淳二郎編曲
B面:告白 vol.2(激情ヴァージョン)
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/梅垣達志編曲
1990年5月発売

 シングル通算23作目は、ポプコン出身の内海みゆきが1987年に歌った「告白」のカヴァー。
 「お人好し」('79)以来11年ぶりの、宇崎竜童&阿木燿子+内藤やす子のシングルということになる。
 両面とも同じ詞曲だが、アレンジを変えてハードなロックで決めてくれる逸品だ。めちゃ、カッコいいサウンドと歌声。ドスを効かせたあとの「ずっとずっとずっとずっと とっ……」の箇所にはシビれるし、セピア色のモノクロ・ジャケットも素敵だ。

 音楽業界は一気にCDの時代。1989年のシングル曲「ひきょう」からはすべて8cmCDシングルでのリリースになったのだが、この曲が7インチ・シングルで発売されていたとは知らなかった。 
 今年、年初めの猟盤で50円で手に入れた。他にも「反撥」「モーニング トレイン」「ラブ・イズ・オーヴァー」「野暮」「落日」&有線放送用「USAGI」を入手した。

 と云うことで、この「KOKU-HAKU vol.1」が内藤やす子のシングル最後のアナログ盤になる。
 内藤やす子の7inch シングル全20作、これにてコンプリート!

追記:市販の「USAGI」7インチ・シングルが見つかった。ひょっとすると「ひきょう」も7インチ・シングルでリリースされていたかもしれない。

 70年代には荒涼とした時代に生息した女性の孤独を歌い、80年代には虚飾に彩られた時代に軽やかに生きる女性たちを歌った内藤やす子は、これからの時代には現れようのない稀代のシンガーだったことに間違いないであろう。


内藤やす子 7inch シングル[フィリップス]2

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A面:わたしを棄てたらこわいよ 
   阿久悠作詞/芳野藤丸作曲/甲斐正人編曲
B面:翔びそこない
   阿久悠作詞/芳野藤丸作曲/中村暢之編曲
1986年4月発売

 「ニューブレンド・ハイニッカ」のCMソングとして作られた15作目。
 両面とも「こころ乱して 運命かえて」の阿久悠&芳野藤丸コンビで、久々に歌謡曲らしい楽曲に戻った。

 マティスの「イカルス」を真似たイラストと、インパクトあるタイトルをレタリングだけで見せたジャケットは目を惹き、古風な女と男の生き方を描く阿久悠の世界とミスマッチなところが面白い。
 阿久悠の描く男と女の世界は、男をたて、男にどこまでもついていく、古風な女の生き方だろうか。しかし実は、男はしっかり女に見透かされ、男は女の掌から逃れることはできない。そんな男の生き方のほうが、平和だと思う……。

 深く重い男女の関係を嫌い、お洒落な関係を好む時代が見えてきたのだろう。B面「翔びそこない」は、そんなカッコいい生き方から外れた女の演歌。


    ◇

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A面:あんた 
   荒木とよひさ作詞/三木たかし作曲/瀬尾一三編曲
B面:さりげなくLONELY NIGHT
   佐藤三樹夫作詞・作曲・編曲
1986年10月発売

 通算16作目は、この年に「時の流れに身をまかせ」を放った荒木とよひさ&三木たかしコンビ。
 五社英雄が撮った東映映画『極道の妻たち』シリーズの第1作目挿入歌で、内藤やす子も映画に出演している。

 「うちは極道に惚れたんやない! 惚れた男が、たまたま極道やったんや」
 「あほんだら! 撃てるもんなら、撃ってみぃ」
 岩下志麻の決めゼリフが名台詞にもなったヒット映画。この挿入歌も、ヒットメーカーの頑強な歌謡曲世界でこの第1作目を支えている。

 B面の「さりげなくLONELY NIGHT」は、ダルな浮遊感にあふれるブルーズの世界。
 2本のアコースティック・ギターだけで奏でられるスローバラードは、小さなライヴハウスで聴きたくなるようなカッコいいサウンドで、アコースティック・ギターのユニゾンが、主人公の女性の部屋に哀しみを運んでくるかのように、美しくも哀しい名曲である。


