TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

「やたら綺麗な満月」大西ユカリ



 大西ユカリのソロ・アルバム第2弾は、全曲宇崎竜童のプロデュース。宇崎竜童のカタカナ・エンカが、ビッグバンドJAZZのアンサンブルと交錯した一大歌謡アルバムで、これまでに数曲、竜童&阿木コンビの楽曲を歌ってきた大西ユカリだが、ここにはあらたな竜童&阿木ワールドを聴くことができる。
 
 帯に「平成の江利チエミ」と謳われているように「もし平成の時代に江利チエミが生きていたなら」なんて想像したくなるような、繊細でダイナミックで、バラードはしっとりと、そんなユカリ姐さんの歌声が聴かれる。

 バックアップするアロージャズオーケストラは結成52年。アニタ・オディをはじめ、エラ・フイッツジェラルド、マレーネ・ディートリヒ、ディジー・ガレスビーらと共演し、美空ひばりや江利チエミをも唸らせたという現役古参のビッグバンドのフル演奏ってだけで聴き応え充分。
 JAZZに限らず、ソウル・ミュージックも、歌謡曲も、ビッグバンドの醍醐味ってものはいいものだ。

    ☆

収録曲
01. 赤い花 作詞/大西ユカリ:作曲/宇崎竜童
02. 明日は要らない 作詞/大西ユカリ:作曲/宇崎竜童
03. 続・赤い夏 作詞/大西ユカリ:作曲/宇崎竜童
04. やたら綺麗な満月 作詞/阿木燿子:作曲/宇崎竜童
05. 「まだ」と「もう」の間 作詞/阿木燿子:作曲/宇崎竜童
06. One night,pretender 作詞/阿木燿子:作曲/宇崎竜童
07. キィワード 作詞/阿木燿子:作曲/宇崎竜童
08. イカサマジョニーへLove Song 作詞/宇崎竜童:作曲/宇崎竜童
09. 復縁バラッド 作詞/大西ユカリ:作曲/宇崎竜童
10. 2人のディスコティック 作詞/大西ユカリ:作曲/宇崎竜童
11. このままあなたと 作詞/阿木燿子:作曲/宇崎竜童
12. この際あなたを忘れよう 作詞/大西ユカリ:作曲/宇崎竜童

    ☆

 大西ユカリの初期の傑作「赤い夏」の続編「続・赤い夏」は、青春映画「八月の濡れた砂」を想起する佳曲。大人になったふたり、もう海へなんか行かない…………。
 タイトル曲「やたら綺麗な満月」から「「まだ」と「もう」の間」と「One night,pretender」は、さながら内藤やす子が歌った孤独感滲む物語性豊かなやさぐれ歌謡。傑作の3曲である。
 竜童節炸裂の「イカサマジョニーへLove Song」はソウル歌謡として、ステージでは断然盛り上がる楽曲だろう。

 発売記念の全国ツアーもはじまった。名古屋は7月に、アロウジャズコンボとともにTOKUZOにやって来る。TOKUZOと云えば、竜童ライヴでも盛り上がったユカリ姐さんのステージ。ぜひ、また聴きに行きまっせ!

IMG_2628.jpg

 云うことなしのアルバムだが、ジャケ裏面やCD面をSP盤のレーベル風にレトロなデザインにしたのなら、ここはヤッパリ紙ジャケ仕様にして欲しかったなぁ。

スポンサーサイト

伝説の劇画作家・宮谷一彦の青春マンガ



 『レコード・コレクターズ』6月号で、「70年代のストーンズ伝説」を寄稿した鳥井賀句氏の文章に出てきた宮谷一彦。ぼくの世代以上はよく知っているだろう。70年代はじめ、自らを無政府主義者と呼び政治色の強い作品を発表したり、内省的な私小説マンガを連発した“伝説”の漫画家/劇画作家である。過激で荒々しい筆のタッチと、緻密な描写で近親相姦や男色を描いたり、果ては漫画誌に初めて女性生殖器(1970年『ヤングコミック』に掲載された「性蝕記」)を描いた作家でも知られる。

 宮谷一彦作品との最初の出会いは、中学生の時の愛読書で小学館から発刊されていた少年誌『ボーイズライフ』に掲載された「魂の歌」('67)だ。
 永島慎二のアシスタントから独り立ちした宮谷一彦は、まだこの頃は永島慎二のタッチが残る青春漫画の担い手と云われていたころである。

