TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「危険がいっぱい」*ルネ・クレマン

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LES FELINS
監督:ルネ・クレマン
原作:デイ・キーン「喜びの家」
脚本:ルネ・クレマン、パスカル・ジャルダン、チャールズ・ウィリアムズ
撮影:アンリ・ドカエ
衣装:ピエール・バルマン
音楽:ラロ・シフリン
出演:アラン・ドロン、ジェーン・フォンダ、ローラ・アルブライト、オリヴィエ・デスパ

☆☆☆☆ 1964年/フランス/93分/B&W

    ◇

 原題は〈猫科の動物〉。ルネ・クレマンの職人的手際が映画全体を洒落たムードにつつみ込み、色気からくる危うい雰囲気のアラン・ドロンと、彼に絡む女猫たちとの探り合いと騙し合いが楽しめる傑作サスペンスになっている。


 南仏コート・ダジュール。いかさまカード師でジゴロのマルク(アラン・ドロン)は、アメリカ人ギャングのボスの女房に手を出したばかりに、手下の男たちに追われる羽目になる。
 命からがら逃げ込んだ教会の救済施設で、アメリカ人の富豪で未亡人のバーバラ(ローラ・アルブライト)と従妹のメリンダ(ジェーン・フォンダ)に出会い、彼女たちの運転手として雇われる。
 彼女たち二人は大きな屋敷に住み、ひたすら熱心に慈善活動を行う日々を続けていた。
 色男のマルクにメリンダは魅かれるが、マルクには小娘のメリンダよりも、美貌とミステリアス漂う未亡人バーバラの方に興味がある。
 しかし、バーバラには大きな秘密があり、そのためにマルクを利用しようとしていた………。

    ◇

 手練手管のジゴロ役のアラン・ドロンだが、〈猫たち〉は一筋縄ではいかない。

 高貴で知的な女豹ぶりを見せるローラ・アルブライトは、女優になる前はハスキーなジャズ・ヴォーカリストだった。女王のようにふるまう優美な肢体と、秘密の匂いを漂わせる大人の女の魅力は、その美貌が表すように素晴らしい。

 ジェーン・フォンダもまた、世間知らずのウブな娘役でコケティッシュな子猫ながら小悪魔ぶりを存分に振りまき、魅惑的な美しさを披露してくれる。
 父ヘンリー・フォンダへの反発からフランスに単身渡ってきた反骨心を秘めているだけに、女の意地を貫き通す強い執念と、惚れた男を手に入れるためには手段を選ばない女の凶暴性を、子猫が女豹になっていく様のように見事な演技で応えている。

 バーバラの秘密とは、2年前、愛人のスキー教師ヴァンサン(オリヴィエ・デスパ)とともに、莫大な財産を手に入れるために年老いた夫を殺害していたのだった。愛人ヴァンサンは豪邸の秘密の部屋に猫と隠れ住み、密かに自分と同じ年格好の男を身代わりにパスポートを得て、バーバラとふたりで高飛びすることを計画していたのだった。
 2年間、慈善施設通いで替え玉を捜していたなかで、ギャングに追われるはぐれ者のマルクが、まんまとその標的にされたのだった。

 美しいふたりの女性に誘惑されるマルクを隠し部屋から覗くヴァンサン。マルクを自分に振り向かせたいメリンダは、ヴァンサンにバーバラとマルクの関係を吹き込み、ある工作をする……。
 無邪気な子どものように、自分が欲しいものを手に入れたい欲望。悪気がないから余計に恐い。
 バーバラがヴァンサンを篭の鳥にしたように、今度はメリンダがマルクを自分の宝箱に閉じ込める。おもちゃ代わりの子猫も一緒に………。
 エンディング、刑事の訪問に勝ち誇った笑みを浮かべる美しいジェーン・フォンダと、絶望的な表情のアラン・ドロンの目眩のように揺れる画面が秀逸。