    ◇

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A面:涙の色 
   竹花いち子作詞/亀井登志夫作曲/清水信之編曲
B面:BYE BYE YESTERDAY
   山本アキラ作詞・作曲/松井忠重編曲
1986年12月発売

 通算17作目は、フィップスでの最後のシングル。
 「涙の色」は松竹映画『青春かけおち篇』の主題歌で、映画は大竹しのぶと風間杜夫主演のつかこうへい作品の映像化(脚本もつかこうへい)で、桃井かおりと松坂慶子の『自由な女神たち』との併映作だった。

 ここ何曲かCMタイアップや映画の主題歌がつづいたが、これは逆に言えば、CMや映画・TVの主題歌でないと新曲をリリースしにくい時代になって来たことだろうな。バブル景気に突入する前のこと。

 まぁ、それとは関係なく、この「涙の色」はイイ曲。B面「BYE BYE YESTERDAY」ともメロウな感じが素敵だ。

内藤やす子 7inch シングル[フィリップス]1

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A面:こころ乱して運命かえて 
   阿久悠作詞/芳野藤丸作曲/甲斐正人編曲
B面:哀しみゆらゆら
   中村ブン作詞/小坂恭子曲/藤田大士編曲
1983年1月発売

 1年半ぶりのシングルはフィリップに移籍しての第1作。
 東映映画『人生劇場』(深作欣二/佐藤純彌/中島貞男共同監督)の主題歌としてリリースされた通算11作目となる。
 この「こころ乱して運命かえて」の裏話として、阿久悠が深作監督にA面B面用に書いた二篇の詞を見せた際、監督から二篇を混ぜてくれと言われたという。
 阿久悠らしい骨太な男と女の世界が、芳野藤丸の雄大なメロディに乗り、内藤やす子の惚れ惚れするブルージーな歌声で物語られるこの曲は、内藤やす子がいい女ぶりで写っているジャケットも含め、全シングルの中でも好きな一枚だ。内藤やす子にとって久々のヒット曲である。

 この曲を収録したオリジナル・アルバム『こころ乱して運命かえて』の帯裏に、内藤やす子がコメントを寄せている。抜粋してみる。

こんにちは、内藤やす子です。私、歌手です。最近、やっと何故生きるのか、何故唄うのかを、掴んだ様な気がします。フツフツと湧き上がる生命の源をこの目で、しっかりと見る事ができました。心に痛みを感じ、悩み、踠き、今、ひとつの歌にめぐり逢う事ができました。「こころ乱して 運命かえて」。唄う事しか出来ない私は、唄う事によって安らぎをもたらし、人間の平和を考える。そうしたものの“ひとかけら”でもお役に立つ事が、私の使命だと思っております。

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side 1
01. こころ乱して 運命かえて
02. いくじなし
03. 酔ヶ浜
04. とまり木
05. ないないづくし

side 2
01. ハートGIZA・GIZA
02. Don't Stop The Music
03. 雨のセレナーデ
04. すみれ
05. 1日の終り


 side1の2~5は、80年代になっての再録音ヴァージョンで、これがなかなか良いのだ。side2も含め、このアルバムは大のお気に入りとなっている。


    ◇

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A面:ラヴ・イズ・オーヴァー 
   伊藤薫作詞・作曲/中村暢之編曲
B面:あなたにはわからない
   康珍化作詞/亀井登志夫作曲/鷺巣詞郎編曲
1983年10月発売

 この歌はもともと1979年にリリースされた欧陽菲菲の「うわさのディスコ・クィーン」のB面曲で、欧陽菲菲がずっと歌いつづけてきたことで1980年にA面曲として再リリースされた楽曲。欧陽菲菲自身、何度もアレンジを変えて発売しており、1983年には内藤やす子のほかに、ニック・ニューサ、黛ジュン、やしきたかじんらが競作に加わり大ヒットしている。
 歌の巧いシンガーの定番であろう、毎年、誰かがカヴァーしている。
 内藤やす子はこの後「ラヴ・イズ・オーヴァー」を含むカヴァー・アルバムをリリースした。

