TEA FOR ONE

まぁお茶でも飲みながら気ままに、好きなことを、すこ~しネタバレしながら、のんびりと………。

また逢えますね、《夜ヒット》百恵伝説



 いよいよ、山口百恵の《夜のヒットスタジオ》での映像集が、6月30日にDVD-BOXとしてリリースされることになった。

 去年からフジテレビ開局50周年記念としてスペシャルドラマなどいろいろな催しがされてきたけれど、『山口百恵 in 夜のヒットスタジオ』こそ、満を持してのスペシャルもの。
 昨年の『ザ・ベストテン~山口百恵 完全保存版 DVD-BOX』の売れ行きは予想以上に好調だった。だから、スカパーでは既に《夜のヒットスタジオ》が再放映されてきただけに、ファンとしてはいつか、何らかの形で《夜のヒットスタジオ》の映像集が出てくるだろうとは想像していたが、伝説の黄金番組の初DVD化が、百恵単独のBOXになるとはね。日本歌謡史のディーヴァ、山口百恵だからこそである。

 今回『山口百恵 in 夜のヒットスタジオ』に収録されるのは、1975年6月23日から1980年10月6日まで全56回の出演シーンからの24曲。

《収録曲》
01. 夏ひらく青春
02. ささやかな欲望
03. 白い約束
04. 愛に走って
05. 横須賀ストーリー
06. パールカラーにゆれて
07. 初恋草紙
08. 夢先案内人
09. イミテーション・ゴールド
10. 秋桜
11. 乙女座宮
12. プレイバック Part2
13. 絶体絶命
14. いい日旅立ち
15. 美・サイレント
16. 愛の嵐
17. しなやかに歌って
18. 愛染橋
19. 謝肉祭
20. ロックンロール・ウイドウ
21. 不死鳥伝説
22. 一恵
23. THIS IS MY TRIAL
24. さよならの向う側


 「横須賀ストーリー」以前の初々しい百恵が歌う「夏ひらく青春」「ささやかな欲望」「白い約束」「愛に走って」と、「パールカラーにゆれて」「初恋草紙」は映像作品としてはいまや貴重なシーンといえる。
 そして、ミュージカル用に書き下ろされた阿木燿子&宇崎竜童の「不死鳥伝説」。この「不死鳥伝説」を生放送で歌っているのは見逃している。新宿コマの舞台以外に、テレビで歌った唯一ではないだろうか。

 さて、ランキング形式の歌番組と比べるのは酷ではあるが、《夜のヒットスタジオ》は《ザ・ベストテン》より、断然、パフォーマンスのクオリティが高かった。《夜のヒットスタジオ》は、どんな歌番組より素晴らしかった。それは周知であろう。
 基本的にフルコーラスの歌唱披露なのも、また、ランキングに関係のないところでの歌の場であったから歌われる曲も多彩で、いい歌を聴くことができた。
 持ち歌でない曲を歌う《夜のヒットスタジオ》ならではの“オープニングメドレー”や、恒例“歌謡ドラマ”も今回収録されるので、これも必見である。
 特典映像は、《夜のヒットスタジオ》以外のフジテレビの名物番組「スター千一夜」や「ラブラブショー」などに出演したときの貴重映像だそうだ。

 そして至福の映像は、1980年10月5日の武道館でのファイナル・コンサートの翌日に出演した《夜のヒットスタジオ/特集サヨナラ山口百恵》の完全収録だろう。テレビの中で、唯一、百恵が涙を流した日の映像である。まさに伝説となった、本当に最後のテレビ生出演。こんな企画が出来たのも《夜のヒットスタジオ》だからこそ。よくぞ、当時出演した多くの歌手の皆さんらの許可をクリアしてくれた。
 ラストシングル「さよならの向う側」への想いを馳せて、フルコーラスじっくりと、涙して見させていただこう。