 序盤から軽快なテンポで追いかけっこ的サスペンスが繰り広げられ、後半にはじわりと怖さが秘められた展開。さすがの色男アラン・ドロンも従順たる犬の如し女猫の罠にはまり、ラスト10分間の顛末はスリラーの醍醐味だ。
 アンリ・ドカエのシャープなモノクロ映像と、ラロ・シフリンのクールなジャズ・スコアが緊迫したサスペンスを生み出し素晴らしい効果を創り出している。

 ラロ・シフリンはアルゼンチン生まれのジャズ・ピアニストで、『スパイ大作戦』『ブリッド』『ダーティハリー』『燃えよドラゴン!』などが有名だが、この作品はまさに、彼が映画音楽作家としてのキャリアを歩み始めた記念的作品と云える。

 タイポグラフィが印象的なタイトルバックなどに流れるジャズ・シンフォニーのテーマと、メリンダがヴァンサンを誘惑するシーンに流れる曲が、ジャズ・オルガン奏者ジミー・スミスの名作アルバム『THE CAT』('64)に収録された『危険がいっぱいのテーマ』と『ザ・キャット』として有名だ。

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 映画公開に伴いラロ・シフリンの編曲でジミー・スミスがカヴァーしたものだが、映画本編に流れるのはジミー・スミスの演奏ではない。
 
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[ルネ・クレマン作品]
★雨の訪問者★
★パリは霧にぬれて★
★狼は天使の匂い★


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生きてるうちが花なんだぜ

「生きてるうちが花なんだぜ」と名打った40周年記念&バースデー・ツアーの最中に
同世代の桑名正博が倒れた


woo 生きてるうちが花なんだぜ 

woo 生きてるうちが花なんだぜ 花なんだぜ… 



歌ってるかい 
 
踊ってるかい 
 
笑ってるかい 
 
泣いてるかい 


生きてるかい 

生きてるかい 

生きてるかい

生きてるかい


辛い時代、投げ出したい時代、でも、まっすぐ自分の道を歩んで行けよ、とぼくらを後押ししてくれる宇崎竜童の作った応援歌だ

奇跡を信じて 祈るしかない
頑張れ! 桑名正博

ストーンズ・ソングズ・オールタイム・ベストテン

 『レコード・コレクターズ』誌8月号は、レココレ30周年記念企画のひとつとして今年50周年を迎えるローリング・ストーンズの楽曲ランキングを特集している。

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 「20世紀のベスト・ギタリスト100」「20世紀のベスト・ベーシスト/ドラマー100」につづいての「ベスト100」企画。
 評論家やライター、音楽人らの趣味を知るのも興味ある企画だが、ストーンズに関してはビートルズと同じだけ自分の人生に影響を与えてくれた曲群だったりするので、ストーンズ・ファン・サイトの掲示板にも書き込みさせてもらったりして、ベストテンものに少し乗っかってみた。

 無数の曲群から、たった10曲を選ぶのは誰だって至難の業。心を鬼にして篩(ふるい)に掛け、セレクトしてみたのがこの10曲である。

[ローリング・ストーンズ・ベスト・ソングズ/オールタイム・ベストテン]
HEART OF STONE
AS TEARS GO BY
19th NERVOUS BREAKDOWN
PAINT IT, BLACK
LADY JANE
LET'S SPEND THE NIGHT TOGETHER
DANDELION
JUMPIN' JACK FLASH
STRAY CAT BLUES
IT'S ONLY ROCK'N ROLL 


 2トップの「ハート・オブ・ストーン」「アズ・ティアーズ・ゴー・バイ」は、ほぼ不動だ。ほとんどが60年代の曲で、70年代のあの曲この曲はパラパラと廻りに落ちこぼれている。いつまでも考えているとアレも入れたいコレも入れたいで収拾がつかない。パッと頭に浮かんだ曲ばかりだが、この10曲は何年か先に選んでもあまり変わらないと思う。
 無意識に選んだ曲も初期に買ったベスト・アルバムの色合いが強く、あの頃の愛着とインパクトは現在も変わることがないようだ。

    ◇

 中学の時、初めて買ったストーンズのアルバムが、1967年年末に出た『あなたが選んだローリング・ストーンズ/ゴールデン・アルバム』だった。

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SIDE A
01黒くぬれ!
02 一人ぼっちの世界
03 ルビー・チューズディ
04 アズ・ティアーズ・ゴー・バイ
05 19回目の神経衰弱
06 夜をぶっとばせ!