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I Miss You~愛のつづれ織り~
side 1
01. 悪女
02. とまどいトワイライト
03. 夏をあきらめて
04. ラブ・イズ・オーヴァー
05. ジョニイへの伝言

side 2
01. 涙のシークレット・ラブ
02. 悲しい色やね
03. 夢芝居
04. 翳りゆく部屋
05. SACHIKO


 全10曲の選曲で、「悪女」が意外といい。
 宇崎竜童作品の「とまどいトワイライト」「涙のシークレット・ラブ」や、上田正樹の「悲しい色やね」などブルージィーな曲は、さすが圧倒的な歌唱力とハスキーヴォイスで聴かせてくれるのだが、「夏をあきらめて」とか「翳りゆく部屋」などは彼女に似合わないなと思っている。BGM程度に聴き、レコードは棚の奥の方に仕舞われたままである。

 このあとも、フィリップスからは『HOLD ME』のタイトルで全曲カヴァーのアルバムがリリースされたが、興味は完全に失せ、何枚かのオリジナル曲のシングル以外は縁を切ることになる。
 (ただし後年、2000年代になって発売されたベスト盤においてカヴァー曲に触れ、案外良い曲もあったんだなと再認識している。「つぐない」や「六本木心中」などはいいね)


    ◇

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A面:野暮 
   小椋佳作詞/川島康子作曲・小椋佳補作曲/川口真編曲
B面:家へおいでよ
   門谷憲二作詞/武谷光作曲/川口真編曲
1984年5月発売

 通算13作目は、内藤やす子がワンピースを着ている珍しいジャケット。
 ワンピースの柄といい、パンプスといい、なかなかお似合いではないの。


    ◇

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A面:六本木ララバイ 
   エド山口作詞/エド山口・岡田史郎作曲/松井忠重編曲
B面:YESTERDAY NIGHT
   康珍化作詞/亀井登志夫作曲/鷺巣詞郎編曲
1984年10月発売

 大ヒットしたシングル14作目で、1989年のNHK紅白歌合戦に初出場してこの歌を歌った。
 なぜか、あまり好きじゃなかったな。
 2nd ヴァージョンとしてジャケット違いがあるが、大倉瞬二の写真を大胆な構図でデザインしたこちらの方が好き。

 B面「YESTERDAY NIGHT」は「ラヴ・イズ・オーヴァー」の頃に作られたAOR風の曲。都会でトレンディな暮らしをしている女性が浮かんでくる。

内藤やす子 7inch シングル[ラジオシティ]

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A面:やさしさ尋ね人 
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/若草恵編曲
B面:逆流
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/若草恵編曲
1979年3月発売

 新設レコード会社RAdio Cityに移籍した復帰第1作目。
 後ろから差す陽光を受け、やさぐれ度が増したかのようなジャケット写真。宇崎竜童と阿木燿子が温かく差し伸べた光は、見事なまでの歌謡ロックになって返ってくるからたまらない。
 B面「逆流」のブルース・ロック具合こそ、宇崎サウンドとヴォーカリスト内藤やす子の融合にほかならない。

06_yasuko-chirashi.jpg ★やさしさ尋ね人★


    ◇

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A面:反撥 
   千家和也作詞/浜口庫之助作曲/竜崎孝路編曲
B面:ゆらり ゆらりと…
   小谷夏作詞/徳久広司作曲/小笠原寛編曲
1979年8月発売 

 シングル通算7作目は内藤やす子としては珍しい男の歌だが、詞もメロディもイマイチぱっとしない。
 好みじゃないなぁ。
 それより、B面の「ゆらり ゆらりと…」の方が、ミディアムなメロディにハスキーヴォイスが絡んで刹那の気分になれる。

 作詞の小谷夏は、演出家の久世光彦氏のペンネームで、天地真理の「ひとりじゃないの」堺正章の「涙から明日へ」などのヒット曲を書いている。この1979年には、山口百恵に提供した「猫が見ている」(『L.A.Blue』に収録)で面白い世界を展開してみせてくれている。


