TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「女タクシードライバーの事件日誌 3」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

~届かなかった手紙~
脚本:瀧本智行
演出:水谷俊之
出演:余貴美子、大杉蓮、篠原ともえ、葛山信吾、平泉成、田島令子、北村総一郎、斉藤洋介、佐藤二朗、山田辰夫、村田雄浩、田中健

初回放映:2005年2月28日 TBS「月曜ミステリー劇場」


 ここに登場する被害者の家族と加害者の家族に過酷な生き方が敷かれたとはいえ、それぞれ重い鎖を引きずりながらも信義を貫き、自分の掟を破らずに生きてきた。そして、生きて行こうとする人たちばかりだからこそ、切ない 。
 ドラマは篠原ともえの好演と、大杉漣、平泉成 、田島令子ら実力派俳優の深みのある演技が支えている。

 タクシードライバーの春成衿子(余貴美子)は、大都会で生きる様々な客を乗 せながら日常を送っている。ある夜、営業所長の大城(北村総一朗)が居酒屋 で他の客と口論になり、衿子はその客・仁科(大杉漣)を送っていくことにな る。行き先を指定するわけでもなくただ黙り込む仁科。実は彼は、その夜ある工務店で強盗殺人を犯していた。車中にはラジオの声が流れているだけ……。
 ディスクジョッキーが読みあげる一通のハガキには、タクシードライバーと結婚することになったという女性の生い立ちが綴られていた。リクエストは母が好きだった山口百恵の【秋桜】。そのイントロが流れた瞬間、衿子のタクシーの中で慟哭する仁科の姿には、犯罪を犯した以上に哀しい人間の姿が感じられる。タクシーを降りる男の 後ろ姿は、旨味ある大杉漣ならではの哀切感がにじみ出ている。
 同じ頃、衿子の同僚・近藤(佐藤二朗)の行きつけのラーメン屋では、看板娘 の多恵(篠原ともえ)とタクシードライバーの大田(葛山信吾)と、ふたりの 結婚話に喜ぶ養母・悦子(田島令子)と養父・辰夫(平泉成)がラジオを聴いていた 。このハガキは多恵がリクエストしたものだった。
 そして、その仁科の死体が発見される。
 刑事の訪問で衿子はあの夜乗せた客が仁科だったと知り、ラジオ番組に異常なまでに反応した仁科と、近藤から聞いた多恵の話を考え合わせ、仁科は多恵の父親ではないかと思う……。
 捜査で現場近くにオレンジ色のタクシーが止まっていたことが判明。そのタクシーは大田のものだった。そして刑事から聞かさせた話は、大田は仁科が十数年前に犯した殺人の被害者の息子だった。


 大都会の片隅で起きたどうってことない事件は、その後、もうひとつの顔を忍ばせながら思わぬ展開に傾き、夫の謎の死で心に傷を負いながらひっそりと生きている衿子をも巻き込んでいく。
 事件の周りにいるのは、心の闇をそっと抱えながら必死 に耐えて生きている人々。その闇は、同じように孤独の中で生きているもの同 士しか判らない。

 手放した娘の結婚を知り、悪徳な工務店から金を盗み出すが誤って殺人を犯してしまった父親と、その男の娘を養女として育てた義母が娘のために誤って犯す殺人。
 事件解決後、衿子は仁科が娘に宛てた “届かなかった手紙”をラジオ番組に投稿する。仁科が抱えた罪を少しだけ解き放してやったのだ。
 ふたたび【秋桜】が流れるこのシーンは、 被害者の息子と加害者の娘の苦い旅立ちが映し出されるが、それにしても山口百恵の【秋桜】は反則技の選曲。泣けるよ。

 ラストの5分余り、タクシー車中の余貴美子の表情がとてもいい。
 今回の刑事役は山田辰夫。渋いねぇ。

    ◇

★女タクシードライバーの事件日誌1/殺意の交差点★
★女タクシードライバーの事件日誌2/作られた目撃者★
★女タクシードライバーの事件日誌4/殺意を運ぶ紙ヒコーキ★




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「女タクシードライバーの事件日誌 2」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

~作られた目撃者~
脚本:瀧本智行
演出:猪崎宣昭
出演:余貴美子、美保純、大地康雄、北村総一郎、斉藤洋介、佐藤二朗、鶴田忍、中村育二、池内万作、村田雄浩、田中健

初回放映:2004年7月26日 TBS「月曜ミステリー劇場」


 タクシーは様々な客を乗せる。自分の身の上を話す者、ドライバーに八つ当たりする者、上司の悪口を言う者…………。女性タクシードライバーの春成衿子(余貴美子)は、今日もそんな客たちを乗せタクシーを走らせていた。
 深夜、衿子が車中で休憩をしていたとき、傍らを歩いていった男・遠藤(大地康雄)が交差点で車に撥ねられ、衿子は救急車とともに遠藤を近くの相川病院に運んだ。遠藤が検査と手当を受けている間に、衿子は覚えていた車のナンバーを警察官に伝えた。遠藤は息子の健太と二人暮らしで、幸い骨折のみで命に別状はないものの暫く入院しなければならず、成り行きのまま衿子は、健太の世話をすることになった。
 翌日衿子が相川病院を訪れると、遠藤が大騒動を起こしていた。自分の娘がこの病院の医療ミスで殺されたというのだ。しかし病院の相川院長(鶴田忍)は、既に和解しているのだからと取り合わない。別の病院に移った遠藤は、衿子に自分の家族のことを話し始めた。
 健太の生みの母は健太が3歳の時に亡くなり、遠藤は2年前に佳恵(美保純)と再婚したものの彼女とも1年で別れてしまったという。遠藤が「相川病院の医療ミスで殺された」という娘は佳恵の連れ子だった。40度近い熱を出した娘を相川病院に連れていったところ、さんざん待たされた挙げ句、簡単な診察をして座薬を投じただけで入院の必要はないと言われた。しかし娘の熱は下がらず再度病院へ運んだ時にはもう手後れだったという。売れない手品師だった遠藤は裁判を起こしたが、結局は僅かな和解金を手にしただけで仕事もなくなり、それがもとで佳恵とも別れてしまった……。
 一方、遠藤の事故当日に車の炎上事件が起きており、黒こげの焼死体が遠藤から医療ミスで訴えられた若い医師・熊井(池内万作)だっと判明。さらに、その車が遠藤を撥ねた車だったことから事態は急転、思いもかけない展開を見せていく…。