SIDE B
01サティスファクション
02 ダンデライオン
03 マザー・イン・ザ・シャドウ
04 レディー・ジェーン
05 テル・ミー
06 この世界に愛を


 日本独自の企画ベスト盤で、ミュージック・ライフ誌と文化放送「ハロー・ポップス」で読者/リスナー・アンケートを募った上位の曲で構成されていて、当時、「ダンデライオン」と「この世界に愛を」はホヤホヤの新曲だった。
 あの頃、ストーンズのシングル盤は「夜をぶっとばせ!/ルビー・チューズディ」と「イエスタデイズ・ペイパー/コネクション」くらいしか持っておらず、旧カタログを買い揃えるのはまだまだ先のこと。
 だから、このアルバムの見開きに掲載されていたディスコグラフィは貴重な代物だった。どの曲がどんなアルバムに収録されているのか、それを一つひとつチェックしていく楽しみは格別なものだった。

 1968年は新アルバム『Their Satanic Majesties Request』(直輸入盤)を購入し、なかなか旧カタログを買うまでに至らないままクリスマスに購入したのが『決定版!ローリング・ストーンズ・デラックス』だった。

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SIDE A
01タイム・イズ・オン・マイ・サイド
02 ペイン・マイ・ハート
03 愛しのモナ〈アイ・ニード・ユー・ベイビー〉
04 クライ・トゥ・ミー
05 エヴリバディ・ニーズ・サムバディ・トゥ・ラヴ
06 彼氏になりたい

SIDE B
01ハート・オブ・ストーン
02 キャン・アイ・ゲット・ア・ウィットネス
03 南ミシガン通り 2120
04 イフ・ユー・ニード・ミー
05 アイ・キャント・ビー・サティスファイド
06 ウォーキング・ザ・ドッグ



 このアルバムは、日本ローリング・ストーンズ・ファン・クラブによる日本独自の編集盤で、ストーンズの大ヒット曲はまったく収録されず、ストーンズがルーツとする黒人音楽のカヴァー曲で埋め尽くされている。
 当時、とにかく収録されていた渋いR&BとBluesにイカれたもので、それまでビートルズ一辺倒でありポップスくらいしか聴かなかった音楽的趣味が、ソウルフルでブルージーな志向になったのもこのアルバムの影響は大きく、次に買った大傑作『Beggars Banquet』(直輸入盤)のヘヴィグルーヴなブルーズサウンドで決定されたわけである。


 さて、『レココレ』のベスト100は如何に………自分の10曲と照らし合わせるのも一興なのである。

オマケ:『カヴァー曲ベストテン]
TIME IS ON MY SIDE
PAIN IN MY HEART
I CAN'T BE SATISFIED
IF YOU NEED ME
CRY TO ME
CONFESSIN' THE BLUES
LOVE IN VAIN
STOP BREAKING DOWN
JUST MY IMAGINATION
AIN'T TOO PROUD TO BEG




「深夜の告白」*ビリー・ワイルダー

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DOUBLE INDEMNITY
監督:ビリー・ワイルダー
原作:ジェームズ・M・ケイン
脚本:ビリー・ワイルダー、レイモンド・チャンドラー
撮影:ジョン・サイツ
音楽:ミクロス・ローザ
出演:バーバラ・スタンウィック、フレッド・マクマレイ、エドワード・G・ロビンソン

☆☆☆★ 1944年/アメリカ/107分/B&W

    ◇

 ビリー・ワイルダー監督第4作目にして最初のヒット作品は、男と女の醜い部分が曝け出され、金と情欲により破滅していく男の物語。倒叙ミステリー映画の先駆的作品であり、ファム・ファタールものの古典として燦然と輝くフィルム・ノワールである。