    ◇

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A面:お人好し 
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/後藤次利編曲
B面:さよならBye Blues
   美樹克彦作詞・作曲/水谷公生編曲
1979年11月発売 

 通算8作目は、再び宇崎竜童&阿木燿子コンビ。
 ヒットしなかったのが不思議なくらい素晴らしい楽曲で、LP『One Last Night』には収録されなかったが、後藤次利のアレンジがブルージーに揺れている名曲である。

 そしてB面「さよならBye Blues」も、やさぐれ歌謡の素晴らしい逸品。
 内藤やす子の余裕に裏打ちされた存在感が至福をもたらしてくれる。

★One Last Night★


    ◇

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A面:モーニング トレイン 
   康珍化作詞/亀井登志夫作曲/水谷公生編曲
B面:ジョニイ・オン・マイ・ソウル
   康珍化作詞/西田恭平作曲/水谷公生編曲
1980年6月発売

 通算9作目。
  80年代になったからなのか、これまでにない衣装とメイキャップで、イイ女ぶっているジャケットから想像できるような爽やかな楽曲である。

 1979年にアン・ルイスが歌った「シャンプー」(作曲:山下達郎)で作詞家デビューをした康珍化は、80年代半ば、アイドルのヒット曲を多数手掛けてヒットを連発する。この曲は、康珍化の初期の作品となる。

 B面「ジョニイ・オン・マイ・ソウル」は、うってかわってハードなギターではじまるR&Bスタイルの張りのある歌。
 内藤やす子はソウルバンドのヴォーカリストのように、のびのびとパンチを効かせている。

    ◇

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A面:いろはにほへと 
   門谷憲二作詞/新田一郎作曲/新田一郎編曲
B面:ダウンタウン・レイン
   康珍化作詞/亀井登志夫作曲/新田一郎編曲
1981年6月発売

 通算10枚目は、Radio Cityでの最後の作品となった。
 80年代の女性像はどこかカッコつけたところが感じられるが、時代そのものが虚飾に彩られていくのだから、洗練された女性の登場は仕方のないところか。

 「いろはにほへと」は、自立した女の浮遊感を新田一郎のソウルテイストを潜めたメロディが相まり素晴らしい出来。
 「ダウンタウン・レイン」は、ギターサウンドあふれるハードなロックに仕上がっている。こういった曲をどんどん歌っていって欲しかった。
 
 スペクトラムのメンバーで、サザン・オール・スターズのホーン・アレンジャーだったころの新田一郎。両面とも彼がプロデュースしている。

 

内藤やす子 7inch シングル[コロムビア]2

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A面:私のいい人 
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/馬飼野康二編曲
B面:ふるさと心中
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/馬飼野康二編曲
1977年3月発売

 内藤やす子は、この2曲を含んだ全詞全曲宇崎竜童&阿木燿子による完全オリジナル・アルバム『サタデークィーン』をリリースすることで本領を発揮する。
 すねた眼差しと髪型が印象的なこのシングル盤ジャケットには、彼女のバックにジミ・ヘンドリックスのモノクロポスターが貼られているが、これは『サタデークィーン』のラストの大曲「 F#m」に連動する趣きである。

★サタデークィーン★


    ◇

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A面:ターゲット 
   喜多條忠作詞/大野克夫作曲/船山基紀編曲
B面:やぶれかぶれ
   吉岡治作詞/丹羽応樹作曲/馬飼野康二編曲
1977年7月発売

 宇崎×内藤の世界に埋め尽くされていた“カタカナ・エンカ”『サタデークィーン』から1ヶ月後に出た通算5作目のシングル。

 70年代の若者の心情を的確に代弁していた喜多條忠の詞に、当時沢田研二に曲を提供しながら作曲家として台頭してきた大野克夫が曲を付けている。
 B面は、独特な言葉使いを記す吉岡治(後の「天城越え」で、少女だった石川さゆりを情念の世界に引きづり込んだ御仁)の詞に丹羽応樹が曲をつけたもの。

 さて、日本コロムビアからはこの曲が最後のシングルとなる。リリースから2ヶ月後、1977年の夏から始まった一連の芸能界スキャンダルの真っただ中に陥った内藤やす子は、1年半のブランクを迎えることになる。