 原爆により白血病に冒されたテナー吹きが、ひとりの女性から希望をもらい、脚光を浴びることで生きることに目覚めていく青年を描いた「魂の歌」。たった14ページの短編のなかに、青春の鎮魂歌が流れる秀作だった。

 『俺たちの季節』『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』は、そんな珠玉の青春漫画を納めた初期の短編集で、この頃の作品が一番好きだ。
 
 単行本表題の「ジャンピン・ジャック・フラッシュ」('71)は赤軍の活動家の幻想を扱った政治ドラマだが、F1やル・マン自動車レースの「柩は深紅の5リッター」('71)「逃亡者」('71)で克明に描かれたフェラーリや、映画『冒険者たち』を彷彿とさせる3億円事件の犯人をイメージした「俺とお前 重い夏の陽」('71)のヨットや、「ラストステージ」('69)の哀愁のジャズ・ミュージシャン、「夜明けよ急げ!」('69)に出てくるリッケンバッカーのギターなど、大人の趣味に憧れさせてくれる漫画だった。
 「不死鳥ジョー」('68)「75セントのブルース」('69)、そして処女作「眠りにつくとき」('67)も青春漫画の名作である。

 宮谷一彦の画は緻密だ。「75セントのブルース」の見開き2ページの新宿西口ターミナルの画にはじまり、独自のテクニックを見いだしている。いまでは当たり前な手法となる、スクリーントーンをこれでもかと重ね合わせて見せる立体感や写真のような細密描写は、この宮谷一彦の技法から始まったものだ。リアリズム劇画の先駆者と云える。 
 米軍基地問題を深刻に捉えた問題作「蠅たちの宴」('71)の、巻頭見開き2ページに描かれた数台のF4ファントム戦闘機の画は強烈だ。

 「真実です この作品群は 全部僕の真実です 真実 僕のウンコなのです」と扉に書かれた単行本『性蝕記』は、生と死、セックスと政治、狂気の私漫画集だった。

 1978年の「人魚伝説」を原作にした映画も必見だ。


「猟人日記」*中平康監督作品

nakahira.jpg

監督:中平康
原作:戸川昌子
脚本:浅野辰雄
音楽:黛敏郎
撮影:山崎善弘
出演:仲谷昇、北村和夫、十朱幸代、岸輝子、稲野和子、小園蓉子、高須賀夫至子、山田吾一、中尾彬、高田敏江、南寿美子、鈴木瑞穂、山本陽子、岩谷肇(現・谷隼人)、丸山(現・美輪)明宏、戸川昌子、小池朝雄〔ナレーション〕

☆☆★ 1964年/日活/123分/BW

    ◇

 戸川昌子原作の猟奇推理小説を映画化したミステリー。
 原作は高校生の時に読んでいるが既に手元になく、本も絶版となっているので読み返すことは出来ないが、アっと驚く展開と結末だった印象がある。

 昭和精機の電子計算機の技師である本田一郎(仲谷昇)は、関西物産の令嬢・種子(戸川昌子)の娘婿。東京での生活は高級ホテルと安アパートとの二重生活で、毎日多数の女性をハントしては、関係した女性の一部始終を「猟人日記」と称したノートに書き記していた。本田の女性への放蕩癖は、妻との間に出来た子が奇形で死産したことで、夫婦生活を営むことができなくなったことからきている。
 ある日、本田の子供を身籠った19歳のOL尾花けい子(山本陽子)が自殺をした。事件を新聞記事で読んだ本田は、「猟人日記」に書かれたけい子の様子を思い出しながら、今夜も寂しい女を捜しに街に出る。今夜の獲物はオールドミスの相川房子(稲野和子)。
 翌日、同じように関係を持ったスーパーマーケットに勤める津田君子(茂手木かすみ)が、房子のアパートにいる時刻に何者かに殺された。偶然の出来事と意に介さない本田は、次の日もハーフに扮して片言の日本語で美しい美大生の小杉美津子(高須賀夫至子)に声を掛けていた。
 その夜は美津子のアパートに行ったものの、彼女を抱くことが出来なかった本田。深夜、房子のアパートを訪れるが、そこには裸の房子の死体が転がっていた。房子が殺された時刻のアリバイは、阿佐ヶ谷に住む美津子に証明してもらえるはずだったが、その美津子までもが本田のネクタイで絞め殺された。
 本田の周辺ではアパートから「猟人日記」が消え失せたりと奇妙な出来事が起き、遂に容疑者となった本田は逮捕され、一審は死刑判決が下された。
 弁護を担当した畑中(北村和夫)は、助手の睦子(十朱幸代)とともに本田の血液型が珍しいRHマイナス型だというのを手掛かりに、謎の女性が同じ血液型の数人の男性(山田吾一、中尾彬ら)から精液や血液を採取していた事実を見つけ、何者かが本田を犯人に仕立て上げた偽装工作だと確信する。
 “鼻の横にホクロ”の目撃証言から、自殺した尾花けい子の姉つね子(小園蓉子)が浮かび上がり、彼女が住んでいたアパートからは1頁目が破り捨てられた「猟人日記」が見つかった…………。