 ロサンゼルスの保険会社の外交員ウォルター・ネフ(フレッド・マクマレイ)は、実業家のディートリクスンの美しい後妻フィルス(バーバラ・スタンウィック)に惹かれ、彼女と不倫関係に堕ちた。そして彼女にそそのかされ、夫にかけた多額の保険金目当ての完全犯罪の計画を練ることになる。
 生命保険など必要ないと云うディートリクスンを欺き倍額保険の契約を締結し、松葉杖のディートリクスンを駅まで送るフィルスの車の中で彼を撲殺するネフ。ディートリクスンに見せかけ列車に乗るネフの周到な偽装工作により、ディートリクスンは列車からの転落事故として処理された。
 完璧だったはずの殺害計画だったが、ネフの同僚である敏腕調査員キーズ(エドワード・G・ロビンソン)は長年のカンによって疑惑を抱きフィルスの身辺調査を始める。
 保険金を手に入れられないまま、追いつめられていくネフとフィルス。そして、ディートリクスンの前妻の娘ローラがフィルスの正体を語ることから悲劇が訪れる………。

    ◇

 1920年代のアメリカで実際に起きた事件を基に、ジェームズ・M・ケイン(『郵便配達は二度ベルを鳴らす』)が書き上げた原作『殺人保険(倍額保険)』('43)を、レイモンド・チャンドラーとビリー・ワイルダーが共同で脚本を練ったのだが、映画の脚本は初めてのチャンドラー(当時50代)と、若くに脚本家デビューをして名脚本家と認められていたワイルダー(当時30代)の間にはかなりの軋轢があり、完成に至るにかなり難航したという。

 タイトルバックに松葉杖の男のシルエットが不気味に映ったあと、銃弾で重傷を負ったネフが深夜のオフィスでレコーダーに事件の顛末を録音(告白)するところから始まり、回想の形で映画は進行する。
 一人称形式で語られる主人公の心情吐露が、気怠さと退廃を醸し出すムードとなりハードボイルドというひとつのスタイルとなっているが、この独白形式は主人公が見たもの、聞いた事しか描かれることがないので、たとえば主人公の心理的行動の移ろいからネフが味わうスリルをも体感できるようになっている。
 逆に、彼の居ないところでのフィルスの行動や思惑は推測でしかない。だから、彼女の真意がどうだったのか、ローラが語ったフィルスの素性は信用できるのか、本当の事は判らない。

 ネフがフィルスを問い詰めにいくクライマックス。
 「音楽がうるさい」と窓を閉めるネフの姿に銃声だけが聞こえる。
 「下手だな。もう一発撃ってみろよ」と、フィルスに近づきピストルを取り上げるネフ。「愛していたなんて言うなよ」
 フィルスの表情が変わる。「誰も愛してなんかいない。たった今まで思っていたのに…こんな気持ち初めてよ」
 抱きつくフィルスに「グッバイ、ベイビー」と銃声…そして崩れ落ちるフィルス。
 
 ジェームズ・M・ケインの犯罪小説とともに本作は、削ぎ落とされた台詞とストーリー展開、サンスペンスフルに奏でられる音楽など、以後のクライム映画に残した影響は計り知れないものがある。

 ネフが車の中で殺人を犯すとき、カメラはフィルスの表情だけを撮りつづける。ここは好きなシーンだ。

 当時のハリウッドにおいて、悪女に翻弄される男の役を承諾するスターたちはいなかったという。(グレゴリー・ペックやアラン・ラッド、スペンサー・トレーシーにオファーするものの)
 そんな中でネルを演じたフレッド・マクマレイも、悪女のレッテルに二の足を踏んだであろうバーバラ・スタンウィックも、それまでの人の良い、明るい役柄を捨てての新境地を見せたことになる。
 ギャング・スターで名を馳せたエドワード・G・ロビンソンが、犯罪を暴いていく側で存在感を見せつけているのもいい。
 始終葉巻を銜えるキーズ役のロビンソンに、マクマレイが鑞マッチを擦るシーンが何度も出てくるのだが、これが最後に深い余韻を残す演出になっている。