内藤やす子 7inch シングル[コロムビア]1


A面:弟よ 
   橋本淳作詞/川口真作曲/あかのたちお編曲
B面:はずみで別れて
   なかにし礼作詞/中村泰士作曲/あかのたちお編曲
1975年11月発売

 記念すべきデビュー曲。
 クラブなどの専属バンドで活動していた内藤やす子にソロ・デビューの話が舞い込んだとき、内藤はバンドとしてプロでやっていきたいと願った。が、デビューの予定として手渡されたのがこの歌。侘しくも淋しく暮らす姉と弟の人生が垣間見られる演歌に対して、バンドメンバーは内藤のもとを去ることになる。

 しかし、ドスの効いた独特のハスキー・ヴォイスと突き放すように歌う抜群の歌唱力がこうを成し、デビュー曲にしてオリコンチャート第8位35万枚を超える大ヒットとなり、一夜にしてスターになった。

 飾り気のないジャケット写真、どこか虚ろな目は何を語るのか。


    ◇

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A面:淋しい天使 
   橋本淳作詞/川口真作曲/あかのたちお編曲
B面:よこはま流れ者
   橋本淳作詞/川口真作曲/あかのたちお編曲
1976年4月発売

 両面とも「弟よ」の橋本淳と川口真のコンビ。
 「弟よ」のインパクトと、次作の「思い出ぼろぼろ」に挟まれ印象が薄い扱いだが、新宿と内藤やす子の生まれ故郷横浜を舞台に、都会の中で孤独を抱えながら生きている女の心情を、切ないハスキーヴォイスで感じさせてくれる佳作だ。


    ◇


A面:思い出ぼろぼろ 
   阿木燿子作詞/宇崎竜童作曲/馬飼野康二編曲
B面:ひとりぼっち
   橋本淳作詞/川口真作曲/あかのたちお編曲
1976年9月発売

 1976年は山口百恵同様、内藤やす子も宇崎竜童&阿木燿子コンビにより大きく翔んだわけで、この年の第18回日本レコード大賞では最優秀新人賞を、他の音楽賞でも賞を総なめしたこの曲。宇崎竜童も作曲賞を受賞し、同時に阿木燿子は「横須賀ストーリー」で作詞賞を受賞している。山口百恵と内藤やす子の両輪を得た、宇崎竜童&阿木燿子のストーリーもはじまったわけである。
 ギターのあとにピコピコと鳴るエレキピアノが妙に気に入っている。

 B面の「ひとりぼっち」は、再び橋本淳&川口真コンビの楽曲。哀しい女の歌謡曲は、幸せがぼろぼろとこぼれた裏にあるから余計に哀しく響く。


「007 オクトパシー」*ジョン・グレン

1983-01_007オクトパシー
OCTOPUSSY
監督:ジョン・グレン
脚本:ジョージ・マクドナルド・フレーザー、リチャード・メイボーム
音楽:ジョン・バリー
主題歌:リタ・クーリッジ「All Time High」
出演:ロジャー・ムーア、モード・アダムス、クリスティナ・ウェイボーン、ティナ・ハドソン、ルイ・ジュールダン
☆☆☆ 1983年/イギリス/130分

 シリーズ第13作目。
 同じ年に公開された「ネバーセイ・ネバーアゲイン」に対抗心を見せたか、ジェット機や列車アクションのシーンに力が入りアクション盛り沢山のうえ、美女も豊富……。
 ロジャー・ムーアのジェームズ・ボンドの中では、なかなか面白かったと思える。

 プレタイトル・シークエンスでのボンド・ガール(ティナ・ハドソン)のエロティックさもいいし、手強い女たちと闘う見せ場も見応えある。なにせ、OCTO “PUSSY”だからね。

