TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「不連続殺人事件」*曽根中生監督作品

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監督:曽根中生
原作:坂口安吾
脚本:大和屋竺、田中陽造、曽根中生、荒井晴彦
撮影:森勝
音楽:コスモス・ファクトリー
出演:嵯川哲朗、夏純子、田村高廣、金田龍之介、小坂一也、内田良平、桑山正一、内田裕也、伊佐山ひろ子、神田隆、絵沢萠子、江角英明、根岸とし江、宮下順子、福原ひとみ、水原明泉、内海賢二、桜井浩子、石浜朗、楠侑子、松橋登、粟津號、岡本麗、泉じゅん、梓ようこ、長弘、殿山泰司、初井言栄、浜村純、谷本一

☆☆☆★ 1977年/ATG/140分

    ◇

 日本推理小説史上最高傑作と言われる坂口安吾の『不連続殺人事件』の完全映画化であり、ロマンポルノのアナーキスト曽根中生監督が初めて日活以外(ATG配給・製作)の場で撮りあげた秀作である。
 終戦直後の混乱した時代を舞台に、元夫婦、元愛人といった愛憎関係にある数十人の男女の、特権階級のエリート意識むき出しのエゴと狂態が描かれた原作を、大和屋竺、田中陽造、曽根中生の三人(鈴木清順監督の下で結成された脚本家グループ《具流八郎》のメンバー)と、田中陽造の門下生荒井晴彦ら天才たちの共同脚本で、坂口安吾が紡ぎ出した複雑怪奇にして人間心理の巧妙さを見事に映像化している。

 1960年代の松本清張ら社会派推理小説の流行のあと、70年代に入ると推理小説のリアリズムに反動したかのように、今度は本格的探偵小説のブームがあった。「幻影城」という探偵小説専門雑誌が一躍を担ったのだろう、異端作家として夢野久作や久生十蘭らの作品が再評価されるようになった。
 そして、1975年ATGによる『本陣殺人事件』と1976年の『犬神家の一族』の大ヒットを受け空前の横溝正史ブーム。角川書店は横溝正史の書籍と同様に、坂口安吾、夢野久作の文庫を書店に並べ、幻想小説や本格推理小説の映画化が盛んになり、本作が公開された1977年には横溝正史の『悪魔の手毬唄』『獄門島』『八つ墓村』、江戸川乱歩の『陰獣』、夢野久作の初映画化作品として『少女地獄』などが劇場を賑わせていた。

 連載小説だった『不連続殺人事件』は全28章に分けられ、23章「最後の悲劇」を終えたところで一回連載を中断して、読者ならびに江戸川乱歩ら当時(1947年)の推理小説家に挑戦状を突きつけている。エラリー・クインやヴァン・ダインの作品のように探偵が謎解きを解決編で語る前に、読者が推理を楽しむことができる本格的推理小説である。
 映画化による再版で初めて読んだとき(相関関係の複雑さに難航したが)、解決編において、ストーリー全体を包んだ大きな心理トリックに驚愕した。道徳観念からかけ離れた人物ばかりを閉塞された世界に集めることで、異常な犯人が異常でなくなる巧みなミスリードが敷かれているのだ。
 見事な心理トリックと鮮やかな結末。そしてラストの狂おしさは、映画でも遺憾なく味わうことができる。

    ◇

 敗戦から2年が経過した1947年8月、N県。県内有数の資産家で詩人の歌川一馬(瑳川哲朗)は、友人である小説家の矢代夫婦(田村高廣、桜井浩子)を夏の避暑として屋敷に誘った。
 屋敷には、女流作家の宇津木秋子(楠侑子)と夫でフランス文学者の三宅木兵衛(石浜朗)、劇作家の人見小六(江角英明)と妻で女優の明石胡蝶(根岸とし江)、セムシの詩人・内海明(内海賢二)、流行作家の望月王仁(内田良平)らが招待されており、ほかに、ニセの一馬からの手紙を受け取ってやってきた画家のピカ一こと土居光一(内田裕也)、弁護士の神山夫婦(神田隆、絵沢萠子)、素人探偵の巨勢〈こせ〉博士(小坂一也)など、招かれざる客たちも集まってくる。
 いまや歌川家の屋敷には、使用人も含め29人の男女がいた。それも、歌川家に何らかの愛憎を持つ人間ばかりが集められたことになった。