    ◇

 今回は、シリーズ1作目では語られなかった衿子の過去が明らかになる。
 疑獄事件の参考人だった夫(田中健)が赤城山山中で死体となって発見され、事件は自殺として片付けられたという過去を持つ衿子なのだが、ドラマとして、夫の後輩で当時社会部記者だった宮本(村田雄)とともに過去の事件の真相を少しづつ掘り起こしていくのかと思いきや、主人公のバックボーンのひとつとして描かれるのみで、このスタンスはシリーズ4作目まで貫かれ、今後も事件が明らかにはされないだろうと思われる。
 亡き夫との幸せだった日々の追想しか残されていない現実を受け入れた衿子の孤独は、彼女と関わる人間の業に悩み、哀しみや憤りをともに感じ、そして、一縷の希望と温もりを与え、自身に授かる喜びを丁寧に描いていく。その良質さで人気があるシリーズなのである。

 今回も、前作同様に決して幸せな結末は得られない。どちらかと言うと暗く重い終わり方だ。

 医療ミスによる子供の死によって、歯車が狂いだした夫婦の葛藤と悲劇。自分の子供を死なし憤りを夫の連れ子にあたる美保純の悔いが「一からやり直したい」という想いに詰められても、自らが犯罪に手を染めてしまうことで子供への贖罪を叶えることができなくなる。そんな元妻の想いを知る大地康雄もまた、息子をひとりぼっちにしてしまう。 
 遠くの親戚のもとに旅立つ健太の背中を押すものは、ひとりぼっち同志の衿子が授けた孤独を背負うことへの覚悟とやさしさ。
 坂本九の【上を向いて歩こう】が効果的に使用され、涙をこらえる衿子の眼差しでドラマは終わる。

 このシリーズに登場する刑事は、大声をあげたりがなり立てもせず地味に描かれるのだが、それでいてみんな印象に残っている。今回の刑事役は中村育二。

    ◇

★女タクシードライバーの事件日誌1/殺意の交差点★
★女タクシードライバーの事件日誌3/届かなかった手紙★
★女タクシードライバーの事件日誌4/殺意を運ぶ紙ヒコーキ★



 

「女タクシードライバーの事件日誌 1」

本文は、閉鎖中の余貴美子非公式応援サイト「Y's Passion」に綴ってきた余貴美子出演作品レヴューを再録・加筆修正したものです。敬称略。

~殺意の交差点~
脚本:坂上かつえ
演出:猪崎宣昭
出演:余貴美子、根岸季衣、かとうかずこ、淡路恵子、中島ひろ子、北村総一郎、斉藤洋介、山田辰夫、佐藤二朗、酒井敏也、伊藤洋三郎、翁 華栄、村田雄浩、田中健

初回放映:2003年9月10日/TBS「月曜ミステリー劇場」


 タクシーの運転手になって4年になる衿子(余貴美子)。人員削減で退職に追込まれた男性(山田辰夫)や、離婚したばかりの女性を乗せ、様々な乗客の人生の一端を垣間見る生活である。
  衿子の同僚の甲田(酒井敏也)がタクシーを残したまま失踪し、同じく同僚の近藤(佐藤二朗)は、自分達のタクシーに甲田の写真を掲示し、乗客達から何等かの情報を得ようと課長の大城(北村総一郎)に提案する。というのも、甲田の妻の慶子(中島ひろ子)は妊娠したばかりで甲田が失踪する理由は無かったからだった。大城や弁護士志望の運転手らは難色を示すが、多くの運転手が賛同し、タクシーの車内に尋ね人として甲田の写真を掲示することになった。しかし、なかなか成果は上がらなかった。
  一方、池袋のホテルでペットショップに勤務する柳本(翁 華栄)が刺殺される事件が発生し、 北池袋署の田辺(伊藤洋三郎)が部下の刑事と共に捜査を開始していた。その事件と甲田の失踪が関連している疑いが浮上し、更に柳本と一緒にホテルにいた女性を衿子が乗せていた可能性が強まる。衿子は亡き夫(田中健)の後輩で新聞記者の宮本(村田雄浩)と共にその女性を探し始め、駅の売店で働く渡辺民子(根岸季衣)であることを突止める。
 だが、民子は柳本と一緒にいた女では無かった。そのことを慶子に伝えに行った衿子は、勤務先の保育園を辞めさせられることになるかも知れないと慶子から聞かされる。保育園の理事長夫人の日暮加奈子(かとうかずこ)は慶子に同情していたのだが、理事長の母である雅子(淡路恵子)は警察沙汰になった慶子が留まるのを許さなかったのだ。
 甲田の足取りを追ってDPE店の店員を訪ねた衿子は、柳本が現像を依頼していたままになっていた写真を発見する。写真に写っていた女は加奈子だった。たまたま街で知合った男と関係を持った後、複数の男と行きずりの関係を持つようになり、ある日、声を掛けてきた男を振った直後、柳本と知合っていた。そして、加奈子が供述した場所で、絞殺された甲田の死体が発見された………………。