 本作を元ネタにローレンス・カスダン監督とキャスリーン・ターナーが鮮烈なデビューを飾った『白いドレスの女』('81)のように、悪女が微笑んでエンディングというわけにはいかないこの時代。犯罪者が生き残るのはアンモラルとして許されないこととして、ビリー・ワイルダーは当初、ネフが電気椅子で処刑されるシーンを撮ったのは有名な話。しかし、これはこれで残酷だということで、ネフとキーズの男の友情を付け加えたエンディングにしたという。チャンドラーは反対したらしいが、男ふたりのラストシーンの方が味わい深いものだ。

 個人的には、ヒロインの悪女ぶりも驚愕のラストの余韻も『白いドレスの女』の方が断然好みなのだが………。

★白いドレスの女★
★郵便配達は二度ベルを鳴らす★





「ファム・ファタール」*ブライアン・デ・パルマ

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FEMME FATALE
監督:ブライアン・デ・パルマ
脚本:ブライアン・デ・パルマ
編集:ビル・パンコウ
衣装:オリヴィエ・ベリオ
音楽:坂本龍一
出演:レベッカ・ローミン=ステイモス、アントニオ・バンデラス、ピーター・コヨーテ

☆☆☆☆ 2002年/アメリカ・フランス/115分

    ◇

 自分とそっくりな女性と入れ代わり新しい人生を歩もうとする女と、事件に巻き込まれ翻弄されるカメラマン。何が飛び出すのやら、驚きとトリックだらけのヒッチコック型サスペンスは、全編フランスを舞台にしたブライアン・デ・パルマ流フィルム・ノアールとなっている。


 舞台は華やかな各国のスターが入り交じるカンヌ国際映画祭。
 ロール・アッシュ(レベッカ・ローミン=ステイモス)は、ゲストの一人が身に付けている1,000万ドルの「蛇のビスチェ」の強奪に手を貸すが、相棒を裏切り「蛇のビスチェ」を持ってパリに高飛びする。パリで偶然に遭遇した自殺事件。その女が自分にそっくりなことでロールは女に成り代わりパリを発った。
 7年後、ロールはリリー・ワッツという名でアメリカ大使夫人に納まって、再びパリに戻って来た。そこで、元パパラッチのスペイン人の写真家ニコラス(アントニオ・バンデラス)が美しいロールに魅せられ、カメラを向けシャッターを押した。
 ロールの素性を探ろうとするニコラス。悪女の本性を表しニコラスに近づき誘惑するロール。だが、そこには驚きの運命がロールを待ち受けていた……。

    ◇

 ファム・ファタールものの古典的名作『深夜の告白』('44/ビリー・ワイルダー)のクライマックス・シーンがオープニングに映し出され、多分に、ここからデ・パルマ流の遊びが始まっていく。

 冒頭の15分間、本物のカンヌ国際映画祭会期中のレッドカーペットで撮影された強奪シーンは、流麗なカメラワークと、坂本龍一の音楽のパッキングが緊張感を高め、ゆったりと流れる“ボレロ”に昂揚することは間違いない。
 そして、本編の半分あたりでは、堂々とトリックを解く鍵が映される大胆さである。

 ヒロインとなるロールが平然と仲間を裏切り、身を隠し、出し抜く悪女ぶりと、幾度となく映されるフォト・コラージュや小さなトリックが仕掛けられ、その幾重にも張られた伏線が、ジグソーパズルの最後のワンピースの如く嵌ったところで、完全ノックアウトされる。
 使い古されたトリックも、これがデ・パルマ流儀。デ・パルマの仕掛けた罠は、掛かった後から効いてくるから堪らない。

 公開当時、評価は真っ二つだった。確かに“映画の夢”が醒めた観客からは「そりゃあ、ないよ」と怒る人もいた。醒めない“夢”を抱えたまま、今でも醒めてはいないのは、ヒッチコックの映画同様に“女優”と“トリック”にハマる快感が楽しいからだ。
 スプリットスクリーン(分割画面)やスローモーション、俯瞰カメラの多用など、デ・パルマ的緊張感に満ちた華麗なビジュアルで、映画芸術の粋を堪能しよう。
 デ・パルマ流儀「映画は遊び」は、映画でないとできない、映像のマジックなのだから。