 戦後のある時期に現れはじめた文化人という種族の醜悪な人間関係を、シニカルな目で捉える曽根監督のエスプリに富んだ作風で楽しめるところだ。もちろん、この俗悪千万な人間たちを登場させたのは坂口安吾であり、原作では第1章において登場人物の異常な人間模様が描き連ねられている。

 矢代の妻・京子は、一馬の父親で歌川家の家長・多門(金田龍之介)の元妾で、駆け落ち同然にして矢代と結ばれた過去がある。
 一馬と結婚して10ヶ月の美しい妻・あやか(夏純子)はピカ一の元妻。人妻に恋慕した一馬が貧乏画家だったピカ一から20万円で身請けし、豪奢の好きなあやかはお金に惚れて一馬と結婚したのだった。愛らしく色っぽく見えるあやかだが、実は性的なことには無関心で、ただワガママなだけのあやかに一馬は物足りなさを感じている。今は、父・多門が女中に産ませた妹の加代子(福原ひとみ)を熱愛している。一馬にはもうひとり、父親が後妻に産ませた多淫な妹・珠緒(水原明泉)もいる。

 女流作家の宇津木秋子は一馬の元妻で、夫の木兵衛は学者然と乙にすました嫉妬深い男。女優の胡蝶は情欲をそそる肉感派だが、男性の好みは理知的な弱々しい男が好きで、夫の小六は何かと煮え切らない臆病者だ。
 招待客以外には、歌川家の主治医で片足が不自由な海老塚医師(松橋登)。取り澄ました看護婦の諸井琴路(宮下順子)はかつて多門の愛人関係にあった女。過去の多門の行状をネタに強請をしていたのが弁護士の神山東洋で、その神山の女房・木曾乃(絵沢萠子)も多門の愛人だった。
 まさに魑魅魍魎とした多くの男女のなかで、誰からも嫌われているのが粗暴で傲慢無礼な望月王仁。その王仁が屋敷のなかで短刃によって殺されたことから、尋常ならざる8つの殺人事件の幕があくのだった。
 凶器の短刃から発見された指紋は2人の女のもので、もう1人の女のものと思われる鈴が、望月のベッドの下から発見された。
 望月王仁の死体は県立病院へ送られ、解剖されたその夜、珠緒と詩人の内海、そして一馬の従姉妹の南雲千草(伊佐山ひろ子)が殺された。

 事件から1週間が経過した日、加代子が珈琲に混ぜられた毒物で、多門がプリンに混入されたモルヒネで、別々の場所で同時間に殺害された。警察は次々に起きる事件に翻弄されるだけだった。
 さらに10日が過ぎ、今度は女流作家の宇津木秋子が殺された。さらに7日後、広間の中央柱に「9月10日・宿命の日」という張り紙が残され、その夜、一馬はあやかの首を絞めたあと青酸カリを服毒して死んだ。
 一連の惨劇が一馬の犯行だったと思われたとき、巨勢博士は残された者たちを広間に集め、心理上の足跡を残した殺人鬼の手口を説明する。
 「まず、犯人の名前から申し上げます」

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 何とも個性的な俳優陣を大量に配した舞台劇の様相は得てして混乱を招くものだが、緻密な推理劇が最後まで緊張感を失わずにあるのは曽根監督の見事な演出手腕。大人数を納める広角レンズやローアングルを駆使し、日常からかけ離れた退廃的世界の小宇宙を観客に見せつけてくれる。
 市川崑監督の『横溝正史シリーズ』のような洗練さとスター主義の華やかさはないが、むしろこの猥雑さこそが無頼派作家坂口安吾のテーマだったろう。

 「よろしい、あんたには焼け跡に咲いた向日葵みたいな、この女の野生が必要であり、俺には金が要る。結構。売りますよ、女房を」

 ミステリアスな宮下順子がなかなかいいが、やはり存在感は内田裕也。本格的役者としての足がかりになった本作では、原作の気障で芝居じみた台詞が見事ユーヤさんに嵌っている。退廃的な人生観を滲ませながらの好演である。