    ◇

 ドラマのテ-マとして流れているのは、映画『昼顔』的心象風景。
 カトリーヌ・ドヌーヴ主演の名作を持ち出して、“倦怠”“欺瞞”“軽蔑”と退廃社会への警鐘で味付けしながら、社会の中で生きる女性の絶望感を描いている。

 ここ数年、少しコミカルな役が多くなった余貴美子の新しいキャラクター“春成衿子”は、ベージュの麻のジャケットとジーンズに、細めのサングラスと愛車の赤いミニクーパー。
 ハードボイルドな主人公にハマるクールな姿は、素敵にカッコ良い。

 メインになる事件より、衿子と民子のくだりが素晴らしい。民子の言葉ひとつひとつに対して無言で応える衿子の表情のやるせなさと、カーステレオから流れるちあきなおみの【ルージュ】が情感を盛り上げる。

 ♪口をきくのがうまくなりました  ルージュひくたびわかります
  つくり笑いがうまくなりました  ルージュひくたびわかります
  あの人追いかけてくり返すひと違い  いつか泣き慣れて………♪
                      (中島みゆき詩・曲)

 切なく、心に残るこの曲は、衿子の部屋のシーンでもう一度使われる。

 民子の話から事件の犯人が想像できてしまっても、なんら不満は残らない。ハードボイルド・ドラマ(小説・映画)に必要なのは複雑なストーリーではなく、ひとつの事件によって様々な人生が浮き彫りになる人間模様に魅力があるのだから、それぞれの登場人物の個性が鍵を握ることになる。
 根岸季衣演じる民子の存在感がヒロイン衿子以上にあることで、このドラマは高い水準を保てたといえるだろう。

 ラストになって初めて、春成衿子の笑顔が見られる。
 「明日? そんな先のことはわからないわ」
 このハードボイルド小説で有名なフレーズがクールにスタイリッシュに似合う余貴美子。キャスリーン・ターナーが演じたV.I ウォーシャースキーを想像したほど、カッコいい。

    ◇

★女タクシードライバーの事件日誌2/作られた目撃者★
★女タクシードライバーの事件日誌3/届かなかった手紙★
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「女タクシードライバー5」放送!

 管理していた『余貴美子非公式応援サイトY's Passion」が現在無期限閉鎖中のため、余さんが出演する新作情報を告知することが出来ずにいる。申し訳ない。
 ここで、急遽決まった最新情報をお知らせ。

 11月29日(月)TBS『月曜ゴールデン』(21:00~)にて、『女タクシードライバーの事件日誌5/車載カメラは見た!』が放送される。(当初放送予定だった『大韓航空機爆破23年目の真実』が放送延期になったための緊急放送のようだ)

 余貴美子さんの当たり役・春成衿子には1年に一度しか会えないので、年末を前に嬉しいサプライズである。
 ゲスト共演は、高橋惠子、キムラ緑子、益岡徹。
 同窓会の再会が事件に関わってくるようで、キムラさんと余さんのセーラー服姿が登場する。以前にも何度かドラマで披露した余さんのセーラー服………まだまだイケますかぁ。
 
 2010年のドラマは、スペシャルドラマ『シューシャインボーイ』『離婚シンドローム』のワンシーン出演、連続ドラマ『咲くやこの花』『パンドラII』『警視庁継続捜査班』、そしてNHK大河『竜馬伝』の大浦慶役も豪快に演じきり、単発もNHK『恋する日本語』での妖艶な姿を披露してくれた。
 
 2011年は、テレビ東京の正月ドラマ『戦国疾風伝 二人の軍師』(1月2日 16:00~)で豊臣秀吉(西田敏行)の妻ねね役で参上。

 映画もGW公開の『八日目の蝉』(永作博美主演)に出演する。壇れい主演のNHKドラマがあったが、はたして余さんの役柄は………高畑淳子演じた高石敬子だろうか、藤田弓子演じた教祖だろうか…? 注目の映画だな。

    ◇

★女タクシードライバーの事件日誌4/殺意を運ぶ紙ヒコーキ★

「行きずりの街」*阪本順治監督作品



STRANGERS IN THE CITY
監督:阪本順治
原作:志水辰夫
脚本:丸山昇一
撮影:仙元誠三
音楽:安川午朗
主題歌:「再愛~Love You Again~」meg
出演:仲村トオル、小西真奈美、窪塚洋介、南沢奈央、谷村美月、佐藤江梨子、菅田俊、うじきつよし、でんでん、宮下順子、ARATA、杉本哲太 / 石橋蓮司、江波杏子

☆☆☆☆ 2010年/東映・セントラルアーツ/123分

    ◇

 志水辰夫ファンとして、初の映画化作品が「行きずりの街」だったことには納得するとして、原作を大きく改変することを厭わない丸山昇一の脚本には少し不安があった。しかし、それはただの杞憂に終わった。
 『このミステリーがすごい!』第1位を獲ったとか、阪本順治監督と丸山昇一のシナリオということで硬派なハードボイルド・アクションを期待する観客には大きな肩すかしを喰らわせることだろうが、この原作は、以前にも書いたように、ハードボイルドの域を超えた大人の恋愛小説だということ。
 そして映画は、愛の復活劇という大人のラブストーリーを芳醇な香りで漂わせたプログラム・ピクチャーとして、もうひとつの「行きずりの街」を完成させている。