 
★公式サイトはコチラ→ 山口百恵 in 夜のヒットスタジオ

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「シャッター アイランド」*マーティン・スコセッシ



SHUTTER ISLAND
監督:マーティン・スコセッシ
原作:デニス・ルヘイン
脚本:レータ・カログリディス
美術:ダンテ・フェレッティ
視覚効果:ロブ・リガト
音楽監修:ロビー・ロバートソン
出演:レオナルド・ディカプリオ、マーク・ラファロ、ベン・キングズレー、ミシェル・ウィリアムズ、マックス・フォン・シドー

☆☆☆☆ 2010年/アメリカ/138分

    ◇

 主人公が抱えるトラウマによる幻想と現実の不安と恐怖が、原作より分かり易い視覚効果によってサスペンスが生み出され、死んだ子供たちや亡くなった妻の幻影がイメージ豊かに美しく描かれることで、より心の闇が深く沈んでいく怖さを体感できるゴシックホラー・ミステリー。
 やるせない愛の物語、哀しき傑作である。

 1954年、ボストン沖18km離れた絶海の孤島“シャッターアイランド”。精神を病んだ犯罪者を収容する病院でひとりの女性患者が消えた。連邦保安官のテディ(レオナルド・ディカプリオ)は相棒のチャック(マーク・ラファロ)と共に、失踪事件の捜査のために島にやって来た。鍵のかかった女性の部屋には「4の法則」と記された謎のメッセージが残され、ひとりの医師までもが居なくなっている。次から次へと深まる謎。いつの間にか島に閉じ込められてしまうテディたち。一体、この島で何が起こっているのか…………。

    ◇

 ◆以下ネタバレはしないけれど、連想できる言い回しがあります。


    ◇

 原作を読んでいる者にも充分に楽しめた。真相を知りながら登場人物の表情や振る舞いを見ることで、演出や効果を堪能できるのだ。

 原作は、一応は“密室”と“暗号”トリックの謎解きの楽しさがある。
 「4の法則」はもう少し長い暗号になっていて、中盤においてテディが解いていくプロセスがあるのだが、映画では暗号の真ん中の部分を一切省いてしまい、“謎”が提起されても謎解きが行われずに、単なるメッセージになってしまっている。だから当然、観客も謎の究明には参加できない。
 ただし、その抜かれた「13の法則」の謎は実に小説的で、映画で見せられても時間的流れを止めかねないので、省略した脚本は正解である。

 傑作の理由は2つ。幻想と回想の視覚的映像の美しさと、ラストシーン。

 ひらひらと舞い落ちる灰や、バラバラに乱れ飛ぶ無数の書類や、しんしんと降り落ちる雪など、視覚描写の異様なムードは素晴らしい逸品。
 テディの脳に残る妻の姿が、麗しき灰になる儚さ。その見事なまでの美しさに感動する。

 そして、原作通りのラストシーンにオリジナルの台詞をひと言付け加えることで、人間の尊厳、孤独への憐れみと理解、そして、心の解放と贖罪の痛切さが伝わってくるもので、この台詞ひとつで原作を越えたものとして評価したい。

 白昼夢に悩まされるテディのいつも眉間に皺を寄せたディカプリオの顔には辟易するが、温厚なコーリー医長のベン・キングズレーの存在感や、ネーリング医師役の名優マックス・フォン・シドーの重厚な芝居はやっぱり見応えがある。

    ◇

 さて、2009年秋に公開予定だったこの作品、延期中に大宣伝した参加型謎解きは如何なものか。
 当たり前の話として、ミステリーにおいて「どんでん返し」とか「驚愕の結末」とか前振りすること自体がアンフェアなのだ。それなのに、一般にミステリー映画への目の肥えた時代に「あなたの脳を信じてはいけない」なんて半分ネタバレしたも同然の宣伝文句を見せられ、先入観と過大評価を持った観客にどれだけの満足が与えられたのか。
 たとえば「人間の心の闇を覗いたとき、あなたの心は揺さぶられる。どうか結末は話さないでください」くらいの惹句にしてくれないか。
 これは、愛の物語なのだよ。

宇崎竜童、ブルーズ・ライヴ! 