 そのオクトパシー役は、なぜかシリーズ2度目の出演となるモード・アダムス。女性密輸団を率いる女ボスの役は貫禄である。


「007 黄金銃を持つ男」*ガイ・ハミルトン

1974-03_007黄金銃
THE MAN WITH YHE GOLDEN GUN
監督:ガイ・ハミルトン
脚本:トム・マンキーウィッツ、リチャード・メイボーム
音楽:ジョン・バリー
主題歌:ルル「黄金銃を持つ男」
出演:ロジャー・ムーア、クリストファー・リー、ブリット・エクランド、モード・アダムス
☆☆ 1974年/イギリス/124分

 シリーズ第9作目。
 原作の訳題は『黄金の銃を持つ男』で、イアン・フレミングの遺作となった作品で、これもやはり最初はさいとうたかをの劇画で見知った。
 
 ドラキュラ俳優として存在感はピカイチのクリストファー・リーを楽しみにして観たのだが、悪役としての存在感は希薄で残念。
 「笑い」が多く、ボンドもスカラマンガも非情さが足りないので、軟派なボンドと殺し屋の対決はシリアスになるはずもなく……つまらない。

 だから、ボンドガールを見よう。
 スェーデンの女優ブリット・エクランドはキュートで可愛く、どこかブリジット・バルドー似。ピーター・セラーズと離婚後、ロッド・スチュワートと浮き名を流したっけ。
 モード・アダムスも同じくスェーデン出身で、トップモデルから女優になった御方。クールな大人の色気でブリット・エクランドを凌いでいる。

 イギリスの歌手であり女優のルルが歌うパンチの効いた主題歌がいいね。世代的には1967年の『いつも心に太陽を』の可愛らしい姿を見ている。ポップスターとしても人気あったし……。

「007 死ぬのは奴らだ」*ガイ・ハミルトン

1973-15_007死ぬのは奴らだ
LIVE AND LET DIE
監督:ガイ・ハミルトン
脚本:トム・マンキーウィッチ
音楽:ジョージ・マーティン
主題歌:ポール・マッカートニー&ウイングス「死ぬのは奴らだ」
出演:ロジャー・ムーア、ヤフェット・コットー、ジェーン・セイモア
☆☆★ 1973年/イギリス/121分

 原作イアン・フレミングの長編2作目で、映画シリーズとしては第8作目。
 ロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドを演じた最初の作品だが、ショーン・コネリーのクール&ハードさが好きだっただけに、ロジャー・ムーアの軽さとユーモア路線のボンドには違和感いっぱい。
 ショーン・コネリーで作り上げたボンド像をことごとく壊しただけで、以後、ムーア版007にはあまり好感を持てなかった。

 この「死ぬのは奴らだ」は、1964年小学館から出ていた少年&青年向けの月刊誌『ボーイズライフ』に掲載された、さいとうたかをの劇画『007シリーズ』の第1作目として楽しんだ作品で、イメージは劇画の方にあった。
 さいとうたかをの『007シリーズ』は、他に「サンダーボール作戦」「女王陛下の007」「黄金の銃を持つ男」の4作品があり、「ゴルゴ13」開始前の傑作劇画のひとつと言える。

トッポとジュリーのツインヴォーカル再び、5人のザ・タイガース

 44年ぶりかぁ………トッポこと加橋かつみが〈ザ・タイガース〉に戻ってくる。

 1969年、渡辺プロの除名会見のまえに既に岸部シローの加入が決まっていたとか、失踪歴があったとか、いろんなことを言われて追われるように〈ザ・タイガース〉を去った加橋かつみだった。
 渡辺プロの横暴悪辣な逸話もあるように、大人の事情に振り回されたのはトッポだけではなく、当然ジュリーも、サリーも、タローもそうなんだろうが、特にピーには多大な影響を与えたわけで、グループ内の亀裂は止められなくなったんだろうな。
 
 2012年にはピーが戻ってきた。
 4人の〈ザ・タイガース〉で復活コンサートをした際、不自由な身体をおして舞台に上がったシローを目にしたときには何とも言えない気持ちになった。
 NHK「SONGS」では、ジュリーが「あとひとりを迎えて完全なかたちの〈ザ・タイガース〉を必ず実現させる」と力強い発言。