 郷里の丹波篠山で塾の講師をしている波多野(仲村トオル)は、音信不通になっているかつての教え子広瀬ゆかり(南沢奈央)の行方を追って、12年ぶりに東京へやって来た。
 かつて名門校・敬愛女学園の教師をしていた彼は、生徒の雅子(小西真奈美)との恋愛がスキャンダルとなり、教職の座を追われた過去を引きずっている。ゆかりが暮らしていたマンションを訪ねると部屋は荒らされ、マンションには中込(窪塚洋介)と名乗る男と怪しい男たちが張り込んでいた。失踪の裏に得体の知れない危険を感じる。
 ゆかりがアルバイトしていた六本木のクラブで、自分を追い出した敬愛女学園の理事・池辺(石橋蓮司)と出くわし、池辺のボディガード大森(菅田俊)に痛めつけられた波多野は、フラフラと雅子の経営するバー“彩”に辿り着く。長い歳月を経て再会をした二人。
 ゆかりの失踪に学園が関与していることを知った波多野は、さらに事件の渦中に巻き込まれていく……。

    ◇

 丸山昇一のシナリオは、原作の独特な台詞まわしを生かし、新たなオリジナルの台詞においてもシミタツ節を損なうことのないよう原作のイメージを保っている。主題を絞るために枝葉を刈り取り、原作にないプロローグをタイトルローグ前に付け加えたことで、より深く志水辰夫の世界が広がったように感じる。

 果たして“ハードボイルド”とは何か。
 北方謙三がひとつの定義を示している。それは“負けの美学”。
 男というものはセンチメンタルだ。カッコつけたところで、未練を断ち切ることのできないのが男。女は過去の恋を捨ててスクっと再生できるのに、女々しく過去の女を忘れられないのが男の本質である。しかしそんな男が、負け犬になろうが、罵声を浴びせられようが、生き方に誇りを持って愛する者を守るために立ち上がることが“ハードボイルドのルール”だと言う。
 その点で、この作品は十二分に“ハードボイルド映画”なのである。

 未練タラタラで自分の居場所を見つけることができず過去を引きずっている男の哀情と、 “待ちつづける女”という、一見健気でか弱わそうな女性の芯の強さが激情となってぶつかり合う。この映画の見どころである。

 波多野が初めて雅子のマンションを訪れ、一室で繰り広げられる男の嫉妬と懺悔と奮起、そして女の恋慕の深さと強さが交差する箇所は、原作の読み応えある箇所。
 映画はまず、雅子が波多野を部屋に招き入れる流れに説得力がある。それは、タイトル前の丹波篠山のシーンを付け加えたことで道理がいくようになっている。
 びしょ濡れになった波多野に着替えを一式用意するシーンも、原作の描写よりも映画の方がお互いの感情が自然と表れてくる。

 切ない再会が官能に変わっていく志水辰夫の巧みな文章。
 その場面のはじめを原作から引用してみると……
『わたしはコートを肩に引っかけて靴を履いた。振り返ると雅子が後ろの壁によりかかってわたしを見つめていた。目が異様に光っていた。唇をへの字に結んでいた。
「許すと言ってくれないか」
雅子は近づくなり、平手でわたしの頬を力いっぱいぶった。憎しみと、怒りと、悔しさのすべてを込めて。彼女は放心したみたいにどしんと壁にもたれかかり、横向きになって腕組みをした。肩が動いている。足元に落ちている影。わたしたちの影はここでもふたつ平行して並んでいた。雅子に一歩近寄ると、彼女は唇を噛み、激情の渦巻いた目を真っ向からさし向けてきた。それから目をしばたき、わずかに顔をゆがめた。手を差し延べるといやいやとばかりかぶりを振った。……………』

 映像が絶対的な素晴らしさを発揮するシーンでもある。
 小西真奈美の艶っぽい顔がたまらなくいい。この色気はなんだ。小西の震える横顔のアップに、仲村トオルの手がそっと添えられていくシーンの素晴らしさ。胸が震えた。
 仲村トオルが演じる男の孤独と絶望の深さが計り知れなく表現されており、小西真奈美も、仲村トオルも、巧い。

 そしてもうひとり、窪塚洋介の自然体。彼が演じる中込は原作では三分の二くらい過ぎた辺りからの登場だが、丸山昇一が窪塚を想定してアテ書きしたキャラクターは、原作通りのインテリぶりで好演。

 小説を読んでいるとき、往年の清川虹子をイメージしていた雅子の母親映子には、愛想は悪いが懐の深い感じが原作のイメージにぴったりな江波杏子。存在感はさすがだ。

 リリカルなテーマと、サキソフォンが奏でるジャジーなBGM。音楽は石井隆作品でお馴染みの安川午朗だ。エンディングの歌は不要。

 「その前にお髭を剃りなさい」

 小説の最後の言葉。どうってことない台詞だが、このニュアンスがラストシーンに欲しかったかなぁ。

    ◇

Book Review ★行きずりの街*志水辰夫★

「ヨコハマBJブルース」*工藤栄一監督作品

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監督:工藤栄一
原案:松田優作
脚本:丸山昇一
撮影:仙元誠三
音楽:クリエイション
主題歌:「ブラザーズ・ソング」松田優作
挿入歌:「灰色の街」「マリーズ・ララバイ」「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」松田優作
「Don't Look Back」宇崎竜童
出演:松田優作、辺見マリ、蟹江敬三、財津一郎、田中浩二、山西道広、鹿沼エリ、岡本麗、安岡力也、殿山泰司、山田辰夫、馬淵晴子、宇崎竜童(友情出演)、内田裕也