 「胡蝶さん、いやゃ綺麗だな。あなたはまるで、麗顔麗姿というんだなぁ。オレはね、悪徳が好きなんだ。…………踊ろう」

 「しばし、最後の自由を与えよ」


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青春の光芒、日活ロマンポルノ

 この11月20日で日活ロマンポルノ誕生からちょうど40年経つ。

 記念すべき第1作『団地妻 昼下りの情事』を見たのは初公開の翌々年。
 東京での浪人暮らしの日々、京王線沿いの踏切に近いところにあった劇場の看板にそそられたんだと思う。
 高校時代は街なかの学校に通う道すがらに大映の映画館があり、関根恵子の『高校生ブルース』や渥美まりの『いそぎんちゃく』、南美川洋子(名古屋出身の美人女優。ピンナップしていたなぁ)、八並映子らの『高校生番長シリーズ』などの看板やロビーカードにドキドキしていた少年が、初めて観た成人映画。映画に何の違いがあるものかと思いながらも、なかなか中に入る事ができなかったウブな年頃だった。

 輝かしき女神たちの神々しき肢体に胸躍らせて入ったはずの暗闇が、いつの間にかフリーキーな空間になり、シュールな物語に迷い込み、官能の世界に愛を見つけ、暴走する若さを体現したりする場になっていた。

 暗闇のディーヴァたちよ、永遠に…………。


 さて、「ロマンポルノ」のムック本がDVD付きで70年代と80年代に分けて2冊同時発売された。
 〈70年代編〉には谷ナオミと白川和子、〈80年代編〉には美保純と風祭ゆきの最新インタビューが掲載され、年代別の女優列伝からは、かつて女神たちに熱視線を送った我らの記憶を甦らせてくれる。
 ただ、我がマイミクのキリヤンさんの紹介と傑作『ブルーレイン大阪』の記事が抜けている。ないがしろにしないで欲しいな。

 まあしかし、一世風靡した「日活ロマンポルノ」をたった2冊の本にまとめる無理を承知で刊行したのも日活創立100周年を記念してのこと。付録DVD(「花と蛇」「ピンクのカーテン」)も何だかなと思えるだけに、コアなファンよりも初心者へ知らしめす入門マガジンであろう。
 楽しんでおくれ。

 数ある名作・傑作・珍作を、もっとたくさんDVDリリースして欲しい。


★白川和子さんのインタビューで、“ロマンポルノの百恵ちゃん”こと日向明子さんが、今年3月に白血病で亡くなっていたことを知る。映画『白夜行』(2011)で桐原亮司ら高校生を買いにきた団地妻の役で見たばかりなのにビックリである。54歳の若さだよ。
 4月にはシナリオライター高田純氏、5月にはキャメラマン安藤庄平氏も逝っている。

 アウトロー原田芳雄氏、シンガージョー山中氏、ブルーズマン柳ジョージ氏………今年はいつになく哀しみが多すぎる。
 
    ◇
 

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にっかつロマンポルノDVDBOOK '71~'79年編
にっかつロマンポルノDVDBOOK '80~'88年編
【宝島社】
各定価 1,575円(税込)

★ブルーレイン大阪★

「竜馬を斬った男」*山下耕作監督作品



監督:山下耕作
原作:早乙女貢
脚本:中村努
撮影:森田富士郎
音楽:千野秀一
出演:萩原謙一、根津甚八、藤谷美和子、中村れい子、坂東八十助、佐藤慶、内藤武敏、島田陽子、本田博太郎、片桐竜次、岩尾正隆、大村崑、結城貢、早乙女貢

☆☆★ 1987年/松竹/109分

    ◇

 かつて、NHK大河ドラマ『勝海舟』でテロリスト「人斬り以蔵」を演じたショーケンが、今度は佐々木只三郎という佐幕派の暗殺者に惚れ込んで自らの手で企画・映画化を果たした作品。


 文久3年。旗本・佐々木家の養子となった元会津藩士の只三郎(萩原健一)は、老中・板倉伊賀守(内藤武敏)の命令で、かつて京都へ共に浪士隊を率いて行った清河八郎(岩尾正隆)を暗殺した。