    ◇

 映画は、仲谷昇の視点で数人の女性狩りと罠に落ちたあとの不安定な心の彷徨いがスリリングに描かれる前半と、北村和夫と十朱幸代の目撃者探しと謎解きを描く後半に分けた2部構成で、これは原作通りだったと思う。
 一種ホラーでキワ物的な感じがする作品だが、「流浪の民」が流れる歌声喫茶や、異常な性生活と不穏なエロティシズムが、クールなモノクロ映像とともに脳裏に焼き付けられる不思議な作品だ。後半数回大写しになるシュールな油絵は、主人公あるいは犯人の深層心理を象徴していて不気味である。

 美貌を持った女たらしの主人公が、その罪を断罪されるが如くに陥れられるのだが、一夜を共にした女性たちは誰ひとり彼に騙されたとは思っていないのだから、男とすれば全く割に合わない悲劇というもの。
 身籠り自殺したキィパンチャー(この言い回しは時代を感じさせる)は妊娠を苦にしたわけではなく、男に二度と逢えない苦しさが根底にある。扮した山本陽子は、証券会社のOLから日活のニューフェイスに合格したばかりの出演で、いきなりビルの上から落下して息絶える。
 『砂の上の植物群』で官能を振りまいた稲野和子はここでも男に飢えた女性を演じており、彼女のネチッ濃い台詞はいつまでも耳に残る。
 画学生役の高須賀夫至子は、その利発そうなキリっとした顔立ちが男をそそるのだろうな。



 ◆以下ネタバレあり




 事件の顛末は、ノイローゼになった妻が「猟人日記」の一番最初に自分のことを書かれたことでプライドを傷つけられ、その挙げ句の復讐劇だったわけで、奇異で異様な雰囲気を漂わせた原作者の戸川昌子ならではのキャスティングなのだが、映画の冒頭に現れるホクロのある美しい女性や、精液を提供する男たちが一様に「いいオンナだった」と証言するにしては戸川昌子とは似ても似つかず、いくらなんでも観客を欺きすぎた感もある。
 
 「銀巴里」で歌う美輪明宏や、トルコ風呂の客で谷隼人、精液を提供する医学生に中尾彬らが顔を出している。

ならず者を読もう、レココレ6月号



 いつの間にか15日発売になっていた『レコード・コレクターズ』誌が、バナナでは昔通りに12日に並んでいた。(書店は相変わらず15日発売らしいが)
 『ならず者』の大特集である。読み応えは十分。
 幻の日本公演のチケット争奪に加わったあの頃を思い出した鳥井賀句氏の文章には、宮谷一彦の劇画『ジャンピン・ジャック・フラッシュ』まで出てくるなんてさ、久々に書棚から取り出して読み返してるよ。

 『ならず者』のアルバムは、当時は4面全部を通して聴くなんてあんまりしてなかったなぁ。アナログ盤D面の「オール・ダウン・ザ・ライン」と、つづく「ストップ・ブレイキング・ダウン」のミック・テイラーのスライドが一番好きな箇所だった。 
 40年近くの月日を経て、いま新たな装いで吹き込まれたテイクがファンの前に差し出されたことは、何にも代えて嬉しいよ。

メイン・ストリートのならず者、出来上がり!

Exile On Main Street 2010 - From The Production Line

 『Exile On Main St.』のSuper Deluxe Edition [2CD+DVD+2LP+BOOK+ポストカード]BOXセットの中身を一足お先に見てみよう。




 92ページの写真集は超豪華! 重量盤のアナログレコードも申し分なし! 
 しかし、本来12枚組のポストカードは4枚しかないの?