 そして遂に、2013年1月6日、沢田研二の正月コンサートの舞台で「遂に、全員の気持ちがひとつになりました」と宣言してくれた。
 昨年のような鉄人バンドをバックバンドにした〈ザ・タイガース〉ではなく、5人だけのコンサートを約束。
 歳を重ね、時を分かち合う5人のザ・タイガースは最強であろう。

 さて、トッポのテナーが美しく光ったヒット曲と言えば「花の首飾り」と「廃墟の鳩」。当時に聴くより、歳を追うごとに好きになってきた歌だろうか。

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 トッポが初めてリードヴォーカルをとった「花の首飾り」は、雑誌『明星』において一般公募された詞に、なかにし礼が補作すぎやまこういちが曲をつけ、ザ・タイガースのシングル第5弾として「銀河のロマンス」と両A面扱いで1968年にリリースされた。
 透明感あるトッポの歌声で大ヒットしたバラードの名作は、何年か前に井上陽水がCMでカヴァーした。

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 第7弾シングルの「廃墟の鳩」。
 廃墟の中から一羽の鳩が翔び立つ様こそ、絶望的な状況から人が生きていくことの喜びを感じ、復興そして平和を誓うことへのメッセージ。
 作詞は山上路夫。村井邦夫の美しいメロディで、トッポが伸びやかに歌いあげている名曲である。

 このシングルも両A面扱いで、カップリングはジュリーがヴォーカルの「光ある世界」。ジャケットはバッファロー・スプリングフィールドのアルバムのパクリなのが有名で、両面ではトッポとジュリーの位置が変わり衣装も黒と白で区別されている。メンバーの中ではどちらかと云うと暗さを漂わせていたトッポと、プリンスのイメージのジュリーだから、まさに陰と陽。しかし、明らかにA面扱いは「廃墟の鳩」の方なのである。

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「007 スカイフォール」*サム・メンデス



007 SKYFALL
監督:サム・メンデス
脚本:ニール・パーヴィス&ロバート・ウェイド、ジョン・ローガン
音楽:トーマス・ニューマン
主題歌:「スカイフォール」アデル
出演:ダニエル・クレイグ、ハビエル・バルデム、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリス、ベレニス・マーロウ、アルバート・フィニー、ベン・ウィショー、ジュディ・デンチ

☆☆☆☆ 2012年/イギリス・アメリカ/143分

    ◇

 異色の〈007映画〉と言ってもいいんだろうね。まぁ、ダニエル・クレイグになってからはリアル“ジェームズ・ボンド”なわけだから、これまでの〈007〉とは違った方向性で製作されてきた帰結がコレになったことは納得できる。


 世界中のテロ組織に潜入捜査をしているNATO諜報部員たちのリストが盗まれる緊急事態が発生。“007”ことジェームズ・ボンド(ダニエル・クレイグ)はリストを取り戻すべくM(ジュディ・デンチ)の指示に従い、助手のイヴ(ナオミ・ハリス)とともに敵のエージェントを追い詰めていくが、イヴの誤射によってボンドは負傷、作戦は失敗に終る。MI6内でのMの立場が危うくなる中、今度はMI6本部が爆破される。
 一連の犯行は、Mへの復讐に駆られた元MI6の諜報員でMの腹心だったシルヴァ(ハビエル・バルデム)によるものだった。窮地に立たされたMの前に、手負いのボンドが姿を現わす………。

    ◇

 短く刈り込まれた髪に精悍な顔、細身のスーツをビシッと決めたスタイリングのダニエル・クレイグが、ワルサーPPK片手にアストン・マーティンDB5を駆って登場するジェームズ・ボンド映画。
 ショーン・コネリーのジェームズ・ボンドで育った世代には、ニヤリとさせられる小ネタなど、〈007〉の生誕50周年に相応しいダイナミックさとストーリーの奥深さを含め楽しませてくれる。

 冒頭13分に及ぶプレタイトルのアクションは、『ロシアより愛を込めて』以来お馴染みのイスタンブールを舞台に、カーチェイス、オートバイチェイス、そして列車を使ったアクションが、この〈ネオ007映画〉のストーリーに引きずり込むに十分なだけの見応えあるシークエンスだ。