 坂本竜馬(根津甚八)と出会ったのは、美しい妻八重(藤谷美和子)と祝言をあげて間もない頃だった。人を喰ったような惚けた男だと感じた。
 只三郎は八重を江戸に置いて京都見廻組組頭に着任し、新撰組が池田屋を急襲した夜、会津での幼馴染みで足軽の息子亀谷喜助(坂東八十助)に出会う。
 出自にコンプレックスのある喜助は、いつか世間を見返してやろうと、勤王の志士となって見廻組隊長の只三郎を付け狙っており、ある日、只三郎を襲い従者の惣兵衛(大村崑)を殺してしまう。喜助を追った只三郎は、寺の境内で夜鷹を見つけるが、それは、かつて只三郎の許嫁で喜助に寝取られたぬい(中村れい子)であり、その変わり果てた姿に只三郎は衝撃を受ける。

 ふとしたことで知り合った芸妓の小栄(島田陽子)と暮らすようになった只三郎は、勤王派から度々襲われるようになり、ある日、自分を襲った少年を斬ることで、職務への疑問を持ち始める。が、実兄の会津藩士・手代木直右衛門(佐藤慶)から幕府の大政奉還の意向を聞かされた只三郎は、失望感からますます勤王派の弾圧を厳しくするのだった。

 桂小五郎(本田博太郎)と西郷吉之助(結城貢)を仲立し薩長連合を実現させた、時代の寵児ともいえる坂本竜馬に強い嫉妬と憎悪を覚えた只三郎は、狂ったように竜馬を追い求め、慶応3年11月15日、中岡慎太郎(片桐竜次)とともに近江屋に逗留している竜馬を斬った。
 その後只三郎は鳥羽伏見の戦いに参戦し、瀕死の重傷を負い小屋の中で気を失っていた。そこに現れた喜助。只三郎に斬りかかるも、逆に只三郎の返り討ちとなり、深手を負って小屋を出て行った。
 ぬいが川端で喜助の死体を見つけ、傍らの小屋で血にまみれた只三郎の最期を看取ったのだった。

 八重が京都に着いたのは、只三郎の死から半月経った頃だった……。

    ◇

 ショーケンの直情型で変態的とも云える只三郎役は鬼気迫るものがあり、このキレ具合がショーケンを好きになるか嫌いになるかの境なんだろうが、ローソクの炎で燃やした書簡を喰うシーンなどはまさしくショーケンの焔技。
 30代後半相応の体躯とは云えしなやかさは健在でその体躯を活かした殺陣も冴え、ギラギラと躍動するショーケンの意気込みは評価できる作品で、艶やかなショーケンを眺めていればいいのかも。

 ショーケンを「格子越し」に横移動する絵面が何度も出てくるが、これは中々印象的で面白い。
 
 可愛らしいがカマトトぶりが嫌味な藤谷美和子と、美人だが背丈が高すぎる芸妓に違和感ありの島田陽子らスター女優にはまったく興味なく、殺伐としたシーンで麗しき色香を漂わす中村れい子が良かった。

 佐幕派であれ倒幕派であれ、時代に翻弄されたひとりの男の悲劇として見るのが妥当なのだろうが、只三郎を付けねらう喜助とのエピソードに引っ張られ過ぎて、竜馬を暗殺してからのシーンは余分な気がする。
 萩原の自叙伝『ショーケン』に記述もされているが、ショーケンの後ろ姿で終わって欲しかったな。
 ましてや、大ラスに映し出される現代の京都の風景なんて愚の骨頂。ショーケンの艶っぽい死に顔が脳裏からいっぺんに吹き飛んでしまう。

 映画は始めから終わりまでトラブルだらけ(『ショーケン』を読まれたし)で、興行的にも失敗に終わり大きな負債を抱えたショーケンなのだった。

★ショーケン★

【志水辰夫作品リスト索引】

 志水辰夫の小説書庫【noa noir】の作品リスト(エッセイ集以外すべて読了)です。
 志水辰夫の書き下ろし新作が7月に、好評シリーズ『蓬莱屋帳外控』第3弾「待ち伏せ街道」が9月に発刊されたので、この索引をトップに持ってきます。