☆☆☆★ 1981年/東映セントラルフィルム/112分

    ◇

 全編ブルートーンの艶っぽい映像がスタイリッシュな和製ハードボイルド映画の傑作。

 ヨコハマ、うらぶれたブルース・バー“JOJO”で歌っているブルース・シンガーBJ(松田優作)は、食っていくために、裏では探偵の真似事をしている。
 その日、BJは依頼された16歳の家出少年のことで、裏社会を牛耳っているファミリーのボス・牛“ウシ” 宅麻(財津一郎)に呼び出された。BJが見つけだした少年・明“アキラ”(田中浩二)は、牛 宅麻の囲われ者として男色の相手をしていた。帰りたくないという明の言葉に、すごすごと帰ろうとしたBJが目にしたのは、パイソン357マグナム銃をショルダーからぶら下げた牛の片腕、蟻“アリ” 鉄雄(蟹江敬三)の不気味な姿だった。
 かつてNYのブロンクスに住んでいたBJ。その頃からの親友・椋“ムク” 圭介(内田裕也)は刑事になっている。その彼からゴルフ場に呼び出されたBJは「ファミリーに近づき過ぎた。俺は刑事を辞める」と告げられるのだが、その直後、突然銃声が響き、椋はあっけなく殺されてしまう。
 普段からBJを毛嫌いしていた椋の部下の紅屋“ベニヤ”(山西道広)が、BJに容疑をかけ執拗に追い回すなか、BJは蟻の周辺を調べ始める。蟻にもゲイの趣味があり、その仲間を締め上げると、蟻は椋の女房・民子(辺見マリ)と通じているという。民子は、かつてBJの恋人だった。民子は蟻に脅されているという。
 少しづつカラクリが読めてきたBJは、蟻が出入りする眼鏡屋“ガス燈”に探りをいれる。しかしそこは組織の巣窟で、BJは店の主人(殿山泰司)や用心棒の安永(安岡力也)らに捕らえられてしまう…………。
 
    ◇

 「横浜ホンキートンク・ブルース」を初めて聴いたのがこの映画だったと思う。
 とことんヨコハマの街を歩く優作の姿が印象的だ。

 ハードボイルド特有な気障なセリフを、日本人でも様になるよう仕立てた丸山昇一のシナリオと、横浜オール・ロケーションの仙元誠三のカメラワークを持ってすれば、工藤栄一監督最高のハードボイルド映画に仕上がった本作が、松田優作の映画としても一番好きな作品となる。

 原案は松田優作で、そのイメージはロバート・アルトマンの『ロング・グッドバイ』('73)にインスパイアされたもの。筋立ての込み入り具合からラストの展開まで唖然とするくらい酷似している。しかし、前作『野獣死すべし』('80)の狂気に辟易した優作のナルシズムより、ぶっきらぼうな自然体で取り組んでいる本作の方が好感を持てる。残念なのはラストのタメが長過ぎることか。

 松田優作から指名を受けた工藤栄一監督。初めてタッグを組んだふたりの間で「アカぬけた作品を作る」が一致した意見だったと云う。
 “ヨコハマ”とカタカナ表記が似合う街の佇まいは、夜の黄金町のガード下や山手の“ドルフィン”の店内、ランドマークタワーが出来る以前の埋め立て地の寂れた雰囲気など、その絵作りに惹き込まれてしまう。
 大作主義に陥らない、いかにもプログラム・ピクチャー的展開は、後半、筋が粗く説明不足になるとは云え、奥行きのある縦の構図が多用され、その画面のなかで一筋縄ではいかない人間たちを蠢かすモノトーンの世界は、ため息が出るくらい素晴らしい。

 音楽担当はクリエイションのギタリスト竹田和夫で、クリエイションをバックに歌う松田優作のブルーズにも魅了される。原田芳雄風にブルーズを歌い、萩原健一ばりに街を彷徨う優作は、民子の前で披露する「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」が絶品。
 主題歌としてクレジットされている「ブラザーズ・ソング」は、BJと明が心を通わせるシーンに流れるが、タイトルバックでライヴ演奏する「灰色の街」の方が全編のテーマとして流れるので、主題歌としては「灰色の街」が相応しいだろう。
 ライヴシーンは、本作公開時にリリースされたアルバム『HARDEST DAY』のPVとしても充分な効果を発揮し、夏に行われたツアーがライヴアルバム『HARDEST NIGHT LIVE』として最高の出来に仕上がっている。
 松田優作の「YOKOHAMA HONKY TONK BLUES」は、エディ藩のギターがむせび泣くこのヴァージョンが最高。

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 さて優作以外の俳優たち、内田裕也をはじめ宇崎竜童、蟹江敬三、財津一郎、殿山泰司ら共演者のアクの強さには強く惹かれる。

 ♪カッコつけ~てヨコハマ……………稲葉喜美子の「はあばあぶるうす」ではないが、カッコつけたセリフが多い本作でカッコつけた宇崎竜童も、また格好いい。
 依頼人の馬淵晴子が“JOJO”にBJの報告を聞きに来る。我が子が如何わしいことに身を堕としていることを察知した母親が「もう探さないし、二度と会うこともないだろうけど、身体だけは気をつけるようにって」の言葉を残して出て行くと、それまで黄色いブランケットを肩に羽織りヘッドフォンを耳にしていた宇崎竜童が、アンプからヘッドフォンジャックを引き抜くと、竜童自身の歌「Don't Look Back」が大音量で流れる………決まり過ぎ。