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 名古屋・京都・大阪のライヴハウスを廻る“TAKE THE BLUES TRAIN”。
 初日の名古屋TOKUZOへ行ってきた。

 6時オープンなので20分くらい前に並んだ。SOLD OUTだったのだが、当時券を求めて並んでいた人もちらほらいた。満席の店内は熱気にあふれた。

 7時15分、竜童さん登場。初めての場所(ライヴハウス)で客層を気にしていた感じ。20~30代は少なかったと思う。40~50代がほとんどでしょ。
 「このお店は10時までしか音出せないようだから、9時40分まで演るよ」
 大歓声が上がり、初っぱな「ブルースで死にな」から始まった。
 バックを務めるのは、関西のブルースマン野本有流(のもと ある)率いる“御堂筋ブルース・バンド”で、ギターがシビレるくらいイイ音。

 1stステージは「横浜ホンキートンク・ブルース」まで7曲。その「横浜ホンキートンク・ブルース」の“♪たとえば~なんて聞きたい夜は”の部分は“T ヴォーン・ウォーカー”ヴァージョンだった。

 今回ゲストで同行した大西ユカリが登場して、いったん竜童さんはお休み。
 大西ユカリ、ソロ第2弾『やたら綺麗な満月』が5月26日にリリースされるためのプロモーション活動だと云いながらも、お得意のオモシロMCを含んだ堂々たるステージだった。
 ルース・ブラウンのソウル・ミュージックはユカリ姐さんの真骨頂。するどい唸りにキューンときまっせ。3曲目にはなんと、竜童さんの名曲「身も心も」をピアノだけで熱唱。素晴らしい歌声だった。
 『やたら綺麗な満月』は、全曲竜童さんのプロデュース/作曲で、作詞も阿木燿子、竜童&ユカリの“平成リズム歌謡”のようだ。直接、竜童さんに曲を書いてくれって頼んだそうで、その話も面白くMCに入れ込んでた。久々の竜童歌謡曲を大西ユカリで聴けるのが楽しみである。

 ユカリ姐さんにつづいてステージは、野本有流with“御堂筋ブルース・バンド”の演奏。さすが関西のお人だけに、MCは客へのツッコミもあり半端なくおもしろい。
 野本有流は、“アンタッチャブル”という名のバンドで70年代にダウンタウン・ブギウギ・バンドの前座を演っていたそうで、その辺りの話からプロデビュー、あと諸々の話をよどみなくトーク。一度も聞いたことない曲だったけど、伊達に30年以上プロ活動してるんじゃないところを聴かせてくれる。
 そして「点滴も終わった」とジョークで紹介されて、竜童さんが再度登場。

 2ndステージは「石榴 (ざくろ)」から始まった。いやぁ、これには驚いた。2008年のアルバム『ブルースで死にな』でリメイクしたとはいえ、生で聴くことができるなんて、最高じゃん!
 このあと、ダウンタウン時代の米軍キャンプ巡りのエピソードを15分くらいトークしながら「ベース・キャンプ・ブルース」「沖縄ベイ・ブルース」を演奏。
 観客とのコールアンドレスポンスは「おまえの為のブルース・シンガー」。
 「スモーキン・ブギ」「ロックンロール・ウィドウ」で店内のヴォルテージは最高潮。
 9時28分、アンコールは竜童さんの生ギター1本の「知らず知らずのうちに」。
 そして最後は、ユカリ姐さんもステージに上がって「生きているうちが花なんだぜ」(映画『ニワトリはハダシだ』のエンディング曲)。

 「泣いているかい? 笑っているかい? 怒っているかい?……バカしてるかい?………生きているうちが花なんだぜ、花なんだぜぃ!」

 いろいろある辛い時代。クヨクヨすんなよ、真っすぐ自分の道を歩いて行けよ、って、みんなを後押ししてくれるメッセージ・ソングだ。
 観客を含め全員で歌って、9時40分ちょうどにブルーズ・ステージは終演した。