「砂の上の植物群」*中平康監督作品

sunanoueno.jpg

監督:中平康
原作:吉行淳之介
脚本:池田一朗、加藤彰、中平康
音楽:黛敏郎
撮影:山崎善弘
出演:仲谷昇、稲野和子、西尾三枝子、島崎雪子、信欽三、小池朝雄、高橋昌也

☆☆☆★ 1964年/日活/95分/BW(パートカラー)

    ◇

 淫靡で官能的な吉行文学を、映像派の中平康監督が描いた観念的性愛の世界。

 30代半ばの化粧品セールスマンの伊木(仲谷昇)は、3歳年上の妻の江美子(島崎雪子)との間に、早、倦怠期を迎えていた。32歳で亡くなった伊木の父親は放蕩の画家で、江美子は結婚前に父親のモデルをしていた。伊木は、江美子と父親には肉体関係があったのではないかと訝しがっていた。
 ある夜、伊木は横浜マリンタワーで出会った少女(西尾三枝子)と関係を持つ。少女はヴァージンだった。次に会った日、少女は明子と名乗り、伊木に姉の京子(稲野和子)を辱めて欲しいと頼む。姉は男にだらしないのに、自分へは純潔を強要することで反発を持っていたのだ。
 伊木は京子がホステスをしているバーに出向き、その晩に京子を抱いた。20代はじめの京子の特異体質な躰と嗜虐性に魅せられ、伊木は倒錯的セックスの虜になっていく。
 ある日、父親と懇意だった理髪店の主人・山田(信欽三)から、父が芸者に産ませた京子という名の娘がいることを知らされる。明子の話では、姉の京子は父親違いの姉妹だという。伊木の心は近親相姦の疑惑に包まれる。

    ◇
 
 吉行淳之介の小説は『夕暮れまで』と『砂の上の植物群』しか読んだことはないが、かなり刺激のあるエロティシズム文学だと思う。この映像化も、原作通り十二分にエロティックだ。

 当時はまだ裸を自由に見せることができない時代だったが、1964年のこの年は増村保造監督と若尾文子の『卍』とか、勅使河原宏監督と岸田今日子の『砂の女』など、エロティシズム文学の作品が多く公開されている。
 この作品も登場する俳優がみんな生々しく、男も女も発情し、性的香りを発散させている。時代への挑戦もあったのだろう。露骨なセックスの絡みはもちろん、乳房も臀部さえ画面には映されていないのに興奮させられるのだ。裸が氾濫する日活ロマンポルノは7年後の登場だ。

 女優の顔のアップを執拗に見せるカメラワーク。突然の静止と無声シーン(1分以上続く)。モノクロ画面にパウル・クレーの水彩画(抽象画)が印象的に挿入されるパートカラー。ラストの、下降するエレベーターは愛欲の底に堕ちるイメージ。見つめ合う男女と開閉する扉の対比画がスタイリッシュだ。どれも、その映像的表現は目を見張るものがある。

 西尾三枝子はデビューから2本目くらいの出演で、まだ現役の女子高校生だったはず。処女を捨てたがる少女と性を嫌悪する少女の狭間を不安定な感情で漂う西尾は、この作品で新人賞を獲っている。
 京子役の稲野和子は文学座の女優。アブナイくらいにイヤラしい。彼女の唇、彼女のホクロ、彼女の眼差し、声色とともに醸し出す色気はすべてに官能的だ。
 当時神代辰巳と結婚していた島崎雪子も、倦怠というベールを被ったエロティシズムにあふれている。
 思えば昔の女優たちは、みんな若くして成熟していた。昨今の若手女優たちには美しさやスタイルの良さがあっても、強烈なエロティシズムがないのはどうしてだろう。 

1964_sunanoueno.jpg

 男たちはと云えば、
 「死んでから23年も経つのに、あんた、まだそこらをうろついてるんですか」
 父親の幻影に悩まされる仲谷昇。
 「電車が目的地に着くまでの、手のひらと躰の部分だけの関係で、それ以上求めないのがエチケットだ」
 痴漢の理屈を捏ねる小池朝雄。
 「双子の姉妹と寝たい。右も左も同じ躰。重ね合わせりゃ上も下も同じ躰だ」
 エロ話に興ずる高橋昌也。
 快楽を求める文学座出身の3人である。

All Down The Line(alternate take)

ROLLING STONES : All Down The Line(alternate take)

 『Exile On Main Street』リマスター盤は26日に延期

 それまでシングル「Plundered My Soul」と
 この「All Down The Line(alternate take)」三昧ってとこだね……

ストーンズ、7インチ・シングル到着!