 埠頭を歩き、街を彷徨う辺見マリの格好が、石井隆の『雨のエトランゼ』('79)土屋名美の姿を思い浮かべてしまう。

    ◇

★ロング・グッドバイ★
★稲葉喜美子★

「追想」*ロベール・アンリコ



LE VIEUX FUSIL
監督:ロベール・アンリコ
原案:ロベール・アンリコ、パスカル・ジャルダン
脚本:ロベール・アンリコ、パスカル・ジャルダン、クロード・ヴェイヨ
撮影:エティエンヌ・ベッケル
音楽:フランソワ・ド・ルーベ
出演:フィリップ・ノワレ、ロミー・シュナイダー、ジャン・ブイーズ、マドレーヌ・オズレ、カトリーヌ・デラボルテ

☆☆☆☆ 1975年/フランス/101分

    ◇

 青春のロマンを謳い上げた『冒険者たち』('67)でぼくらを魅了させてくれたロバート・アンリコ監督が、戦争の狂気と悲劇をストレートに描いた一種のレジスタンス映画で、この作品はセザール賞作品賞・主演男優賞・作曲賞を受賞している。
 
 1944年、ドイツ占領下のフランスの小さな都市モントバンの病院に勤める外科医ジュリアン(フィリップ・ノワレ)は、美しい妻クララ(ロミー・シュナイダー)と前妻との愛らしい娘フロランス(カトリーヌ・デラボルテ)、母(マドレーヌ・オズレ)の4人でつましくも平穏な家庭を築いていた。
 しかし戦争の暗雲はこの町にもたれ込みはじめ、連合軍の上陸に備えるべく、ドイツ軍は親衛隊を先頭に全市町村の掃討作戦を開始した。
 ジュリアンの病院には連日ドイツの傷痍兵やレジスタンスの負傷者たちが担ぎ込まれ、来る日も爆撃音が絶えない。家族の身を案じた彼は、同僚フランソワ(ジャン・ブイーズ)の勧めもあって、妻と娘を自分の城があるバルベリー村へ疎開させることにした。
 5日後、戦時下とは思えない南フランスの緑豊かな風光を眺めながら、クララとフロランスに会いに車を飛ばしたジュリアンは、村はずれに立つ要塞のような城を見たときに胸騒ぎをおぼえる。礼拝堂のそばに死体が一体。そして中には、老若男女村人全員の射殺死体。地獄絵図に嘔吐しながら、地を這いつくばりながら城の中庭へ走った。そこで見たものは、フロランスの死体と、火炎放射器で焼き殺された無残なクララの姿だった。
 狂気一歩手前の錯乱を踏みとどまらせたものは、在りし日の幸福だった日々の想い出と、冷静な報復への念。勝手知ったる城館である、城への橋桁を壊しドイツ兵たちを孤立させ、祖父から譲り受けた古いショットガンを武器に、ジュリアンの復讐がはじまる………。

    ◇

 羊が狼に変容する、骨太で美しくも残酷な物語である。
 小市民が復讐という名の下に殺人者に化す戦争という愚行が、観る者たちの心に突き刺さってくるのだが、主人公の何にも代え難いものを失ったときに、胸の内に沸き起こってきた憎悪は、妻の華やいだ色気と美しさが充ち満ちていたからこそ、十二分に説得力をもって語られる。
 どんなに復讐が虚しいものなのか分かりきっていても、妻子を残虐したナチスと同じレベルに自らを落とすことであっても、ギリギリの状況になった人間の取るべき行動の勇気には、誰も何も口を挟むことはできない。

 田舎の一本道をジュリアン一家が自転車で走るのどかなオープニングの、ロマンチシズムに内包された残酷で悲壮感漂う展開は、飄々と、淡々とドイツ兵をひとりづつ倒していく主人公が静かに描かれる怖さを含みながら、戦争の傷跡を決して忘れないフランス人の心象風景を見る思いだ。血塗られた復讐と美しい想い出の両極のなかで行動する男の追想が胸を打ち、ラストのフィリップ・ノワレの表情と、オープニングが繰り返されるクロージングのストップモーションには涙するしかないだろう。

 温和で飄々としたフィリップ・ノワレは、日本で一般的に有名にしたのは『ニュー・シネマ・パラダイス』('89)の映写技師アルフレード役だろうか。
 本作公開当時、個性派俳優としてピーター・オトゥール主演の『マーフィの戦い」('71)でのトボケた役や、『最後の晩餐』('73)の裁判官や、『エスピオナージ』('73)の情報部高官などが記憶に残っていたが、本作での、好人物からみるみるうちに怒りを滾らせ復讐の鬼になっていく変貌ぶりは、そのユーモラスな風体からシリアスな演技を見せてくれる、まさに名優と呼ぶに相応しいキャラクターである。

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 そして、ロミー・シュナイダーの美貌に魅了。
 美しさと気品を兼ね備えたロミー・シュナイダーが、肉感性や激情性を伝える女優として円熟期に入った頃の作品で、この70年代は『暗殺者のメロディ』('72)『夕なぎ』('72)『ルードヴィヒ』('72)『離愁』('73)『地獄の貴婦人』('74)とドラマチックな様々な役柄を演じ、女としての気高さにおいても魅了されずにおかない女優のひとりとして、忘れられない存在であった。
 実際、本作が日本初公開された1976年には、前年に初公開された『離愁』のヒットにより、'75年11 月公開の『地獄の貴婦人』や、'76年2月公開の『夕なぎ』と、一番輝いていた頃のロミーをつづけて存分に見ることができた年だったのだ。(『ルードヴィヒ』は1981年まで待たされる)
 本作のロミーは、ジュリアンの追想の中で、ノーブルでエロティックな容姿と的確な演技力で、ひとりの女の悲劇性を見せてくれる。
 しかしもって、彼女の悲劇は実生活においても実に痛ましかった。アラン・ドロンとの婚約解消からはじまり、2度の離婚、夫の自殺と愛息の事故死。本作から7年後の1982年、薬物依存によって43歳の若さで逝ってしまった。