印:作品紹介

    ◇


【単行本】
01. 飢えて狼  1981年8月初版  
02. 裂けて海峡  1983年1月初版  
03. あっちは上海  1984年2月初版 
04. 散る花もあり  1984年5月初版
05. 尋ねて雪か  1984年11月初版
06. 背いて故郷  1985年10月初版
07. 狼でもなく  1986年11月初版
08. オンリィ・イエスタデイ  1987年12月初版
09. こっちは渤海  1988年6月初版
10. 深夜ふたたび   1989年5月初版
11. カサブランカ物語  1989年8月初版
12. 帰りなん、いざ  1990年4月初版
13. 行きずりの街  1990年11月初版 
14. 花ならアザミ  1991年4月初版
15. 
夜の分水嶺  1991年8月初版 
16. 滅びし者へ  1992年8月初版
17. いまひとたびの  1994年8月初版
18. 冬の巡礼  1994年10月初版
19. 虹物語  1995年4月初版
20. きみ去りしのち  1995年6月初版
21. あした蜉蝣の旅  1996年2月初版
22. 十五少年漂流記  1997年10月初版
23. 情事  1997年10月初版
24. 暗夜  2000年3月初版
25. きのうの空  2001年4月初版 
26. 道草ばかりしてきた*エッセイ集  2001年11月初版 未読
27. 負け犬  2002年4月初版
28. 生きいそぎ  2003年2月初版
29. 男坂  2003年12月初版 
30. ラストドリーム  2004年9月初版
31. 約束の地  2004年11月初版
32. うしろ姿  2005年12月初版 
33. 青に候(あをにさうらふ)  2007年2月初版 
34. みのたけの春  2008年11月初版 
35. ラストラン  2009年3月初版 
36. つばくろ越え  2009年8月初版 
37. 引かれ者でござい  2010年8月初版
38. 夜去り川  2011年7月初版
39. 待ち伏せ街道  2011年9月初版

【アンソロジー収録作品】
01. あなたの思い出 1987年11月 未読
02. A列車で行こう 1989年8月/1995年8月 
03. 石の上 1996年12月


「郵便配達は二度ベルを鳴らす」*ボブ・ラフェルソン



THE POSTMAN ALWAYS RINGS TWICE
監督:ボブ・ラフェルソン
原作:ジェームス・M・ケイン
脚本:デビッド・マメット
音楽:マイケル・スモール
出演:ジャック・ニコルソン、ジェシカ・ラング、ジョン・コリコス、マイケル・ラーナー、アンジェリカ・ヒューストン、ジョン・P・ライアン

☆☆☆☆★ 1981年/アメリカ/122分

    ◇

 アメリカン・ニューシネマの傑作『ファイヴ・イージー・ピーセス』('70/ジャック・ニコルソン主演)で一躍有名になったボブ・ラフェルソン監督が、名コンビと云えるジャック・ニコルソンと組んだ最高傑作。

 原作は1934年に発表されたジェームス・M・ケインの実話を基にした犯罪小説で、これ以前に3度映画化されている(ヴィスコンティ監督のイタリア版以外は未見)が、不況下の30年代という時代設定や夫がギリシャ移民であることなど、過去の映像作品よりもかなり原作に忠実。そして、原作では当時描き入れなかった性描写に踏み込み、官能性豊かな作品に仕上がっている。
 たしかに公開当時の売りは“リアルな性描写”だった。原作にないキッチンテーブルでの濃厚なセックス・シーンや自動車事故の現場で欲情するコーラとフランクのファッキングは、ジェシカ・ラングは一切ヌードになることなく、ボブ・ラフェルソン創作の官能シーンとしてポルノ・フィルムの如き濃密な描き方を目にすることができる。
 しかし、たしかにジェシカ・ラングの内腿に惹きつけられること請け合いだが、露骨なセックス・シーンへの興味より、ありきたりな三角関係とはいえ人間の持つ欲望が濃密なラヴストーリーに昇華する展開が見事だ。