DSCF0961.jpg

 いよいよ今月19日(26日に延期らしい)、ローリングストーンズの1972年の傑作アルバム『Exile On Main St.』のリマスター盤が発売になるわけで、未発表曲/未発表テイクをまとめたボーナストラックが追加されるのは、ストーンズとしては初めてのこと。

 ドン・ウォズをプロデューサーに迎え、かなりいろいろと手を加えているらしい未発表曲のなかで、この「Plundered My Soul」がシングル・カットされたわけで、これはアナログ・7インチ・シングル(US盤限定ナンバー付)。通販で購入し、やっと到着した。

 カントリー・ロックのフレイバーからソウルフルに展開していく構成は、ミック・テイラーが新たに録音参加したスライド・ギターが心地いい。
 GW中はずっと聴きっぱなしである~。

 さて、今回の『Exile On Main St.』リマスター盤に関連していろいろな商品が目白押しなわけで、とりあえずは、Super Deluxe Edition と名打たれた[2CD+DVD+2LP+BOOK+ポストカード]のBOXセットは予約済み。
 日本盤のみのボーナストラックとして「All Down The Line」のオルタネイト・テイクが追加されるのが目玉だな。

「最も遠い銀河」白川 道



 2009年夏に上下巻の単行本で上梓された白川道の書き下ろしは、原稿用紙2500枚、文庫本にして4巻に分けられた。
 サクセスストーリーに友情と復讐劇、そして、メロドラマで味付けられたエンターテインメントな大長編だ。泣けるよ。
 
 北海道の小樽の海から若い女性の死体が上がった。その死体の首にはテッポウユリを象った銀のペンダントが残されていたが、身元不明のまま7年が過ぎ事件は迷宮と化していた。定年退職した元刑事の渡は、自分の娘の死と重ね合わせながら密かに事件を追っていた。
 新進気鋭の建築家・桐生晴之は、小樽の貧しい家庭に生まれ、同じ境遇に育った美里とともに上京していた。
 大学時代の親友が高名な賞を受賞した。裕福な家庭に生まれ育ったライバルに反して、名を売るほどの大きな仕事ができていない現実に焦る桐生。最愛の女性との約束、そして、その彼女を死に追いやった男への復讐心。激情を胸に秘め、成功を目指す桐生だった……。

    ◇

 気恥ずかしいくらいの浪漫と叙情。
 ひたすらロマンを描きつづける白川道の世界は、常に宿命と運命に翻弄される人間たちの物語で、そこで展開する命ぎりぎりの人生ゲームは、ある意味、実世界において波乱万丈な作家だからこそのリアリティとロマンティシズムなのだろう。

 登場人物の多いなかで、それぞれの人物描写がしっかり魅力的に描かれているので、サクサク読んでいるわりに読み応えを充分に感じることができる。

 成功への階段を上る若き建築家の過去。貧しかった時代に苦楽を共にした愛する女性の非業の死。そして、その死にまつわる闇。裕福な家庭に生まれ育ったライバルと、大富豪の孫娘。
 成功のために利用した人妻と、その夫である建築界の重鎮との確執。
 《世のなかは、昇る太陽によって輝くのです。沈む太陽によってではありません》

 不良時代の友との友情と、在日三世の女性との運命を分け合う再会。
 《光が生まれる朝は誰にも平等だ。だけど光が昇るにつれて世の中は不平等になってゆく。この世のなかはそのくり返しなのだ……》

 偶然が度重なるストーリ展開とラストのロマンティシズムが、想像通りに運ぶからって文句を言うなかれ。このメロドラマ性こそがエンタテイメントな世界。いわゆる大衆恋愛小説ハーレクインの男性版として、ここに白川道作品の面白さがある。
 好きな作品だなぁ。
 
   ◇

最も遠い銀河/白川 道
【幻冬舎文庫】
1・2・4:定価 760円(税込)
3:定価 630円(税込)