 そしてもう一人、この作品に欠かせないリリカルな音楽を作曲したフランソワ・ド・ルーベは、ミレーユ・ダルクの『ブロンドの罠』('67)、アランドロンの『サムライ』('67)『さらば友よ』('68)、JPベルモンドの『ラ・スクムーン』('72)、そしてロベール・アンリコ監督の『冒険者たち』('67)『ラムの大通り』('71)など、忘れられないスコアをフランス映画に残した天才作曲家であるが、本作が享年36の遺作となってしまった。

「その後の仁義なき戦い」*工藤栄一監督作品



監督:工藤栄一
脚本:神波史男、松田寛夫
撮影:中島徹
音楽:柳ジョージ&レイニーウッド
出演:根津甚八、宇崎竜童、松崎しげる、原田美枝子、松方弘樹、成田三樹夫、金子信雄、松尾嘉代、絵沢萠子、山崎努、花紀京、ガッツ石松、小松方正、藤村富美男、小池朝雄、山城新伍、泉谷しげる、萩原健一(特別出演)

☆☆☆☆ 1979年/東映/128分

    ◇

 俺たちは曠野の閃光。
 炎の中からはじけ飛ぶ最後の凶弾。
 ダチよ、お前は何処まで走れるか!?


 大阪の大組織石黒組の若頭の座を巡って、傘下の朝倉組と花村組の対立が深まっていた。そんな中、朝倉組系列に所属する相羽年男(根津甚八)と、同じく朝倉組系列の九州の竜野組組員・根岸昇治(宇崎竜童)、水沼啓一(松崎しげる)の若いチンピラ3人は意気投合し、友情を深め、年男は昇治の妹・明子(原田美枝子)と婚約する。
 朝倉(金子信雄)と津川(成田三樹夫)は、竜野組と対立する弱小組織・藤岡組に目をつけ、竜野組をつぶし、そこの争いに花村組を巻き込もうと画策する。それは博多駅で藤岡組の組員が竜野(小松方正)を襲撃する計画。その手引きを、年男に命じる津川。こうして3人の友情は、上部組織の抗争に巻き込まれ脆くも壊されてしまう。
 殺害現場にいた年男を見た昇治と啓一は不信に思い年男をリンチにするが、明子と代貸の池永(松方弘樹)の口利きで命だけは助けられる。
 池永は花村組の高木(山崎努)の助けを借りて藤岡組に殴り込むが、竜野組は解散。組の再建を約束して逃亡生活に入る池永らだが、昇治は朝倉を射殺し自らも惨殺され、啓一は以前からスカウトされていた歌手の道を選び、水沼圭と名乗りデビューする。
 明子を伴い大阪へ逃げ帰っていた年男は、不自由な足の痛みを癒すためシャブに溺れていた。そんな年男のもとを訪ねてきた池永が、500万円を元手にシャブの売買で資金を集め組の再建話を持ちかける。スター歌手になった啓一を強請り金を集めるが、釜本(山城新伍)に騙され金を横取りされ、年男は釜本を殺してしまう。池永とともに津川をも殺し金を取り戻すが、池永は射殺され、辛うじて逃げた年男はその金を啓一や母親、そして明子宛に送金するのだった。
 年男の身体に沁みるのは、飲み屋のテレビで聴く友の歌声。気張った格好に身を包み、最後の金で手に入れた銃だけを味方にして、モーテルをあとにする。
 昭和54年5月、大阪大正区の路上にて相羽年男(二十六歳)射殺。
 明子の手には一丁の拳銃だけが残された…………。

    ◇

 70年代、TVの「必殺シリーズ」や「傷だらけの天使」などで時代を疾風するアナーキーな人間たちを、陰影に富んだ映像美と叙情性といったセンスで独自の美学を確立して活躍していた工藤栄一監督。本作は5年ぶりとなるスクリーン復帰初の作品で、“仁義なき戦い”の冠を付けた番外編的スタンスで公開されたのだが、実際はシリーズとはまったくの別物。
 工藤監督はやくざ映画の母屋を借り、若いチンピラたちの友情と裏切り、そして、生き様と死に様を鮮烈に描写。群像劇が優れた青春映画として記憶に残る作品となっているのは、当時まだ状況劇場在籍中の根津甚八、ミュージシャンの宇崎竜童、歌手の松崎しげる、そして原田美枝子ら、東映外部から招聘された彼らが等身大の若者像を瑞々しく演じているからだ。
 彼らを取り巻く金子信雄、成田三樹夫、松方弘樹、小池朝雄、山城新伍らお馴染み「仁義なき戦い」シリーズの面々は、ここでは狂言回しのような存在。工藤監督はシリーズの終焉を見せつけ、しいては実録やくざ映画へ引導を渡したのだ。