 職を求めてロスアンジェルスにヒッチハイクをしている流れ者のフランク(ジャック・ニコルソン)は、南カリフォルニアの辺鄙な町外れに建つガソリンスタンド兼簡易食堂“ツイン・オークス”に立ち寄り、口からでまかせの話で主人のニック・パパダキス(ジョン・コリコス)からタダ飯にありつく。人の良いニックは、フランクがメカニックの技術者だと聞いてここで働かないかと誘い、フランクは一度は断るがニックの若い妻コーラ(ジェシカ・ラング)の肢体に惹かれて戻ってくる。
 下働きをはじめて数日後、ニックが留守の間に調理場でフランクはコーラに襲いかかり、抵抗をしながらもコーラの躰は彼に反応していく。
 田舎町出身のコーラは、スターを夢見てハリウッドに趣いたがやがて夢破れ、生活のためにギリシャ人のパパダキスと結婚。しかし、みすぼらしい夫に支配される生活に嫌気がさしていたコーラ。情欲がフランクを受け入れるのだった。
 その後ニックの目を盗んで密会を重ねる二人は、ある日駆け落ちを決意。しかし、エゴなフランクとはうまくいかないと考えたコーラは駅からひとり帰宅することに。フランクもまた“ツイン・オークス”に戻り以前と同じ日々を送るが、互いを求める強い欲望の炎は消えることなく、遂にふたりの意識に亭主を殺害しようという衝動が湧き上がってくる……。

 1976年版『キングコング』のオーディションでヒロイン役を射止めデビューしたジェシカ・ラングだったが、映画は酷評され、彼女も“キングコングの恋人”と揶揄され始末で、しばらく映画界を去っている。79年の『オール・ザット・ジャズ』で復帰するが、これも役柄としては不満の残るものだったろう。しかし本作で見事“キングコング女優”の汚名を返上し、翌1982年には『トッツィー」と『女優フランシス』でアカデミー賞助演女優賞を獲得している。演技派女優の道が開けたのも、このコーラ役が足がかりだっと言っていいだろう。
 決して美人ではないが、うら寂しい生活感を漂わせながら、扇情的な女の性を多彩な表情で変化させていく演技が圧巻である。

 フランクが小さな鉄球を詰めた布袋をコーラに渡し、それでシャワールームでニックを殴り殺す計画はフランクの小心さがよく判る。表情の演技を抑えた小悪党ぶりを見せるジャック・ニコルソンである。

偶然に起こった停電で失敗するが、次は酔っぱらい運転にみせかけた自動車事故で遂にニックの殺害を果たす。
 気持ちが高揚しているコーラが内腿を開きフランクを誘うシーンがリアルだ。

 ふたりの計算違いは、フランクが乗り込んだ車体がバランスを崩して落下。フランクが重傷を負ってしまったことだ。
 そのことから、フランクを知る地方検事がふたりをニック殺しで告発するが、コーラについた敏腕弁護士カッツ(マイケル・ラーナー)が保険会社と裏取引をして告訴を却下させる。
 釈放されたコーラとフランク。“ツイン・オークス”食堂は興味本位の客たちで大繁盛だ。コーラは商売に夢中になるが、フランクはそんなコーラに愛想をつかし、また放浪の旅に出てしまう。途中、サーカス一座の調教師マッジ(アンジェリカ・ヒューストン)のセックス相手を務める。
 
 祖父ウォルター・ヒューストン、父親ジョン・ヒューストンという名門一家に生まれたアンジェリカは、父親に無理矢理女優を強いられスクリーン・デビューしたが惨敗。モデルをしながら本格的演技を勉強し、本作が3作目の出演だが蛇足とも云えるこのシーン。当時実生活で恋人同士だったジャック・ニコルソンとの蜜月風景として流しておこう。ただし終幕に意味のあるエピソードになる。
 この後アンジェリカは、父ジョン・ヒューストンが監督した『女と男の名誉』('85/ジャック・ニコルソン、キャスリーン・ターナー)で再びジャック・ニコルソンと共演し、アカデミー助演女優賞を獲得している。(キャスリーン・ターナーはゴールデングローブ賞で主演女優賞を受賞)

 旅先でコーラを忘れられないフランク。
 やがて“ツイン・オークス”に戻り、そこで母親の葬儀から帰り昔のような優しさを取り戻したコーラと再会。ふたりの愛情は再び甦り、フランクはコーラにプロポーズするが………。

 このあと唐突なラストが訪れ、ジャック・ニコルソンの静かな演技が耳に残る。
 原作とは違う結末は、映画的でいいだろう。


    ◇

 原作タイトルの所以は、アメリカでは郵便配達人はベルを二度鳴らして自分は不審者ではないことを知らせる。すなわち、2度目に真実があるということ。
 ニック殺害は二度目に果たされ、二度目の法定で無実を勝ち取り、コーラの元を去るフランクは再度戻ってくる。そして、二度の自動車事故。