 〈ボンドガール〉の実質的不在の穴を埋めるのがMの存在で、彼女を巡ってボンドとシルヴァとの3人の立ち位置は母と子。美女との濡れ場がないなんて、本来の〈007映画〉ではないかもしれない。
 プレタイトル後の、いつもの〈ジェームズ・ボンドのテーマ〉も流れない。違和感を持ちながら本編に入っていくが、何のことはない。アストン・マーティンDB5が登場するシーンに、ここぞとばかりにテーマ曲が流れる。ゾクゾクしながら後半に突入するわけだ。

 不死身だったボンドもタフガイぶりに翳りをみせるし、スパイと云うもの自体が時代錯誤のような扱いをされる。世代交代とも云われる。これは何だ、どんな展開なんだと思える。クライマックスに登場するボンドの生誕地〈スカイフォール〉の朽ち具合と、孤軍奮闘するボンド。これは、ジェームズ・ボンドの原点回帰であり、男の誇りを守り抜く物語と見ればいい。中年男はつらいよ。

 クライマックスにシルヴァがヘリコプターで登場するシーン。大音量で「BOOM BOOM」を鳴り響かせて降りてくる。いいねぇ。
 「BOOM BOOM」は、ジ・アニマルズが最初期(1964年1月)にレコーディングしたジョン・リー・フッカーのカヴァー曲で、1965年にシングル盤「I'm Crying」のB面として日本でも大ヒットした傑作。
 〈007映画〉をリアルタイムで観ていた時期と重なり、懐かしさを憶える選曲なのだ。(因に、内田裕也の決め台詞「シェキナベイベ!」はこの曲の歌詞から始まったのである。)
 
 第17作『ゴールデンアイ』から登場した女性のMが本作で総括されるのは、ジュディ・デンチの病気のこともあるのだろう、女性Mの花道を飾るに相応しい展開。
 ネタバレすれば、Mと反目するマロリー(レイフ・ファインズ)が後任のMになり、若いベン・ウィショーをQに据え、第1作からボンドとの軽妙なやり取りが肝でもあったミス・マネーペニーが実は現場出身のイヴだったという流れで、新たな〈007映画〉の準備を整えたことになる。

 この流れで「ドクター・ノオ」や「ゴールドフィンガー」のリメイク、「007は二度死ぬ」でもう一度日本上陸を果たすのも一興か………。
 

Rock'n Roll New Year 2013



あけましておめでとうございます

 2013年のはじめを飾る、巳年に相応しいレコード・ジャケットと云えば、これしかないでしょ。
 1971年リリースのアリス・クーパーの作品『Killer』。
 後のアメリカン・ハードロックに多大な影響を与えた、毒毒モンスター的なアルバムである。

 ジャケットの可愛い蛇様は(なぜヘビが皆にきわられたり、怖がられたりするのか判らないくらい、ぼくはヘビが好きです)、ライヴ・ステージでも大活躍したカティーナと云う名のアリス・クーパーのペット君。

 アリス・クーパーが日本でも名前を轟かせたのが、このアルバムに伴うコンサートで、その模様を載せた音楽雑誌「ミュージック・ライフ」を見て驚愕したのが、ステージから蛇を投げ、ギロチン台で人形の首を刎ね、アリス自身が絞首刑されるいう過激なパフォーマンスだった。
 キワモノ的扱いは避けられないが、このアルバムで云えばB面の児童虐待批判を歌った「DEAD BABIES」からタイトル曲「KILLER」への流れが、秀逸な詞と曲の演劇的展開だったのは確か。

 そして、アリスがスーパースターになるのが次作の『School's Out』。ステージの奇抜さはレコードジャケットに乗り移り、レコードに紙製のパンティを履かせたのだった。

Schools Out_10
 2011年年末にリリースされたリマスター紙ジャケ・コレクションでは、細部にわたってこのギミック・ジャケットが再現されていた。

 蛇柄の財布に模し10億ドル紙幣を付けた『Billion Dollar Babies』('73)と梱包用ボックスにした『Muscle of Love』('74)も、ギミック度+音楽は大のお気に入りアルバムである。