    ◇
 
宇崎竜童 “TAKE THE BLUES TRAIN”
at TOKUZO, Nagoya Imaike. April.8.2010

《SET LIST》
1st
01. ブルースで死にな
02. レイジー・レディー・ブルース
03. アンタがいない
04. うらぶれた部屋で
05. ダウンタウンならず者懺悔
06. 待ち呆けのブルース
07. 横浜ホンキートンク・ブルース

guest 大西ユカリ
01. Mana He Treats Your Daughter Mean
02. unknown R&B
03. 身も心も

御堂筋ブルース・バンド
01. 憂国のブルース
02. 酒飲んでブギ
03. 南海ファンやもん

2nd
01. 石榴 (ざくろ)
02. ベース・キャンプ・ブルース
03. 沖縄ベイ・ブルース
04. おまえの為のブルース・シンガー
05. スモーキン・ブギ
06. ロックンロール・ウィドウ
encore
07. 知らず知らずのうちに
08. 生きているうちが花なんだぜ

    ◇

 ここは明け方5時まで営業している店。楽器が片付けられていく様を見ながら、一緒に行った友人と何人かの客を残してがらんとした店内。30分くらい経って、竜童さんとユカリ姐さんが帰り仕度を終え楽屋から出てきたので、残ったお客と共にサインを頂いた。

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 こんなこともあろうかとおふたりのCDを持参していたし、ゴールドのサインペンも用意していってよかった♪


「シャッター・アイランド」デニス・ルヘイン



 映画公開前に紹介しておきたかったんだが、この原作は発刊と同時に読んでいた。
 密室トリックと謎の暗号……そして閉ざされた孤島。これだけでミステリ・ファンの食指が動かないはずのない書籍。
 帯にあった「ふくろ綴じ」にも惹かれるものがあったし……昔のミステリ小説なんかにはよくあったもので、少し懐かしかったんだな。


 ボストン沖のシャッター島にあるアッシュクリフ病院は、精神を病んだ凶悪犯のための病院。連邦保安官テディは新しく相棒となったチャックとともに島に渡った。 
 アッシュクリフ病院でひとりの女性患者が奇妙な暗号を残して行方不明になったためだ。病院側の不可解な対応を受けながら患者を捜すテディだが、実は彼がこの島に来た目的は別にあった………。


 結末は手荒い目にあう。
 たしかに、この手の仕掛けは以前にもあったものだが、圧倒的な筆力で人間の心の闇を描いており、グイグイと読ませてくれる。
 トリック云々よりも心揺さぶる感動が味わえたから、スコセッシ監督がどんな風に料理しているのか期待している。

 さて週末、超日本語吹き替え版で観てこよう。だって、これこそ画面に集中しなくちゃね!

    ◇

シャッター・アイランド/デニス・ルヘイン
訳:加賀山卓朗
【早川書房】
定価 1,900円(税別)

「ギャング」*ジャン=ピエール・メルヴィル

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LE DEUXIEME SOUFFLE
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
原作:ジョゼ・ジョバンニ
脚色:ジョゼ・ジョバンニ、ジャン=ピエール・メルヴィル
撮影:マルコム・コンブ
音楽:ベルナール・ジェラール
出演:リノ・ヴァンチュラ、ポール・ムーリッス、レイモン・ペルグラン、クリスティーヌ・ファブルガ、ポール・フランクール、ピエール・ジンメール、マルセル・ボジュフィ、ミシェル・コンスタンティン

☆☆☆☆ 1966年/フランス/150分/B&W

    ◇

 “拷問・おとり捜査・10億フラン白金強奪 その迫真の描写がパリ警察を激怒させた問題作!”