 とは云っても、これまでシリーズの屋台骨を背負ってきた東映俳優陣のこと、山城新伍の軽さや金子信雄の田舎芝居もあるし、小池朝雄の粗暴ぶりと小松方正の狼狽ぶりなど、ベテランの存在感は示してくれる。松方弘樹の情の厚さも格好良すぎるくらい決まっている。
 そして、最高なのが成田三樹夫。恫喝と猫なで声で、これまで以上の悪賢さとアクの強さ。賭場の控室で、組のために片足が不自由になった根津甚八を丸め込む狡猾ぶりは絶品の芝居である。
 そして、そのそばで黙々と寿司をつまみ、根津を無視しながらも「若いもんがイイ気になってんなや」と言いたげな岩尾正隆の存在感。台詞もなしに、ただ居るだけの芝居に東映ピラニア軍団の底力を感じるのだ。

 ほかにもガッツ石松や、「必殺シリーズ」同様の眼力で凄みを見せる元阪神タイガースの藤村富美男、気の弱い松方の弟役の花紀 京、銃の密売人の泉谷しげるなど門外漢の出演者が多いなか、場をさらったのは萩原健一。飲み屋でシャブ中になった根津甚八に絡む怪演である。
 ショーケンは根津甚八の役は自分が演るはずだったと『日本映画[監督・俳優]論』で語っているが、根津甚八のシャブ中姿もまんざらではなく『さらば愛しき大地』('82)で演じた迫真の芝居の下地を見たような気がする。

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 工藤監督の代名詞となった、光輝く濡れた道路のロングショットをはじめ、逆光の美しさは少し大人しめだが、原田美枝子が「ウチにもギラギラした思い出ば作って!」と叫ぶ船着き場シーンや、友情が崩壊する博多駅での殺しのシーン、霧雨煙るブルーグレーのトーンが美しい竜童の葬式シーン、モーテルの一室で死相を漂わせた根津が笑いながら自分のこめかみに銃を向けるシーンなど、その多くが若さゆえにくぐもる叫びと悲壮感漂う名シーンとなっている。
 根津が鏡に向かって銃を構える仕草は「タクシードライバー」('76)のデ・ニーロを連想させるが、トレンチコートに帽子を被った姿は松田優作が『野獣死すべし』('80)でそっくり真似をしている。
 このあと、工藤監督は松田優作と『ヨコハマBJブルース』('81)で見事なハードボイルド映画を作りあげ、続く『野獣刑事〈デカ〉』('82)では今回台詞のなかった泉谷しげるをサブキャラクターで活かしている。

 音楽は柳ジョージ&レイニーウッド。ショーケンからの推薦があったろうと想像できるマッチング。前年リリースのセカンド・アルバムに収録されていた「Heavy Days」が全編に流れるブルース・ロックの劇伴が、この作品のもうひとつの魅力でもある。

    ◇

★日本映画[監督・俳優]論★
★さらば愛しき大地★
★野獣刑事★

ロック誕生~ニッポンROCK40年

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 本日11月1日、NHK BS2にて夜10時30分より『ロック誕生~ニッポンROCK40年』なる番組が放送される。

 映画『ロック誕生 The Movement 70's』('08)をベースに、NHKが新たに発掘した貴重なライヴ映像を加え、ゲストの証言などで70年代ニッポンROCK創成期を甦らせるシリーズだ。
 30分番組として全6回の放送は、まずは今夜、1973年の京都でのフラワー・トラヴェリン・バンドのライヴは絶対に見逃せないぞ!!(フラワー・トラヴェリン・バンドのライヴは、既にYou Tubeに流れている映像だった。少しガッカリ。フラトラの映像って、やっぱりあれしかないのか。)

11月 1日(月) pm10:30~11:00
第1話 70年代ニッポンROCKの夜明け 
フラワー・トラヴェリン・バンド73年京都でのサイケなステージ。75年ハワイ米軍基地のフェスに登場した外道。孤独にロックを追い続ける遠藤賢司らが登場。
【出演】 ミッキー・カーチス、近田春夫、小倉エージ、加納秀人 ほか

11月2日(火) pm10:30~11:00
第2話 『日本語ロック論争』ROCKのメジャー化 
日本語ロックはっぴいえんどの貴重映像のほか、日本プログレッシブ・ロックの先駆者・四人囃子、Char、ゴダイゴらの名ライブを紹介。
【出演】 タケカワユキヒデ、小倉エージ、森園勝敏 ほか

11月3日(水) pm10:30~11:00
第3話 多様化するニッポンROCK 
存在感で圧倒した近田春夫&ハルヲフォン、個性派のイエロー、クリエイション、ティンパンアレイ、シンセサイザーを駆使したニューウェイブのファーイーストファミリーバンドらの貴重映像が登場。
【出演】 近田春夫、石坂敬一、村兼明洋 ほか

11月 8日(月) pm10:30~11:00
第4話 70年代・ロックの目撃者たち 
RCサクセション、ジョニー・ルイス&チャーの秘蔵ライブ映像。スタイリッシュなサディスティックミカバンド。反骨に徹した頭脳警察は71年三里塚幻野祭の模様を紹介。
【出演】 鋤田正義、増渕英紀、井出情児 ほか

11月 9日(火) pm10:30~11:00
第5話 うねりを上げたローカル・ロックウェイブ 
紫、コンディショングリーンの沖縄ロックの貴重映像から福岡のサンハウス。めんたんぴん等が主催した石川夕焼け祭りのライブ映像で構成。そのほかに大阪の憂歌団が登場。
【出演】 ジョージ紫、鮎川誠、佐々木忠平 ほか

11月10日(水) pm10:30~11:00

第6話 70年代ロックの金字塔!ワンステップフェスティバル 
74年の記録フィルムを中心に、外道、イエロー、上田正樹、つのだひろ、クリエイションらの興奮のライブ映像の数々。
【出演】 佐藤三郎、石坂敬一、加納秀人(外道) ほか