 当時の惹句だ。アメリカン・ハード・ボイルドや派手なアクション映画と違い、リアルなドキュメンタリー・タッチの犯罪映画である。

 終身刑の宣告を受けて服役していたギュスター・ブミンダ(リノ・ヴァンチュラ)、通称ギュが脱獄した。ギュは暗黒街のなかで、仕事の確かな仁義に厚い老練なギャングで知られていた。
 ギュの昔の情婦マヌーシュ(クリスティーヌ・ファブルガ)と、彼女が経営するレストランのバーテンで用心棒のアルバン(ミシェル・コンスタンティン)らの力を借り、南米へ逃亡するためにマルセイユに身を潜めていた。
 その地で、マルセイユの大ボス、ポール・リッチ(レイモン・ペルグラン)らが計画する500キロのプラチナ輸送車襲撃に加わることになり、その大胆不敵な計画は寸分の狂いもなく完全な成功を収めた。
 パリから捜査の応援に来た辣腕警部ブロ(ポール・ムーリッス)は、マヌーシュやギュをよく知る人物で、残された銃弾からギュが現場に居たことを示した。
 国外脱出の日を平静に待ち暮らしていたギュに、ある日、数人のギャングたちが現れた。彼らから、今度の襲撃計画が仁義を無視した仕事だと言われ、釈明のためにポールの名前を口にしたギュだったが、実は彼らは警察の人間たちで、ギュを逮捕したうえ、彼が仲間を売ったと新聞発表をする。マルセイユ警察のファルディアーノ警視(ポール・フランクール)の卑劣なやり方に激怒したギュは捨て身の覚悟で脱走をし、汚名をそそぐために野獣と化し非情な復讐をはじめる。

    ◇

 1963年の『いぬ』でジャン=ピエール・メルヴィル監督の作品が日本で初めて公開されたのだが、メルヴィル監督の名前が有名になったのは1968年公開のアラン・ドロン主演の『サムライ』だ。この『ギャング』が公開された1967年当時は、まだ一般的にジャン=ピエール・メルヴィルの名前は日本では知られていなかったと思う。「映画の友」を愛読していた映画ファンくらいにしか認知されていなかったのではないか。
 この作品を観たのは中学生の時だ。「1967年7月16日中日シネラマにて鑑賞」と記録がある。トレンチコート姿のリノ・ヴァンチュラが2丁の拳銃を構えるラストシーンで、瞬く間にヴァンチュラ・ファンになった記念的作品だ。

 自分が密告者と疑われたことに耐えられないギュは、己の名誉を汚した男を絶対に許さない。男が守り抜かねばならないものは命ではなく名誉だと、自分の命を賭してまで名誉を重んずるギュの美学が伝わってくる。
 ラスト、撃たれたギュを看取るブロ警部。ギュが最後にマヌーシュの名を呼んだことを彼女には伝えない。ポケットから出した折れた煙草。ギュの汚名を注ぐ手帳を新聞記者の前に落とし、去っていくブロ警部。
 これも男の美学のひとつである。

 原作者は、本物のギャングだったジョゼ・ジョバンニ。
 小説家・脚本家・映画監督の肩書きを持つ彼は、レジスタンス活動からギャングになり、死刑を宣告されたが恩赦を受け出所。30代半ばで執筆した体験小説『穴』がジャック・ベッケル監督により1958年に映画化され注目。そして『冒険者たち』『暗黒街のふたり』『ラ・スクムーン』『Ho!』等々、数多くの傑作を生み出したハードボイルド作家だ。2004年に80歳でその生涯を閉じた。

 10億フランのプラチナ輸送車を白昼襲撃するシーンや、警察がギャングの仲間に化ける卑劣な捜査や、拷問などのリアルな描写に本国の映倫や警察からクレームがつき、大幅にカットされての上映だったという。実際、日本公開は120分の短縮版だった。
 刑事役に本物の前科あるギャングが出演していたと云うのも話題になった。
 
 主演のリノ・ヴァンチュラは元ボクサー。ポール・ムーリッスとポール・フランクールは元シャンソン歌手。パリの下町の匂いと感傷を、リアルに感じさせる俳優たちが素晴らしい。
 情婦役のクリスティーヌ・ファブルガは、ギュを最後に見送るシーンでのまったく台詞のない表情だけの演技に、その存在感を示していた。

 原題は直訳すると《第二の息吹き》。これはギャング同士の俗語で「投獄された者が脱獄して、もう一度大きな仕事をする」ことを意味している。 


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「いぬ」*ジャン=ピエール・メルヴィル



LE DOULOS
監督:ジャン=ピエール・メルヴィル
原作:ピエール・ルズー
脚色:ジャン=ピエール・メルヴィル
音楽:ポール・ミスラキ
出演:ジャン・ポール・ベルモンド、セルジュ・レジアニ、ジャン・ドザイ、ミシェル・ピッコリ、モニーク・エネシー

☆☆☆☆ 1963年/フランス/109分/B&W

    ◇

 “男の友情と愛と裏切り”
 フレンチ・フィルム・ノワールの巨匠ジャン=ピエール・メルヴィルが創り出す作品には、一貫してこのテーマが流れている。アラン・ドロンの『サムライ』('67)しかり、リノ・ヴァンチュラの『ギャング』('66)しかり、クールでストイックな男たちが観る者をシビレさせてくれるのがメルヴィルの映画である。

 4年間の服役中に妻を殺されたモーリス(セルジュ・レジアニ)は、宝石の故買屋を裏切り者と断定し射殺。奪った宝石類を近くの空き地に埋めた。
 翌日モーリスは親友のシリアン(ジャン・ポール・ベルモンド)に金庫破りの道具を依頼し、情婦のテレーズ(モニーク・エネシー)に下調べさせておいた仕事に取りかかるが、押し入った先で警察に包囲され仲間の一人と刑事が死に、彼も一撃を受ける。窮地を逃れたモーリスだったが、バーでテレーズが自動車事故で死んだことを知り、その場で警察に参考人として連行されてしまう。モーリスは、密告者の噂があったシリアンを疑わざる得なかった。
 一方シリアンは、モーリスが空き地に埋めた宝石類を掘り出し、モーリスに殺された男の仲間ヌテッチオ(ミシェル・ピッコリ)のもとを訪れていた………。

    ◇

 原題の“Le Doulos”とは俗語で“帽子”のこと。ただし警察や暗黒街の隠語として使用すると、情報を売る“いぬ”すなわち裏切り者のことを指す。

 密告者が誰なのか、そしてなぜ? 二転三転する展開で悲劇的な終幕を迎えるミステリーは、最低限の台詞と時間軸を戻す状況説明だけに初見では少し理解しにくいところがあるが、実は単純なストーリーだ。
 まずは、フィルム・ノワールとしてのスタイルとムードを楽しめばいい。

 “選ばねばならぬ 死ぬか 嘘をつくかのどちらかを……”

 物語の前半はセルジュ・レジアニを主人公にして進行する。
 黙々と高架下を歩くセルジュ・レジアニを、ワンカットで移動撮影するスタイリッシュなオープニングにまず魅了される。控えめに被さる甘美なヴィブラフォンの音色と、その調べに導かれて奏でられるジャジーな音楽も素晴らしい。
 モノクロ映画ならではの光と影のコントラストも絶妙。天井からぶら下がる電気スタンドによるゆれる人影や、孤独感が滲む街灯の光など、暗黒街の非情な世界がダークトーンでしっかりと映し取られている。

 レジアニが逮捕されてからはジャン・ポール・ベルモンドが主人公となり、謎の行動を繰り広げていくのだが、トレンチコートとソフト帽姿のニヒルなジャン・ポール・ベルモンドは何とも格好いい。
 ベルモンドがレジアニの居場所を吐かせるために無言で女を殴るシーンは、アメリカン・ハードボイルドを意識しているのだろう。ただ、殴られる女が変に騒がないところがクールな演出。

 真相を告げられたレジアニに仲間が云う。 
「奴は感情を表に出さない男さ。奴の友情にはヤクザも刑事も関係ない。サリニャリ(死んだ刑事)とお前(モーリス)だけが、奴の友さ」
 そして、ベルモンドが女に云うラストの台詞
 「今夜は、そっちに行けない」

 男の友情と美学はかくありき傑作である。

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